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第63話 ウィル・ヘルスト

 先程の仲間が復讐にやってきたかもしれないと警戒して、剣士から距離を置いてシェーナは警告をする。


「止まれ! それ以上近付くな」


 強い。

 シェーナは直感的に剣士の底知れぬ力を危険だと判断する。

 この距離なら娯楽施設を抜けて商業地区の人混みに紛れて逃走できる。

 最悪、シェーナが囮になってキシャナだけでも逃がせればいい。


「そんなに警戒しないでくれ。俺は君達の味方だ」

「味方だと証明できるのか?」

「ここの責任者を務めているウィル・ヘルストだ。リィーシャのギルドで働いているシェーナとダークエルフのキシャナだろ?」


 剣士はシェーナ達の名前を言い当てると、ウィル・ヘルストと名乗りを上げる。

 一見したら優男のような雰囲気で、とてもドラゴンを一刀両断した武勇伝の持ち主には見えない。

 一回だけハシェル国の謁見の間で勇者一行のメンバーを遠目から拝見したことはあるが、国を挙げて招待したこともあって一部の国境警備に当たっている者を除いてハシェル国の全騎士が一堂に集結して、シェーナが参列していた位置からでは勇者一行の顔をよく見れなかった。

 シェーナは疑いの眼差しを向けて剣士に問いかける。


「本当にあのウィル・ヘルストなのか?」

「君達以外にガフェーナのルトルスやグラナもいるだろ。グラナに関しては勇者一行のメンバーしか知らない事実だぜ?」


 たしかにグラナのことはプライデンでも極秘にされている。

 加えて立ち振る舞いから目の前にいる剣士はウィル・ヘルストで間違いない。


「失礼しました。数々のご無礼をお許しください」


 シェーナはウィルに深く頭を下げると、キシャナもそれに倣って頭を下げる。


「気にするなよ。ここで立ち話もあれだから、応接室に案内しよう」


 ウィルはシェーナ達に背を向けると、二人を最深部の建物へと(いざな)う。

 キシャナはシェーナの手を強く握ると、まだ不安は解消されていないようだ。


「大丈夫だよ。俺が傍にいるから」

「……しばらくこの状態でいさせてくれ」


 そういえば、エルフやダークエルフは人間より感受性が強いと聞いたことがある。

 個人差はあるのだろうが、前世から優しい人柄だったキシャナはダークエルフの特性を色濃く受け継いでいるのかもしれない。


「二人はとても仲が良いんだな」

「ええ、私の大切な友人です」

「……へぇ。ハシェル国の女騎士とガフェーナのダークエルフに友情が芽生えるとはね。これも中立国家を興した賜物なら嬉しい限りだ」


 シェーナ達が異世界転生していることを知っている者は数少ない。

 どうやら、リィーシャは異世界転生について誰にも口外していないようだ。

 ウィルからすれば、プライデンで偶然二人が出会って意気投合したように見えるのかもしれない。


「ここが応接室だ。適当に座ってくれ」


 ウィルが二人を応接室に通すと、シェーナ達はテーブルの椅子に腰を下ろす。

 部屋の様子に変わったところはなく、調度品が綺麗に並べられている。


「本題へ入る前に、シェーナはとても強いのだな。ここの冒険者はそれなりに鍛えられている連中が多いのだが、先程の腕前はとても素晴らしかったよ」

「あ……ありがとうございます」

「私は肉体や精神が強い人間はとても好きだ。近年は魔物の数が増加する一方で、近隣の町や村に被害が相次いでいる。その対策として冒険者の強化を目的に『闘技場(コロシアム)』を立ち上げたんだ。賭場は冒険者に娯楽を提供するためだが、『闘技場(コロシアム)』の運営費を合わせると両立は保てている」


 魔物の発生源は把握できておらず、大陸全土で魔物の数は増加傾向にある。

 シェーナは魔王のグラナが原因の一つではないかと思っていたが、本人は全然関係ないと否定した。 元々、グラナは下位に属する神だったようで、大昔に悪戯を働いて上位の神に献上した供物を食べてしまった。それに激怒した上位の神はグラナを地上に封印して、後世に魔王の異名で語り継がれることになったらしい。

 神話を紐解くと、意外と子供じみた内容が隠されているのだなとシェーナは思った。

 これが神に仕える司教や司祭の耳に真実として入ったら、気絶してしまうかもしれない。


「すまんね。熱く語り出して本題から逸れそうになった」

「いえ、冒険者の強化は大変素晴らしい考えだと思います」

「そう言って貰えると嬉しいね。さて、本題に移ろうか」


 シェーナはウィルの主張に共感すると、ウィルは真剣な眼差しで語り始めた。

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