第76話 雑談
翌朝、開店の準備を整えて営業を始める。
ペトラにはグラナと皿洗いを担当してもらうと、気合を込めた返事をする。
「了解しました! 神界でも汚れた魂を浄化して転生させる作業をやっていましたので、お皿も綺麗にしていきたいと思います」
「そ……そうか。無理はしないでいいから、何かあったら俺や周囲の者を頼ってくれ」
シェーナは色々と突っ込みたかったが、彼女のやる気を阻害させるつもりはしたくないので、後のことはグラナに任せることにした。
早速、昨日手に入れた炊飯器を使ってお土産用のおにぎりをシェーナは握っていく。
おにぎりの具には梅干し、高菜、唐揚げの三種類をセットに売ると、携帯用の食事として冒険者には人気が高い。
隣でクレープを作っているルトルスは横目でシェーナの様子を見る。
「塩むすびも美味しかったが、その三種類のおにぎりも美味しそうだな」
「後で休憩時間に握ってあげるよ。興味があれば、今夜二人で一緒に作ってみる?」
「ああ、是非とも手ほどきしてくれ」
シェーナとルトルスは雑談を交えながら、お持ち帰りのクレープとおにぎりを捌いていく。
「それと『闇核』の回収は無理しないでね。前にも言ったと思うけど、きちんと体を休めることも大事だし、ルトルスは少々無茶をする性格だからね」
「私は剣以外の役には立たないし、シェーナや皆がこうして頑張っているのだから、それに見合う仕事はするつもりだ」
「クレープやパンケーキ作りは俺より上手いじゃないか。ルトルスは剣以外でも店に貢献している。だから……無茶をしないと約束だよ?」
シェーナは大きく見開いた瞳を上目遣いにしてルトルスに語りかけると、ルトルスはじっとシェーナを見つめる。
しばらくすると、ルトルスはシェーナを正面から抱いて思いに応える。
「本当にまずいと思ったら、シェーナに知らせるよ。今のところは本当に大丈夫だから、安心してくれ」
「……約束だぞ? ほら……お客さんの視線もあるし、仕事に戻るぞ」
「続きは今夜にでも?」
「お説教の続きになってもいいなら」
「それは勘弁願いたいな」
ルトルスは笑顔になってクレープ作りに専念すると、シェーナはお客さんに頭を下げながら、おにぎり作りに専念していく。
昼過ぎになると、それぞれ交代で休憩に入っていく。
シェーナが休憩に入ると、休憩室にはペトラがぐったりした様子でテーブルに座っている。
シェーナはペトラに労いの言葉を送る。
「お疲れ様。初日から頑張っているね」
「皿洗いも大変ですね。私の水魔法で一気に綺麗にする方法もありますけど」
「それは別の機会で頼むよ」
水魔法で皿を綺麗にするどころか皿が割れてしまうかもしれない。
魔法に精通しているのは承知しているが、昨日の風魔法みたいな惨事をお客さんがいる前で発動させては目も当てられない。
「神界の仕事って、一日何時間の労働になるの?」
「私が担当している生命の転生を司る仕事は一日二十一時間の仕事です。休憩時間、自由時間、就寝時間がそれぞれ一時間振り分けられています」
「……ミスった原因はそこにありそうだな」
「神界の仕事は人間の就業体制と違ってこれが普通です。ミスしたのは私個人の問題ですので、シェーナやキシャナにはご迷惑をおかけします」
「そんなつもりで聞いた訳じゃないよ。ペトラも神界の仕事やここでの慣れない仕事で疲弊してたら嫌だからさ」
「うう……シェーナは本当に優しいのですね。神界の上司は辞令と激励しか言わないタイプなので、ここはホワイトな職場で助かります!」
興味本位で神界の就業について訊ねたが、神界と地上の認識はかけ離れ過ぎているので参考にならない。
ペトラ本人から神界の愚痴を吐き出してすっきりさせると、この子も中間管理職として大変なんだなとシェーナは共感を覚える。
シェーナはペトラのために、三種のおにぎりを握ってあげると、ペトラはおにぎりを喜んで頬張る。
「とても美味しいですよ。シェーナはきっと良いお嫁さんになれます!」
神様からお墨付きをもらうが、ペトラに言われるのは複雑な気分だ。




