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ジャスティン・ウォーカー  作者: けんじぃ
第1章 ジャスティン・ウォーカーと予言の書
3/32

アトモスフィール

西暦二〇二〇年六月十二日。アトモス国現在。

 マレーヒル三十四番通り四番地の住人スミス一家は、周りの住民達から見ると、これ以上ないくらい完璧な家族だった。

 スミス氏の職業は、対能力犯罪の支部長である。筋肉隆々の体つきで端整な顔立ちに、頬には大きな切り傷がある。スーツ姿がいかにも逞しい夫らしい。スミス婦人は、細身でとても美しかった。結婚前には、モデルをしていて、子供を生んだ後も完璧とも言えるスタイルを維持していた。子供の躾まで完璧。息子のイーサン・スミスは、現在十一歳。髪の色は黒くクシャクシャな癖毛。ハシバミ色の目に端整な顔立ちで、近所でも評判の優等生である。スミス一家は、スミス夫人の妹であるエレナ・ウォーカーの息子を預かって育てていた。


 ジャスティン・ウォーカーは十歳。もうすぐイーサンと同じ十一歳になる。透き通るような緑色の瞳が印象的で、髪はブロンドで短髪。額にはニキビができはじめたようである。この年頃の子供にしては、背は低い方で痩せている。スミス家の二階のある寝室のベットで眠っていると、いつも通りドアを叩く音と同時に、礼儀正しい声が聞こえてきた。

「もう七時ですよ。早く起きて、着替えてきなさい」

「はい。叔母さん」

 返事をしながら、ジャスティンは今見た夢を思い出していた。時々見るこの夢。僕はまだ赤ん坊で、ベビーベットに寝ている。誰かが僕の顔を覗き込む。・・・その後がいつも思い出せない。

「いっった」

 着替えてドアを開けると同時に、何かが顔面に飛んできた。足下を見るとテニスボールがあった。

「よぅ、寝坊助。今日もなさけない顔だな。目は覚めたか?」

 イーサンは、満足そうな顔をしてテニスボールを再び宙に浮かして遊んでいた。

「おかげ様でね。この借りは返すからね」

「それは楽しみだ。今まで俺への仕返しが何回失敗に終わった事か。今や、お前の能力が現れる確率より低くなってるぞ」

 ニヤニヤしながら、イーサンはさっさと一階に降りて行った。

「ジャスティン。早く降りてきなさい」

 僕は、小声でぶつぶつ文句を言いながら、降りていった。

 いつも通りリビングには、新聞を片手にコーヒーを飲むスミスおじさん。イーサンは座って何か難しそうな本を読み始めている。

「おはようございます。叔父さん」

「おはよう、ジャスティン」

 いつもどおりの素気ない返事だ。叔母さんは朝食を並べている。

「ジャスティン、さぁ座って」

「はい叔母さん」

 朝食が食卓に並びんだ。叔母さんも席に着いた。

「いただきます」

 いつも通り。食器の音だけがリビングに響く。

 カチャカチャ。

 僕は、三歳からこの家族の一員だ。僕はスミス夫妻に感謝している。事故で両親を亡くした僕を、息子のイーサンと同等に育ててくれたのだから。いつも豪勢な食事。不自由ない生活。でも本音を言えば、正直寂しかった。近所の子供は、親に叱られたり、騒がしい毎日を送っている。スミス氏家の会話はどこか寂しい感じがする。何となくだけれど。叔母さんは厳しいけど、常に丁寧で礼儀正しい。叔父さんはほとんど仕事だ。唯一よかった事はイーサンだ。イーサンは、親のために、親の前でも近所でも優等生を演じている。でも、実際は違う。本当は明るくて、口が達者で、イタズラ好きだ。イーサンは従兄弟だけど、本当の兄弟のようで、親友だ。そんなイーサンにスミス夫妻は気づくことがない。イーサンは何も気にしてはいないようだ。でも、僕は少しこの家族に違和感を感じていた。

「そういえばあなた。学校からの入学案内が届くの今日じゃなかったかしら。」

「確かそうだったかもな。」

「イーサン、郵便を取ってきてちょうだい。」

「はい、お母さん」

 イーサンは、すぐさま郵便を取りに行った。

「はいこれ。父さん宛の分だよ。学校からの入学案内も届いてたみたいだよ。こっちはジャスティンの分だ」

 僕はイーサンから手紙を受け取って、差出面を読んだ。白い封筒にエメラルド色のインクで宛名が書かれてあった。



 アトモス国

 マレーヒル三十四番通り四番地


  ジャスティン・ウォーカー様



 封筒の裏は十字架と剣がクロスされた絵の紋章入りの蝋で封がしてある。中は一枚の紙が入っている。さっそく読み上げた。



 アトモスフィール学校  

        校長 グレゴリー・ブラウン


 拝啓 親愛なるウォーカー殿


 この度、アトモスフィール学校への入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。

 八月一日に、制服の新調及び能力判定を本校にて午前九時より行います。教科書は、一年生の能力判定後、必要教科の教科書を配布致します。

 寮費、学費、教材費、制服代の詳細と振込先を後ほど保護者の方へお送り致します。保護者の方に必ずお伝え下さい。

 入学式は、九月一日十時に開式となります。新学期は、翌日に始まります。六月一日に始まる夏休みまでは、寮で暮らす事となります。

 貴殿の入学を心よりお待ちしております。


  敬具


        副校長 デイビス・ハワード


「八月一日か。お父さん。校長と副校長は、どんな先生ですか?」

「・・・ん?そうだな。校長とは、古い友人だ。とても人望が厚い方だ。副校長は、高レベルのエスパーとは聞いた事があるが、まだ会った事はないな」

「そうなんですか。高レベルのエスパーはかなり珍しいんですよね。国が認知している十賢者とかを含めてもレベル6以上のエスパーは世界に二割くらいしかいないって言われてるし。副校長に教えてもらいたいな」

「まぁ、どの先生も素晴らしい先生だろうから、頑張る事だ。私達と違ってお前達は、能力を訓練する事で能力値もあがるからな。ん?ジャスティンどうした?」

「一年生の能力判定後・・・」

 僕はその言葉に釘付けになっていた。

 イーサンは笑いそうになるのをばれないよう必死だ。スミス夫妻は全く気づかない。

「ジャスティン、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。誰にでも必ず能力はある。さっきも言ったが、お前達の能力はある程度鍛える事が可能だ」

「・・・はい。ありがとうございます。叔父さん」

「いかんこんな時間だ。行かなくては」

「もうですか?」

 叔母さんが、慌てて鞄と上着を用意した。

「最近の能力者による犯罪は増える一方でね。何とか他の支部と協力しながら、抑えてる状態だから、私の担当地区が平和な日でも、休める日がなくてね。行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 叔父さんを見送った後、僕とイーサンは二階に上がり、叔母さんは後片付けを始めた。

「能力判定だってな。そういえばジャスティンはどんな能力が使えたんだっけ。七年以上一緒にいても見たことないような」

「うるさい」

 テニスボールを投げつけたが、イーサンの顔面の前でボールは止まって、落ちた。

「まぁ、何か能力はあるさ。今の時代、能力のない人なんて聞いたことないしな。もし、いたらある意味凄いぜ。世界初かもな。楽しみだな」

 またボールを投げる前に、イーサンはニヤニヤしながら、部屋に入ってドアを閉めた。

 確かにイーサンの言うとおりだ。僕は何の能力も出た試しがない。多少物が揺れたりした気もするが、たぶんそう見えただけだ。本当少しだし。

 そういえば、叔父さんと、叔母さんの能力も見たことがない。きっと戦闘向きの能力か、そんなに日常に必要のない能力だろう。僕の能力はいったいいつになったら現れるんだ?もうすぐ十一歳なのに。

 ずっと待ちに待っていた入学がこんなに恐ろしくなるとは思ってもいなかった。


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