ファーストコンタクト②
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
『ですから、あなたの事を殺してしまったんです』
「え~、と?」
カナタは改めて言ってくれたが、やっぱり分からん。
殺した?
俺を?
『何だか反応が薄いですね?』
流石にカナタも不思議そうに呟いた。
姿は見えないが、きっと声の主は今頃首を傾げているのだろう。
「いや、だってさ」
カナタの言葉の真意を掴めない俺も、腕を組みつつ首を傾げていた。
「俺、生きてるじゃん?」
そう、俺は今ここに居る。
目を覚まし、立ち上がり、こうして話をしている。
まあ、話し相手が見えないって点で精神状態には不安が残るが、生きているのは事実だ。
彼女の話とは一致しない。
ブラックジョークのつもりだろうか。
『それはそうです。生き返ったんですから』
「は?」
何かさっきから聞き返してばかりだが、仕方がない。
言ってる意味がさっぱり分からないんだから。
『分かりました?』
「さっぱり分からん」
俺は首を横に振る。
電話などもそうだが、何で目の前に人がいなくてもお辞儀とかしちゃうんだろうね?
『そんなぁ……』
あからさまに落胆する声。
だが、今の話だけで理解しろと言う方が無理な話だ。
これまでの会話だけで完璧に理解できる人がいたら、その人を尊敬する。
「もう少し詳しく話してくれないか? 出来ればそれまでの経緯も含めて」
『分かりました。少し長くなりますが……』
カナタはやれやれという感じ満々の溜め息をついた。
恐らく聞こえないだろうと高をくくっていたんだろう。
そんな小さな溜め息だったが、俺は聞き逃さなかったぞ。
『実は私、宇宙から来たんです』
「へぇ~……って、宇宙!?」
『はい。遥か彼方にある惑星から』
初っぱなからの爆弾発言に、俺は唖然とするしかなかった。
『私は宇宙船で宇宙空間を航行していたんですが、この星の近くを航行中に突然マシントラブルが発生してしまったんです』
宇宙船---。
その単語は時に人の心を踊らせる。
宇宙船、それは男達の憧れ。
冒険心を掻き立てる、夢の乗り物。
まあ、今はどうでも良いけどね!
正直、それどころじゃない。
『コントロールのきかなくなった船を何とか不時着させようとしたんです。結局、墜落みたいな形になってしまいましたが』
コントロールがきかなくなったと言うのは、確かに致命的だ。
緊急措置として一番近くの地球への不時着を試みるのは、当然の成り行きだろう。
しかし、墜落してしまった……か。
……ん、墜落?
『その墜落先に偶然、透也さんが居りまして、その、何て言うか……』
カナタの口調が急に重くなる。
うん、嫌な予感しかしないね♪
『……衝突して即死、みたいな?』
最後の『てへっ』て言う誤魔化し笑いが、妙に可愛らしい。
その反面、イラッとしたけどな。
ちょっとドキッとした自分にも腹が立つ。
「OK、俺の死亡シナリオは分かった」
縁起でもない話にも関わらず、俺は怒らずに紳士的に応える。
俺の心は海のように広いからね。
「じゃあ、何で俺は生きてるんだ?」
『あ、それはあなたが願ったからです。死にたくないって』
「あ゛あ゛っ!?」
訂正。
俺の心の海、大荒れです。
俺の荒げた声を聞いて、カナタが『ひゃんっ!!』と小さな悲鳴を上げた。
「どういうことか、もう少し詳しく教えてくれないか?」
『は、はい』
荒れる心を必死に抑え、俺は詳細を求めた。
カナタもおずおずと説明を始めた。
『透也さんは流れ星に願い事をすると願いが叶うってお話、知ってますか?』
「ああ、有名だしな」
知っているも何も、あの時まさに流れ星に願い事をしていたのだが。
『それなら話が早いです。実はその話は本当なんです』
俺が肯定すると、カナタは嬉しそうに笑った。
『実は、私の星の宇宙船は特殊な技術を用いてまして。その、宇宙空間の航行に利用するエネルギーのひとつとして願いの力を利用しているんです』
「願いの力?」
『はい。厳密にはエネルギー生成の触媒と言いましょうか。船体表面が願いの念を傍受・収集する装置になっていまして、その集めた念を他の触媒と合わせて船体内部の変換装置でエネルギーに変換します。変換したエネルギーは予備エネルギーとして船内に蓄えるんです。』
つまり、幾つかのエネルギーが動力源として使用できる、と。
車で言うとハイブリッド車といったところか。
しかも、願いの念を集める集音マイクならぬ集念マイク付き。
蓄えることができると言うと、さしずめ願い事はハイブリッド車でいうところの電気といったところだろう。
俺が話についてきている事を理解したのか、カナタは話を続けた。
『そのエネルギー変換の際に副産物の別なエネルギーができるんですが、それが願い事の実現エネルギーになるんです。それに、宇宙船では使い道も無いので、御礼も兼ねて再び宇宙船から願い事の主に戻されるんです』
「なるほど」
つまり、車で言うところの排気ガスだな。
しかし、排気ガスで願いが叶うって思うと、何だか微妙な気分になる。
『まあ、集める願い事や副産物にもいろいろな制限や条件がありますので、全てが今言った通りになる訳ではありませんが』
カナタはおどけて見せた。
聞くと、どうやら願い事叶えシステム(仮称)にも決まりがあり、一定以上の強い願いしか受け付けないらしい。
何でも、願いの力が弱いと、得られるエネルギーの量や質が低くなってしまい非効率的らしい。
更に人道上の配慮として、一度願い事を受け付けた人には次回から更に高い制限が課されるようだった。
まあ、何でも願えば叶うなら誰も努力しなくなってしまう。
人類を堕落の道に進ませない為にも、当然の対応と言えよう。
『詳細は今回は省きますが、そんな感じで願い事が叶うようになっているんです。そこで本題に戻りますが・・・・・・』
カナタはもったいぶる様にコホンと咳払いをした。
『透也さんは昨日、死ぬ間際に何か願いませんでしたか?』
「……あ」
そこまで言われて、ようやく俺は理解した。
昨日の夜、隕石の衝突で俺は致命傷を負い、死を覚悟した。
そして、薄れ始めて意識の中で、確かに俺は強く思ったことがあった。
『そうです。死にたくないというあなたの願い……それを流れ星が叶えたんです』