第53話 スエード王国②
冒険者がスエード王国を訪れると、行方不明になる者が続出する。
公には魔物討伐の失敗による死亡者とされているが、奴隷にされて他の大陸に売り飛ばされていると冒険者ギルドでは有名な噂だ。
シェーナがハシェルの騎士団にいた頃にも、スエードの黒い噂は耳に入っていた。
「大昔にこの地を訪れた時に、ここから北に少し進んだところに沼地があってね。そこにコカトリスが巣を作って縄張りにしていたが、『闇核』も結構な量もあるし、シェーナの訓練にもなると思って飛ばしたんだけど、まずかったかね?」
「コカトリスよりスエードの兵士や奴隷商人に見つかる方が厄介だな」
グラナはコカトリスがいる沼地を指差すが、シェーナはスエードに自分たちの存在が知られることを恐れた。
コカトリスは大きな鶏のような形状をした魔物で、くちばしに石化の呪いが付与されている。
石化は体内にある『闇核』を利用して敵を封じる技で、通常の魔物より多くの『闇核』を体内に生成されているとグラナは語る。
情勢を知らないグラナにとって、安定した狩場を提供したことに責めるつもりはない。
「狩場までは本当にここから近いの?」
「すぐそこだね。危なくなったら、城塞都市へ引き返せるように瞬間魔法は唱えられる準備はしてあるよ」
「……店の責任者としては今回の回収を中止したいと思う。魔物よりスエードの人間と接触する危険は避けたい」
臆病風に吹かれたと言われても、スエードの人間と一悶着があったら無事に帰れる保証はなくなる。仮に問題を起こしてグラナの瞬間魔法で帰還したとしても、プライデンとスエードの関係を悪化させるような真似をしたらリィーシャに申し訳が立たない。
「その心配は無用さ。こいつに忘却の魔法を使用させて私達の存在を消せばいい」
「なるほど、たしかにそれなら問題ないかもね」
ルトルスはグラナの肩を叩き、魔物退治の続行を宣言する。
そんな芸当もできるのかと感心するシェーナはグラナに一つ確認をする。
「昨日は空間魔法、今日は瞬間魔法を往復して使うことになるけど、忘却の魔法まで使用したらグラナの魔力は大丈夫なのか?」
「それは全然心配ないね。補助や回復魔法は攻撃魔法に比べて魔力の消費は抑えられるし、私の魔力は無尽蔵に近いから」
「……わかった。魔物退治は続行しよう。戦闘に関してはルトルスの方針に従うよ」
意見がまとまり、グラナを先頭に案内を始めるとシェーナとルトルスは周囲を警戒しながら平原を抜けて沼地まで突き進んで行く。
幸いにも、『奴隷隊商』が通り過ぎた後は人の気配が全くなかった。
シェーナにとって、ガフェーナの勇将と謳われたルトルスと初めて共同戦線を張って戦闘となる。
緊張した足取りのシェーナをルトルスは気遣って、手を繋いでくれた。
「魔物退治は料理と同じさ。工程通りに捌いていけば問題ない」
「ハシェルにいた頃に何度もやってきたが、ルトルスのような者と一緒に戦えるのは光栄だと思うよ」
「二人共。そろそろ沼地だけど、あれを見てごらんよ」
グラナが小声で指差すと、シェーナ達は足を止めて前方を注視する。
足に鉄球と鎖をした子供二人が必死に走り、それを甲冑に身を包んだ兵士が追いかけている。
おそらく、奴隷の子供が逃走してスエードの者が捕まえようとしているのだろう。
「嫌だ! 俺はあんなところへ戻りたくない!」
やがて奴隷の子供二人は兵士に捕まり、ぞんざいな物を扱うように髪の毛を無理矢理引っ張って近くに止めてある馬車へと押し込もうとする。
「……すまない二人共。ここまで来て申し訳ないが、俺はあの二人を助けようと思う」
シェーナは馬車へと駆け寄って、不意打ちに甲冑の兵士を気絶させる。
自身でスエードの人間と接触を避けようと提案していたのに、自らそれを破って奴隷の子供二人を救出してしまった。




