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第12話 リィーシャの取引

「一応、扉はノックしたんだけどね。勝手に入らせてもらったよ」

「リィーシャ様……」

「リィーシャでいいよ」


 シェーナは驚いて畏まると、制するようにしてリィーシャは二人に歩み寄る。

 魔王を倒した勇者一行のメンバーの一人で、中立国家プライデンの建国に尽力した人物である。シェーナはハシェル国で一度だけ謁見の間で勇者一行のメンバーを見たことはあったが、まさか隣人が勇者一行の一人とは想像もできなかった。


「今日はビジネスの提供をしたいと思ってね。商業地区の一画で空き家があるのはご存知かな?」

「いえ……私は最近こちらに流れ着いたので、キシャナは知ってる?」

「知ってるけど、シェーナはリィーシャさんと知り合いだったのか?」


 シェーナはキシャナにリィーシャの素性を話すと、キシャナは愕然とする。

 リィーシャは咳払いをすると、話の続きをする。


「その空き家を使って料理店を始める気はないかな? 難しく考えることはないよ。転生者(リインカーネーション)の君達なら、我々とは違う発想でこの都市を発展できるのではないかと思ってね」


 転生者(リインカーネーション)だと見破られて、キシャナは更に驚愕する。

 リィーシャは所持している斜め掛け鞄から書類のような物を見せる。


「これは商業ギルド『森の聖弓』の加入に必要な書類だ。書類にサインしてくれれば、君達に空き家の土地と建物代として金貨三千枚を貸そうと思う」

「金貨三千枚!? しかし我々に特別な商才や料理のスキルはありませんよ」

「康弘君が作った漬物や浩太君が作ったパスタは素晴らしい品だと思うよ。魔物討伐より二人で協力して料理店を切り盛りすれば、君達やこの都市にも有益だ。返事は一週間待つよ。良い返事を期待しているよ」


 二人の肩を叩いてリィーシャは退散する。

 店を構えることは魅力的だが、やはり失敗したときのことを思うと躊躇してしまう。

 金貨三千枚を返済するには単純計算でデーモン三十体を相手にしないといけない。


「リィーシャさんが勇者一行のメンバーで、私達が異世界転生していることも知られてたのか」

「ああ、俺達の会話は占いのところから全部聞かれていたよ」


 キシャナはリィーシャを親切な隣人のエルフとして認識していた。

 ここに流れ着いたばかりのキシャナに色々と世話をしてくれたのはリィーシャだった。

 考えてみれば、ダークエルフとエルフの関係は積年の恨み積もりで最悪の筈だ。


「ダークエルフは人間やエルフと敵対関係って前に話しただろ? ここは勇者一行が興した中立国家でどんな種族も受け入れてくれるけど、全員がそうとは限らない。私はシェーナに少し嘘をついたよ」


 嘘とは魔物討伐を殺生したくないと言う理由で拒否したことだ。

 キシャナは魔物討伐でパーティーに参加しようとしたが、ダークエルフのキシャナと組もうとする者はなかなか見つからなかった。見つかったとしても、斥候役として危険な役割を押し付けられたり、報酬金も不当に分配されたと語る。

 シェーナは拳を握り、キシャナの言葉に耳を傾け続ける。


「それまでは我慢はできた。冒険者の中にはダークエルフに殺された親族や友人がいることも知っていたからね。ある時、人間の男三人と斥候役でパーティーを組んだ。目的の魔物は洞窟の中で討伐に成功したけど……犯されそうになった」

「キシャナ……もう喋らなくていい。お前が魔物討伐を拒否するのはよくわかった」

「嘘をついてごめん……こんなことはカッコ悪くて誰にも言いたくはなかった。でも親友に隠し事はしたくなかった!」


 城塞都市で新しい生活を夢見てたのに、この仕打ちはあまりにも残酷すぎる。

 幸いにも、リィーシャ率いるパーティーが別の魔物討伐で近くを通りかかったところを助け出されて大事には至らなかった。

 シェーナはキシャナを抱きしめて決意する。


「俺はお前を守る騎士になるよ。二人で……店をやろうじゃないか」

「嬉しい。シェーナが一緒なら私は構わないよ」


 二人は書類にサインをすると、取引は成立した。

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