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ジャスティン・ウォーカー  作者: けんじぃ
第1章 ジャスティン・ウォーカーと予言の書
6/32

能力判定

誕生日の夜。お腹いっぱいに美味しい料理を食べてすぐに叔母さん達におやすみの挨拶をして部屋に向かった。ベッドに横になって不思議なコンパスを触りながら考えていた。


イーサンが言うにはこれも念具のようだ。大抵の念具や装具は旧世界の道具を少し改造したものらしい。だから少し旧世界の道具と違うことが特徴らしい。二つ針のコンパスなんて旧世界にはない。だいたいこの手の念具は、持ち主が条件を指定して動かすみたいだ。コンパスだから何かの方向を指すんだろうな。でも説明書もなかったし。僕にこのコンパスをくれたのは誰だろう?なんで僕に?僕のことを知っている人・・・父さん。ふと父さんのことが頭によぎった。けれど父さんは生きているかも分からない。今までずっと連絡もなかったのに急に送ってくるなんて変だ。それに父さんなら名前を書くはずだ。会いに来てくれてるはずだ。・・・でもだとしたら誰なんだろう。僕には友達以外にプレゼントをくれる人なんて思い浮かばない。念具や装具はとても高価だ。いったい誰が・・・


「早く起きろよ。今日は学校に行く日だって事忘れたのか」

 ふと目が覚めるともう朝だった。どうやら寝てしまったようだ。今日は珍しくイーサンが起こしに来た。

「分かってるよ」

「早く着替えて、降りてこいよ」

 イーサンが、一階へ急いで降りていく音が聞こえる。よっぽど嬉しいんだろうな。

「おはようございます」

 叔母さんが、朝食を並べているところだった。

「おはよう、ジャスティン」

 僕は席に着いた。叔父さんは今日もいない。

「叔父さんはどうしたんですか?」

「仕事よ。大丈夫よ、学校へは私が一緒にいきますから」

「そうなんですか」

「それじゃあ、食べましょう。いただきます」

「いただきます」

 食器の音がリビングに響く。けれど何だろう。今日は、少し明るい感じがする。

「そういえば、ジャスティン。何か考え事?能力判定試験の事なら能力が覚醒したんだから心配はないわ」

「・・・あっいえ。大丈夫です」

 不意に聞かれて驚いた。食事中の会話も珍しかった。でも、それ以上にまたプレゼントの送り主のことを考えていた。でも叔母さんのプレゼントを見た時の驚いた顔と言ったら。叔母さんの前であのコンパスの話は止めておこう。それにいくら考えても分からないし。

「そう・・・昨日は二人とも良く眠れた?」

 僕とイーサンは一瞬目を合わせてそらした。

「はい。お母さん」

「僕もよく眠れました」

「緊張していないみたいで良かったわ。能力判定と言っても形式的なものだから。それじゃ、ごちそう様。二人とも支度してらっしゃい」

「ごちそう様でした」

 俺とイーサンは、急いで二階へ上がった。部屋に入る前に、イーサンが聞いてきた。

「どうしたんだろうなお母さん。それにジャスティン何か、考え事か?昨日のコンパスか?」

「うーん。昨日も考えてたんだけど全然心当たりがなくて」

「まぁ考えても仕方ないさ。いいものもらったんだし、うまく使えよ」

「そうだね。使い方は分からないけどね」

「支度はできたの?」

 一階から、叔母さんが叫んでる。

「やばい。早く着替えるぞ」

 急いで、着替えて一階に降りた。叔母さんはもう玄関で待っていた。

「さぁ。行きましょう」

 三人で家を出て、歩き始めた。

「学校がそんなに遠くなくて良かったわ。能力訓練学校は、国ごとにまだ1つしかできてないから」

「そうなんですか?お母さん」

「そうよ。アトモスフィール能力訓練学校は、一番大きい学校として有名だけど、まだ創立してそんなに経っていないわ。二〇一二年から五年後に創設されたから。今の四年生から七年生は、それまでは仮訓練を定期的に受けて、創設時に途中入学してるわ」

「そうなんですか。けれど18歳以上の大学に行ってた人達はどうなったんですか?」

「そうねぇ。詳しくは分からないけれど、二〇一二年以来混乱期を迎えて能力や法律、職業、施設とかを整備するのに時間がかかったようね。今でもまだ問題は残っているけど。当時成人していた人達は急に能力に目覚めていろいろ大変だったわ。二〇一二年時点で成人だった人達は、能力の基礎的訓練とそれに応じた職に就かされたの。今では大分整理されて自由に職を選べるようになったみたいだけど。私は詳しくは知らないから。歴史も学校できちんと教わると思いますよ」

 二人の会話についていけないので一人で街を眺めながら歩いていた。まもなくしてペンシルバニア駅に着いた。能力者の中には能力を使って移動をする者もいるが、大多数の人が旧世界の電車や地下鉄を利用している。とは言っても改造されていて、旧世界のそれとは別物のようだ。

アトモス国の首都ヘーメルまでは20kmほど離れているのだが5分もしないうちにアトモスフィール駅に着いてしまった。

アトモス城が遠くに見える。そしてここからそう遠くは離れていない場所にもう一つ大きな建物が見える。

「あれが…」

「そうよ。あれがアトモスフィール能力訓練学校よ。さぁ行きましょう。」

「学校は確かこっちよ」叔母さんを先頭に歩いていく。

途中街の中を通った。街には、酒場や見たこともない念具や装備、外から見ていても飽きないようなお店が立ち並んでいた。

初めのうちは見るのに夢中で楽しかったけど、もうそろそろ疲れてきた。近くに見えた学校は案外遠かった。さらに五分くらい歩くと、学校の校門が見えてきた。

門のてっぺんには見たこともない生物が立っている。正門を通り過ぎると、圧倒された。まずこの広さに驚いた。これ全部が学校なんて。ここからでも全部は見えない。色んな形の大小様々の建物が立っている。すごく古い建物から新しい建物まで。色々な銅像が立っている。並木道に広場、公園にお店まである。ちょっとした街みたいだ。目の前には、壮大な建物が建っている。これが多分校舎だと思うけど。大きな扉の階段下には、大きな噴水がある。

「2012年以前の大学とそんなに変わっていないみたいね。規模は大違いだけど。さぁ行きましょう」

 僕たちは、周りを見るのに精一杯だった。

「早く着いてきなさい」

 イーサンに小突かれ、僕は叔母さんについて校舎にはいっていった。天井がものすごく高い。入口に入るとすぐに女性の人が話しかけてきた。

「入学生と保護者の方ですね。こちらで、受付をお願い致します」

「はい。分かりました」

 叔母さんが、何か書いているのを僕達は後ろで黙って見ていた。

「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」

 女性について僕達は歩き始めた。やけに長い。道も複雑で、迷いそうだった。校舎内の移動はイーサンと一緒にしなくちゃいけなさそうだ。

「こちらでお待ちください」

 女性は行ってしまった。叔母さんが扉を開けた。大広間にたくさんの子供達が椅子に座って、並んでいる。保護者達は、子ども達の後ろの方に座っている。

「じゃあ、また後でね」

 叔母さんはそういうと保護者の席の方へ行ってしまった。

「じゃあ、俺達もいくか。ジャスティン」

 イーサンと一緒に空いてる席を探した。見つけた。女の子の隣二席がちょうど空いている。

「ここいいかな?」

 僕はその女の子に聞いてみた。

「えっ?もちろんいいわよ」

 女の子がこっちを向いた。茶色の真っ直ぐな髪に、茶色の目。とても可愛い顔をしている。見た瞬間、僕は少し赤くなった。イーサンに気づかれてませんように。

「座らないの?」

「早く座れよ、ジャスティン」僕は女の子の隣に座った。

「私、イザベラ・テーラーよ。よろしく」女の子が手を出して握手をもとめてきた。

「僕は、ジャ、ジャスティン。・ウォーカー。よろしく」僕も手を出して握手した。汗かいてないかな。

「俺は、イーサン・スミスだ。ジャスティンとは従兄弟」

「そうなの?従兄弟の割に似てないのね。よろしくね」女の子はにっこり笑いかけた。とても可愛い。

 するとイーサンが小突いてきた。幸い女の子は前を見ていて気付かなかった。

「ねぇ。能力判定ってどんなことするのか知ってる?」女の子が聞いてきた。

「うーん。俺たちもよく知らないんだ。形式的なものとは聞いたけど」イーサンが答えた。

「そうなの。私はこの能力判定をもとにしてクラス分けされるとは聞いたんだけど」

「クラス分け?そうなんだ」僕は少しがっかりした。イーサンと同じクラスになれるのかな。それに・・・

「ところで二人の能力は何なの?」

「まずは、自分から言うべきじゃないか?」イーサンがいじわるそうに聞き返した。

「それもそうね。私は感覚活性で目覚めたわ」

「感覚活性ってどんな事ができるんだ?」

「今度はあなた達の番よ。能力は?」

「俺は、物質操作だ」イーサンが早々と答えた。

「僕は、風を少しだけ…操れる」僕は細々と答えた。なにしろあの事件以来1度も能力を使っていないからだ。

「そうなの?」

 イザベラはかなり驚いている。

「物体の操作も風の操作も、かなり珍しいわ。まぁ前例がない訳じゃないけど」

「そうなの?前例って?」僕が聞き返した。

「で。感覚活性ってなんだ?」イーサンが割り込んできた。

「ねぇあなたってせっかちって言われない?」

「言われたことないけどね」

「あっそう。そうね。人間には五感があるでしょ?視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚は知ってるわよね?感覚活性は、それらを活性化させるの。全体の感覚が、普通の人より上がるんだけど、五感の中の一つが特に上がるのが一般的ね。私の感覚が一番鋭いのは視覚よ」

「それってどんな役に立つんだ?」イーサンはからかったように聞いた。

「あら役に立つわよ。例えばそうね。あなたの歯の奥に今日食べたベーコンが残っているとかね」

 イーサンが口を隠して真っ赤になった。イザベラは、自慢げににっこりした。イーサンを口で負かす女の子なんて初めて見た。

「イザベラは、頭がいいんだね」

 僕がそういうと、イーサンが睨んだ。

「ありがとう。あらやっと今から説明が始まるみたいよ」

 イザベラが向いた方を見ると、広間の上座の中央に男性が上るところだった。歳は50代前半に見える。背が高く、黒髪で短髪。鼻の下と顎に髭が生えている。一見、優しいそうだけど、厳しそうにも見える。どこかで見たような気もする。けれど思い出せない。

「はじめまして。入学生のみなさん。副校長のデイビス・ハワードです」

「例の高レベルエスパーだ」イーサンが囁いた。

「早速ですが、今から制服の新調と能力判定試験を行います。呼ばれた順に、あちらの扉へ入って下さい。能力判定では、メインアビリティ及びサブアビリティの種類と、それらの能力のレベルを測定します。終わった方から、各自解散と致します」

「メインアビリティとサブアビリティって何だ?」イーサンがイザベラに尋ねた。

「私も知らない。能力が複数あるみたいな意味に聞こえるけど」

「ではアリシア・ケリーと・・・」

 名簿らしきものを見ながら、デイビス先生が五人の名前が呼んだ。呼ばれた五人が立って、扉の方へ向かった。みんなかなり緊張している。最後に黒い髪の長い女の子が入っていった。

 数分後、五人が出てきた。五人共普通だ。むしろ喜んでいるようにみえた。そして、それぞれの保護者と帰っていった。

「どうやら、大したことなかったようね」

「そうだね」

 僕はかなり安心した。

「イーサン・スミス、イザベラ・テーラー、・・・」

「じゃあまた後でな。ジャスティン」

 二人が、扉へ入っていった。数分後、二人が戻ってきた。

「気をつけろジャスティン。もの凄く痛いぞ」

「もうイーサンったら。ジャスティン、本当に大した事なかったわ。ほとんどじっとしてればいいだけだったわ」

「おい。ばらすなよ」イーサンがイザベラを睨みつけながら言った。

「そっか。ありがとう、イザベラ」

「ウィリアム・ジェンソン、・・・」

 その後も、次々と名前が呼ばれ、終わった後保護者と帰っていった。

「では、ジャスティン・・・ウォーカー、・・・」

 気のせいだろうか?今デイビス先生が俺の名前を見て、一瞬驚いたような気がした。

 僕は、席から立ち上がって他の四人と扉の方へ向かった。扉を開けると、そこは少し小さめの部屋だった。長テーブルが横に置かれ、見た事のない機械が五台と、五人の女性が機械を前に、僕達の方を見て椅子に座って待っていた。

「最後に入った人は、扉を閉めて下さい」

 一番左端の人が言った。最後に入ってきた子が扉を閉めた。

「では、先ほど呼ばれた順に、左から一人ずつ教官の前に立って下さい」

 僕は、一番左端の女性の教官の前に行き、できるだけ背筋を伸ばして立った。

「ジャスティン・ウォーカーで間違いないですか?」

「はい」

 他の子達も名前を確認されている。

「よろしい。ではそのまま少し立っていてください」

 何が起こるんだ?目の前の教官の目つきが、鋭くなった気がした。そして、上から下へ僕を見た後、手元の紙に何か書いている。小さい声でつぶやいてるのが聞こえた。

「バストは、・・・ね。ウエストは・・・、肩幅は、・・・、腕周りと腕の丈は左が・・・右が・・・、足は丈は左が・・・右が・・・」

 なるほど、能力で制服のサイズを見ているのか。

「では、今からリミッターを外します。能力管理局の許可は取ってあります。左腕のリミッターを出して下さい」

 僕は左腕を教官の方へ出した。教官は小さな鍵を取り出した。

「製造番号は、・・・で合ってるわね。」

 僕のリミッターのバンドに書いている番号を鍵の番号と確認しているみたいだ。鍵を差し込んで回すと、バンドが外れた。

「では、手をこの機械の上に置いて」

 少しすると機械の向こう側から紙が出始めた。

「ふむ。メインアビリティ 種別 Aタイプ。能力 風の操作。これは。すごく珍しい能力だわ。能力レベルは四。かなり高いわね。さてと続いて、補助能力はと、・・・」

 教官が読むのを止めた。かなり驚いている。紙が続けて出てくる。しばらくして、紙が止まった。教官は、それを食い入るように何度も見返している。

 他の教官も集まってきた。何やら騒いでいる。なにかあったのかな。みんながいる前ではどうか止めて。

「信じられない。ジャスティン・ウォーカー、君にはサブアビリティがいくつも存在している。」

 そもそもサブアビリティが何か分かっていない僕は訳が分からなかった。すると、男の教官が続けて言った。

「君にはメインアビリティの風の他に5つの能力があるということだ。種別 Aタイプ、能力は、風の操作、テレパス、リード。続いて、種別 Bタイプ、能力は、肉体活性(脚力特化)、感覚活性(触覚特化)、治癒活性。レベルは風以外は全て1。」

 リミッターをはめた後、僕達は教室を出た。周りの四人はじろじろ僕を見る。僕達が戻ったのを見て、デイビス先生がまた名前を呼び始めた。僕はイーサンの元へ急いで向かった。

「どうだった、ジャスティン。ずいぶんかかったみたいだな。体のサイズでも測れなかったのか?俺は割と高レベルだったぜ。俺のメインアビリティはまぁ物体操作だな。レベル4だってよ。サブアビリティは、催眠と幻覚らしい。催眠も幻覚も珍しいんだって。レベルは当然1だな。サブアビリティは、始めは全員1らしいな。だから、気づかないくらいの能力なんだな。イザベラは?」

「私は当然、メインアビリティが感覚活性(視覚特化)のレベル3。サブアビリティが、肉体活性(機敏性特化)、知力活性ね」

「お前はどうだったんだ?」

 口を開きかけると、叔母さんが近づいてきた。

「終わったのね。こんにちわ。イーサン、こちらのお嬢さんは?」

「あっ。こちらイザベラ・テーラーです。お友達です。イザベラ、僕のお母さん」

 急に口調が変わった事にイザベラは気づいたみたいだ。しかし、素早く対応した。

「こんにちわスミス夫人。これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね、イザベラ。どうしたのジャスティン」

「たった今、能力判定についてジャスティンに聞こうとしていたんです」

「どうだったの?ジャスティン」叔母さんも聞いてきた。

 僕は、一息おいて、一部始終を話しはじめた。聞き終わると、みんなかなり驚いていた。

「わぁ。ジャスティン、それって本当に本当に珍しいわ。今までに例がないと思うわ」イザベラはすごく嬉しそうに言った。

「すげぇ。あっ、凄いなジャスティン」その後、小声でイーサンが僕だけに言った。

「勉強も一杯だけどな。けど能力をものにすれば、俺達やりたい放題だぜ」

 イーサンが言った後、僕はにやけてしまった。イーサンは叔母さんに話しかけた。

「お母さん、終わったことだし帰りましょう」

「えっ?そうね、そうしましょう。じゃあまたねイザベラ」叔母さんはイザベラに挨拶した。

「またね。イザベラ」僕とイーサンはイザベラに言った。

「またね」イザベラはお母さんのところへ向かっていった。

 ジャスティンとイーサンは、はしゃぎながら帰っている。そんな二人の後ろ姿を、いやジャスティンを、スミス夫人は不思議な表情で見つめていた。


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