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受験終わりましたので、もそもそ更新していきます
目を開くとさっきとは違った光で視界は満ちていた。
今度は目に痛い。眩しくて目を細めた。
身じろぐと背中に硬いものが当たる。私は驚いて体を起こした。
ちゅんちゅん。
………。
森だった。まごう事なく森だった。
遠くで鳥が鳴いている。私が寝ていた所はちょうどポッカリと木々が抜けた広場のようなところだった。
「な、ここ、え、なに」
昼間なようで、太陽は真上から容赦なく照りつける。私が病み上がりなことなどお構いなしだ。
取り敢えず私は手足が動くことを確認して木陰に移動した。
こんな時にまで「日焼けが…」とか思ってしまうのは悲しき女子高生のサガだ。
木陰に腰を下ろして私は混乱した頭のままなんとかこの状況を咀嚼しようと思った。
…………無理だった。
そもそも自分の記憶が正しいのかも怪しい。えっと、私って事故にあったんだっけ?森に遠足にでも来てたんだっけ?
私は立ち上がった。ふらつくかと思ったけれど、そんなことはなく足はしっかりしている。走れと言われたら難なく任務遂行できそうだ。
記憶によれば私は死にかけたはずなのに、こんなところでも女子力を発揮できないなんて、私はつまり一生それを手に入れられないということだろう。
私は暗闇の中に立つ痩身の黒い長髪を思い出した。
桐儀さんを含め、朝からどうも私の人生に起こったことのないことが立て続けに襲いかかって来ている。これもそうなのだろうと私は無理やり納得したことにした。
あくまで「したことにした」だ。
じゃないと私は永遠にこの場から動けなさそう。うん、納得納得。ソーイウコトネー。
ぐるりと辺りを見回して「すいませーん、誰かいませんかー」と声を上げてみた。
やる気があんまり感じられないのはさっきの経験からだ。
正直、状況がわからず誰もいない見知らぬ場所に放置されているという点では先程の暗闇とさして変わりはない。前例通り、誰の返事も返ってこない。
「わけがわからん」
結局これに落ち着く。
遭難したときはむやみに歩き回らない方がいいというが、自分の状況が果たして遭難に当てはまるかは甚だ疑問なので私は取り敢えずそのあたりをうろついてみることにした。
荷物は何も持っていなかった。散らばったのかと少し探してみたが何もなかった。化学の教科書とおさらばできてせいせいだ。財布はお小遣い前でほぼ空なはずだ。幸運、幸運。
何事もポジティブに考えろ、というのは母の口癖である。あそこまで楽天的にはなれないが、あながち間違いではなかったのだと今知った。足取りは思ったより軽い。
「…ん?」
しばらくそんな風に歩いていたら泉のようなところに出た。
「池か?」
池と泉の差はよく分かってないが、とにかく水だ。覗き込むと澄んだ水の底が見えた。
流石に飲むのは危ないかもしれないが、顔を洗うくらいはいいだろう。
私はリフレッシュの意味も込めて冷たい水に触れようと泉に手を伸ばした。と、
「おい」
そんなに大きな声ではない。後ろから声をかけられた。
びくりと肩が跳ねた。大きな声ではなかったのだ。そのはずなのに、世界でまるでそれ以外の音は消えてしまったかのような錯覚を覚えた。
私はゆっくりと振り向いた。しゃがんだままの体制だったので、目の前は後ろの人物の足元だった。こんなに近くに人が来ていたなど全く気付かなかった。
「何だ、お前、何故ここにいる」
その人が私に視線を向けていることが分かる。私は何故か顔を上げれなかった。目の前の足を見つめる。着物に草履を履いていることは分かった。
頭上から舌打ちが聞こえた。おそらく、全くそちらを見ない私に苛立ったのだろう。
「おい」
苛立ちを隠さない声が私の中をザワザワとさせる。すると首元が急に締まった。
「ぐえ」
予想だにしない出来事にカエルが潰れた時の方がまだ可愛いだろうという声が漏れた。首根っこを掴まれて立たされたのだ。
おおう、かかとついてない、かかとついてない。死ぬ、死んじゃう、いや、一回死んでんだけど。
私は若干渋々目の前の顔と目を合わせた。そこで、息を飲んだ。
美形さんだ。すっごい美形さんだ。というか外人さんだ。
髪と瞳の色は日本人には見られない色をしていた。
真っ白な髪に緑の瞳をした彼は私の顔を見るなりその綺麗な眉を顰めた。
「お前…」
中性的な容姿の割に声は低音だ。彼はパッと手を離した。拘束からの突然の解放によろめく。
「お前、何故」
ここにいる理由だろうか。何故、と聞かれると困る。なにせ私にも分かっていない。
「えーっと、説明すると長いというか面倒くさいのですが」
「桐儀に会ったのか」
知った名前が出てきて、私は目を見張った。
「は、はい」
彼は私の言葉を聞いて二歩、後ろに下がった。
そうして絞るように「ふざけるなよ」と言った。