四つの寮
大広間に入るとすでに多くの人達がいて話しこんでいた。四つの長テーブルが縦に並べられ、能力判定の時に見かけた子や上級生がすでに着席していた。広場の上座にはもう一つ長テーブルが横に置かれ、すでに何人かの先生達が座っていた。
能力判定の時と違って天井は天空に向かって開いているようだった。でもこの前来た時は確かにここは建物の中だった。そこに天井があるなんて信じられない。
「多分幻視を利用してるんだろうけど本当にすごいな。こんな事もできるのか」イーサンが天井を見ながら感心したように言った。それから視線をテーブルに戻し見回していた。
「さてと俺達のテーブルはどこだ?確か俺達の寮は・・・」
「シルフ・・・だったと思うよ?確か変な鳥のマークが書かれていたと思うけど」
「そうだったな。あれかな一番右端の垂れ幕があるテーブル」
よく見るとテーブルの真上に垂れ幕が掛けられている。一番左端の垂れ幕には、燃えるような赤い竜が描かれている。左から二番目は、そびえ立つような巨大な亀に蛇が巻き付いた生き物が描かれている。その隣は、体は鹿で顔は龍に似ていて、牛の尾と馬の蹄と頭に一本の角が生えた生き物が描かれている。そして一番右端には、あの不思議な鳥が描かれている。色んな鳥が混ざり合ってるみたいで優雅に飛んでいる姿が描かれている。
「多分あそこだろう。行こうぜ」
イーサンはそう言うと、一番右端のテーブルに向かって歩きだした。近づいてみると前の方の席以外はほとんど埋まっていた。
「すみません。失礼ですがこのテーブルはシルフのテーブルですか?」イーサンが後ろの席に座っていた男の人に話しかけた。
「ん?あぁ君達一年生だね。このテーブルであってるよ。ようこそシルフへ。僕はパーシル・ハーベルだ。今年から監督生なんだ。一年生は前の席だよ」
なんとなく気取った話し方をする人だ。髪は黒髪の短髪でひょろとしていて背が高い。僕と同じ緑色の目をしていた。握手をした後僕たちは前の方の席に向かった。すると見覚えのある後ろ姿が見えた。茶色のまっすぐな髪。
「イザベラ。君も同じ寮だったんだ」僕は嬉しくて声をかけた。
「あらジャスティン。それにイーサンも。久しぶりね。もうすぐ会えると思っていたわ。あなた達と同じ寮で良かったわ」イザベラはにっこりと笑いかけた。僕達はイザベラの向かい側の席に座った。
「まだあまり一年生は着いてないみたいだな」イーサンが言った。
「あらでももう大分到着したんじゃないかしら。見て」イザベラがホールの扉を指さした。
見覚えのある顔が何人も入ってくるところだった。まだ入ってきたばかりなのによく気づくなあ。イザベラの方に視線を戻した。
「君はいつ頃着いたの?」イーサンが聞いた。
「私はあなた達が着く少し前に着いたわ。家が遠いから早めに来たの」
「そう言えば君はどこ出身なんだい?」
「私?そういえば言ってなかったわね。トライベッカよ。行った事ある?」
「いやないな。俺達まだ外出とかあまりしたことないし」
「あらそうなの?まぁいいところよ。また二人で遊びにきてね」
二人の会話を聞いていると、隣の女の子が僕達の会話に入りたそうに顔を交互に向けている。
「イザベラ。その子は友達?」僕はイザベラに聞いた。
「あらごめんなさい。私ったら。こちらリリーよ。さっきお友達になったの」
「リリー・キャンベルです。どうぞよろしく」
女の子は立って握手を求めてきた。この子も可愛らしい。栗毛に茶色の目が印象的だ。
「俺はイーサン・スミスだ。よろしく」そう言って握手するとイーサンは座った。
「僕はジャスティン・ウォーカー。よろしく」
僕が握手しようとすると、リリーは驚いた表情で握手してきた。
「あなたがジャスティン?あなたの事、能力判定の時にすごく噂になってたわ」
そう言うとリリーは座った。僕はあっけに取られて少し立ったままでイーサンに「座れよ」と言われて座った。
「噂になったって?何が?」僕は慌てて聞いた。
「お前って鈍感だよな。あれだけ珍しい能力な上に能力が6つもあれば当然だろう」イーサンが呆れた顔で言った。
「えっ。まあ珍しい能力なのはイーサンから聞いたけどそんなに?」僕は三人を見回しながら聞いた。
「ジャスティンあなた能力のこと全然知らないの?」イザベラが言った。
「私でも知ってるわよ?」リリーが言った。
「こいつはバカなんだ」イーサンが笑いながら言った。
「そんなことないよ。確かに頭は良くない方だけど」僕は少し落ち込みながら細々と言った。
「すまん。冗談だよ。バカというより能力に目覚めたのが最近であまり能力について知らないんだよ」
「そうなの。それじゃあ仕方ないのかもね。私だってそんなに詳しくは知らないし」リリーが言った。
「そうねえ。私が知っている事を教えるわね。ジャスティンの風を操る能力が珍しいのは風が四大元素の一つだからなの」イザベラが言った。
「四大元素?そういえばイーサンも言ってたような」
「そうよ。四大元素っていうのは火、水、土、空気の事よ。昔から世の中の物質はこの四つでできていると言われていたの。これは、私達の能力についても言えることなの。私達の能力は、私達人間が持つそれぞれの性質、まあ性格とかを基にして決められるの。その性質も、この四つの元素の持つ性質に分けられると考えられているの。だから寮もそれぞれ四元素を表していて、能力によって分けられたの。
寮の名前は西洋の四精霊の名前から取っているわ。そして象徴するシンボルは四聖獣よ。
私達の反対側のテーブルは、サラマンデル。あの竜は赤竜。火の象徴。
隣のテーブルは、ウィンディーネ。あの亀は玄武。水の象徴。
私達の隣はノーム。あれは麒麟。土の象徴。そして私達のこの鳥は鳳凰。風の象徴よ。だから当然あなたはこのシルフの寮よ。
イーサンの能力も物体の周りの重力を操っているからこの寮よ。ここまでいえば分かると思うけど、だからこそ、この四元素を直接操る能力はすごく珍しいの。新世界になってから発見されたのは火の使い手とあなただけよ。過去をさかのぼるとどうやら昔にもこの四つを操る人達はある一定の周期で現れていたみたい。でも同じ時代に一つの元素を使えるのは必ず一人よ。分かった?」
僕達三人はあっけにとられていた。話終わったのに気づいたのも少し後だった。イーサンですらも理解するのに時間がかかっているようだ。僕なんか話の半分もよく分かっていない。
「よくそれだけのことを知っているな。両親が詳しいのか?」イーサンが聞いた。
「あら違うわ。『能力訓練の歴史』を読んだの。それに『新・旧世界の歴史』も。この学校の事も書いていたわ」
「あの新しい教科書?イザベラって本当にすごいね。僕なんかあんな本読み始めたらすぐ眠くなっちゃう」
僕は本当に感心してしまった。イザベラは照れくさそうだ。
「私も全然知らなかったわ。とにかくイザベラがいればテストも助かるわね」リリーが嬉しそうに言った。
イーサンは少し面白くなさそうな顔をしていた。
「見ろよ。先生が集まってきたぜ。もうそろそろ始まるんじゃないか」イーサンが前を指さして言った。
周りを見ると生徒のテーブルはほとんど埋まっていた。上座のテーブルにはもう先生達が全員座っている。気のせいだろうか。僕がハワード先生の方を見ると目をそらされたような。それに何人かの先生は僕の方を向いてこそこそ話している気がする。能力のせいかな。先生達ほどの人でもやっぱり珍しいのだろうか。来賓席の真ん中で大きな金色の椅子に一人の男性が座っていた。背がとても高そうだ。長い髪や髭が印象的で、白髪まじりだ。淡いブルーの目はきらきらしていて、小さな丸眼鏡をかけている。ゆったりとしたマントを羽織っている。しばらくすると男性は立ち上がった。
「ようこそ!新入生の諸君!おめでとう!私が本校の校長のグレゴリー・ブラウンじゃ。それではこれより入学式を始めましょうぞ」
ちょうどその時大広間の扉が開き二人の男人達が入ってきた。とてもそっくりな二人だ。
「どうやら俺達遅刻みたいだな弟よ。いやしかしなぜみんな俺達を見る」
「まあ俺達は有名だからね。でもこの視線は眩しすぎるな」
「オッホン」厳格そうな女性の先生が咳払いをした。
「リアム、ノアまたあなた達ですか。早く席に付きなさい」
「了解しました先生」二人は揃って返事をして、僕達の寮の席に着いた。
「校長先生続きをどうぞ」女性がそう言うと校長先生は面白そうな顔で眺めるのを止めて話し始めた。
「さてそれでは仕切り直そうかの。今から入学式を始めますぞ。サラマンドルの寮から順に新入生の名前を呼びますぞ。呼ばれた者は順に前に出てくるように」
さっきの厳格そうな女性が小さなテーブルと機械を真ん中に置いた。
「リミッターに寮の情報を読み込ませますぞ。それと皆に顔を見てもらわねばのう。それではデイビス」
「アンナ・ガルシア」デイビス副校長が一人の生徒の名前を呼んだ。
一人の小さな女の子が前に出てきた。とても緊張しているみたいだ。真ん中まで来ると僕達に向かって深々とお辞儀をして、先生達の方を向いた。
「手を前に」
そう言われて女の子は手を機械の上に置いた。「アップロード完了」と聞こえた。
「ようこそサラマンデルへ」
サラマンデルの寮から声が聞こえた。するとみんなが拍手した。女の子は笑顔で戻っていった。次々と名前が呼ばれみんな前に進み出ていった。そしてやっとシルフの寮の番になった。イーサンは最初に呼ばれた。堂々とみんなの前で挨拶した。イザベルもとても優雅に振る舞い、緊張している様子を見せなかった。どうしようすごく緊張してきた。そして―
「ジャスティン・ウォーカー」
僕が進み出ると突然広間中が静かになった。少しするとささやき声が静かな波のように聞こえてきた。
「ジャスティンって例の噂の子か?」
急に緊張が高まって段差でつまづいてしまった。早く終わって欲しい。みんなを見ないようにしてお辞儀して先生たちの方を向いて、急いでリミッターを前に差し出した。「アップロード完了」そう聞こえると、校長が「おめでとう」と言うのが聞こえた。そして―
「ジャスティンを取ったぞ!これは今年は優勝をいただきだぜ!」さっきの双子が立ち上がって叫んだ。
するとシルフのテーブルから歓声と拍手が急にボリュームをあげたラジオのように聞こえてきた。一気に緊張は溶けて、笑顔でテーブルに戻った。続けてシルフの新入生が呼ばれ続けた。最後はリリーだった。リリーの番が終わると全テーブルから歓声が沸き起こった。そして新入生以外の上級生がみんなで合唱し始めた。素敵な歌声だった。部屋全体が歌詞に合わせて色々な風景を映し出し、ホールにいるなんて信じられなかった。歌が終わると上級生達は席に着いた。そしてふたたび校長先生が立ち上がった。
「改めて入学おめでとう!これで諸君は本校の大事な生徒になったわけじゃ。みな仲良く協力し時には競いながら精進していくことを願いますぞ。リミッターをかざせば寮に入れるようになっておる。さてそれでは新学期を迎えるにあたりいくつか知らせておくのう。一年生に特に注意しておくが校内には立入禁止となっている場所が多々あるので、死にたくなければ決して入らぬよう。これは上級生にも何人かの生徒達に特に注意しておくのう」
校長はキラっとした目でさっきの双子を見た。
「冗談だよね?死ぬなんて」僕はびっくりしてイーサンに聞いた。
「まあよっぽど強力に守られてるんだろ」イーサンはそういうと校長の方を向いた。
「それと、毎年本校では各寮ごとに点数を競って寮の優勝を決めておる。寮の点数は、授業や功績によって先生から点けられる。それに学年終わりには、学年別で代表者四名づつの能力対決バトルを行う。その点数も加算される事になるので頑張ってのう。ではこれで歓迎会を終わりますぞ。明日からみんな頑張ってのう。今からちょうど昼食の時間かのう。各自朝食を食べたら解散とする」
さっきよりも大きな拍手が起こった。みんな待ちきれないばかりにテーブルの前で待っている。しばらくするといつの間にか豪勢な料理がところせましと並べられていた。僕も我慢できずに食べ始めた。すごくおいしい。叔母さんの料理も最高だけど、こんな味始めてだ。