序章 -逃走-
この作品は東方二次創作成分を含みます。
東方二次創作の内容ではございますが、本作品では本作品の独自キャラクター(所謂オリキャラ)が登場いたします。
そう言う要素が苦手な方は、ご注意くださいませ。
「なぜ、あいつだけがいないんだ!?」
「嘘だろ!逃げやがったのか!?」
「探せ!まだ近くにいるはずだ!」
遠くから、私を探す声がする。
私は逃亡者だ。
声を聞いて、付近の状況を確認し、私は移動する。
息を切らしても行けないし、気配を察知されてもいけない。
声を出すなどもってのほかだ。
息を殺しつつ、出来る限り早く、その場から移動するのだ。
見つかったら最後、待つのは"死"あるのみ。
追っ手らしき声はまだ聞こえてくる。
偶然ながら、此方の方に移動してきているようだ。
「ちくしょう、足跡すらのこしゃしねぇ」
「しかたねぇよ、あいつらは羽根を持ってる。
これまでのやつらだって足跡なんか残したためしがねぇだろ」
私の移動によって、距離は離れて行く。
しかし、声は距離と関係なく、聞こえてくる。
安心などできない。今の安堵という感情は、油断の裏返しにしか過ぎない。
仲間は皆裏切られ、捕まった。
仲のいい親友もいた。ライバルもいた。
……皆、捕まった。
今は、もういない。
「くそー、どこだ?」
「羽根を休めている痕跡を探すんだ、それさえ見つければ……」
そんなことはどうでもいいのだ。
今の私は、逃亡者であることが、全てなのだから。
私はわざと痕跡を残したあとに、これまでより早く移動する。
脳無しのやつらなら、こうでもすれば撒けるだろう。
「本当に痕跡なんかあるのかぁ?」
「諦めるなよ、俺達から炎がなくなっちまうんだぞ!?
俺達ももっと熱くならないと、見つかるわけねぇよ!」
「でもよぉ」
数刻前からずっと、私は森に逃げ込んでいた。
最悪、森を全て燃やしてしまえば中にいる追っ手は皆始末できるから。
しかも私は"火"の妖精。
そのくらい、造作もない事。
……でも、森を燃やしてしまえば自らの位置をばらすようなもの。
それゆえに、今こうしてかくれんぼまがいの事を続けているのだけど。
「おお、痕跡が!焦げた葉っぱがあるぞ!」
「でかした!つまりこの辺に隠れてるんだな!」
ああ……脳無しで助かった。
私は、ホッと一息をつく。
そして、安堵により一瞬隙を作ったことに気づき、
首を振って私は再び足を進める。
前後左右上下360度の警戒をしなおして、私は逃げるのだ。
ふと、逃げながら、考えることがある。
……なぜ、私達だけがこんなに苦しまなければならないのか。
……なぜ、私達だけが消し去られ、何もかもを奪われなければならないのか。
……なぜ、
妖精と言う存在を、消し去る必要があったのだろうか?
……と。
この思考を行うたびに、
理不尽な怒りが心に燃え上がる。
なぜ、私は逃げなければならないのか。
なぜ、皆は殺されなければならなかったのか。
全く理解できないし、できる気もしない。
世界の全てが私達を見放した。
そうとしか思えない悪夢の中に私はいるのだ。
救済の手など、全く見つからず、
待つのは、絶望へと導く悪魔たちの魔の手だけだ。
今はやや遠くなったその魔の手の主達だが、いずれ気付くだろう。
そんな悪夢の中で頼れるのは、自分だけだ。
私は強くならなければならない。
その為に、失った仲間たちの分まで、
誰よりも強く輝き、激しく燃える炎を我が身に宿すまで、
私は逃げよう、誰も来ない場所へと。
私には一つだけ、誰も来ない場所に心当たりがあった。
……その私の視界の先には、噴煙を高々と放つ火山。
私は、そこを目指していた。
そこならば、誰も近づけない。
見つかったとしても、そいつが生きては帰れない。
そして、そこで時を過ごすことで、
私の中に潜む火山が
大噴火を起こせるようになるときを信じて、
私は、再び火山を目指して、森の中を逃げ回る。