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琥珀姫  作者: 雲居瑞香
17/27

17.一日の終わりに











「サフィラ!」


 なんかほんとに来た! と思ったアルキスだが、叫んだハリラオスに対し、アルキスは人差し指を立てた。

「陛下、お静かに。姫様が眠ったところです」

「そ、そうか」

 ハリラオスが顔をひきつらせてアルキスを……というか、アルキスの膝枕で眠っている自分の妹を見た。シスコン国王としてはアルキスを責めたいだろうが、そうするとサフィラが起きてしまうので悶々としていると思われる。

「というか本当に来たのですか。クリュティエ様は?」

「……彼女に行って来いと言われたんだ」

 ハリラオスは息を吐いて、先ほどフィリスが座っていたところを同じ場所に腰かけた。そのフィリスがクリュティエと一緒にいるのだそうだ。


「それで、何があった」


 サフィラの髪をそっとなでながら、ハリラオスが尋ねた。その声音は真剣で、ハリラオスが本気であることがうかがえる。

「……私も一部を目撃しただけで、姫様から直接話を聞いたわけではありません。しかし、私が見た限り……暴行を働かれそうになっていたのだと」

「なん……っ」

 声を荒げようとしたハリラオスだが、サフィラが身じろいだのであわてて口元を押さえた。

「犯人の顔は見たか?」

「見ました。今回の式に呼ばれた貴族の子息だったと思います。あとで確認します」

「ああ。頼む」

 一度会話が途切れたところで、アルキスは息を吐き、ハリラオスに向かって頭を下げた。

「申し訳ありません」

「おま、突然どうした?」

 ハリラオスが引き気味に言った。引かれたアルキスは何故引く、と思いつつも答えた。


「私が姫様を一人にしてしまいました」


 いくらサフィラが大丈夫、と言ったとはいえ、一人にすべきではなかった。宮殿の中であり、比較的安全で、サフィラ自身もいつも一人でふらふらしているとはいえ、注意を怠ってしまった。今は、ハリラオスとクリュティエの式に呼ばれた貴族が大勢滞在しているのに。

「……いや。お前だけのせいじゃない。俺も悪い。やはり、サフィラに頼り過ぎていた。大事に思っていながら、『彼女なら大丈夫』と思い込んでいたんだろうな」

「……そうですね」

 そう。自分で子供っぽいと言って、確かに子供っぽいふるまいをするが、サフィラは基本的に冷静でしっかり者だ。だが、まだ基本的に十六歳の少女なのである。状況が許さず、子供でいられなかった少女。

 アルキスは何気なく手を伸ばしてサフィラの頭を撫でた。その手をハリラオスがつかむ。思わず主君にあたる人の顔を見ると、ハリラオスは笑っているのに、眼が笑っていなかった。アルキスは焦る。


「ところでお前、いつまでそうしているつもりだ……?」


 ハリラオスが低い声で言った。サフィラによると、ハリラオスよりアルキスの方が声が低いらしいが、今のハリラオスの声は地を這うように低かった。

 顔をひきつらせたアルキスだが、少し考えてから言った。


「陛下はクリュティエ様を放っておいていいのですか」


 一応初夜でしょう、と言うと、ハリラオスがうなだれた。


「お前、痛いところをついてくるな……」

「あ、自分でもわかってるんですね。いいんですか? 姫様なら私がお部屋までお送りしますが」

「……手は出すなよ」

「出しませんから……」

 このやり取りも何度目か。事実確認はしていないが、暴行を受けかけたと思われるサフィラにそんなことをしたりはしない。ハリラオスではないが、アルキスも彼女には嫌われたくないし。

 ハリラオスはサフィラの頬を撫でると、立ち上がった。

「悪いが、サフィラを頼む」

「かしこまりました」

 アルキスはハリラオスを見送ると眠るサフィラを抱き上げた。先ほどとは違い、自分で自分を支えてくれないので安定しにくい。何度か抱き上げ直しながら、サフィラを部屋に連れて行った。


「ああ、アルキス殿。お疲れ様です」


 フィリスがサフィラの部屋の前で待っていた。どうやら、ハリラオスがクリュティエの元へ行ったので、そのまま戻ってきたようだ。リダはいない。

「リダは陛下の元か?」

 アルキスがサフィラをベッドに寝かせながら尋ねるとフィリスはうなずいた。

「ええ。アルキス殿に代わりに護衛についてほしいとのことです」

 リダからかハリラオスからかわからない要請だが、アルキスはうなずいた。

「わかった。扉の外にいよう」

 リダなら中にいるだろうが、アルキスには性別の壁があるので、外に出るしかない。代わりにフィリスから部屋の鍵を預かる。アルキスを信頼しているので、とのことだった。


 では、と扉の外に出ようとすると、フィリスが「待ってください」と引き留めた。

「姫様の寝支度を手伝ってほしいのですけど」

「……女官を呼べ」

「アルキス殿の方が信頼できます」

「……」

 今は宮殿に臨時の女官が多いのである。いつもフィリスとリダがいるからと他の侍女を置いていないサフィラの落ち度でもあるが、なじみのない女官よりも男のアルキスの方が信頼できるとはどういうことだ。

 だがまあ、フィリスのあまりなじみのない女官をサフィラの部屋に入れたくないと言う気持ちもわからないではない。アルキスは覚悟を決めてうなずいた。

「姫様の体を支えていてくださいね」

「……」

 アルキスは反応の仕方がわからずとりあえず無言で体を支えた。フィリスが髪飾りを外していく。化粧も落とし、半開きになっているサフィラの口をかこん、と閉じさせた。


「ん……」


 さすがにサフィラが眼を覚ました。琥珀色の瞳がぼんやりとアルキスとフィリスを見上げてきた。


「お目覚めですか、姫様。でしたら自分で起きて着替えてください」


 フィリスがにっこり笑いながらびしっと言った。サフィラは数回目をしばたたかせ、フィリスを見て、アルキスを見た。

 ばっちり目が合う。サフィラの唇が悲鳴の形に開いた。

「ぎ……っ」

 悲鳴を上げそうになったサフィラの唇をフィリスとアルキスが同時にふさいだ。ここで悲鳴を上げられてはたまらない。ハリラオスが飛んでくる可能性がある。ここから王と王妃の居室は距離があるが、ハリラオスだから何でもありのような気がするのである。


「な、なんでアルキスがいるの」


 しかも自分の寝支度を手伝っているのだから、これは確かにサフィラもびっくりだろう。自分もびっくりだ。

「……お邪魔しております」

 そっとサフィラから手を放し、アルキスは言った。一礼してさらに言葉を重ねる。

「それでは、私は外で護衛をしていますので」

 そう言うとアルキスは引き留められる前に部屋を出て、扉の側に剣を抱えて座り込んだ。眼を閉じ、息を吐く。緊張しているのか、動揺しているのか、残念に思っているのか。自分の心が良くわからなかった。


「アルキス殿」


 小一時間ほどたっただろうか。唐突にサフィラの私室の扉が開き、フィリスが顔を出した。

「姫様がお呼びです」

「私を?」

「ええ。アルキス殿を」

 どこか間抜けな会話をし、アルキスはためらいつつも再度サフィラの部屋に入った。

「ごめんなさいね、アルキス。呼び立てちゃって」

「いえ。姫様のお召しとあらば」

 ベッドに腰掛けたサフィラが少し微笑んだのでアルキスもほっとした。寝支度を終えたサフィラは夜着を着ていたが、その上から大きめのガウンを羽織っている。床につかない足は裸足で、ぶらぶらさせていた。その足を止めて、サフィラはひざまずくアルキスに言った。

「あの……ね。アルキスは助けてくれたし、話しておこうと思ったの。あ、それから、助けてくれて、ありがとう」

 はにかんだ笑みを浮かべるサフィラに、アルキスも微笑みかえす。だが、すぐに真剣な表情になり、頭を垂れた。

「いえ、姫様を一人で帰してしまった私の落ち度です。お助けするのが遅くなり、申し訳ありませんでした」

「アルキスのせいじゃないわ。私が大丈夫って言ったんだもの。それに、今日は人が多いと言うのを失念していたし、そもそも私を……その、襲おうとする人間なんて、いるとは思わなかったもの」

 まあ、サフィラに手を出したらその背後が怖いからな。国王ハリラオスをはじめ、リダやフィリスも怒り狂うだろう。その中にアルキス自身を入れてもいい。


 アルキスが救出した直後は動揺のあまり泣きそうになっていたが、もう落ち着いたのか我慢しているのか、「どうせなら急所を蹴りあげればよかった……」などと言っているサフィラがちょっと怖い。

「それで姫様。お話とは?」

 フィリスがいつもよりやや優しく尋ねた。サフィラがうん、とうなずく。アルキスは顔をあげ、サフィラを見上げた。

「その、お察しの通り、私は襲われかけたのだけど……ちょっと妙だったのよね」

「妙、とは?」

 フィリスが首をかしげる。サフィラは少し間を置いてから答えた。

「なんていうか、目の焦点が合ってなくて、うつろな感じだった。自分の意志で動いているようには見えなかった」

「暗示でも受けていたのでしょうか」

「そこまではわからないけど」

 サフィラは首をかしげてアルキスを見た。


「それで、アルキスは何かに気付かなかったかなって……」


 なるほど。それで呼ばれたのか。アルキスは少し考えて口を開いた。

「あの男、声をかけたら逃げて行ったのですが、もしかしたら我に返って逃げて行ったのかもしれないですね」

 まあ、操られていたのだとしても話は聞くけど。顔はばっちり覚えている。

「酒の飲み過ぎっていう可能性もあるし、何とも言えないけど……」

 サフィラもうーん、とうなる。それからふあ、とあくびをした。

「姫様。もう夜も遅いですし、休みましょう」

「うん……そうする。アルキス、ちょっと考えておいて」

「わかりました」

 不寝番の最中に考えることができたので、むしろ好都合である。しかし、立ち上がったアルキスにサフィラは「あっ」と言って声をかけた。

「それとも、一緒に寝てくれる?」

「……フィリス殿に一緒に寝てもらってください」

「むー」

 サフィラが唇をとがらせて言った。一人で寝るのか怖かったのかもしれないが、そこでアルキスを誘うあたり、彼女はアルキスを男として認識していないと思われた。


 ちょっとショックである。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


サフィラは確信犯なのだろうか(笑)

子供っぽく甘えてるだけのような気もする。

きっと、小さい頃はハリラオスとアルキスにはまれて寝ていたに違いない(笑)


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