1章の2 -最後の冷気が消えた時-
今は夏。太陽が幻想郷を強く照らし、
人間が団扇を仰ぎながら「暑い」というのが日常な季節です。
そんな夏のまっただ中、唯一ひんやりとしているここは、霧の湖といいます。
最近地底でひと悶着があったりとか、道具が反乱をおこしたりとか、そんな事件が起こっても、
基本的にほとんどいつも通り、妖精達が戯れている湖です。
道具の反乱が起きた時は人魚が出てきてさぁ大変、やれ大変と妖精も大騒ぎでした。
が、やがていつも通り妖精もろとも博麗の巫女に退治され、
また平穏が戻ってきていたのです。
勿論この日も、平穏な一日が続くはずだったのです。
「大ちゃーん、きてきて面白いのできたよー!」
霧の湖の近くに棲む妖精の一人、氷の妖精・チルノは、
その手に凍らせた蛙を持って緑の髪に水色の服を着た妖精を呼んでいる。
「こーら、チルノちゃん、また蛙を凍らせてー。
ダメだって言ったでしょ。早く溶かしてあげなさい」
呼ばれた緑の髪の妖精は、ため息をついてチルノにそう諭しながらチルノの元にやってくる。
彼女は"大妖精"と呼ばれる、この辺の妖精達に慕われている妖精です。
妖精たちの中では一番話が通じるため、人間達や妖怪達への対応を行うこともあります。
「ほーら、カエールソードー!
さいきょーのあたいが作ったこの剣なら、人間だって妖怪だって一撃ね!」
そんな大妖精に対して、今日のチルノは柄に当たる場所に蛙を凍らせた氷をくっつけた、
氷の剣を見せびらかしていたそうです。
「もー、だからやめなさいって。
割れて氷の破片で誰かが怪我をしたらどうするの?」
「む……さ、さいきょーのあたいはだれかをけがさせずにたおすし!」
「はい、没収。ごめんね蛙さん。すぐに帰してあげるから」
むきになったチルノが軽く怒った隙に、大妖精はその無駄に長い蛙の氷剣を取り上げ、
霧の外から照りつける太陽にあたり続けたほのかにぬるい湖の水につけ、蛙を解放してあげました。
恐らく瞬間的に凍らされて驚いていた蛙は、身体が動くようになるや否や、
湖の中に飛び込んで見えなくなったそうです。
いつもなら、それでちょっとチルノがすねて終わる、日常の光景でした。
……しかし、しばし過ぎたのち……大妖精は、この場の異変に気づきました。
「あれ……?蛙さんが、湖で浮かんでる?」
そう。先ほど逃がした筈の蛙が、湖に浮いているのです。
あわててその蛙を拾ってみてみると、既に事切れているのがわかりました。
「チルノちゃーん、今度は水底で凍らせてたりとかしないでしょうね?」
またチルノの仕業かと、大妖精はそう思いました。
しかし、その刹那。
大妖精とチルノを、唐突な熱風が襲ったのです。
「……暑っ!」
「あちち、あれ?なんでこんなに暑いの?」
唐突な事に、大妖精もチルノも反応できず、熱風をもろに受けてしまいました。
熱風とはいえども多少暑いだけの風だったのですが、
それでも、霧の湖の霧が一時的にでも晴れるには、充分な風だったそうです。
霧の湖の霧が、一瞬で消えさりました。
しばらくしてその風が収まると、また霧の湖は霧に覆われます。
しかし、唐突に発した熱は、とどまることを知らないようで、
その霧も徐々に薄れて行くのが判ります。
「チルノちゃん、大丈夫?」
「な、なんとか」
チルノは顔が火照ってしまっていました。
氷の妖精であるチルノは暑いのが苦手。
かと言って溶けてしまうわけではないのですが、
さすがに頭の弱い彼女にも、この場の気温がどんどん上がっていくのはわかるみたい。
そう言う間にも、その場の気温はどんどん上がっていくのです。
「チルノちゃん、一旦離れよう。
誰かがいたずらしてるだけかもしれないし。」
大妖精はよくわからないが、ココを離れた方がいいと感じたそうです。
自分は問題ないけど、チルノをほおっておけないと言うこともあったので。
「……う、うん。そだ、ちょっと人里に遊びに行こうよ。
あたい『かきごおり』っての、食べたい。」
チルノも自分がここにいては不味いと思ったのだろう。
素直に大妖精の提案にのり、2匹は此処を後にしました。
「うん、そうしよう。いくよ、チルノちゃん」
「あ、まってよ大ちゃーん」
そう言って汗をかきながら、2匹の妖精は飛んでいってしまったのです。
そうして最後の"冷気"が、
湖から消えてしまいました。
最後の冷気がその場から消えると、霧は完全に晴れ、湖は太陽の元で、陽炎で満ちました。
"彼女"の起こした異変の、始まりです。