少女の後悔
――これは、私の遺書です。
机に向かい、ペンを走らせる。
――これは、私の罪の告白。
知らなかった、と。そう言い訳してしまえればどんなによかっただろうか。
そう言ってしまえるのは、つまり、無関心だったと宣言するに等しいのだから。
――許して欲しいとはいえません。
彼にしたことがどういうことなのか、私はそれをよく知っているから。
――けれど、せめて。自分が自分を許せるように。私は、私を罰します。
後悔と罪悪感、そして、謝罪を文に残しながら。
ふと、彼との出会いを思い返す。
彼と知り合ったのは、二年の始め。
運命的な出会いなんてなくて、ただクラス替えで同じクラスになったのが私たちの出会い。
仲良くなったきっかけは、友人のちょっとした悪戯――私にとってはただの悪戯では済まないもの――に、彼が本気で怒ってくれたことだった。
今にして思えば、あの時にもっと話をしておくべきだったのかもしれない。
ううん、これは言い訳か。
もしもの話をしたところで、今は何も変わらない。
何より、そんなことも知らずにいたということは、きっと、どこかで似たようなことをしていたに違いない。
それからは話をすることも増えて、彼に惹かれるまでそう時間はかからなかった。
彼が私を気遣ってくれていたのもあるのかもしれない。
仲直りすることが出来た友人たちにもからかわれる程度には、その、分かり易かったとか。
私は満更でもなかったけど、彼にとっては迷惑だっただろうか。
彼と思い出を積み重ねて、春が過ぎ、夏が過ぎ、そして、秋が過ぎ。
やってきたのは二月十四日。バレンタインデイ。
彼に明確に惹かれていた私は、けれど、面と向かって渡す勇気が無かった。
そもそも彼――優しい性格なので、当然のようにモテモテだった――はバレンタインのチョコレートを受け取らないといわれていたし、
受け取ることを拒否されてしまえば、多分、私は立ち直れないと思ったから。
だからこそ、ひっそりと。ばれないように。
なんでもない日常として、チョコレートらしくもないお菓子として。
手作りのクッキーを彼に渡した。
最近、お菓子作りにはまってて。
親に教えてもらったクッキー、折角だから感想を聞かせてよ。
それは、一応のところ嘘ではなかった。
クッキーの作り方はお母さんに教わったものだし、
これを機にお菓子作りに興味を持ち始めたのも本当の話。
だけど、もう私がお菓子作りをすることもない。
もしこの遺書が無駄になっても、そうなるだろう。
彼は私のしたことを許してくれるのだろうか。
きっと、許してはくれないだろう。
けれど、これから私がすることを止めてくれるだろうか。
……止めて、くれるんだろうな。
彼は優しい人だから。そして、その苦しみを知っているから。
たとえ許していないとしても、それとは別に止めてくれるだろう。
もしかすると、そのために言葉だけでも私を許すとまで言ってくれるかもしれない。
そう思えば、少し、嬉しさが滲む。
……ダメだな、私。そんなことを考える権利なんてないのに。
チン、とレンジの鳴る音が聞こえる。
コンビニの、かに玉の天津飯。
友人たちが美味しいと言っていたので、前からどんな味か少し気になっていた。
だから、折角だしと最後に食べるものとして選んでみた。
お母さんも、今日は家に帰ってこない。
止めてくれる人も、もういない。だから多分、助かることも無いだろう。
――最後に。
――さようなら。そして、ごめんなさい。
翌日、一人の少女が病院に緊急搬送される。
その翌日には、少女が通う高校で全校集会が開かれた。
主題は、アレルギーとその危険性について。