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ジャスティン・ウォーカー  作者: けんじぃ
第1章 ジャスティン・ウォーカーと予言の書
7/32

入学前夜

能力判定の翌日。僕とイーサンはイーサンの部屋でテレビゲームをしていた。

「くっそ」イーサンが頭を抱えて悔しがっている。

「また僕の勝ちだね。ゲームだけは僕に勝てないよね」わざとイーサンの耳元で言った。

「ゲームだけな」イーサンはゲームのコントローラを放り投げた。

「もう一回やる?」

「いや、もう止めだ」

 そういうとテレビのスイッチが勝手に押されて消えた。イーサンはベットに倒れ込んだ。

「あーあ。暇だな。今日は雨でサッカーもできないし」イーサンは仰向けになって天井を見ている。

「そうだね」

「早く学校始まらないかな。学校が始まれば能力も使いたい放題なのに」

「でも先生達がいるからやりたい放題って訳にはいかないと思うけど?」

「まぁな。でも俺達の能力レベルが上がれば、先生達にばれないようにいろんな事ができるようになると思うぜ。例えばゲイリーを階段から突き落とすとか」イーサンが起き上がって嬉しそうに言った。

「冗談だよね?」

「まぁ。それはやりすぎだけどな。でも、俺の物体操作は相当役に立つはず。催眠に幻覚もいたずらにはもってこいだろ?お前には6つの能力がある訳だし。まぁ、レベルが上がれば色々できるようになると思うけどな」

「でも役に立ちそうなのは、風の操作と肉体活性ぐらいじゃないかな?リードって意味分からないし。どういう能力なのかイーサン分かる?」

「俺も能力についてそこまで詳しくは知らないしな。父さんもそこまで詳しく教えてくれないし。イザベラなら知ってたかもしれないな」

 イザベラの名前を聞いて僕の顔が一瞬赤くなった気がした。イーサンに気づかれてませんように。でもイーサンはそんな僕に気づいてにっこり笑った。

「これはこれは。ジャスティン君は思春期を迎えてらっしゃる。イザベラ・テイラー嬢に恋をしてしまっているようだ。一歩大人になったな。うらやましいよ、俺はまだお前に比べたら五歳の子供だ」

「そうじゃないってば」僕の顔がますます赤くなったのが分かった。

「あんな子のどこがいいんだか俺にはさっぱりだ」イーサンは本当に不思議そうな顔をして、またベットに横たわった。

「イーサンは、イザベラが自分より頭がいいから気に入らないんでしょ」僕は笑いながら言った。

「ふん。聞いてなかったのか?あの子は知識活性の能力も持っているんだ。サブアビリティでレベルは一でもそれが影響してるんだろ」

「あーなるほど。そうなんだ」

「まぁそれを考えると、俺は純粋に頭がいい訳だ」イーサンは自慢げに起き上って、ベッドに腰かけた。

「でも、まぁあの子は確かに可愛いし、頭もいいな。で、どうするんだ?」

「どうするって、何が?」僕は何のことか分からず聞き返した。

「イザベラの事に決まってるだろ?」イーサンはますますにやけた。

「どうもしないよ?」

「おい。恋する少年よ。それじゃいつまでたっても進まないぜ?学校に入ればイザベラは間違いなく男子の注目の的だ」イーサンが近づいてきた。

「だから、僕は別にそんなんじゃないんだって」

「まぁ、いいさ。それも今後のお楽しみだな」

 イーサンはそういうと何事もなかったかのように話を変えた。その後も僕達は色々話した。先生はどんな人だとうとか、授業はこんなんだとか。どれも勝手な想像だったけど、学校の事を考えるとどんどん時間が過ぎていった。

 それからの1ヶ月はいつも通り過ごした。サッカーにゲームにサッカーにバスケットにサッカー。イーサンにばれないように風を操れるのか試してみたけれど、あの時のようにはいかず、そよ風を吹かせる程度だった。そういえばあの額の熱さはなんだったのだろう。しばらくの間額に三角のようなアザができて、イーサンにばれないように前髪で隠すのに必死だった。そのアザももうない。

1ヶ月の間に制服と教科書も届いた。僕とイーサンは同じ寮生だった。僕達1年生の授業はほとんどが一緒らしい。「能力制御論 入門編」「精神(sprit)コントロール法」「護身術入門」」「旧・新世界の歴史」「念具と装具の効果的使用法」「薬学と調合 入門」「能力とその実践 A 入門編」「能力とその実践 B 入門編」の八冊だった。でも「能力とその実践 B 入門編」の教科書は僕しかなかった。イーサンはこの授業だけ能力別だろうって言ってた。じゃあ僕だけ1つ多いのか。嫌だなあ。勉強はイーサンと違って苦手だし。


 そして、ついに入学式の前日を迎えた。その日の夜。僕達はいつも通りリビングで夕食を食べている。

「いよいよ。明日は入学式だな」叔父さんが僕たちの方を見ながら話しかけてきた。

「はい。お父さん」イーサンが答えた。

「緊張してはないか?学校は楽しいところだから、たくさん楽しみなさい。ただし、お行儀よくな」

「分かりました。叔父さん」

「明日の準備はもうできたの?」叔母さんが夕食の片付けをしながら聞いてきた。

「僕はもう終わりました」イーサンはすぐさま答えた。

「ジャスティンは?」

「あと少しで終わります。叔母さん」

「よかったわ。明日は早いから。準備が終わったら早く寝なさいね」

「分かりました。じゃあごちそう様でした。おやすみなさい」

「僕もごちそう様でした。おやすみなさい」

 僕とイーサンは食器を片づけた後、二階へ上がっていった。

「まいったな。叔母さんにはああ言ったけどまだ全然終わってないんだ」部屋の前で僕はイーサンに話しかけた。

「ご愁傷様」イーサンは眠たそうに欠伸をしている。

「イーサンは本当に終わったの?」こんなに早くに終わるなんてすごい。

「もちろん。能力も少し使ったしな」

「えっ。ずるいなあ」

「ずるいもんか。俺の能力だ。それにまだ使える時間は短いから、ほとんど自分で準備しました。じゃあな、おやすみ。がんばれよ」

「待ってよ。少し手伝ってくれない?」

「うーん。少し考えさせてくれ。もちろんノーだ」

「そんな事言わずに頼むよ」

 僕は両手を合わせて頼み込んだ。今から用意してたらきっとすごく時間がかかる。

「自分の事は、自分できちんとしましょうってな」

 イーサンが自分の部屋に入ろうとした。

「待ってくれ。分かった。デュエルカードの好きなのをあげるから」

 イーサンが止まった。

「うーん。悩ましいところだが本当に眠たいんだ。まぁ二枚もらえるとすればこの眠気も覚めるかもしれないけどな」

「分かったよ。お願いします」

「仕方ない。大事な従弟の頼みだ。手伝ってやるよ。デュエルカード三枚な」

 仕方なさそうに部屋に入るのを止めてイーサンが僕の部屋に入ってきた。僕の部屋を見てイーサンが固まった。

「何だこれは?」

 部屋の中は、さっき服や本を引っ張り出したままだった。

「必要なものだけ、出しておいたんだ」

 イーサンは呆れた顔をしている。

「じゃあ、まぁこれをトランクに詰め込めば終わりだな。服だけたたんで、後は能力でトランクに入れれば終わりだな。二人ですれば早いはずだ」

「たたむ方を能力でできないの?」

「できない。さっきも言った通り能力を使える時間は限られているし、この量は無理だ。細かい作業になる程、時間はもっと短くなる」

「そうなんだ」

 イーサンは僕が不満そうに言うのを察した。

「文句があるのは俺の方だ。どうして出す時に片づけていかなかったんだ?」

「そういうの苦手でさ。さぁ始めよう」

 イーサンがまた文句を言い始める前に、僕は急いで洋服をたたみ始めた。イーサンもぶつぶつ文句を言いながらだが、洋服をたたみ始めた。そして、三十分後。

「やっと終わったよ。イーサンは?」

「こっちも終わりだ」イーサンは肩を叩きながら立ち上がった。

「ありがとうございます。じゃあ仕上げをどうぞお願いいたします」

「分かってるよ」

 イーサンは目を閉じた。数十秒後。イーサンが目を開けると、本や服が全部空中に浮いた。そして、一つずつトランクの中へ入っていった。最後の本が入ると、トランクが閉まり、カッチという音がして鍵が閉まった。

「わぉ。いつも思ってたんだけどさ、それってどうやってるの?」

「どうって?イーサンの風の操作と同じだろ?」

「実はまだ上手くコントロールできないんだ。サッカーの時は勝手に風が動いたんだ。あの後、試してはみたけど、軽く風が吹く程度でさ」

「うーん。そうだな。俺はイメージした後、念じてるかな。さっきはまず、トランクの中にものが入っていく様子を想像した後、それぞれの物に対して、具体的にこう動けって念じたんだ。でも俺も結構時間がかかるし疲れるけどな」

「そうなの?でも僕イメージとか苦手だしな」

「とにかくやってみろよ」

 言われるままに僕は目を閉じてみた。風が俺の周りを回るイメージ。うーん。風ってどんな感じかな。まあこんなんかな。そして、目を開けて風に(僕の周りを舞え)と念じた。すると弱い風が一瞬だけど、僕を囲むように周りに起こった。

「やった。ありがとうイーサン」

「まぁ。そんな感じだ。学校でもっと詳しく習うさ。じゃあ、おやすみ。また明日な」

「また明日ね」

 イーサンが出て行った。僕はベットに横になって、電気を消した。けど、頭の中は明日の事で一杯だ。この家を離れて暮らすなんて始めてだ。どうなるんだろう?僕の能力は6つある。どんな能力なんだろう?うまく使えるようになるかな。色々学校の事ばかり考えて寝つけなかった。しかし、気づいたら、眠ってしまっていた。


 翌日の朝。緊張と興奮で目が覚めた。目覚まし時計を見るとまだ五時半だった。もう一度眠ろうと目を閉じたが、眠れない。俺は仕方なく、起きてトランクの中を何度も確認した。忘れ物はないだろう。暇だから下でテレビでも見ようかな。階段を下りていく途中、リビングから声が聞こえてきた。

「あの子達大丈夫かしら」叔母さんの声だ。

「大丈夫だろう。学校には優秀なもの達が多い。それにあれは、ジャスティン達の事とは限らない」叔父さんもいるみたいだ。

「それもそうよね。それに未来は不確かなものだし」僕は階段にしゃがみこんで聞き耳を立てた。

「そうだ。特に能力者が関わる程未来は予測しにくい」

「大丈夫よね。あなた今日も遅くなるの?」

「あぁ。また奴らが騒ぎを起こしたようだ。政府の建物に侵入したようだが、あいつらのめあてのものはなかった。おかげで、今日も早朝出勤だ。子ども達の入学式に出たかったんだが…」

 叔母さんがキッチンに向かう音が聞こえて僕は自分の部屋に戻った。何の話だ。僕達の何の事だろう?それに叔父さんだ。僕達には興味ないように思っていたけど、入学式に出たかった?本当は子ども想いなのかな。でもじゃあなんでいつもそっけなく振るまうんだろう。ベットに入ってさっきの会話を思い出して、どういう意味なのか考えていた。

そしてー

「ジャスティン。早く起きて」

 叔母さんの声で目が覚めた。気づいたら僕はまた眠ってしまっていた。急いで、起きて下に降りて行った。イーサンはテレビを見ている。

「さぁ席について。それじゃ、食べましょう」

 食器の音が響く。

「今日もお父さんは仕事だから、入学式には私だけ行くわね」

「そんなにお父さんは忙しいんですか?今日ぐらい休めなかったんですか?」イーサンがフォークを置いて叔母さんの方を向いて聞いた。今回ばかりはイーサンも不満そうだ。

「詳しくは知らないけど、能力者の犯罪組織同士の抗争が各地で起こっているみたいなの。なんでもアース国からもこのアトモス国に犯罪組織が侵入したみたいなの。お父さんは支部長だから、仕事ばかりになるのも仕方ないの」

「犯罪組織の抗争?ニュースでも聞きませんけど。抗争ならニュースになってもおかしくないのに」

 イーサンがこんなに聞くのも珍しい。

「能力者は今のところ派手な事はしてはいないの。だから、対応に困っているの。裏では組織の抗争が起こっているのは確実だけど、犯人達の手がかりも証拠もなかなかつかめないの」

「・・・そうですか。なら仕方ないですね。お父さんは、大丈夫なんですか?」

「優秀な能力者がたくさんいるから、いずれ問題も解決するわ。それよりあなた達は今日から学校なんだから、そっちの事だけを考えなさい」

「そうですよね。分かりました」

「学校では-」

 叔母さんとイーサンの会話は続いていたけど僕は聞いてなかった。その間僕はずっと考えていた。叔父さん達の話していた内容が気になって仕方ない。「それにあれは、ジャスティン達の事とは限らない」あれって何なんだろう?

「ジャスティン?」叔母さんの声でふと我に返った。

「あっ、はいなんですか?」僕は上の空で答えた。

「どうかしたの?」叔母さんは心配そうに聞いてきた。

「いえ、まだ少し眠くて」

 僕はわざと欠伸をして見せた。叔母さんは疑わしい顔で見ている。

「そう。学校では健康管理に気を付けてね。風邪をひいたりしないようにね」

「分かりました。気を付けます」

 みんな朝食を食べ終わった。

「それじゃあ、忘れ物がないかきちんと確認してね。九時には出ますよ」

「分かりました」僕とイーサンは二階へ上がっていった。

「ジャスティン。何か考え事か?」

「いや、本当に眠かっただけだよ」

「そうか。ならいいけど。じゃあまた後でな」

 イーサンは部屋に戻っていった。とっさに嘘をついてしまった。イーサンに嘘をついたのは初めてだ。でも、まだ話の内容が何なのか分かってないし、何となく叔父さんが入学式に来たがっていた事も言わない方がいい気がした。

 九時になって僕達は大きいトランクを抱えながら出発した。今日は叔父さんが運転手付きで車を借りてくれたみたいだ。叔父さんはやっぱり偉い人なんだな。車に荷物を乗せて三十分ぐらいして学校についた。

 学校について叔母さんが受付すると僕達の荷物を預かってくれた。どうやら荷物を寮に運んでいてくれるようだ。それからまた外に出て叔母さんと別れの挨拶をした。

「それじゃあ二人とも頑張るのよ。体に気をつけてね」

 そう言うと叔母さんが僕たち二人にハグをしてきた。僕達は驚いたけどハグを返した。

「次の休暇にね。それじゃあ」

 そう言うと叔母さんは車に乗って帰っていった。叔母さんが見えなくなるまで僕達は手をふった。

「よし。じゃあ行くか」イーサンがまた学校に向かって歩きだした。イーサンは叔母さん達と離れて暮らすなんて全然平気なのかな。

「うん」

 イーサンについて行くとこの前の大ホールの前についた。大きな樫の木の扉だ。この先に僕らの新しい生活が待っている。

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