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ファーストコンタクト①

「うわああっ!?」


勢いよく起き上がった俺の目に入ってきたのは、見慣れた光景だった。


「……あれ?」


窓から差し込む朝日の光と、外から聞こえるスズメの鳴き声。

至って平穏な風景だ。


先程までの鬼気迫った雰囲気とのギャップにポカンとしながら、手でギュッと握り締めたタオルケットを離す。

そして改めて周囲を見渡した。


床に無造作に置かれたゲーム機に、机の上に雑に積み重ねられたマンガや雑誌。

そして、ちょっぴりエッチぃ本。

そこに教科書や参考書の姿は無いのはご愛嬌だ。


「ここは……俺の部屋?」


俺、死んだんじゃ……?


とっさに自分の胸を押さえるが、穴が開いている触感は無かった。

それに、痛みも無い。

よく見れば、着ている白いTシャツにも血のシミ一つ無かった。


「夢か……」


自分の身体が無事なのを確認し、脱力する。

そうだよな、いくら何でもありえないよな。

隕石が衝突して死ぬなんて……。


いくら俺が不運に遭遇しやすいと言ってもある訳がない。

それこそ文字通り、天文学的な確率だ。


しかし、嫌な夢だった……。

あんな目には絶対遭いたくない。


『あ、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?』


「ああ、おはよう。ぐっすり眠れたよ。おかげで変な夢を見たけどな」


俺は挨拶を返すと、伸びをしながら窓を開けた。


ありゃ、カーテン閉めないで寝てしまったみたいだ。

こりゃあ、お向かいさんに素敵な寝顔を見られちゃったかも?


……イヤン、恥ずかしい♪


『変な夢?』


そう聞き返されると、言いたくなるのが人の性。

どんな反応が返ってくるのか楽しみだ。


「隕石にぶつかって自分が死んじゃう夢だぜ、縁起でもない」

『あらぁ……』


呆れているのか、もしくは同情しているのだろうか。

返答に困ったような声が返ってくる。


「な、変だろ?」

『そうですねぇ』


アハハ、うふふとお互いに笑う。


まあそうだよな。

余りに現実離れした内容だ。

夢とはいえ突飛な内容に、自分でも笑ってしまう。

他の人が聞いて笑ってしまうのも仕方が無い。


『それ、夢じゃないですよ?』


「……え?」


何か今、おかしなセリフが聞こえたぞ?


……ん、何?


ところで、誰と話してるのかって?

ハハハ、そりゃアンタ……。



……俺の方が知りたいわ。


ぐるりと部屋の中を見回す。

なんて事ない、いつもの俺の部屋だ。

当然俺以外の人間の姿などない。


……。


……じゃあ、今のは?

起きたばかりで寝惚けてた……のかな?


『どうしたんですか?』


「っ!?」


頭を押さえていると、またあの『声』が聞こえてきた。

バッと顔を上げ、改めて周囲を見渡す。

だが、やはり人の姿など無い。


……ってことは、これはまさか!?


『あの……?』


また、必死に状況を整理しようと頭をフル回転させているところに、また声が聞こえてくる。

いくら肝が据わっている(自称)俺も、流石に我慢の限界だった。


「うわあああっ!!」


気が付くと、俺は悲鳴を上げていた。


近所迷惑?

そんな事を気にする余裕無いって。



『ど、どうしました!?』


すかさず『声』が驚いた様子で俺に話しかけてくる。

それがかえって俺の混乱に拍車をかけた。


「ゆ、幽霊が!」


『え!? ど、どこっ!?』


途端に不安げな声色になる『声』。

何か怯えながら周囲を見渡している感じだ。


「お前だよ!!」


あ、しまった。

どこまでとぼけているのかと思い、思わず突っ込みを入れてしまった。


『きゃあああっ!!』


だが、帰ってきたのはこれまた意外な反応。

耳をつんざく様な甲高い悲鳴に、思わず恭一は耳を押さえた。


……あれ、何だこの反応は?


そう言えば、『お前だぁ!!』とか言うオチの怪談があったっけ。

まあ、その話は今は置いておこう。

幽霊が幽霊を怖がるって、どうなんだろう?


しかも耳を押さえてるのに、聞こえてくる悲鳴が全然小さくならない。

これは一体どういう仕組みなんだ?


『いやあああっ!!』


『声』の主はまだ叫んでいる。

おかげで、俺の恐怖は大分削がれてしまった。


「うるせぇぇぇっ!!」


余りの五月蝿さに、思わず怒鳴ってしまった。

マズイ、呪われるかもしれない。


『……え? あ、すみません』


またまた予想に反して、丁寧に謝罪する『声』。

なんだか肩透かしばかり食らって、どうでも良くなってきてしまった。

思わず溜め息が出てしまう。


「まったく、おかしな幽霊にとり憑かれたもんだな……」


『……ユーレイ、いるんですか?』


恐る恐る尋ねてくる謎の声。

やっぱり幽霊が苦手らしい。


「だから、お前が幽霊だろ?」


『わ、私!? 私は幽霊じゃありません!』


なんだか力いっぱい否定しているが、声だけ聞こえて姿が見えないって時点で説得力に欠ける。


「じゃあ、何だって言うんだよ?」


『あ、申し遅れました。私、カナタと申します』


……俺が聞きたかったのは名前じゃなくて、お前が何者なのかって事なんだけどな。


「カナタ?」


『はい。あなたは?』


名前を聞き返されてしまったが、答えるべきか。

相手は姿こそ見せないが、名を名乗っている。

こちらも名を名乗るのが礼儀だが、素性が分からない相手に名乗るのも抵抗がある。

相手の名乗った名前も偽名かもしれないし。


『あなたの名前を教えてください』


俺が回答に迷っていると、カナタという『声』の主は、少し丁寧に言い直して再度尋ねてきた。

俺が質問の意味が分からずに黙っているとでも思ったのだろうか。


「嫌だ」


とりあえず断っておこう。

やはり、正体の分からない奴に教える訳にはいかない。

最近は物騒だからな。

セキュリティーはしっかりしないと。


それに、呪いに使われるかもしれないし……。

幽霊なら一番ありえそうな線だな。


『そんな……』


何か悲しげな声が返ってくる。

その声が余りに悲しげで、聞いてるこっちは罪悪感に襲われてしまう。


『……酷いです。私の個人情報だけ奪い取っておいて……』


「奪い取るって……」


自分から名乗っておいて、それはないだろう。

傍から聞いたら俺が悪者にされてしまいそうだ。


『……ぐすっ』


「あ~、分かった! 言うから!」


すすり泣くような『声』が頭の中に響く。

正直、気味が悪くてたまらない。

罪悪感もあいまって、俺の方が折れるしかなかった。


『……本当ですか?』


「透也だ。空音透也」


とうとう言ってしまった。

明日から身に覚えのない請求とかが来たら、どうしよう?


……え、呪い?

あ、そうそう。

呪いも。


『透也さん……いい名前ですね』


「どうも……」


『声』はいつの間にか泣き止んでいた。

しかし、マイペースな感じの話し方だ。

こちらの調子が狂ってしまう。


「で、お前はどこにいるんだ?」


『お前じゃありません。カナタです』


「何でも良いから……」


『カナタです』


カナタはしつこく食い下がる。

一つ分かった事がある。


こいつ、かなり頑固だ。


『カナタ……』


何故また泣きそうな声になる?


「……カナタさんはどこにいるんですか?」


『はい』


名前を呼ぶと、カナタの嬉しそうな返事が返ってくる。

うん、俺さっきから妥協しまくっている気がする。


でも、まあ良い。

これで会話が先に進む。


まず今何が起きているのか、理解することが優先だ。


『私はあなたの中にいます』


「……は?」


やっと話が聞けると思ったら、いきなりこれだ。

言ってる意味が全く分からない。


まさか俺の中のもう一人の自分……とか?

女の子みたいだが、つまり俺は心のどこかで女の子になりたいと思っていたという事か?


いやいやいや、そんな筈は、そんな筈……。



……そうなのかな?


『そうでした、まずお詫びをしなければ……』


「お詫び?」


状況が分かっていないこの状況で、更にお詫びと来た。

勿論、俺は何の事か全く理解が追いついていない。


『はい。昨日は申し訳ありませんでした』


「昨日……?」


『事故とはいえ、あんな事になるなんて……』


事故?

はて、何の事だろう。


『私も頑張ったんですけど……』


「あ、あのさぁ……何の話?」


腕を組みながら必死に思い出してみるが、やはり全然話が見えない。

流石に我慢できず、カナタに聞いてみた。


『実は私、あなたの事……』


少し躊躇いがちな話し方に、ちょっとドキッとする。

何だかんだ言って、カナタの声って結構かわいい。

それにこのセリフ、何か告白みたいだし。


少しドキドキしながら、言葉の続きを待つ。

その次の言葉が何か明らかになるのに、それほど時間はかからなかった。



『……あなたの事、殺してしまいました』

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