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第85話 木陰

 食事を終えると、村の中心部にある噴水広場に人だかりができていた。

 よく見ると、作業着のような格好をした若者が中年の農夫から農業の講義を受けているようだ。

 統計が取れない一部の国は除外するが、大陸全体で冒険者の人口は増加傾向で、農業に携わる者は減少傾向と発表されている。凶悪な魔物討伐で一攫千金が狙える冒険者と言う職業は夢がある一方で命を落とす者も多い。特に果敢な若者はその傾向があるようで、村で地道に農業を営むより都市部で冒険者になって一気に金と名声を手に入れようとするが、大抵の人間は挫折するか現状に甘んじて妥協する者がほとんどである。


「前世でも農家の成り手は問題になっていたが、ここも似たような問題を抱えているな」

「シェーナがいた前世の世界も冒険者になりたい者が多かったのか?」

「いや、前世に魔物はいなかった。学校を卒業して一流企業に就職、国家公務員のエリート官僚、会社を起業して有名ブランドを立ち上げる社長とか夢のある職業選択はたくさんあったね」

「一流辺りの下りはよく分からなかったが、魔物がいない世界か。それは夢のような話だな」


 この異世界の基準で考えれば、魔物が存在して当たり前の固定概念は仕方がないだろう。

 シェーナもオークやグリフォンのような魔物討伐に出向くまでは魔物は創造の類だと高を括っていた。

 二人は村を一周すると、誰もいない木陰でひと休みする。


「風通しが良くて気持ちいいね。自然と一体感になれるような気がするよ」

「キシャナから読書用の漫画と言う物を借りてきた。面白いからと持たせてくれたんだ」

「漫画か。そこは小説を読みたいところだけど、どんなジャンルの漫画かな?」


 先日、キシャナはシェーナに気を遣って違うジャンルの漫画を一冊持ち帰った。

 ルトルスは懐から一冊の漫画を取り出してページを(めく)っていくと、シェーナは横から覗き込む。

 漫画のタイトルは『ヴァスター戦記』。

 てっきり違う恋愛漫画を選んだとばかり思っていたが、キシャナはファンタジー漫画を選んでルトルスに持たせたようだ。

内容はヴァスター大陸の南方に位置する小国の王子が大陸全土を統一するまでの話だ。

 二人はしばらく漫画に熱中して読み終えると、ルトルスは率直な感想を述べる。


「この王子は運と実力を兼ね備えている。私も王子のようにガフェーナ統一の理想を抱いていた時期はあったが、グラナを恐れて勇者一向と死線を何度も交わして夢は潰えた。今はこうしてシェーナの傍で幸せだよ」


 ルトルスは漫画を閉じると、シェーナの腕を組んで寄り添う形になる。


「俺も一緒の気持ちだ。漫画みたいにハッピーエンドな展開が続けばと思うよ」


 木陰で二人は寄り添っていると、まるで心地良い風が祝福をしてくれているようだ。

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