第73話 ドライブ
グラナは外に音が漏れないように、空間魔法を使用して外と食堂の空間を遮断した。
遮断された空間は周囲が暗くなり、上映前の映画館みたいな感じだ。
「それでは映像を流しますね」
ペトラは杖を振り上げると、壁一面にスポーツカーが映し出される。
ペトラ以外のその場にいる者は全員、驚嘆の声を上げた。
「すごい! 日本のRX―7、NSX、インプレッサから外車のポルシェ、シボレー、ランボルギーニ、ブガッティ、アストンマーティンまであるよ!」
特にキシャナは興奮して目を輝かせながら車種を読み上げる。
そういえば、キシャナは前世の頃から車やオートバイに興味があって免許が取れる年齢になったらアルバイトで稼いだ金でオートバイを購入して、ツーリングに行ってみたいと話していたのをシェーナは思い出した。
「やっぱり元々が男の子なだけに、詳しいですね」
「一堂にスポーツカーが異世界で揃うなんて夢みたいだよ。走行している映像はあるかい?」
「勿論ございます。定点カメラを運転席に変えますね」
ペトラは感心した様子でキシャナの要望に応えて、再び杖を振るう。
映像はハンドルやブレーキが備わっている運転席の景色に変わり、車は発進する。
アスファルトで整備された道路を時速百kmまで加速すると、映像からでもその速さが景色を通して伝わってくる。
ルトルスはシェーナの傍に寄って腕を掴むと、シェーナは心臓が激しく鼓動する。
「ルトルス……大丈夫かい?」
「急に腕を掴んですまない。私はグラナと初めて対面するまで怖いもの知らずだった。このスポーツカーも負けず劣らず凄まじい速さで振り落とされないか心配になったのだ」
映像だから振り落とされることはないが、異世界出身のルトルスにとって時速百kmの世界は初めての経験だろう。
景色はやがて暗くなると、都会の高層ビルで照らされた夜景に移り変わる。
キシャナは長耳を揺らしながら、夜景の映像に釘付けになって嬉しそうな笑顔を見せる。
シェーナとルトルスも夜景の美しさに見惚れて、二人は夜空の星を数えたりして雑談を交える。
「皆様、ドライブを楽しんでいただけて何よりです。最後に私から時速百kmの風を提供してリアルなドライブを楽しんでもらいましょう」
「あ! それはちょっと……」
シェーナがペトラを制止しようとするが、時すでに遅くペトラは杖を振り上げて突風を巻き起こす。
店中の置物が風の勢いで宙を舞って、食器類は地面に落ちて割れていく。
慌ててその場にいる全員はテーブルの下に身を潜めると、すぐに解除しようと試みるペトラは使用していた杖が風に持っていかれてパニックになってしまう。
「やれやれ……ちょっと乱暴だけど、風だけを空間魔法で隔離するよ」
グラナは瞬時に空間魔法を唱えると、風のみを異空間に飲み込んで騒ぎは収まった。
「申し訳ありません! 皆様、怪我はありませんか?」
「いや、大丈夫だよ。いきなり風魔法をぶっ放したのは驚いたけどね」
ペトラは店の惨状について土下座して謝罪すると、壊れた調度品はグラナと協力して再生魔法で元通りにしていった。




