黄昏の過去、闇の事件1
葛城楓の過去の一片に、何を思うか。
ps
本当、ここが作者想定外で追加されたシナリオ。今後の話に影響はないだろうが伏線豊富な回。
一章 04 黄昏の過去、闇の事件
『早く離脱して!』
緊急警報が幾度も幾度も鳴り響く空間。職員が怒声で指示を飛ばす。桜井もその中に入り、最前線で指示をしていた。
「楓ちゃん、すぐに彼女を—」
『わかってる!』
怒声に怒声を返す葛城。眼前には敵影、複数。周囲は爆音や黒煙で視界が悪い。隊員がそこいらで倒れて、呻き、死んでいる。死体の山が折り重なる場所もあった。自身もボロボロになりながら、剣を握る。ぬるりと血が手に広がるが、どうとも思えない。早く、あいつの元に....彼女の元に行かなくてはならない。
「《どけろ》!」
葛城は殺気だった勢いで呪文を叫ぶ。連続起動と同時起動を一斉に行い敵影の方に向け全力で攻撃を仕掛けた。
敵影は、逃げることも臆することもなくただ一言、ゆっくりと言い放った。
「《嫌だ》」
刹那—視界が白へ暗転した。視界も音も、何もわからない。聞こえない。何事かと思う前に、突如襲ってきたものに意識を飛ばされた。
轟、と地響きが爆音で鳴った。上空でリアルタイムで出力していたドローンが爆風と炎熱により通信不能に至った。爆風が周囲一帯に響く。
「葛城君!?」
防衛省本部では、怒声と警報が鳴り止まないまま作業に追われていた。桜井は中央モニターに映し出された光景を見て唖然とした。
「嘘...だろ?」
桜井の前方にいたオペレーター、如月は唖然とし、声が漏れる。瞬間、右往左往していた職員が全員止まり、映像に息を飲んだ。
モニターに映し出されていたのは、地獄であった。
意識が白の虚無から色のある現実へと引き戻され、意識がはっきりとした。
「—うっ」
ゆっくりと目を開けた。爆煙と熱が、頬に舐めるように行き、事態の重大さが感じられた。気がつくと、地面と顔が接触していた。葛城は立ってはいなかった。倒れていたのだ。
「........」
現状を把握しようと立ち上がろうとしたら、力が入らない。右も左も、両方共何があったのか知らないが、感覚がない。それでも、どうにか起き上がろうと試みて、若干起き上がった。地面と密着してた顔が少しずつ離れ腕の支えも借りある程度起き上がった時—
「.........ごふっ」
不意に咳き込むと同時、何か生温いものが喉を逆流しそのまま吐き出された。吐き出されたものを見て目を見開いて驚いた。それは血であった。臓器でもやられているのか、吐く血が止まらない。とめどもなく流れ、先まで密着してた地面に血溜まりが作られた。びしゃびしゃと音を立て、流れ、溜まる。
吐き終わった頃には、驚きも痛みも大したことがなかった。
「..........誰か、いないか?」
口から吹き出る血をぬぐいつつ、葛城は叫ぶ。頭からも出血しているのか、視界がさらに悪い。爆煙に土煙、所によって黒煙が広がる。まさしく戦場、地獄だ。
「誰か!!返事しろ......ごふっ」
未だ返答もなく、葛城の叫び声が虚しく響く。叫ぶと同時、そうさせないという意思でも働いているのか、再び喀血....なんてレベルじゃない程血を吐いた。滝のように流れ吐かれる。
今度は血だけでなく、肉片かと思われる固形物も吐いた。
(おいおい、いくら死にかけだからって...)
弱りすぎていた。内臓の大半がやられたか、と思い考えていた。
純白のコートも、赤黒い血で染まり死神を思わせるものになっていた。
何かないかと体を探った時、グチャ.....と何かに触れた。それは、懐に手を突っ込んだ時であった。恐る恐る手を引き抜き、平を見た。赤黒い血がべったりと付いていた。
自身の内臓に、触れたのだ。左脇腹付近。もう一度、触れてみる。やはり生ぬるくズシリとしたものが手中に感じられた。さらには肋骨かと思われる固いものも触れることができた。
(おいおいおいおい.....)
「......」
もはや、内臓が露出してようと、痛みを感じない程に体を壊していた。周囲を見回し吹っ飛んでいた剣を拾い、杖として使い歩く。
一歩ずつ、軋み震える足で歩く。歩く度に血が滴る。大丈夫なのだろうか。否、本気で大丈夫ではない。歩くたびに意識が飛びそうになっている。
「........っ!?」
歩いて數十分。葛城の足が不意に止まった。目を見開き、前方を凝視した。
誰か、倒れていた、コートが半分程血に染まり咲いていた。女性なのか、髪が解かれて、風になびいていた。
「森山!?」
途端、葛城は走り出した。死にも似た激痛が体を襲うがそんなことはどうでもよかった。ただ、目の前の彼女を救うが為に走った。が、損傷激しく、葛城は走り出してすぐ倒れた。ドスッと受け身を取る暇なく倒れ、損傷していた体に響く。
「も....りや....ま.....」
薄れる意識をどうにか保ち、匍匐前進のように手で胴体を引っ張るようにして前進した。
どうにか体を引きづりつつ、彼女の元へ辿り着いた。女性はうつ伏せで倒れていた。一切動いた気配がないのか、微動だにしない。
「もり.....やま.....。」
持てる力全てを使い、彼女を腕に抱いた。
「森山.....。」
顔に張り付いていた前髪を除け、顔がよく見えるようにした。口から出血したのか、口元から血が流れていた。
「.....森山。」
優しく、語りかけるように葛城は声をかけた。
だが、応答はない。心なしか、冷たい気もする。
「.....もりやま......」
ポタポタと、何かが落ちた。血と涙であった。彼女の頬に垂れ落ち、重力に従い流れ落ちた。
「うっ....ううっ.....」
腕の中で、なすすべなく逝ってしまった彼女を抱きしめ、自分の愚かさを呪い。
—うあああああああああ!!
瞬間、葛城の悲痛の叫びが、周囲の生存していた隊員に刻まれるように響いた。
「......」
室内の無線から聞こえる叫びに、桜井は俯いていた。右手で耳につけていた無線機を外し、その場で大きく振りかぶり、床に叩きつけた。
「っ......。」
周囲の職員は、その光景にただただ黙って見ていただけだった。そうする他になかった。叩きつけられた無線機は木っ端微塵に壊れ、周囲に散らばっていた。
桜井が振り下ろした右の拳は強く、血が滲み出るほど硬く握られていた。
「....葛城君......。梓........。」
悔いても悔いても、悔やみきれない。私の責任なのだ、全て。
「今更、謝っても遅いわよね.....。」
自嘲するかのように呟いた桜井。いつの間にか自室につき、明かりもつけず、暗室の中備え付けの椅子に座って俯いていた。
「ごめんね......梓.....。」
手元に、一枚の写真を持っていた。入り口から漏れる光だけを頼りにいた。
それは集合写真であった。写っていたのは、葛城楓、桜井咲夜そして—森山梓、この三名であった。いつの記念なのか知らないが、華やかな物をバックに写真が撮られていた。
「私の、せいで.....。」
もう遅い。泣いても、意味などない。
明日からは、作中1位2位を争うほど作者が好きな人物が登場。絶級の可愛さを誇る(自慢)だからよろしく。