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第84話 お互い③

 村の入口に辿り着くまで、行商の人間と数名の冒険者とすれ違った。

 その中には、貴族のお嬢様と勘違いする声も聞こえてきた。


「今日は天気がいいな。こうして普段着で歩くなんて初めてだな」

「……ありがとう。少し気恥ずかしいな」

「可愛らしくて似合っているよ。つい最近まで、お互いにハシェルの魔法の鎧とガフェーナの漆黒の鎧を身に付けていたんだよな」

「そういえば、私はシェーナの魔法の鎧姿を付けているところを見たことがないな」

「プライデンで暮らすようになってから、身分を隠すためにも着ていなかったからな。今度機会があったら付けているところを見せようか?」

「ああ、女騎士時代のシェーナも是非見てみたい」


 あまり意識していなかったが、鎧を纏った時と比べて普段着のルトルスはしおらしい姿の女性に見える。

 魔法の鎧はキシャナとルームシェアしている部屋の隅に置いたままにしていたが、ルトルスを部屋に招いて久々に纏ってみていいかもしれない。

 城塞都市シャルティユから二十km程離れた農村は畑や家畜の他に、『森の聖弓』ギルドが出張って食材の流通に一役買っている。

 二人は村に入ると、腹の虫を鳴らす。


「どこかで朝食にしないか?」

「そうだね。朝食抜いて来たから、あそこの酒場で朝食にしよう」

「酒場か。実を言うと、酒場に入るのは初めての経験なんだ」

「それは意外だな。大丈夫、酒は頼んだりしないからね」


 シェーナは以前にルトルスの歓迎会を行った夜のことを思い出す。

 キシャナのように(ざる)なら酒に付き合ってもいいが、下戸のルトルスには絶対に飲ませないつもりだ。

 意見が一致すると、シェーナはルトルスの手を引っ張って酒場に入る。

 店内に客は誰もいなかったが、店の奥からマスターが現れて二人をもて成す。

 カウンターに二人は座ると、とりあえず朝食を注文する。

 ルトルスは用意されたグラスの水を一杯飲むと、過去の事を振り返る。


「私が毒にやられて介抱してくれた時に、シェーナが作ってくれたコンソメスープやキシャナが作ってくれたお粥は本当に美味しかったな。また作ってくれないか?」

「お安い御用さ。ルトルスのためならいつでも美味しい料理を作ってあげるよ」

「……嬉しいな。シェーナは自暴自棄だった私に頬を叩いて本気で叱ってくれた。他人にそんな事をされたのは生まれて初めてだった。シェーナは初めての経験をたくさん教えてくれる」

「それは俺も同じさ。ルトルスには俺も初めてをプレゼントしてくれた……」

「私がシェーナに?」


 首を傾げるルトルスだが、そこに丁度マスターが朝食をカウンターに運んできた。

 シェーナは頬を染めて朝食に手を付け始めると、「秘密だよ」と一言。

 前世で叶わなかったが、シェーナにとって初めてのデートなのだから――。

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