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第18話 演技

 前世の初恋相手を前にして、シェーナは顔を赤らめて視線を逸らす。


「久しぶりだね。この世界では元気でやっているの?」

「ええ、俺……私は元気です」

「前世の男言葉が抜けないところを見ると女性として苦労しているのか。急にそんな童貞丸出しの反応は美人の女性には似つかわしくないよ」


 エルフの少女は瞬時にシェーナが女性として悩んでいることを指摘する。

 彼女が鋭いのか、シェーナが分かり易い性格なのか、多分両方なのだろう。

 エルフの少女は自分の自己紹介をする。


「私はこの世界でサリーニャ・ディストールと名乗っている。見ての通り、種族はエルフだ」

「……私はシェーナ・ウラバルト」

「別に無理して一人称を『私』にしないで『俺』でいいよ。シェーナ……北方のハシェル国で女騎士の名前がそんな名前だったような」


 それは自分の事だとシェーナは打ち明ける。

 名前が他国に知れ渡っているのは騎士として喜ばしいが、今は関係ない。


「とりあえず座りなよ」


 シェーナは来客用の椅子に座らされると、改めて仕事の話に戻る。


「前世の知り合いでも、金貨百枚は譲れない……と言いたいところだが、条件次第では無料で引き受けてもいいよ」

「それは有難いけど、その条件とは?」

「簡単な話さ。今から私がメモした台詞を言葉にして演技してくれればいいよ」


 シェーナは無理難題なことを吹っ掛けられるかと思ったが、資金は節約したいし、このぐらいなら大丈夫だろうとサリーニャの条件を承諾する。


「わかった。その条件でいいよ」

「言っておくけど、やっぱりなしは駄目だよ?」

「元だけど、男に二言はない」


 サリーニャはニヤつきながらメモ用紙にペンを走らせる。

 前世の彼女は仏頂面で近寄り難い雰囲気の問題児だったが、今の彼女は物腰が柔らかくなってだいぶ性格も丸くなったように見える。


「できたよ。女騎士様! この台詞を頼みますよ?」


 サリーニャはペンを置いてメモ用紙をシェーナに見せる。

 台詞を確認すると、シェーナは全身から冷や汗をかいたような錯覚に陥る。

 性格が丸くなったと言うのは撤回したい。


「二言はないよね?」


 顔を近付けて逃げ場はないと言わんばかりに、サリーニャの圧力がシェーナを縛り付ける。

 サリーニャは鍛冶屋から剣と鎧を揃えると、「それに着替えて本番スタートよ」と意気揚々だ。

 メモ用紙の台詞を頭に叩き込んで、シェーナは深呼吸すると演技を始める。


「私はハシェル国第三近衛隊隊長のシェーナ・ウラバルトだ! 下劣なオーク共に私は屈したりしない! くっ……こんな辱めを受けるくらいなら殺せ!」


 演技を終えたシェーナはサリーニャの方を見ると、背後にエルフの親子連れが冷めた表情でこちらを見ていた。

 サリーニャは満足して拍手すると、エルフの親子に気付いて表情が一変する。


「しまった……興奮しすぎて営業中の看板を下げるのを忘れてた」


 気まずい空気の中でサリーニャは棚からガラス瓶を親子に渡すと、エルフの親子は報酬額をテーブルに置いて無言で立ち去って行った。

 その後、シェーナの演技した声に衛兵が駆け付けて、二人は行政地区へと連行されて事情を説明する羽目になった。こっぴどく叱られた上に、シェーナの身分証明書から商業ギルド『森の聖弓』の所属を確認すると、リィーシャが仲介に入ってくれたおかげで釈放された。

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