森の中に
準備を進めて、俺と安希はその森の中に入っていった。
その時に、俺は入る場所の近くに生えてあった木に、長めのロープを括り付けて置くことにした。
そして、括り付けた後、少し強く引っ張りながら、森の探索に入った。
「うーん、暗いなぁ・・・」
「まぁ、木が長いからな、そりゃあ、暗くもなるだろうよ」
「うん、それもそうだね」
「しかし、本当にこの森の中に遺跡なんてあるのか?」
「あるよ! 絶対にあるって! 私の堪がそう言ってるからさ!」
その自信はどこから来るんだよ・・・
「ま、まぁ、そうだな・・・」
でも、何か触れるのは面倒そうだったので、俺は取りあえず賛同することでそれを回避した。
「・・・ねぇ、兄ちゃん、、その紐は?」
俺の方を振り向いたときに俺が紐を腕に軽く括っているのが見えたようで
安希は不思議そうに俺に尋ねてきた。
「あぁ、これは、道しるべだな、入り口付近の木に括り付けてきたんだよ」
「あ、そうか、だから来るのが遅かったんだね」
「そういうことだ」
てか、俺が木に紐を括っていたのにこいつは気が付いていなかったのか・・・
やっぱり、観察能力が足りてないな、こいつは。
「それで、何で道しるべなんて居るの?」
「迷うだろうが、かなり深い森の中なんだから」
「・・・あ、そ、そう言えばそうだね・・・遺跡のことで頭一杯だったから、そう言うの考えてなかったよ」
・・・安希を1人で行かせなくて本当に良かったと思った。
と言うか、そういう風に感じることは良くあったが、今回が1番かもな。
「まぁ、道しるべがあるなら大丈夫だね! さぁ、探そう!」
そして、反省する様子もなくすぐに遺跡の捜索に戻る辺り、好きなことしか目に入らないタイプだな。
やっぱ、こう言うタイプにはサポートが必須だろう。
その後、俺達は長い間捜索を行ない、明らかにこの森に不似合いな建物を発見した。
「も、もしかして! 遺跡!? 遺跡だよね!?」
「・・・多分な」
「やったぁ! 行こう!」
安希はその遺跡と思われる建物を見付けた直後にもの凄い勢いでその遺跡内に走って行った。
「ちょ! 馬鹿! 少しは警戒しろ!」
俺は焦って安希の後を追いかけ、一緒にその建物の中に入った・・・が
その建物の中には、特に目立った罠はなく、ただ、箱が置かれていただけだった。
「やったぁ! お宝だぁ!」
「・・・な、何もない・・・荷物以外に目立った石像とかもないし・・・どうなってる?」
遺跡ってなると、お宝レベルの道具と、それを守るための仕掛けたあるもんだろうが、ここにはない。
当然、この遺跡の隅々まで探してみたが、地下へ行く階段とかもない・・・
あるのはただ、箱だけで、一切の仕掛けがない・・・それはもう、逆に不安になるほどにな。
「やったぁ! お宝ゲット! さぁ、兄ちゃん! 帰ろうよ!」
「え? あ、あぁ・・・」
安希は宝箱の中から少し変わった本を取り出し、そう言って、遺跡から出ようとした。
俺も、安希の後を付いていき、一緒に遺跡から出た、その時に何か起こるのかと思ったのだが
そんな物も無く、すんなりとこの遺跡から出ることが出来た・・・
あると思っていた恐怖の仕掛けがなくって、拍子抜けするくらいにすんなりと脱出・・・
何だか、逆に怖いな・・・恐ろしい仕掛けをくぐり抜けて手に入れた宝なら
達成感に包まれていただろうが、何もなく、ただ、その宝を手に入れたとなると・・・逆に怖い。
もしかして、あの本は何か恐ろしい物だったりするのか? と、そんな事ばかり出てくる。
「・・・・・・」
「ん? 兄ちゃん、どしたの? 凄く真剣に悩んでさ」
「・・・いや、その、何でも無い・・・」
「ふーん」
安希にはこの不気味さは分からないのか・・・まぁ、その方が幸せかもな。
とりあえず、俺達は俺が引っ張っていた紐の案内に従って、入り口まで戻ってきた・・・
これまた、何もない・・・やっぱ、何もないって、何か怖いな・・・
「やったぁ! 出れたよぉ!」
「あぁ、そうだな」
「よし! それじゃあ、帰ろう!」
「え? これだけで良いのか?」
「うん!」
どうやら、安希はこの宝だけで満足したようで、俺達は家に帰ることにした。
当然、俺が書いた地図を見ながらだ、やっぱり、地図を書いていてよかったな。
そして、帰宅を始めた日の夜、安希には今日も先に寝て貰っておく事にした。
俺はその間、見張りをするわけだけど、どうしても、あの本が気になり、開いてみることにした。
安希がもしも開いて、変な物だった場合、安希が大変な目に遭うだろうしな。
「・・・・・・すぅ・・・はぁ・・・よ、よし」
俺は少し怯えながらもその本を開いてみた。
そこに書いてあったのは、どうにも読めそうにない字だった。
「・・・なんじゃこりゃ・・・」
「そうですね、旧時代の言葉ですよ」
俺が本を開き、その不気味な字を見ていると、後ろからいきなり女の人の声が聞えた。
俺は、その時、心臓が止まるかと思うくらいにビックリして、声も出なかった・・・
そして、冷静になって後ろを見てみると、そこに居たのは女神さんだった。
「・・・女神さん、しれっと後ろに居ないで欲しいんだけど・・・心臓止まるかと思った・・・」
「何でですか?」
「周りは暗いし、この本は不気味だし・・・そんな状況で後ろから不意打ちで話しかけられたらさ・・・」
「・・・この本、別に不気味な物じゃありませんよ? 魔物の観察日記のような物です」
「ま、魔物の観察日記?」
「はい、昔の人が魔物を観察した書物でしょう、魔物の事が細かく書いてありますし」
俺はこの本の言葉は分からないが・・・この本に魔物の事が細かく書いてあるのか・・・
そんな事をしていたんだな、古い時代の人間は。
「このペーシは魔物の弱点について書いてありますね」
「ふぅん・・・」
「速く次をめくってください!」
「あ、あぁ、分かった」
俺は女神様に言われたままにページをめくった。
と言うか・・・何で俺がめくってるんだ? 女神さんがめくれば良いのに・・・
「ほぇ・・・魔物はこうやって生まれるんですか・・・」
「・・・へ?」
「えっとですね、魔物は自然の中から産まれるそうなんですよ、そして、暴れちゃうんですね」
「な、なんで自然から生まれて暴れるんだ?」
「自然のもう一つの感情なんじゃないですかね? 盛大に暴れたいのは」
自然にも感情ってあるんだな。
「それで、ブルームーンの夜は自然がその月に恐怖して、大量に生まれて暴れ回るんですって」
「あれは自然が作った夜じゃないのか?」
「この星の自然が作ったわけじゃ無いんで、怖いんじゃないですかね」
自然にも恐怖の感情ってあるんだな。
「で、人間が多かったときに魔物が少なかった理由は、人間が多い方が安心出来てたからだそうです」
「・・・し、自然を食い物にする人間が居たのに?」
「はい、まぁ、争ってばっかりでしたから、人数もそんなに多くはありませんでしたし
だから、自然の物を過剰にとったりすることが無かったんじゃないですかね」
「・・・あ、争いが自然を守ってたと?」
「そうですね、その方が増えすぎず、減りすぎずって感じで、上手く均衡が取れてたんでしょうかね」
・・・その争いで何カ所もの自然が壊れたと思うが・・・そう言えば、穴ぼこって無いよな、ここは
もしかして、そこまで発展してなかったのか?
「いやぁ、それにしても、この本のお陰で、魔物が出てくる理由が分かりましたよ」
「・・・今まで分かってなかったんだ」
「はい、私達は魔物ってよく分かってませんでしたからね、これを知ってたら、お父様も
人間の文明を消滅させちゃうことは無かったかも知れません」
「・・・ま、まぁ、そうでしょうね」
まさかの意外な真実だったな。
「・・・しかし、あの遺跡、なんで何も無かったんだろうか・・・」
「それはですね、多分、あの森その物がトラップだったんだと思いますよ
普通なら迷うでしょうし、見付かりにくいですからね」
「あぁ、なるほど」
女神さんの説明で、何となく合点がいった、確かにあんな森の中に建物があるなんて
普通は思わないからな、自然が1番の隠れ家だったって訳か。
だから、あの遺跡にはトラップは必要なかったと。
全く、怖がって損したぜ。




