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メテオ・ストライク

「ふう、遅くなっちまったな……」


一人呟きながら、俺、空音透也(ソラネ トウヤ)は自宅へと急いでいた。

初夏にもかかわらず、とっくに日は沈み周囲は暗闇に包まれている。

それだけで、部活も塾にも通っていない高校生が帰るには、随分遅い時間だという事が分かるだろう。


別に、何か大事な用があったわけではない。ただ遊んでいただけだ。


放課後、暇と暑さに参っていた俺は、いつもつるんでいる友人数人とゲームセンターへ行った。

避暑も兼ねて少しだけ遊んで帰るつもりだったが、丁度新しい対戦ゲームが入荷しており、つい友達との対戦が盛り上がってしまったのだ。


俺はあまりゲームは得意な方ではないが、今日は運良く仲間内でトップの座を獲得した。


遅くはなったが、おかげで今は気分が良い。

罰ゲームとして最下位の友人から奢ってもらったジュースを、祝杯がてらに味わいながら帰っている訳だ。


他人から奪い取った……もとい、勝利の後の飲食って何でこんなに美味いんだろう?

まあ、当の最下位の友人は恨めしげに睨んでたけどな。


この世は弱肉強食だ。

悪いが諦めてもらおう。



時間も時間だ。早く家に帰ろうと、俺はショートカットをして大通りから外れた人気の無い小道を歩いていた。


まあ俺の場合、別に急いで帰る必要もないのだが。

日が落ちても暑さは引かず、ムシムシとした湿気が俺に不快感を与えてくる。

早く帰って、クーラーのきいた部屋でまったりしたい。


しかし暗い。


ショートカットに使ったこの道は家への近道ではあるのだが、いかんせん街灯がない。

頼りになるのは暗闇に慣れてきた自分の目と、頭上に輝く星たちの明かりのみだった。



道の途中にある小さな公園に差し掛かる。

幼い頃に良く遊んだ公園だ。

今ではこうして前を通り過ぎるだけではあるが。


当然ながら、この時間に人はいない。


「ん?」


公園を一瞥して通り過ぎようとすると、ふと視界の端で何かが光ったような気がした。

急いでいる足を止め、目を凝らして夜空を見上げる。



「おお、凄いな……」



数えきれないほどの星が瞬いているのが見えた。

辺りに灯りが少ないせいだろう。

街の明かりで支配された大通りを通っていれば、決して見れない光景だ。


事情はどうであれ、この星空が見ることが出来て、何だか得した気がする。




夜空を見上げていると、一筋の光が流れる。


「流れ星か?」


そう言えば今朝のニュースで、流星群が接近してるって言っていた気がする。先ほど見えたのも、おそらく流れ星だろう。


「おっ、また流れた」


次々に夜空を駆ける流れ星を見つけるのがなんだか楽しくて、立ち止まって夜空を眺め続ける。


こうやってゆっくり星空を眺めるなんて久し振りだ。


そして、ふと思った。



……いつから俺は空を見上げなくなったんだろう?



子供の頃は、親父が持っていた天体望遠鏡でよく星を見せてもらっていたものだ。

子供ながらに星の不思議に惹かれて、今思うと他愛もない質問を親父にぶつけて困らせてたっけ。


最近じゃ星を見るどころか、親父と顔を合わせる事も滅多に無い。


最後に言葉を交わしたのはどのくらい前だったか。

家族なのに変だよな。


急に滑稽に思えて、自嘲気味に笑ってしまった。


だが、その笑いは闇夜に吸い込まれていく。

通り慣れた俺の経験から、普段からここは人通りが少ない。

夜になれば尚更だ。

誰かの目を気にする必要も無い。


……あの望遠鏡、今もあるのかな?

後で探してみようかな。


「お、まただ」


再び流れ星が夜空を駆ける。

そういえば、流れ星に三回願い事をすると願いが叶うって言う話、昔聞いた事があったな。

まあ、迷信だろうけど。


子供の時は疑いもせずに、必死にお願いしていたっけ。


ゲームで勝って気分が良くなっていたからか、はたまた、不意に思い出した幼少の頃への懐古の情からだろうか。


俺は久しぶりに流れ星に願いをしてみる事にした。



それが自分の命運を分けるとも知らずに……。



「お、今度のは大きいな」


暫し足を止めて次の流れ星を待っていると、ひときわ明るい光が夜空に輝いた。

よし、流れ星が消える前に三回願い事をしないと!


「(彼女が欲しい、彼女が欲しい、彼女が欲しいっ!!)」


……。

何か文句ある?


言い忘れたが、俺は思春期真っ盛りの高校二年。

彼女いない暦イコール年齢の寂しい身空なのだ。


部活にも入らず、ただ怠惰な日常を送るだけの生活。

そんな冴えない高校生が、甘酸っぱい高校ライフを夢見て何が悪い?


むりやり自分を正当化して満足しつつ、先ほどの流れ星の軌跡を追う。

流れ星はまだ消えていなかった。


まさかの成功。


子供の時からチャレンジして、成功したのは初めてだ。


流れ星が消えるまでに願い事を三回言うのは難しい……というか、無理だ。

それが言えた。

例え迷信でも、言えたってだけで何か達成感がある。


でも、もし迷信じゃなかったら?

もしかして、願い事叶うんじゃ?


そう思うと、何かドキドキしてきた。



「……ん?あれ?」


ふと、意識を夜空に戻す。

願い事を願った流れ星が、まだ夜空を駆けていた。


欲望に支配されて周りが見えていなかったが、願い事をしたあの流れ星、何か変だ。

光ってる時間が随分長い。

普通ならとっくに消えていてもおかしくない。


「まさか飛行機ってオチ?」


もしかしたら流れ星じゃないのでは?と落胆しかけたが、そこで再びある事に気付く。


動きがおかしい。


通常の流れ星は直線に近い弧を描いて流れる。

しかし目の前のそれは、楕円でも作るかの様に急激なカーブを描いていた。


明らかに不自然。


「……カーブ?」


その曲がった方向は、こちら側。


それに……気のせいかな?

何だか、光が大きくなってきてるような……。



目を擦り、もう一度空を見てみる。


「!?」


気のせいではなく、確かに光はかなり大きくなっていた。

いや、大きくなっているというよりは……。


……近付いてる?

しかも、こっちに向かって!?


飛行機?ロケット?

いや、やっぱり隕石?


いやいやいや。

今は正体とかどうでも良くて。


……。

ヤバくないですか、もしかして?


光はどんどん眩しさを増し、こちらに接近してくる。

俺は慌ててその場を離れようと思ったが、高速で接近する光を見るに、今から回避して間に合うとは思えない。


ふと、昔望遠鏡で見た月のクレーターが脳裏に浮かんだ。


隕石衝突の衝撃は計り知れない。

ただ、地球には大気があり、小規模な隕石なら大気圏で燃え尽きる。

そのため地表に到達する隕石は多くはない。


だが、絶対に墜落しないと言う確証は無い。

事実、これまでにも隕石落下は度々あったのだから。


もし墜落すればどうなる事か。

一概には言えないが、確か衝突したら隕石の直径の10~100倍程度のクレーターが出来るんだよな。

確か某国で氷の隕石が墜落せず上空で爆発した時には、爆心地から半径20キロの森林が焼き尽くされたとか。


……避けられんの、俺?


だが、その答えが出るのに時間はさほど掛からなかった。

頭では逃げようと思っているのに、体の反応がやけに遅い。

動きが、周りの景色が、とてもスローに見えた。


え? これって……。


事故に遭ったときに周りがゆっくりに見えるっていう……あれ?

という事は、もしかして……。

手遅れって事!?


慌てふためく俺を嘲笑うかのように、光はみるみるうちに俺に近付いてくる。

そして……。


「っっっ!!」


胸の辺りに強い衝撃を受け、俺は吹き飛ばされた。

凄まじい爆風に抵抗もできず、体が中に舞う。

浮遊感が全身を支配していた。


初めて経験したが、爆風ってこんなに衝撃受けるんだな。

あとはレーザーで焼き切られるような、焼け付くような酷い痛みもある。

体にも全然力が入らない。


だが、不思議と取り乱したりはしていなかった。


痛みとして認識はしたものの、あまり実感がない。

あたかも他人事のようにその身に受けている痛みを分析していた。

自分でも驚くほど冷静だった。


「(どうしたんだろう、俺?)」


その疑問はすぐに解決した。


吹き飛ばされた体が落下し始める。

その拍子に、力の入らない首がガクンと思いっきり俯くように曲がる。

そしてその瞬間、首から下の胴体の様子が視界に入った。


胸……しかも心臓のあったであろう場所にソフトボール大の穴が開き、そこから飛沫の様に赤黒い液体が噴出している。


それを見て理解した。


今の俺は冷静なんじゃない。

ただ、脳に血が回っていないだけなのだ、と。


我が身に起こった事ながら、嫌なものを見てしまった。

どうも迫ってきた光が見事に胸にジャストミートしたらしい。


その傷の位置や大きさ、そして出血の量から、もう助かりはしないことはすぐに分かった。


あの時、伏せる事が出来れば助かったかもなぁ。

もしくは、横にあと1メートルでも動けていれば……。


いや、直撃を免れても結局爆風に巻き込まれて終わってたな。

最初から詰んでたんだ。

ああ、自身の運の無さに嫌気が差す。


宙に浮いた体が地面に触れる前に、俺の意識が朦朧としてきた。

ああ、この分だともうすぐ死ぬな……。




……ん、死ぬ?

死ぬのか、俺?




死を意識した途端、不意に訪れる恐怖。

身体ではなく、心が震える。

死という未知の恐怖に、残っているあらゆる感覚が拒絶をしていた。


……嫌だ。

俺は……俺はまだ……。


まだ、死にたくない―――!!!!



そんな必死の思いも空しく、俺の頭の中は真っ白になった……。

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