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琥珀姫  作者: 雲居瑞香
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24.それは本気なのか









 王都でも蔓延した疫病が終息し始めたころ、一つの朗報があった。今日も今日とて報告書を読んでいたハリラオス、サフィラ、ヴァイオスの元に、クリュティエとエレニがやってきたのである。ちなみに、サフィラの護衛であるリダは今、アルキスの隣でともに護衛についている。サフィラが政務にかかっている間、リダは別の仕事についていることが多い。なぜなら、最近サフィラの仕事中は、アルキスがともにいることが多いからだ。

 その話は置いておき、クリュティエがもたらした朗報である。


「実は、妊娠したみたいなんです」


 クリュティエのさらりとした言葉に、最初に反応したのはハリラオスではなく、サフィラだった。


「おお。この状況でいい知らせ。お兄様、忙しくてもやることはやってるのね」


 どうやらクリュティエの腹の子の父親はハリラオスと疑っていない様子。まあ、確実にそうだろうが。

 クリュティエはおっとりと微笑む。

「むしろ、お忙しいときにご迷惑かと思ったのですが……」

「そんなはずあるか! よくやった!」

 ハリラオスが机に掌をたたきつけるようにして立ち上がった。その振動で、連結した机に資料を置いていたヴァイオスが声をあげた。

「陛下! うれしいのはわかりますが、資料が崩れます!」

「……すまん」

 その様子を見てクリュティエが楽しそうに笑う。サフィラがクリュティエに椅子を勧める。さらにリダが毛布を差し出してエレニがそれをクリュティエの膝にかけた。気の利かない男たちはそれを見ているだけである。

「今何か月くらいなの?」

 サフィラが手元の資料を雑に片づけてクリュティエに尋ねた。ちょっと休憩するつもりのようだ。クリュティエがサフィラに微笑む。

「まだ一か月くらいでしょうか。疫病にかかったかと思って医師に診てもらったら、妊娠していると言われて」

「へえ。じゃあ、生まれるのは来年の秋ぐらい?」

「そうですね。ご迷惑をおかけします」

「迷惑だなんて、とんでもないわぁ」

 サフィラがにこにこして言った。まだ膨らんでいないクリュティエの腹部を見て「楽しみね」と言った。


「クリュティエも来たし、少し休憩するか」

「さんせーい」


 ハリラオスにサフィラがもろ手を挙げて同意した。彼女の仕事ぶりを見ていると、自分より一回りも年下とは思えないのだが、やはり、気が抜けた時はまだ少し子供らしさがある。そのことに、少し安心するアルキスだった。

「リダ。私、あったかいお茶ね。お義姉様は……お茶じゃない方がいいのかな」

 医療に関してある程度の知識があるサフィラであるが、あいにく、身近に妊娠・出産を経験したことがない。そのため、妊婦がお茶を飲んでも良いのかわからなかったのである。

「はい! 悪阻でも飲みやすいお茶を調合しましたので、それを。あ、姫様もどうですか? 妊婦さんじゃなくても、体が温まりますし」

 などと元気に言ったのはエレニだ。浮世離れしている彼女だが、薬に関する知識があるので、実はクリュティエが宮殿に上がってからかなり活躍している。宮殿ではどうしても毒殺騒ぎなどが起こる。ハリラオス治世になってからはかなり減ったが、ハリラオス自身も、そして国民に琥珀姫として親しまれるサフィラですら、毒殺されかかったことがあるのだ。


 そんな中、薬学の知識を持つエレニは大活躍である。毒見をする前に毒物の存在を当てることがほとんどなので、最近、サフィラは彼女には透視能力があるのではないかと思っているらしい。息抜きなのかわからないが、サフィラはアルキスにくだらない日常的な話をしてくることが多くなった。

 まあそんなわけで、エレニは王妃の側で何気に役に立っているのだ。浮世離れしていても割としっかり者らしく、王妃のスケジュール管理などもしているそうだ。このまま王妃の体調管理も仕事に入りそうな勢いである。

「じゃあ私もそれもらう」

 サフィラがそう言ったので、クリュティエとサフィラには同じものが出された。ハリラオスとヴァイオスにはいつもの茶が出される。

「クリュティエ。サフィラのおかげで疫病はさほど宮殿内には入ってきていないが、体調には気をつけろよ」

「はい。エレニが気を付けてくれるので、大丈夫そうです」

 と、国王夫妻が和やかに会話をしている横で、名前が挙がったサフィラとエレニは「これ、不思議な味がする」「まずいですか?」「むしろおいしいけど、何はいってるの?」「えっとぉ……」という若い女性二人とは思えない会話を繰り広げている。相変わらず書類に埋もれているヴァイオスはそんな二組を目を細めて微笑ましそうに眺めていた。


「……いいですねぇ。ほのぼのして」

「宰相。孫を見る目ですよ」


 思わずアルキスはツッコミを入れた。ヴァイオスは苦笑を浮かべ、「姫様に関しては孫くらいかもしれませんね」などと言った。いや、まったくありえないほどではないが、ちょっと引いた。いったのはアルキスだけど。


 休憩が終わった後も、クリュティエはしばらく仕事を見ていた。サフィラが足をぶらぶらさせながら仕事をしているのを見て、少し微笑んでいた。

「お仕事姿もかわいらしいですわね、姫様は」

「でしょう? 姫様は至宝です」

 たぶん、こんな性格だからクリュティエはハリラオスとあうんだろうな、と漠然と思った。ついでに同意したリダも相当姫様馬鹿である。


 そのままの成り行きでハリラオス、クリュティエ、サフィラの三人が一緒に食事をとった。ヴァイオスも誘われていたが、彼自身が断り、一度城下の屋敷に帰って行った。


「アールキース!」


 食堂から出てきたサフィラが、何故かアルキスに突撃し、その勢いのまま抱き着いてきた。受け止めながらもアルキスはツッコミを入れる。

「姫様。抱き着くならリダに」

「姫様、いつでも大歓迎です!」

 と、若干変態的なことを言うリダ。彼女とアルキスは、食堂前で警護をしていたのだ。サフィラは「えー」と唇を尖らせる。

「リダでもいいけど、やっぱり安定しているのはアルキスだし」

 まあ、サフィラが突撃してきたところで大したダメージもないのは確かだが。リダはショックを受けた表情になった。

「そんな……! あたしももっと鍛えれば!」

「婚約者が泣いちゃうわよ、それ以上鍛えたら」

 冷静にリダにツッコミを入れるサフィラだが、そんな彼女はアルキスの首にぶら下がっている。はっきり言うが、かなり間抜けだ。

「何をやってるんだ、何を!」

 ハリラオスがサフィラを抱え上げてアルキスから引き離した。兄に床におろされたサフィラは、ハリラオスを振り返って言った。


「お兄様。ちょっとだけアルキス貸して」


 クリュティエの手を取っているハリラオスはサフィラとアルキスを見比べ、「代わりにリダを借りていくぞ」と言った。つまり、許可が出たのだろう。

「やった! お兄様大好き! お姉様、おやすみなさい。体調には気を付けてね」

「みなさんそればかりですわね。大丈夫ですよ」

 クリュティエが相変わらずニコニコと言った。クリュティエが手を伸ばして、よしよしとサフィラの頭を撫でた。ちなみに、背丈はクリュティエよりサフィラの方が高い。

「それでは姫様。おやすみなさい」

「おやすみなさーい」

 サフィラがぶんぶん手を振って兄夫婦を見送った。手を振りかえしたのはリダだけど。アルキスもその場にとどまり、三人を見送る。


「……お兄様とお義姉様が仲がいいのはいいんだけどさぁ」


 三人が見えなくなってからすぐ、サフィラが口を開いた。アルキスは視線だけ彼女の方に向ける。笑っていたはずの彼女は、気づけば真顔だった。


「やっぱり、取られたって感じがするんだよね。お義姉様に子供ができたら、なおさら。もうお兄様はお義姉様のものなんだなって」

「……陛下はエルピスの国民すべてのものですよ」


 一応、模範的な解答をしてみる。すると、サフィラはばしばしとアルキスの腰のあたりをたたいた。

「模範的な解答をしないでよ! つまんないわね!」

「こういうことに面白さを求めないでください」

 サフィラの手をつかみ、たたくのをやめさせながらアルキスは言った。サフィラは息を吐くと、くるりと身をひるがえして言った。

「ちょっと歩きましょう」

「いいですよ。でも、ちゃんと防寒はしていきましょうね」

 そのまま出て行きそうな勢いだったのでちゃんと指摘しておく。サフィラとアルキスが外套を着こみ、外に出ると、珍しくもちらちらと雪が降っていた。

「珍しいですね。積もらないでしょうけど」

「エルピスで雪が積もるなんて、私が小さいときに一度きりだわ」

 アルキスにとってはサフィラはまだ小さい気がするが、本人に言ったら怒りそうなので黙っておく。代わりに言った。

「私が小さいころにも雪が積もったんですよ。っていっても、二フィートも積もりませんでしたが。でも、子供心にうれしくて、遊びまわりましたよ。陛下……ハリラオス様と」

「……そうかぁ。アルキスはお兄様と幼馴染になるものね」

「もはや腐れ縁のレベルです」

 アルキスが至極真面目に答えると、サフィラが笑って「不敬罪ね」と言った。もちろん、冗談である。


「で、まじめな話なんだけど」

「……姫様、絶対それを言いますよね」


 思わず突っ込んでしまった。普段、どれだけふざけているのだ、という話だ。

「メデイアの予言、覚えてるでしょ」

「ええ。姫様が選ばないといけないんですよね」

 簡潔に言ったのだが、サフィラは「そうね」とうなずいた。

「あの言葉を直接聞いたのはアルキスだけだから聞くんだけど……」

「はい」

「あれ、本気だと思う?」

「は?」

 さすがに訳が分からず、アルキスはぽかんとした。サフィラは「だってさ」と眉をひそめる。

「私が二択で選ぶ、ってどういう状況なわけ? まだそんな状況着てないけど、私が気づいてないだけ?」

「……まあ、メデイアもあれから音沙汰ありませんからね」

 それで、どう思う、とサフィラ。そんなの、アルキスにもわからない。


 だが、その答えはそんな会話から二日後に出ることになる。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


すでにクライマックスですが、ゆるゆると行きます。


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