第42話 地下室での死闘?
「交渉成立ね。場所を移動するから、私についてきて」
中央の台座にスイッチのようなものを押すと、地面から地下へと続く階段が現れた。
サリーニャは工房を改築して、地下室を最近作っていたようだ。
改築工事は昨日の時点で終わったらしく地下へと続く階段を下っていくと、広い空間が目に飛び込んできた。そこには朝方に冷蔵庫を運んでくれたエルフ達と女ダークエルフの数人が机に座って何か作業をしている。
「第二の仕事場へようこそ。錬金術の仕事以外に、副業で漫画を描いているの。彼等は私のアシスタントさん達よ」
どうやら、サリーニャは錬金術の他に漫画家として活動を続けていたようだ。
アシスタントの構成はエルフ二人、女ダークエルフ二人。
この御時世では珍しく、エルフとダークエルフの二組は職場結婚している。
主に漫画を描く作業と、本業の錬金術で運搬作業や素材調達もやっている。
「完全週休二日制、有給休暇あり、育児休暇あり、福利厚生あり、冠婚葬祭の休暇も認めているアットホームでホワイトな職場です」
たしかに待遇は良さそうだが、アットホームな職場はブラックな感じがするのは気のせいだろうか。
一応、確認のためにシェーナは漫画の執筆についてサリーニャに訊ねる。
「副業についてリィーシャさんに許可は取っているの?」
「勿論よ。彼等も『森の聖弓』メンバーとして正式に所属しているし」
営業許可証はあるようで、とりあえず問題はなさそうだ。
地下室には『闇核』を使った電気設備があるおかげで、常に明るさを保つことができている。
台所や食堂も完備されており、戦闘訓練ができる場所と武具も揃っている。
サリーニャはシェーナとルトルスを用意した服に着替えさせると、本題に入る。
「二人には、さっき見せた台詞を私の指導した通りに動いて実演してね」
「あの……この格好は?」
「勇者に仕える女騎士と魔王に仕える女騎士」
白銀の鎧に身を包んだシェーナは困惑した表情だが、漆黒の鎧に身を包んだルトルスは役になりきっている。
台詞以外にも、模擬刀を使った対決の絵が欲しいとの注文だ。
「今回は漫画の材料にしたいから、良い演技を期待しているわよ」
サリーニャとアシスタント達は机に座って、二人をじっと観察に入る。
ルトルスは模擬刀を抜くと、シェーナは諦めてサリーニャの用意した舞台に集中する。
「お前との対決は何度も繰り広げてきたが、ここから先は魔王様の玉座になられる。ここで貴様の因縁を断ち切り、勇者共を葬ってくれる!」
「ここで魔王を討ち果たせば、真の平和が訪れる。平和を脅かす者を許すことはできない! 私は勝利をこの手に掴んでみせる!」
シェーナも模擬刀を抜いて構えると、ルトルスは凄い形相で迫り来る。
ルトルスの一撃はとても重く、模擬刀で防戦一方だ。
「くっ!? なかなかやるな。だが、私は絶対に屈したりはしない!」
ここまではお互いに台本の筋書き通りに動いていたのだが、問題が生じた。
ある程度、剣を交えた後は勇者に仕える女騎士が魔王に仕える女騎士を討ち果たして幕を閉じる予定になっていた。
「私を倒して力を証明してみせよ!」
これはまずい展開だなとシェーナは瞬時に悟った。
役になりきりすぎて暴走状態のルトルスは次々と剣技を披露してシェーナを追い詰めていく。
このままでは台本とは違うストーリーが出来上がってしまうのと、自分の身も危ないとシェーナはサリーニャに中止の合図を送るが、サリーニャとアシスタント達は二人の熱演にのめり込んで気付かない。
そしてルトルスの猛攻に耐え切れず、シェーナは握っていた模擬刀を手放してしまった。
「覚悟しろ!」
「覚悟するのは君の方だよ」
ルトルスはシェーナに模擬刀を振り下ろそうとすると、背後から誰かが止めに入った。
ルトルス以外、その場にいる誰もが「あっ……」と声を漏らして我に返った。
リィーシャがルトルスの腕を掴んでいたのだ。
サリーニャは慌てて終了の宣言をすると、ルトルスは我に返って置かれた状況に思考がついていっていない。
「とりあえず、ここにいる全員は行政地区で事情聴取ね」
シェーナの命は助かったが、代わりに行政地区でリィーシャにこっぴどく叱られて炊飯器は無料で手に入れることはできた。




