第45話 祝賀会
商業地区で仕入れた秘蔵の葡萄酒を片手にシェーナはルトルスの部屋で祝杯を挙げる。
「明日の開店を祝って乾杯!」
シェーナは簡単に祝辞を述べると、キシャナとルトルスはグラスに注がれた葡萄酒を口にする。キシャナと初めて飲んだ葡萄酒を見つけるのに苦労はしたが、あの葡萄酒のおかげでキシャナと楽しい夜を過ごすことができた思い出の一品だ。
「美人に囲まれて飲む酒は美味しいねぇ。それが極上の酒なら尚更だよ」
「オッサンみたいな感想だな」
「事故に遭ってなかったら、俺達は今頃オッサンだよ」
ザルなキシャナだが、酒が入ると容赦ない本音をぶつけてくるから困ったものだ。
たしかに事故に遭っていなければ、どこかの企業に就職して働いているオッサンだったかもしれない。
キシャナの一人称が『俺』になっている時点で、かなりぶっちゃけているなとシェーナは思う。
キシャナは標的を変えてルトルスに絡むと酒の力を借りて話題を振る。
「どっちかって言うと、ルトルスは男より女にモテルタイプだよね。誰かに告白とかされたことはあるの?」
「答えたくなければ、無理に話さなくてもいいよ」
「オッサンは黙っていようか。修学旅行で好きな人の名前を挙げるのは通例だからな」
無茶苦茶な理論でキシャナはシェーナを黙らせると、案外キシャナはサリーニャタイプなのかもしれない。
グラスに入った葡萄酒を見つめながら、ルトルスは真剣な表情で語り始める。
「告白とは無縁の人生だったから、特になかった。でも、シェーナ達と出会ってからは毎日が楽しくて充実している。私を変えてくれたと言う意味ではシェーナの言葉が私の心を鷲掴みにしてくれた」
ガフェーナの暗黒騎士は統率が取れている精鋭部隊として名を馳せていた。
特にルトルスのような勇将だと、甘い恋話はなかったとしても不思議ではない。
「うーん、堅いなぁ。ルトルス、ちゃんと酒は飲んでいるの?」
「いや……酒はあまり得意ではないのでな」
「初めてシェーナと出会った時と同じような台詞を聞くとは……女騎士は酒に弱いのがステータスなのかね?」
あらぬレッテルを貼られそうなので、シェーナは個人の差によるものだと適当に答える。
意外なのが、ルトルスは酒が苦手だったことだ。
シェーナのイメージではキシャナのようにザルだとばかり思っていたが、まだ一滴も葡萄酒に手を付けていないところを見ると、本当なのだろう。
「二人が私のために催してくれたんだ。一杯だけ頂戴するよ」
ルトルスはグラスの葡萄酒を一気に飲み干すと、突然シェーナに抱き付いて暴走の片鱗を見せる。
「シェーナ……私は君を愛している! 結婚を前提に……」
酔っぱらった勢いで口が滑ったのかもしれないが、ルトルスはシェーナ以上に酒が弱いことがわかった。
寝息を立てるルトルスをベッドに移すと、ルトルスの内に秘めていた本音を聞けたような気がして、複雑な気分で祝賀会はお開きとなった。




