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自失③

「なるほど、これのせいですか」


 英介が掲示板を覗き込んで言った。あかりは、美里の暴挙を止めなかった英介に、今更ムッとした。


「ちょっと、見てないで手伝ってよ」


「バレンタイン禁止ってどういうこと!」


 再び力を取り戻してきた美里に引っ張られながら、あかりは耳を疑った。今、美里は何て言った。


「そのまんまの意味だ。お前らには悪いが我慢してくれ」


 何だそれは。去年まで普通に生徒同士で行われていた行事ではなかったか。あかりは戸惑いを覚えた。


 寺川先生はおもむろにガシガシと角刈りの頭を掻く。


「いや、中庭の池で事故がここ最近、立て続けに三件もあってな」


 苦々しく言う寺川先生に、英介がゆっくりと近寄ってきた。


「中庭の池といえば、うちの恋愛スポットで有名ですよね。そこで告白すれば成功するとかいう、あの馬鹿らしい迷信」


 あかりは毒を吐く英介をきっと睨んだ。成功率はともかく、ロマンチックで良いじゃないか。


「うん。何やらそこに行く奴らが足を滑らせて池に落ちたとか、落ちそうになったとか。今日朝早くとうとう溺れて怪我をした奴が現れてな」


 どんな告白の仕方してんだか、と寺川先生は額に手を当てる。


「なるほど。バレンタインで必然的に中庭の池に集まる生徒が増え、また多くの生徒が事故に遭う可能性があるからバレンタイン自体を禁止してしまえ、ということですか。少々横暴な気もしますが」


 落ち着きを払った英介の言葉に、寺川先生が大きく溜息つく。


「仕方ないだろう、どうせ中庭を立ち入り禁止だけしてもお前ら勝手に入っていっちゃうんだから。まぁ、そういうことで。今日から中庭立ち入り禁止、明日の朝から校門でチョコレート持ってないかチェックするから。よろしくな」


 ニッコリと笑った寺川先生はそのままピシャリ、と職員室のドアを閉め、鍵をかけた。美里は勢いよくドアにしがみつき、激しくノックをした。


「開けなさいよ!」


 あかりは美里が哀れになり、英介に助けを求めた。


「ねぇ、ちょっとあんまりじゃない。中庭立ち入り禁止だけでいいじゃん。バレンタインを禁止にするなんて」


「毎年バレンタインの告白で人気の場所ですし、無断で入られていちいち注意する方が面倒臭いんでしょう。最悪の事態も避けられますし。まぁ、別に校内でやらなきゃいい話です」


 その発言に反応した美里が髪を振り乱しながら、英介に詰め寄る。


「学校の中庭じゃなきゃ意味がない!」


 廊下中に響いた声は吸い込まれ、美里の荒い息遣いだけ残った。


「意味がない。意味がないのよぉ」


 か細い声で美里はそう言うと、ふらふらと職員室から離れていく。


「部長、可哀想」


 去っていく美里の背中を見ながら、あかりも悲しい気持ちになった。美里も来たるバレンタインのために、一生懸命計画していたのかもしれない。


「何が意味ないんですか、訳が分からないですね」


 英介がポツリ、と呟いた。


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