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琥珀姫  作者: 雲居瑞香
15/27

15.魔女








「姫様。そろそろ披露宴の時間ですが」


 などと言ってきたのは一時的にクリュティエの護衛を外れてきたらしいリダだった。サフィラは「わかってるわよ」といいつつ空を見上げていて動く気配はない。

「お兄様たちに先に始めるように言っておいて。すぐに片づけていくから」

「……すぐに片付きますかね」

 と思わずつぶやいてしまうアルキスだった。サフィラも「何とかするしかないでしょ」と彼女にしては後ろ向きだ。

「あたしも手伝います?」

「リダはお兄様たちの側で待機」

 とたん、「ええー」とリダが不満そうな声を上げる。

「あたしだって戦力になりますよ」

「人の命令を聞かない戦力はいりません」

「……」

 自覚はあるのか、リダは沈黙して「陛下たちの側にいます」と言ってさがって行った。その背に「伝言をお願いね」と叫ぶサフィラ。この二人も良くわからない主従である。


「……さて。問題はこっちね」


 すでに食人怪鳥が結界にぶつかって悲鳴を上げている。アルキスは尋ねた。

「これ、結界にぶつかり続ければそのうち死ぬんじゃないですか?」

 だが、サフィラはあっさりと否定した。

「それはないわね。食人怪鳥がぶつかるたびに結界も弱まっていくもの。あれだけの数がいれば、先に結界が限界を迎えるわね」

 そこで、どうするか、という最初に戻る。サフィラがふむ、と一つうなずく。

「短期決戦で行きましょう。一時的に結界をとくわ。弓箭部隊と遠隔攻撃系魔術師はそれぞれ矢と攻撃魔法を、結界をといた瞬間に放って」

「了解です」

 弓を持つ近衛騎士と、魔術師たちが了承した。ちなみに、先ほどハリラオスとクリュティエの結婚式を取り仕切った神官長もいるのだが、彼は防衛要員であるらしく、直接戦闘には参加しない。


「墜落したところを仕留めてちょうだい。ただ人でも、首を切断すればとどめを刺せるわ」


 そのあたりはアルキスとリダが実証済みである。十六歳の少女が放つ台詞とは思えない物騒さであるが、サフィラなのでこんなものかもしれないとも思う。

「みんな、準備はいいわね」

 サフィラは遠隔攻撃に、アルキスは墜落してきたところを仕留める方に参加する。サフィラと同じように矢をつがえた弓箭部隊と、呪文を詠唱し、魔法の発動待機をしている魔術師たちが「はっ」とうなずく。


「クレトス! 五秒後に結界を開いて! カウント開始! 五、四、三、二、一!」


 結界が解かれた。サフィラの合図に合わせて結界を解除したのは、神官長クレトスだ。その途端に矢や魔法が雨あられと降り注ぐ。いや、実際には打ち上げているんだけれども。

 サフィラの放った矢が食人怪鳥の目に刺さり、一羽墜落してくる。アルキスはその食人怪鳥の首をたたききった。二度目なので、アルキスも何となく勝手がわかる。

 前回とは違い、魔術師がいるからか、そもそもの対象数が多いからか、怪鳥たちに矢や魔法が当たり、結構墜落してくる。近衛騎士たちはビビりながらもとどめを刺しに行く。

「ひいぃぃっ」

「落ち着け! 飛んでいなければただの獣だ!」

 などと怯える近衛騎士に言ってみるアルキスだが、これは『ただの獣』と称していいのかは良くわからない。

「そうそう! ちょっと大きいけどね!」

 と相槌を打ってくるのはサフィラだ。ちょっとどころか、人が乗れるくらい大きいが。そのサフィラは持っていた弓を投げ捨てて腰に佩いていた剣を引き抜き、たまたま近くに墜落してきた怪鳥の首に剣を突き立てた。サフィラの力ではそれだけでとどめを刺せなかったようだが、さらに首をかき切っていたのでやはり彼女はちょっと怖い。


 不意にアルキスは近衛騎士の一人が妙な動きをしていることに気が付いた。矢先を怪鳥ではなく、こちら……正しくは、アルキスの側にいるサフィラに向けているように見えた。

「姫様!」

 近衛騎士を咎めるより先にアルキスはサフィラの名を呼んだ。サフィラは振り返りざまに剣をふり、何とか矢をたたき落とした。アルキスは怪鳥の死体を飛び越え、矢を放った近衛騎士に駆け寄る。そのまま拘束しようとしたのだ。

 だが、その近衛騎士はにやりと笑うと、アルキスに向かって鞘走らせた剣を振りぬいた。アルキスはそれを受け止める。力が拮抗した。


「アルキス駄目! そいつ、魔術師! 離れて!!」


 サフィラが駆け寄りながら叫ぶ言葉に、アルキスはとっさに離れた。離れてよく見ると、その近衛騎士は女性だった。

「全員、怪鳥を倒し続けて! こいつは私がやるから!」

「あらあら。威勢のいいこと!」

 走ってきた勢いのままサフィラが近衛騎士の恰好をした女性に斬りかかる。アルキスはサフィラを助けるかで一瞬迷った。

「アルキスは怪鳥!」

 なんだかアルキスが怪鳥であるかのような言い方であるが、言いたいことは伝わった。了解、と叫ぶと怪鳥のくちばしに刺されそうになっていた近衛騎士を助けにかかる。

 慣れた動作でアルキスは怪鳥にとどめを刺すと、魔術師同士の魔法戦に目をやった。何やら赤い光や強風やら重力波やらが飛び交っていて、ある意味怪鳥より危険区域である。サフィラは剣術を織り交ぜた魔法を駆使しているが、相手の女魔術師は純粋に魔術師のように見える。


 最後の一匹が地に落ちた。とどめを刺そうと近衛騎士が剣を振り上げるが、振り下ろす前に女魔術師の魔法がその近衛騎士を貫いた。


「お前っ」


 サフィラが声を荒げる。アルキスも女魔術師を仕留めようと動く。しかし、その前に女魔術師は食人怪鳥の背に飛び乗った。

「エルピスのお姫様、楽しかったわ。そんなあなたにひとつ教えてあげる」

 にっこり笑って女魔術師はサフィラに向かって言った。

「これからこの国は滅びへと向かう。生きるか死ぬかはお姫様しだい。よく覚えておくといいわ。私の予言は外れないの」

「……予言者」

「あらやだ。魔女メデイアと呼んで下さらないと」

 と、自ら名乗る女魔術師改め魔女メデイア。サフィラはさすがに気分を害した様子だ。

「ねえお姫様。あなたは誰?」

「……私は」

 あざけるように問うメデイアに対し、サフィラは力強い声で答えた。


「エルピス王国第二十三代国王ハリラオスの妹、サフィラ・ディオメデス! 陛下よりこの国の半分を任されている私としては、あなたを放置しておくわけにはいかないのよ!」


 サフィラが組んだ指を目の前に差し出した。構築された魔法陣から強力な魔法が放出されるのが、素人のアルキスにもわかった。暴風が吹き荒れる中、アルキスはサフィラに駆け寄る。

 ゆっくりと、射落とされた怪鳥が羽ばたき、空に舞い上がった。この防風では矢を放ったところで当たらないだろう。

「姫様! 風を止めてください!」

「私じゃないわ!」

 風の唸りの中、叫んで会話をする。暴風に服がはためき、何とか踏ん張るサフィラの腰に腕をまわして引き寄せる。体勢が安定したからか、サフィラはゆっくりと口を開き、その唇から歌声が漏れた。

 しばらくして、風は沈静化していく。風が強すぎて壁にぶつかった者もいるようだが、おおむね無事に見える。


「……逃がしたか」


 周囲を見渡し、サフィラがつぶやいた。残念そうにしながらアルキスの腕から離れる。


「クレトス! 結界張り直してぇ!」


 了解! と少し離れたところから声が聞こえ、再び宮殿を囲む結界が構築されていく。サフィラが「やっちゃったわねぇ」と近くのがれきを蹴った。

「あの女、ここで仕留めてしまいたかったのに。私より強い魔術師だったわ」

「そんな相手に一人で向かっていったのですか? 危険ですからやめてください」

「もう~。アルキスまでお兄様みたいなこと言わないでよ」

 ぷくっとむくれたサフィラから発せられた言葉にアルキスは衝撃を受けた。お兄様みたい。つまり、シスコン国王ハリラオスみたいと言うことだ。

 いや、アルキスもサフィラに相当甘い自覚はあったが、ハリラオスみたい、と言われるとちょっとショックだ。

「……いえ。自分は近衛騎士として、当然のことを言っているまでです」

 と言ってアルキスは自分の正当化を試みるが、サフィラはやはりむくれたまま言った。

「だって、アルキスと一緒に戦ったら、あなた、私をかばおうとするでしょ。そんなの嫌だもの」

 駄目だ。何だこの可愛い生き物。そんな場合ではないのにアルキスは不謹慎にもそんなことを思った。今なら、ハリラオスの気持ちがわかるかもしれない。

「……まあ、それはいいわ。怪鳥は火葬しておいてね。あと、血も洗い流して。それから壊れたところはある程度片づけたらそのままにしておいていいから。明日、修理の手配をするわ」

 わまりましたー、と近衛騎士や魔術師たちの声。サフィラがテキパキと指示を出していく。顔立ちも何となく似た兄妹だが、このテキパキしたところも似ていると思う。


「逃げたあの女性については?」


 近衛騎士に問われたサフィラは「保留!」と答える。

「材料が少なすぎる。一応、考えてはおくけど……とりあえず、披露宴に行ってくるから」

「わかりました」

 再びうなずく。サフィラはアルキスの手を取った。

「行くわよ」

「って、やっぱり私も行くんですね……」

 居残って片づけを内心希望していたアルキスだが、サフィラに連行されて披露宴に出席することになった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


私もよくやります。明日考える。


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