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ファーストコンタクト③

『信じていただけましたか?』


「う~ん……」


カナタの話がひと段落ついたところで、俺は腕組みをしながら考えた。


隕石との衝突といい、カナタの話は自分が見た夢の内容に沿っていた。

仮に今の話がすべて事実だとしたら辻褄も合う。


だが、話の内容自体が突飛過ぎて、そう易々と信じることが出来ないでいた。


「何と言うか、やっぱり実感が無くて……」


『え~……』


腕組みをしたまま、俺は居間にのそのそと移動する。

実はまだ寝ぼけているのかもしれない。少し動けば完全に目が覚めて『声』が聞こえなくなるんじゃないか、と僅かに期待したが、カナタの声は消えることは無かった。

やっぱり夢ではないらしい。


落胆の溜め息をつきながら、俺はソファに座るとテレビをつけた。


『じゃあ、どうすれば信じてくれるんですか?』


カナタにしてみれば、十分説明したという認識なのだろう。

半ば不満げな声でカナタが聞いてくる。


「……」


『透也さん?』


返答せずに固まっている俺の様子に気がつき、カナタが呼びかける。

だが、俺は返事をしない。

返事できなかった。


俺の意識はテレビの画面に釘付けになっていた。

テレビで放送されていたのは、朝のニュース番組。

そのテロップにはこう書かれていた。


<○○市に隕石落下か>


続いて、ニュースではこう報道されていた。

---昨夜20時頃、『○○市△△の公園で大きな爆発音がした』と、近所住民から警察に通報がありました。

---警察が現場に到着すると、公園は何かが爆発したような跡があり公園の遊具が破壊されていました。

---○○市ではこの直前、空から火の玉のようなものが公園に向かって落下したという目撃報告が多数されており、○○警察署では隕石が公園に墜落したものとみて調査を進めています。

---なお、負傷者の報告はありませんが、爆発した現場では血痕のようなものが発見されました。爆発で遠くに飛ばされた可能性もあるため、警察では引き続き負傷者がいないか付近を捜索しています。


報道が終わると、俺は無言でリモコンの電源ボタンを押しテレビを消した。


「……悪い、カナタさん」


『は、はい』



「俺、君の言ったこと信じるよ!!」


誰に向けるでもなく、俺は笑顔でサムズアップした。


『え、はぁ……え?』


カナタは状況がまだ飲み込めていないらしく、曖昧な返答をした。



「では、ひとつ問題が解決したところで次の問題だ」


『え、まだあるんですか?』


「当たり前だろ?」


今までの説明で分かったのは、俺が夢だと思ったことが現実で、どうやって助かったのかということだけだ。

むしろ、何故これまでの説明だけで終わったのだと思っているのだろう。


「まず、君はどこから話しているんだ?どうして俺の頭の中に『声』が聞こえてくる?」


『それは先程も言いましたが、私はあなたの中にいるんです』


「いや、それって……」


『言葉の通りです』


比喩だろと言い終える前に、カナタの声に遮られた。


『願い事を叶えるシステムの事は既に言いましたよね。実は宇宙船がマシントラブルに見舞われたとき、その願い事を叶えるシステム……「RIYU-SAY(リュウセイ)」にも処理に異常が発生していたんです』


何その安直な名前。

しかも綴りも間違ってるし。

これじゃあ「理由言え」じゃないか。

……いや、願いの理由を言えって言うことなら合っているのか?


「処理に異常って、どんな?」


『願い事をエネルギーに変換する際には、システムで処理できるように一旦願い事の形式をコンバート……翻訳するんですが、なるべく願った人の意向に近くなるように翻訳しているんです。その翻訳システムがおかしくなったらしくて』


電気の交流を直流に変換するようなものだろうか。

しかし、それがおかしくなったと言うのはどういうことだろう?


「まさか、翻訳が出来なくなったとか?」


『いいえ、翻訳はされました。ただ、翻訳の仕方が……』


「翻訳の仕方?」


『人の言い回しには色んなニュアンスが含まれています。そのニュアンスを詳細に分析し、願い主の意思に近いものにするのが翻訳システムなんですが、どうもニュアンスの分析シーケンスがうまく働かず、ほぼ直訳になってしまうみたいなんです』


どこかのウェブ翻訳みたいだな。


「それが、カナタさんの現状とどんな関係が?」


『透也さんが昨日死ぬ間際に願った事、覚えてますよね』


「ああ、『死にたくない』と」


『いいえ、少し違います。正確には「まだ、死にたくない」です。そしてそれが直訳されてしまいました』


「直訳されると言っても、元々そのままの意味な気がするけど?」


『いいえ、全然違います』


カナタはあっさりと俺の意見を否定した。


『透也さんが願った意味は、「助かりたい」という事だった筈です。ですが翻訳システムはそうは翻訳しなかった。「現状維持」と判断したんです。』


そこまで言われてようやく俺は理解した。


まだ死にたくない。

『まだ』死にたくない。

転じて、『今はまだ』死にたくない。


翻訳システムは生と死の狭間にいた俺の願いをそう理解したということか。


『翻訳システムで翻訳されたあなたの願いは、RIYU-SAYで叶えられました。それは、あなたの失われた心臓の代わりに宇宙船が生命維持装置となって、あなたの生命を維持するというものでした』


「それって、つまり……」


『搭乗していた私は脱出する暇も無く、宇宙船とともにあなたの体内に取り込まれてしまったんです』


「なるほどね」


ようやく、今のこの状況が理解できた。

つまり、宇宙船が今俺の心臓の辺りに埋まっていると言う事か。


それと同時に、このカナタという宇宙人が少し不憫に思えてきた。

まあ死に掛けたうえに、体内に宇宙船をインプラントされてる俺も相当なものだが。


「脱出は出来ないのか?」


『脱出するとなると、一旦船体ごとあなたの体内から出なければなりません。そうなると、物理的にあなたの体に穴を開け直さなければなりませんし、そもそもあなたの心臓が無いので---』

「あ、もういいや」


体を突き破って出てくる宇宙船を想像し、慌ててカナタの話を止めた。

グロは耐性無いので結構です。




しかし、宇宙船のマシントラブルか。

高度な技術を持つ宇宙人でもどうしようもない事があるんだな。


「そう言えば、マシントラブルで墜落したって言ったけど、原因は分かったのか?」


『あ、え~っと……』


俺が聞くと、急にカナタの歯切れが悪くなった。


『あ、はっきりとした原因はまだですが、墜落のトリガーになったものには心当たりはあります。』


「どんな?」


『実はコントロール不能になる直前、とても強力な願いの念の反応があったんです。あんなに強い願いの念は始めて見ました。最新の宇宙船なら強すぎる念を減衰させる補助システムが搭載されているんですが、私の船にはついていないので、オーバーフローしてしまったのではないかと』


宇宙人もびっくりの願いの強さって、そんなに強い願いが?

いったいどんな願いなんだろう。


『データベースもバックアップが破損してますけど、最新のものはまだ生きてるみたいです。今確認しますね。……あ、ありました。「彼女が欲しい」です……どれだけ必死だったんでしょう?』


その瞬間、俺の時間が止まった。


……あれ?

聞いたことのある願いだな。

まあ、良くある願いだしな。


『発信者は空音透也さんという方らしいです……あれ?』


そこまで言って、カナタの『声』が止まった。


俺はテーブルに肘をつけ、組んだ両手を額に当てて唸ってしまった。

まさか、俺の願いが宇宙船を落としてしまうとは。

自分が怖い。


『透也さん……酷いです』


「う……」


涙声で恨みがましい声が頭に響く。

さすがに自分のせいで墜落させてしまったとなると、何も言い返せない。

しかも願いがあんな内容だと尚更だ。

合わせる顔が無い。


まあ実際、顔は合わせられないんだが。



カナタの愚痴はまだ続く。


『確かに私も運行禁止の廃船を勝手に動かして家出してきた訳ですし、悪いですよ?整備もしてないから、もともと壊れていた機材もたくさん有りましたけど……』


「おい」


何か今、不穏なことを言わなかったか?

すごく小さな声でボソボソと言っていたが、俺は聞き逃さなかったぞ。


『え?……あ』


我に返ったのか、カナタは自分が口にしてしまった内容のマズさに気付いた様だった。


『えっと、その……』

「……」


途端にカナタの反応がしどろもどろになる。

さっき歯切れが悪かったのは、原因となる心当たりがあり過ぎたからだろう。主にカナタの方に。


俺はと言うと、ついさっきまで俺の中にあった罪悪感は見事に無くなり、この『声』の主に対する怒りが沸々と湧いてきた。



『……てへっ』


気まずい雰囲気に耐えられなくなったのか、カナタがおどける。

その様子が、俺の怒りが頂点に達した。


「結局、元凶はお前じゃねぇか!!」


『ひぇっ、ご、ごめんなさい~!!』


それから暫く、俺はカナタに説教をすることになった。


責任のなすりつけはダメ、ゼッタイ。

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