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自失①


 ボコボコと耳をくすぐる水の音。手は前へ前へ水を掻いていく。潜った先に見える、赤いラインが途切れると、プールサイドが間近に見えてきた。


「はい、ストップ」


 プールサイドにタッチすると陸上に立つ女性マネージャーが、明るく大きな声で叫ぶ。ゴーグルを帽子から外した。


 息が上がってしまって、マネージャーから伝えられるタイムを聞き逃してしまった。マネージャーにタイムを聞き返してみる。 


 ニコッと笑ったマネージャーはしゃがんでタイマーを見せてくれた。


 気持ちが沈んだ。


 水泳部の活動が終わって、外に出るとヒンヤリとした風が身体を痛めつける。いくら温水プールと言えど、この季節にプールはしっかり体調管理をしていないと、風邪を引いてしまう。


 黒いコートのポケットに入れたカイロに触れる。じんわりと暖かさが手から伝わる。


「おーい、司」


 聞き慣れた声が近くから聞こえると、薄く茶が混じった短髪の男子生徒が手を振りながら走ってくる。


「良輔」


 司は手を振り返すと、良輔は白い歯を見せてやってきた。


「俺、今バスケ部終わったとこ。司は? 終わった?」


「あぁ、俺も終わった」


 司は右手に持った鞄を持ち直すと、良輔が眉をひそめる。


「なんかあった?」


「いや、まぁさ」


 司と良輔はスロープ状になった坂道を校門に向かって下る。


「全然、タイムが伸びなくて」


 司が歯切れが悪くそう言うと、良輔はきょとんとした顔になった。


「珍しいなぁ。司が弱音吐くなんて」


 そりゃあるよ、と司は囁くとまたテンションが下がってきた。コーチはいつも通りだ安心しろ、と言っていたが、ここ最近ずっとタイムが伸びていない、もうすぐ大会がある。このままで良いのか。


 校門に近づいていくと、大勢の防寒着を着た生徒が校外へ出て行っていた。辺りは暗くなっていた、皆が帰る時間帯なのだ。


「あっ、転校生だ」


 良輔が嬉しそうに言った。校門周辺にいるとある生徒に注目しているようだった。


「転校生?」


 そんな人いただろうか、司は問うと、良輔は大きく頷いた。


「うん、俺らと同じ二年の女子。隣の三組だっけ? めっちゃ可愛いらしいよ」


「へえ」


 良輔はあっ! と何か思い出したのか声を上げた。


「でも転校生、何か変な臭いがするらしい」


「臭い?」


「生臭いとか何とか」


 たぶん、この前、家庭科で焼き魚作ってたからだろうけど、と良輔は笑う。司は話半分にふうん、と相槌を打った。


 良輔は転校生らしき人を目で追いながら、鼻の下を伸ばし頰を紅潮させる。


「俺も可愛い子と付き合いたいなぁ。もうすぐバレンタインだし〜。なぁ、司」


「そうだな」


 司は少し気分が軽くなって笑うと、凍え切った赤色の落ち葉を踏んだ。





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