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カッ素い宇宙転生

作者: 枯木田万流
掲載日:2026/05/31

 補助記号:◎話数、○●天、□■地、△▲▽▼人神視点◇◆亜空間。 【最重要読書前注意&要覚悟事項】:本作には地の文が皆無で動きは重視しておらず、表現不可避部分は台詞に()等で無理矢理詰込んでます。許容して読める方のみお進み下さい。途中離脱か読後後悔で人生時間を奪った際はご宥恕賜りたく存じます。4部構成第1部です。タイトルは転生(てんしょう)と読みます。それではどうぞご高覧下さい。

 ◎ 第1話 過っ疎編 ◎




 ○ 夏のとある日の昼前 ○

 □ 大阪のどこかの田舎の神社の境内 □

 △ 現代日本の女子高生 △


「はぁ~あ、過っっっ疎!!」

『!?!?!?!?!?』

『……???』

「過っ疎いわぁ過疎ってはるわ。自分探しの旅は田舎の牧場に行くもんやとかオカン言うとったけど、時代が違うんとちゃうの。そう思わん? ねー神様」


「あっぢぃ~(暑)」


「あっつ過ぎで何も考えられん。過疎り散らかしてる」


「つーかほんまにコンビニないし過っ疎いわぁ」


「あーあ学生鞄で来なきゃよかった。無駄にノートとか入れっぱで邪魔やし重いしで最悪や!」


「はぁ(溜息)。こんな過っ疎いところにプチ旅行に来た程度でな、人生変わらんて。神様だってよう分かっとる」


「あの、すみません……」

「ひっ!?」

「あ、驚かせたようで。すみません」

「いえいえ、こちらこそ誰もいないって思い込んでたから。すんませんね」

「本日はこの水配捲(みずくばりまくり)神社に御参拝でしょうか?」

「あっ、そうですけど。ちゃんとお賽銭(さいせん)入れてますよ」

「ありがとうございます……」

「いやぁとっても静かでいいとこですねぇ」

「そうですね……ここは確かに過疎化が進んでますが、地域全体が一丸となって盛り上げようと取り組んでいるんです」

「! いやいや、そーですよね。あの、私が何かさっき言ってるのはその、深い意味はないんですよ、別に。あはははははっ……(汗)」

「…………」


「ところで、あちらの荷物は……?」

「あ、私のです」

「あの石は当神社の御神石(ごしんせき)でして」

「えっ? 親戚?」

「神石です。神の石です」

「えっ!!(驚)」

「ですので鞄を上に置くのはご遠慮願えますか……?」

「あっはい、すみませんでした~今取ります~。ハ、ハハハァ(汗)」

「はい……」

「あの、でもうちあんまり詳しくないんですけど、そんなご大層な岩やったら柵で囲うとか、あのー、あれなんやっけアレあの正月の。そうや! 注連縄(ちゅうれんなわ)ってやつ? あれを横につけたりするもんじゃないんですか?」

「はい、普段は注連縄(しめなわ)をしています、この大きさなので細い縄のものですけど。ところが最近、近所の不良高校生達が境内で馬鹿騒ぎした時に切れてしまったんです」

「えー、それはまたずいぶん災難やったですね?」

「はい。本来は交換する時期は年に一度なのですが、止むを得ず今度新たしいものに取り換えることになっているんです」

「あぁなるほど~、それだったら仕方ないですね。何かそんな岩に見えなかったんですよ正直。荷物置いたり座ったりする用なのかなぁって。まぁ賽銭も入れたんでここはサーセンってことでひとつ。なーんてなあっははははは(笑)」

「そうですか……」

「……(汗)」

「…………」

「じゃ、私はこれで失礼しますね」

「はい、それでは」




 □ 水配捲神社の石段 □


「あの反応と()ぁで察したわ。ぜったい仲良くなれんタイプや。歳近い気ぃしたけどアレ仲良くなるの無理やな」


「えらい美人やけど、なんか丁寧に見下してる気ぃする。なーんか想像してた優しい巫女さんとちゃうわ。()な感じ!」


「ん?」


「何や? あの車の人達……! 何か遠目にイケメン多い気ぃするで」

「うひゃひゃひゃひゃひゃあああああ!!(遠い声)」

「ちはやああああ!! 今日こそいっかな~あ!? 会いに来てやったでちはやあ!! うへははははぁ(遠い声)」

「っ! ヤッバいヤッバいヤバいコレ! ヤバい連中だ!!(小声)」




 □ 水配捲神社の境内 □


「きゃあっ!?(驚)」

「うわっ!」

「いつつつ……ちょっと。何なんですかさっきからあなた! 境内を走らないで下さいよ!! それも前も見ないで、信じらんない!!(怒)」

「ごごごごめんなさいごめんなさい! すみませんでした!(謝)」

「はぁ(小さい溜息)。……何か忘れ物ですか?」

「違うんです、あの、少しのあいだ下の道路の怖い人達をやり過ごしたくって」

「怖い人達……?(訝)」


「!! こっち来て!」

「え??」

「早く! あいつらは必ずここに来る!!」

「えっ、え? ちょっ待っちょっと(驚)」

「急いで!【ピシィ】」

「???【ビシィ】」

『!!!!!』

『!!!!!』




 □ 水配捲神社の社務所1階 □


「ここって?」

社務所(しゃむしょ)

「シャムショ?」

「私一旦窓全部鍵かけて回るから、2階に上がってて。静かにね」

「はい、はい」




 □ 水配捲神社の社務所2階 □


「窓に気をつけてね」

「はい、でも多分向こうからは見えへんと思うけど」

「最近2階はいつもカーテンかけてるの。こういうことがあるかもって思って」


「ひゃああっほおおおおおおう!!!! えぇか? SNSにアップする用やからな、超絶かっこよぉ撮れやこの俺様の雄姿を!!!(遠い声)」

「それでかっこよさ求めんの無理くねギャハハハハハハハ!!!!(遠い声)」

「きっしょ……マジなんこいつら……(引)」

「あなたスマホ持ってる?」

「もちろん。こっちも証拠映像撮影する?」

「それもいいんだけど、ここって圏外?」

「電波あるよ」

「良かった! 今ここ固定電話が故障してて使えないの。あいつらが無理矢理侵入しようとしてきたり、社殿に放火とか一線越えてきたら警察に通報して」

「放火!?」

「シーッ(小声)」

「ごめんなさい(小声)」


「放火がどんだけ重罪か、いくら非常識の迷惑系でも分かるっしょさすがに」

「いいえ、あいつらならやりかねない。このあいだ注連縄を焼いて切ったのもあいつらだから」

「……確かに度を越してるわこれ。ドン引きや」


「あのさ、もし神社じゃなくてこっちに放火してきたら、二階にいるとこれかえってヤバない?」

「そこの勝手口から裏の坂道にすぐ出られる。いざとなったらね」

「なる。オッケー」


「あの、巫女さんのスマホって?」

「ここの宮司は厳しくて、バイト中は神域(しんいき)である職場には持ち込み禁止なの」

「あっバイト……」

「気をつけて!(小声) 極力カーテン揺らさないように」

「ぁぃ(超小声)」


「てゆーかさ、思ったんだけど。あれもう悪ふざけってレベルじゃないし、明らか一線越えて犯罪やで。今すぐ110番してもえぇんちゃう?」

「! 確かにそうなんだけど……」

「うちが今掛けたろか?」

「いえ……それはちょっと。待って下さい」

「そう?」


「あいつらやっと車に乗って行ったみたいだよ!」

「……もう出ても良さそうね」

「こっち来なくて良かった~(安堵)」

「えぇほんとに」




 □ 水配捲神社の社務所1階 □


「行ったふりして戻ってくるとか、ないと思うけど一応警戒して静かにね」

「分かった」

「仮に車が戻ってきたら、一見警察に電話してる感じ出しといてもらえると助かります」

「了解や」

「私ちょっと掃除がてら、(ほうき)で武装するわ」

「これがほんまの武装ほうきや……ってな!」

「…………」

「ごめんなさい。今の無しで」




 □ 水配捲神社の境内 □


「うわぁ~、マジでひっど! ひど過ぎやんかこれ。信じられへん」

「え――」

『――――』

「やっぱ今からでもさ、掃除する前に警察に連絡した方がえぇんとちゃうの?」


「?(振り返るが誰もいない)」


「巫女さん?」


「…………」


(あの建物に戻ったんか?)


「あのー! あんまり大声出したくないんですけどー! ……掃除するんじゃないんですかー??」


(でも何か、すぐ後ろにおったような気がしててんけどな???)


「あの! バイトの巫女さーん?」


「……。もぉえぇ! 何や、失礼なやっちゃ! 急にいなくなることないやんか!!(怒) いや助けてもらっといて何だけど。少しは挨拶するとか何とか、あるんちゃうの、こーゆー縁があったんならさあ!?」


「ちょっとだけ仲良くなれそうかもと思ったのに、やっぱり勘違いだったわ、はぁーあ。相性わっる!! もしクラスメイトやったらぜったい友達んなれん。タイプ相性的に」


「うわ……あいつらマジもんのアレや……遠くからでもうせやろと思ってたけど、マジやったわ賽銭箱にこれ……胸糞わるっ!!(超不快)」


「でもうちには何も出来ひん……だって当の神社の人に通報もすんなって言われたし……それに中途半端にアレしても現場がな……すんません神様……(一礼)」

『…………』

『…………』




 □ 水配捲神社の石段 □


「待てよ!(閃)」

『?』

『?』

「よく考えたら現場保存とか指紋とか気にする必要ないやん。あいつらSNSに上げるとか叫んどったし、勝手に炎上して逮捕されりゃえぇんやし。神社の人も通報するか分からんけど、うちも証拠映像一部始終撮っとるしな」




 □ 水配捲神社の境内 □


「ちょうどえぇところにホースあるの目に入っとったんよな実は(嬉)」

『! ……』

「~♪」

『!!』

「巫女さんのくせに仕事ほっぽってどこ行ったんや? あーあ、うちは何かの縁だと思って一緒に掃除とかしても良かったのにさっ! ふ~んだっ(怒)」


「しかし手では触りたない……水圧流しで勘弁やで。ゴミは後で片付けの人に頼むやで」


「あの賽銭箱だけはどうしようもない……あれはマジで警察案件や。後で神主さんとかが警察呼ぶかもやし、そのままにしとくべきやな。……さて、と」


「ふぅ~! 気持ちスッキリしたな♪ うちに出来ることはこれで精一杯やで! それでは、これにて失礼致します(一礼)」

『…………』

『…………』




 □ 水配捲神社の石段 □


「へ?」

『――――』

「きゃああああああああああああ!! なにこれ!? 誰かああああああああああ!! 助けてえええええええええええ!!!!!(叫)」




 ◎ 第2話 カッ素編 ◎




 ◇ とあるどこかの亜空間 ◆

 △ 現代日本の女子高生 △


「起きよ。人間」

「ん~……!! ゆ、め……?」


「???」


「な、な、な、何やここ!! 浮いてる!?」

(なんじ)平伏(ひれふ)して名を名乗れ」

「きゃああああああああいややああああああああああああ!!? 化けもん!! 化けもんやあああああああああああああ!!!(怯) ※ぬ!! ※される!!」「汝、名を名乗れ」

「ヤッバいヤッバいヤッバいヤッバい!! ヤバヤバヤバヤバ!!」

「汝、名を名乗れ」

「……だだだ誰や知らんけど、この際化けもんでも何でも喋れるならえぇわ!! 助けて! ここどこなんや! 助けてや!!」

「汝、名を名乗れと命じておるのが聞こえんのか?」

「何や、何時何時って知らんけど一時過ぎくらいや!!」

「名を名乗れ」

「おい! 助ける気ぃないんか!? だったら自分から声掛けとんやから、自分が先に名乗りぃや!(怒)」

「……何だと?」

「それが礼儀ってもんやろ化け物!」

「この小娘、もう駄目だな(呆)。やはり罰一等を減ずるのは止めて、ゴミどもと同じ罰を執行してよいかの水素神(すいそしん)よ?」

「プハーッ! まぁまぁ、待たれよカッ素神(かっそしん)。こやつは状況が飲み込めておらんのじゃ、今起きていることがあまりに突然過ぎてのぉ。ただの一般JKじゃしのぉ、すぐに全てを察しろと言うのはさすがに酷じゃてな」


「わしらの存在が何なのか先に説明してやった方が、自分の置かれた立場を弁えてあるべき受け答えが出来るようになるじゃろう。ヒック!」

「お主の星の人間だ。そこは任せよう」

「何や、何の話しとるん、あんたら(怯)」

「ウィー、どれどれ、ふ~むなるほど。伏して聞くがいい、大昨夏未来(おおさっかみらい)よ」

「!?」

「わしはお前が生まれた地球を含む宇宙のあらゆる文明を統括する、お前達日本人の言葉で呼ぶところの神という者じゃ」

「神? ……神様? マジもんの神様?(驚)」

「左様」

「あの神社の神様?」

「ブフーッ! 違うわい、笑わせるでないぞ噴き出したではないか。あの(やしろ)にはたまたまおっただけに過ぎぬわい。フォッフォッフォ(笑)」

「じゃあもしかして、宇宙を創ったっていう、あの神様ですか?」

「いや、それは違う。わしは創造主ではない。その代理者といったところじゃ。お前達地球人類の様に文明社会を築き上げ、星から出ることを考える程の技術を発達させた者どもの管理や監視を任されておるのじゃよ」


「グビッ! まっ! いちいち宇宙の創造主の代理者などと呼ばれるのも面倒じゃからのぉ、【水素神】と呼んでもらっても、わしとしては一向にOKじゃよ。フォーッフォッフォッフォ♪」

「水素神……様? 水素の神様?」

「違う違う。神世(かみよ)における通称、お前達が同年代の親しい間柄でよく使う、あだ名というやつじゃよ。わしの宇宙には水素が多いからの、他の神々からはこの宇宙は【水素宇宙】と呼ばれておる。人間が名付けた水素という言葉を、地球語で話す際は便宜的に用いておるわけじゃな。真の名は滅多に名乗るもんでもなし、そもそも通常は呼び名に使わん上、長ったらしいときてる。全く不便で適わんからのぉ」

「はぁ……」


「!! まさか……私ってまさか、今! 魂の状態ですか!?(怖)」

「安心せい。心身共に生きておるぞ」

「ほっ(溜息)。良かったぁ……」


「あの、水素神様が私をここに呼んだのですか?」

「呼んだのはこちらの方じゃ。通称【カッ素宇宙】という別の宇宙においてそこの星々の文明を司る、わしと対等の神じゃよ」

「別の宇宙……?????」

「さっさと名を名乗らんか小娘」

「……いやさっきこっちの神様、名前言うとったやんか(小声)」

「何だ? 神が人に名を聞いておるのだぞ!! はっきりハキハキと答えんか!!(大声)」

「大昨夏未来です!!!(大声)」

「よろしい。我が友神(ゆうじん)から紹介のあった通り、我は汝から見て別宇宙の神。【カッ素神】とでも呼ぶがいいぞ」

「はぁ……カッ素神、様?」

「うむ。ここは我等宇宙の主神(しゅしん)が作りし亜空間、宇宙と宇宙の通り道じゃ。ところで我等が神と知ってまだ平伏へいふくせんで通すつもりか? 人間の小娘よ」

「いやあの、そんなん言われても私これ、体勢が全然制御出来ひんのやけど。どうすればえぇんですか」

「ふん! もうよいわ、ならばその姿勢で聞くがいい。これより汝に神罰(しんばつ)を下す」

「シンバツ? シンバツって何ですか?」

「日本人には天罰(てんばつ)と言った方が分かりやすいかのぉ」

「て、天罰ぅ!? 何で私が!?(驚)」

「小娘よ。汝が罪、身に覚えはないか?」

「ないです! 私、神様に罰せられるようなことしてません!!」

「ほーお。これはまた威勢よく言い切ったなものだな?」

「あっ!」

「お? 思い至ったのか」

「まさか、あの大切な岩だと知らなくて、上にこの鞄置いちゃったこと……?」

「鞄?」

「それは無関係じゃよ。あぁいった人間が自分達で崇拝し出した自然物は、それぞれ土地の社の神が司っておるか、あるいは土着の神が宿っておったりする。わざわざわしらが直接罰を言い渡すような次元の話ではない」

「そうですか(安心)。それが違うんなら、私にはもう思い至らないです」

「本当かのぉ?(疑)」

「本当です!」

「本当の本当か? 嘘偽りなく本当だと断言出来るのか? 汝の行いを今一度振り返ってみよ」

「いやいやいやいや、ちょっと待って下さいよ(汗)」


「人生単位の話やったら、そりゃ少しはありますよ、それは。私、聖人じゃないんで。ごく普通に生きてきた一般人やもん、ちっちゃい罪はあるぅ思います。でも神様達にこんな問い詰められるような大罪は犯してません!! それは断言します!! 大体そーゆーのって、人生が終わってからの話じゃないんですか? 私まだ生きてるのにおかしないですか?」

「それはもっともな疑問だな。確かに基本的にはそうじゃ、生存中に審判(しんぱん)はないぞい。基本はな。これは偶然が重なったが故の、例外中の例外中の例外じゃ……ヒック!(酔)」

「例外?」

「人間のJKよ、お前がそこの社で小うるさく独り言を呟いていた時、わしらは久しぶりの再会を祝して酒を酌み交わしておったのじゃ。先程言うた通り、わしは別にそこの社に住んでおるわけではない。ある理由があって地球上の幾つかの候補地の中からたまたま祝宴の場としてそこを選んだに過ぎぬ。こちらの客神(きゃくじん)をもてなす場として相応しい、静かな社の裏側から亜空間を背景にしてな。そこにたまたまお前が現れた」

「はぁ」

「わしら文明を司る宇宙の主神はじゃな、管轄下の人類などの用いるあらゆる意思疎通手段、例えば言語などじゃがな。その全てが即座に統括する神の認識に吸収されて刻まれていくのじゃ。細々と、しかし着実にの。その中でも祈願するに相応しい神聖なる場所から神への声は、他よりはよく届くよう鮮明に聞こえるようになっておる、といっても微差だがの。それでも普段ならば一人の人間がぶつくさ喋っておったところで気にもとめん」

「お主の星の人口密度で人間どもの願い事を全部聞き届けていては、とてもじゃないが落ち落ち宴会も開けんからなぁ。神聖なる場所で人間どもの申請をな? ガーハッハッハッハッハッハァ!!(愉快)」

「…………」

「ところがじゃ。たまたま社でお前が発した日本語が、カッ素神の名を呼び捨てる音と同じであったために、わしらの意識が急に現世(うつしよ)に集中して向けられてしまったのじゃ。これが驚く程に偶然たまたまなんじゃな」

「はあ」

「その時、わしらはたまたま日本の【下級神(かきゅうしん)】であるそこの社の神の接待を受ける都合上、たまたま日本語モードで酒を飲んでおった。つまり従来は担当外である別宇宙の主神として通常、言語変換の過程を要するカッ素神も、たまたま地球人が発する日本語をすぐに耳が拾ってこれる状況にあったのじゃ。たまたまな」

「あのすみませんちょっといいですか。さっきからどんだけ『たまたま』連呼すれば気が済むんですか神様?」

「神の話の途中で口を挟むでないわ小娘。事実そうなんだから仕方なかろう」

「その後、社に不敬極まりない下郎(げろう)どもが、たまたまあのタイミングで訪れたじゃろ?」

「? ゲロー?」

「神に対する敬いを欠くを通り越して、社で冒涜と蛮行を働いた不快な若造4人組じゃ」

「はいはい、いましたいました! 天罰下すってゆーんならあいつらこそ率先して罰して下さいよ!!」

「案ずるでない。水素神の許可を得て、神社を去って少し経った頃合いに我が既に罰しておる」

「あっ、そうなんですか?」

「下郎どもに相応しい虫石器刑(むしいしきけい)を下すこととした」

「む、無意識刑? 無意識の刑?」

「まぁあながち間違いではない、というかそんなようなものだ。【虫石器刑】は人間を虫か石器(いしき)のどちらかを罪人に選ばせて、その姿に変える神罰だ」

「え……」


「虫……????」

「罪人が虫の刑を選んだ場合、例えば4人ならばフナムシ、カメムシ、ゴキブリ、便所虫と種類が被らないように姿を変えた上で、そこらにまとめて放つのだ。もし虫のまま寿命を迎えても輪廻(りんね)を固定しており、必ず同宇宙内で虫に生まれ変わる。そのため魂が消滅することも基本的にない。宇宙の主神の赦しを得られれば人間に戻れるケースもある。もっとも宇宙の主神が『無視』しなければの話だがな。ダァーッハッハッハッハッハ!!」

「…………」

「罪人が石器(いしき)の刑を選んだ場合、あぁ石器(せっき)時代のせっきじゃないからな? 注意せよ。いしき、といって意識を持ったまま生きている石の(うつわ)や武器防具、装身具、道具等に変えてやるのだ。繰り返すがあくまで当人の『意識』は途切れず、魂も消滅せんからな。ブワハハハハハハッ!!」

「…………」

「このように有機物か無機物かを問わず、生物を別の姿に変えてしまう形態の神罰は他にもあるが、それらを総称して転生神罰(てんしょうしんばつ)という。いいか、転生(てんせい)じゃないからな? 輪廻転生(りんねてんしょう)の、転生(てんしょう)だ。ここは致命的に最重要な違いだ。新たな罪を追加されたくなくば努々(ゆめゆめ)間違うでないぞ」

「……(怯)」

「更にだ。今回の場合、我にとって地球は別宇宙に該当するが故、当該宇宙の主神の許可を得て我の宇宙の星に罪人どもをワープ、つまり物質転移させてやることも出来る。これを転送神罰(てんそうしんばつ)という。この2つの神罰は紛らわしい上に複合も可能だが、あくまで別の罰だからな。概念の混同にくれぐれも注意せよ」

「……(怯)」

「ま、我の気分を著しく害したのだ。複合神罰を受けるのは当然の報いよな。我は酒で滅多に吐かんのだがな、久々に吐いてしまったわい。人間のおぞましさを間近で注視してしまったせいでな。そして当然ながら今回あやつら下郎どもに下した【転生神罰】も【転送神罰】も、どちらも水素神の同意を得た上で行った、あるいは行うものだ」

「……(怯)」

「ウィーック。天、つまり見上げれば宇宙の主神の大いなる意思によって虫に変えられる場合もある。これぞまさしく天誅(てんちゅう)というわけじゃな」

「うぬぅ!? さすがは水素神、やるではないか咄嗟にぃ、おぬし!! こっちが真面目に神罰の形態を解説してる時にも捻じ込んでくるとはな! 油断していた、一本取られたわ」

「フォーッフォッフォッフォ!! 愉快愉快(笑)」

「…………」

「とまぁこのように。我が作りし亜空間、いや穴空間を通って送ってやれば、虫ですら安全に、生きたまま別の宇宙の星に移動することも可能なのだ。これがほんとのワームホールってところだな! ブワハハハハハハ!!」

「おぉ! すかさずやり返してきおったな! 不覚じゃった、すぐにきよるとは!! 今のはなかなかの傑作じゃのおカッ素神よ!! わははははははは(笑)」

「そうだろうそうだろう! ガーッハハハハハハハハ!!」

「…………」

「コホン。さて、わしからも話の続きじゃが。大昨夏未来。お前、下郎どもに見つからぬように、社の巫女と共に一時的に社務所に逃げておったな?」

「はい……そうですけど……?(怯)」

「その時、何かを踏んで壊したことに覚えはないかのぉ?」

「壊した……?」


「そんな覚えないですよ一切!! 色々ぶっ壊してたのはあの男4人組ですよ? 何か勘違いされてはるんとちゃいますか? ちょっと待って!? 何か、冤罪じゃないんですかこれ、私!?」

「ホレ、わしの言うた通りじゃろ? 本当に気付いてない反応じゃないかのぉ? カッ素神よ」

「ふうむ。だが水素神よ。小娘が遠くから撮影しとったのはどうだ? あの行動は思わず通神発石(つうしんはっせき)を壊したのを誤魔化すため、ごみ虫下郎どもの蛮行にまとめて罪を被せてしまおうとした行為と捉えることも可能ではないか?」

「ちょっと待って下さい一体何の話ですか? 私があいつらをスマホで撮ってたのは、巫女さんと相談して、神社で暴れ回ってる様子を証拠を取って、安全を確保しながら必要があれば警察に提出可能にするためですよ!! 私はあいつらが確実に捕まるようにって思って!」

「なるほどのぉ。……ヒック! ほれ、これじゃ」

「??? なんですかこれ?」

「巫女とお前が慌てて逃げる時に足で踏んだ縁石の中の1つじゃ」

「エンセキ?」

「境内の道の仕切りの石じゃ」

「はぁ……。それが、何ですか?」

「これは【通神発石】といってな、わしらと同格同種の神で組んだ宇宙間同盟の証として使っている特別な神器(じんぎ)なのじゃ。差し詰め人間が使う通信機や位置発信機の神世版というところじゃな。同盟の象徴的意味以外では、宇宙と宇宙の神々を繋ぐ目印のような役割、そのまま通信機としての役割、設置してある地域で信仰される礼拝所や神域の下級神や【土着神(どちゃくしん)】にとって目印になる役割と、わしら宇宙の主神から発された命令を受信させて正確に伝達する役割、そして域内の神々の【悪神化(あくしんか)】を抑制し、【善神化(ぜんしんか)】を促進する役割があるんじゃな。どうだ、多機能じゃろう? ……その話題が出たところで丁度いい、この酒の追加を頼めんか、あればでいいんじゃが社の神よ。思いのほかコレが一番気に入ってしまってのぉ」

「ははぁっ! ただいまお持ち致しました。ここに!」

「おぉ仕事が早いのぉ、無理を言ったと思ったら、取り寄せずにもうあるとは! 苦しゅうないぞ(嬉)」

「御誉めに預かり光栄至極の至りに御座いまする」

「…………」

「さてと。つまりじゃな。現世(げんせ)には建築物の石の形で紛れ込ませるように神社や教会、神殿といった礼拝所やその他各地の神聖な場所にこれを設置しておるのじゃ。大抵はそう簡単に人間に触れられんよう、地下とか柱の中とか壁の中とかにするんじゃが、難しい場合は廊下の一部とか庭石とか違和感のないように目立たず、さり気なく置くんじゃよ。もっともこれは縁石タイプで小型軽量じゃからな。カバーする地域の範囲は広くないがの。小さな社にはちょどいいじゃろうて」

「…………」

「ほれ見てみぃ。ここじゃ。この通り、真っ二つに亀裂が走っとるじゃろ」

「はぁ」

「お前が踏んだ瞬間、この石の機能が停止したんじゃ」

「知らん知らん知らん知らん!!(汗) そんなん知りませんて神様!!」


「だって私、神社の巫女さんに有無を言わさず退避させられたんですよ!? 踏んだとしたって私から踏もうと思って踏みに行ったんじゃありません!! それに大体そんな紛らわしい場所にあって、それを踏んだとか言われても困りますよ! すんごい思いっきり蹴っ飛ばしたとかならともかく、私の体重で踏んでヒビが入るって!! そんなに脆くて、しかも貴重なものをそんな簡単に人間が触れる場所に置くなんて、おかしいんとちゃいますか!! 神輿(みこし)担いでる人が踏むとか、工事の業者の人が壊しちゃうとか、子供が石の上で走って遊んでて壊れちゃうとか、色々可能性あるでしょ! 危ないやないですか!!」

「うむ。わしに不用意な点があったことは認めよう。勿論お前が決して故意にこれを壊したのではないことも分かっておるし、考慮に入れようぞ。過失による損壊、それも下郎から逃げる時に意図せずして踏んだ、不可抗力に近いものじゃからの」「はい……私が踏んだ時に壊れてしまったなら、それはごめんなさい。謝ります」「ふむぅ……ウィック! ……ということじゃが、カッ素神よ? どうじゃ?」

「考慮に入れた上で赦さん!!!!! 我は汝を罰する!!!!!」

「何でや!!!!!」


「どっから結論出したらそーなんねんな、おかしいやないですか!?」

「せっかくの宴で良い気分に浸っておったのに、やたら独り言が五月蠅い通りすがりの小娘と、畜生にも劣るゴミ虫害虫未満のドブカス下郎どもの馬鹿騒ぎに気分を害されて吐いたからだ!!!!!(怒)」

「馬鹿騒ぎって、あいつらの行為と私関係ないじゃん!!」

「そして知らず知らずとはいえ、汝は通神発石を踏んで壊した!!! 主な罪状は【神器過失損壊罪】!!! しかも知らぬこととはいえ、汝は主神である我の名を侮辱的に呼び捨て、我の怒りを買った。本来は主権者である水素神が裁くべきところ、主神間合意の上で司法管轄権が部分譲渡された。よって我が判決を言い渡す。有、罪!!!!!」

「はあああああ~!?」

「次に我が汝に刑事神罰の種類を申し渡す」

「刑事罰ぅ!?」


「異議ありや!! うちオトンから聞いたことあるで! 器物破損はわざと意思を持ってやった犯行の場合だけ刑事で罰せられるんや!! うちのは故意やないで!!! 過失や! その過失も正直不満やし管理責任問題で争いたいけど、強いて挙げれば過失責任だけやで!! つまり裁判になるとしたら民事だけ、あるとすれば弁償問題、損害賠償訴訟だけのはずや!!」

「訴訟だと? ……まず汝は最初に根本的な認識を正すことから始めよ。神の裁きは人の裁きの法手続きや法概念と全く異なるルールで行われる。更に言えば我等神が人の作った法ごときに縛られることなど在り得ようはずがない。過失だろうが無知だろうが偶然だろうが不可抗力だろうが、我等神々が処罰すると決めたら汝等人はただただ一方的に処罰されるのだ。もっと言えば神器損壊の大罪と人間世界の器物損壊を一緒にしている時点で不敬に気づいていない罪が汝には既にある。罪状に追加しておくぞ」

「そんなん周知されてないのに、不条理や!! ちょっとこれ以上はもううち黙秘権を行使します、先に弁護士呼んで下さい!!!!」

「おぉいいぞいいぞ構わん。いくらでも自分で勝手に黙秘していろ、これは取り調べでもなんでもない、もう結審しているのだ」

「なっ……!!」

「そうそうそれから先程の汝の主張の後半部分だが、神の裁きにいわゆる民事などはないぞ? そもそも人間ごときの財産で本物の神器を弁償出来るはずがないわ、おこがましい。地球の全人類が全財産を差し出しても修理代の足しにもならんし、新品に交換など思いもよらん。同様の理由で罰金刑もない。神器損壊罪にその星の人間界でだけ流通する金銭を神に支払う等の行為は何の意味も成さないし、償いの代わりになどならない。良かったなぁ人間の小娘よ? 汝は破産することも借金することもない。それからな、神の裁きに弁護人など最初からいない。よって弁護士費用を心配する必要もないし公選弁護人もいない。人間はそれぞれ神の審判を受け入れるのみ、ただそれだけのこと」

「もおさっきから神様の説明、くどい!!!!!」

「くどいだぁ!? 我が汝の頭でも理解出来るよう特別に懇切丁寧に説明してやっておるのに、この小娘!!!」

「くどいだけじゃない! 内容も一切、全部、何一つ、納得でけへん!!!!!」「汝の納得など、不要!!!!!」

「私、断固抗議します!!」

「ムニャムニャ……酒と言い合いで、頭が痛いわい……いいかい、よく聞きなさいJKよ。この通神発石はのぉ、同盟の証として今回カッ素神が持ってきた通神発石と交換の儀式に用いる予定だったのじゃ。そして同盟の共有財産であるが故、他の対等な神々の手前、お前を罰しないわけにはゆかぬのじゃ……ファ~ア(欠伸)」「そんなのそっち側の事情やないですか神様!! 大体、そんな決まりがあるなんて人間には知らされてないんでしょ!? そんな文章にもなってない、明示もされてない見えない神様の法律であやっふやに裁かれるなんて、冗談きついですわそんなん!!」

「黙れ小娘!! 大人しく黙秘していろ! いいか公布もなければ施行もない、人間の法律の在り方など我等神々には無関係、それが神の法だとさっきから言っておろうが!!!! 我らが裁くと決めたらただただ一方的に裁くのだ、分かったな!!!!!」

「分からんわ! そんなん理屈通ってへんもん!!」

「しかしながらあ? 無意識下の過失であること。通神発石の置き所がまずかったことを水素神も認めていること。そして神社を荒らした腐臭漂う不快害虫にも遥かに劣るド腐れ最底辺のドブ川下郎カス太郎4匹とは無関係でありながら、進んで水を撒いて(けが)れを少しでも落とそうとする等の善行にかろうじて及んだこと、諸々の事情を勘案し。情状酌量によって罪一等を減じ、最終的に神罰の形態を決定。申し渡す!!!! 虫や石器の姿に変える転生神罰は行わず、人間のまま我の宇宙の星に飛ばす、転送神罰のみとする!」

「何やそれぇーっ!! 情状酌量してそれ!?!?!?」

「よいか、勘違いするでないぞ。汝が神社を軽く掃除したところで、圧倒的マイナス値の心証に、ごく僅かなプラスが焼け石に水の如く足されて蒸発しただけの話。依然として大きなマイナスであることに何ら変わりはない」

「そんなのってないですよ! 柵みたいな石を踏んだだけでマイナスって!!! 不当判決です!! 断固として控訴します! 控訴!!!! 控訴審には必ず他の神様を裁判官に担当させて下さい!! あと公平中立の裁判員か陪審員を複数呼んで下さい、それから傍聴人と法廷記者を呼んで衆人環視にして!!!! 密室裁判やめて下さい!!!!!」

「宇宙の主神の判決とは即ち人間に訪れる最終審判。控訴先などない。そのやたらと反抗的な口調と態度でやかましく喚き散らすのも、我の心証を著しく悪化させているマイナスポイントだと思え」

「やかましいったって仕方ないじゃないですか!! だって黙ってたところで知らない宇宙に飛ばされるんでしょ!?」

「その通りだ。黙ってようが黙っていまいが、汝はこれより我の宇宙に飛ばされるのは決定事項。観念せよ」

「そんな……!!」


「…………」

「このブレスレットを2つ貸与する。装着せよ」

「……何ですかそのゴツい腕輪」

「案ずるな。見た目と違って非常に軽い。普段から身に着けていれば体の一部のように感じられ、あえて意識しなければ忘れる程になるだろう」


「まずはこれが【通訳ブレスレット】だ。右腕にせよ。触れているあいだ我の星のどの時代、どの地域、どの言語の人間とでも意思疎通が出来るようになる。これの特長は己が普段使っている言語に文字があれば、認識している範囲内で文字のイメージすら浮かんでくるという優れもの。それも互いにな。しかも相手の発した言語に当てはまる言葉が即座には見当たらない場合、自動的に脳内音声変換で意訳されるのだ。とはいえこの個体は我が作ったばかりの意欲作だが試作品だ。何せ水素宇宙と我の宇宙のあいだの転送神罰は初の事例だからな。最初は通じにくい部分も多かろうし、伝わらない場合単に発音のみで聞こえるだろうが、学習機能も備わっているから段々と性能が向上する。だから暫くは多少つっかえるのは辛抱せい。但し文字の翻訳は出来んからな。あくまで音声の自動脳内通訳機能だけだ」

「…………」

「次にこれを左腕にせよ。【神託(しんたく)ブレッスレット】だ。これも水素宇宙出身の人間用についさっき新品を作った。我等と汝との通信用だ。その場にいる他の人間には我等の声は聞こえず、汝の脳内にだけ聞こえる。つまりいちいち亜空間に移らずとも直接神命(しんめい)を伝えることが出来るわけだ。但し話をするのは我等が用のある時だけだ。人間から我等を呼び出す行為などは到底許されんからな、くれぐれも気をつけい」

「…………」

「どちらも汝の身体に触れていないあいだは効力はない。また、我の星の現地の者どもには触らせても効果はないが、もし誰かに奪われたところで我は一切関知せんし、失くした状態で再度貸したりもせんからそのつもりでな。一応、色や模様、装飾が地味なのは現地住人の目線で高価に見えないよう、あえてそうしてやっているのだ。生き延びたくば噛り付いてでも手放すでないぞ」

「…………」

「我の星で罰をその身に受け、反省し悔い改めながら過ごすがいい」

「あの……ひとつ聞いてもいいですか?」

「何だ。この期に及んでまだ問答する気か」

「期間って?」

「期間?」

「どのくらいの期間、その星にいればいいんですか? 私、今小旅行してるんですけど、明日は祝日やからまだいいですけど、明後日ぐらいには帰るか家に連絡するかしないと、さすがに親に心配されるんですけど。いくら夏休みだからっていっても、ただの高二の未成年やから」

「決まった期間などない」

「え」

「そうだな、量刑の側面から定義するならば【別宇宙無期滞在刑】、とでも表現してもいいかな」

「無期……刑?(青)」

「そうそう今ので重要なことを伝えねばならんのを思い出したわ! 我の星の一日と地球の一日はな、全く回転時間が同じなのだ。だから体感時間は変わらんことになるだろうが、この亜空間を一瞬で通り抜ける代償として、我の星の約一日が地球では約一時間に相当するからな。結果的な時間の流れ方の相違を頭に入れておけ」「…………」

「じゃ、送るぞ。水素神よ?」

「Zzz……Zzz……(眠)」

「何だ。さっきから黙ってると思えば、すっかり酔い潰れておるではないか。しょうがない爺さんだのお、肝心な時に」

「ウソやんねこれ……?」

「ん?」

「エイプリルフールは何ヶ月も前に終わってるんやで? 大概にしとき?」

「…………」

「なんかのテレビ番組のドッキリなんでしょ? あんさんらは気ぐるみとちゃうなそれ、どんな最新技術かハリウッドの超技術借りてんのか知らんけど、無駄使いしとるで。声の人は近くにいてはるの? 迫真なのはえぇけどやり過ぎやで。ちょっと後で駄目出しさしてーや」

「…………」

「どっかにカメラあるんでしょ? カメラマンさーん? あっ! もしかしてこの大掛かりな仕掛けって! 東京の方のテレビ局? もしかしてうち全国放送出れるんです?」

「…………」

「すみません、一旦いいですか? ちょっとこの無重力装置切ってくれます~? そろそろ地に足つけたいですー、この体勢疲れたしスカートもコレずっと気になってるんでぇさすがにー(恥)」

「…………」

「責任者の方おる? ディレクターさんでもプロデューサーさんでもえぇ、出てきてや! うちはプロの芸人さんとちゃうんや! テレビに出れるのは悪くないけど素人にこれ以上のリアクション求めんといて!! 限界や!!」

「…………」

「わっる! わっるい企画やで素人騙してほんまに、ちょっとこれあんま言いたくないんやけど、さすがに悪質なんちゃいますの? ドッキリの嘘反応でヤラセ炎上したくない制作さんの気持ちは分からんでもないんやけど、現役女子高生にこれは強引過ぎますって! そう思うやろ自分らも作ってて! ほんと良くない、視聴者全員にひかれますよこれ。批判殺到! 逆効果やっ!!」

「…………」

「……なぁ、そろそろ誰か反応せいよスタッフさんさぁ!! いい加減カメラ止めてちょっと!! 撮影止めて!! もうさ嫌がってるの分かるでしょ私!!!! 本気で嫌なんですこの状況!!!!!」

「…………」

「こんなん心臓悪い人だったら、最悪いかれるで? シャレんならんで、どうするんや持病持ちやったら? 何かことが起きてからじゃ遅いんや、訴えられるで? うちだってこれ以上続けるなら告訴するで!? アハッ! アハ! アハハハハハハハハッ!!(乾)」

「…………」

「ハハ……ハハ……ハ……」

「……満足したか?」

「…………」

「いやはや、独り言の激しい小娘だと思って見てはいたが、面と向かってもここまでの妄想癖とはな。もっとも神々を初めて前にすれば無理もない、と言いたいところだがさすがに長いぞ。もういいか?」

「やだ……」

「転送するぞ。意識も飛ばすからそのつもりでな」

「やだ!!」


「ひどい……おかしい! こんなん理不尽通り越してる! そっちの神様、えーとあのー、水素神様!!! 起きて下さい!! 助けて下さい!!!」

「起こしても無駄だ! この処罰は我等宇宙間で同意済みのこと。いい加減に観念せんか小娘! いつまでもごねるでないわ!!」

「何がごねるや、ふざけんな!!(怒)」

「何だ小娘??? 神に向かってその口の利き方は!!!!!(怒)」

「これは正真正銘の犯罪やで、この飲んだくれ犯罪者ども分かっとんのか!!! 未成年者略取誘拐罪やで!? 重罪や!! 刑罰受けるべきなんはあんたらなんやえぇ歳こいたじじい犯罪者どもが、大概にせえよ!!!!!(激怒)」

「たかが人間ごときの法を宇宙の神々に適用しようとは何たる不敬!!! これはもはや強制転送待ったなし!! そおおおおおおおおおれ飛んでけえええい!!」「いややああああああああああああああああああああああああああああああ――」



 ◎ 第3話 カッさん編 ◎




 ● 別宇宙無期滞在刑初日目の夕方 ●

 ■ どこかの浜辺 ■

 ▲ どこかの誰か ▲


「うっ!?」


「何だこの薄汚い虫どもは!! っっ(ガッガッガッガッ)!!」


「フゥーッ……。全く気色が悪い(蔑)」


「神の怒り以来、この辺じゃ見かけない虫が出るようになったな。これも天変地異の影響で夏が長くなったせいか?」


「ん……?」

「…………」


「この珍妙極まりない服装……どこの異国人だ?」

「ぅ……」

「! 息がある!」


「僕の声が聞こえるか?」

「う……」

「大丈夫かい! 君!」




 ● 別宇宙無期滞在刑2日目の昼 ●

 ■ どこかの誰かの家の部屋 ■


「なるほど。君は僕が住む世界とは隔絶した遠くの世界の住人であり、個人的な問題によって神々の怒りに触れ罰を受けることとなり、罪の償いのためにこの世界に送られたと。経緯をまとめるとそういうことなんだね?」

「償いっていうか……。うん、まぁ、そんなとこやな……」

「すまない。ここまで話を聞いてしまってからで何だが」


「その名も聞いたこともない神々は、神々の名や神罰の内容、神々が作ったという通り道と出入り口を通って来たという事実、その両腕のブレスレットのこと」

「…………」

「そして何より君の世界が実在することそのもの、そこで起こっている出来事をだよ。僕のような他人に、つまり君から見て異なる世界の住人に話すこと自体を、君に許可しているのかい?」

「許可……? どうなんやろ、別に禁止とか許可とかなんも言われてへん」

「そうなのかい? 妙な感じだね」

「妙て?」

「いや、どうなんだろうねと思って。普通は話すことを禁ずるものじゃないかなって思ったんだよ、神罰というからには何かしらの禁忌(きんき)によって困難さを増す制限が課されるものじゃないかなって」

「……多分なんやけど、話したところでそんな変わらへんからじゃないですか? どうせ何言っても信じられずに迫害されるの目に見えてますし」

「いやいや、そんな人ばかりじゃないよここは。勿論そういう人もいるけどさ」


「それにしても神々が自ら1人の人間に直接下す程の罰にしてはね。ここで暮らしてゆけってだけなんだろう?」

「うん」

「実際に住んでる僕からするとね、神の怒りが降ってくるとかの苦難はあることはあるんだけど、人類にとってはいつものことだし。そんなに厳罰に相当する程の、地獄のような場所かな? ここで生活することって、と思ってしまうんだ」

「……やっぱり私の話、信じられませんか? カッサンドロップスさん」

「違う違う、そんなことはないよ!(汗) 未来君の着ていた珍しい服装と、片方のブレスレットを外した時の聞き取れない言葉は、明らかに僕達にとって未知の異国人だからね」


「ただ、どこまで大陸を東方に歩いて山を越えて行っても海を渡って行っても、世界の果ての果てまで進んでも辿り着けない場所にある世界から一瞬で来たというのが、例え話ではなく物理的にそうだというのが、ちょっと(にわ)かには信じ難いと感じてしまうだけさ」

「つまりうちの言うことなんて到底信じられへんと」

「困ったなぁ(汗)」

「……ごめんなさい。信じられなくて当然やのに」


「あの、カッサンドロップスさんが住んでるこの世界が地獄のような場所やないっていうのは分かりました。失礼なことを言ってしまってたらごめんなさい」

「いいんだよ! さっきのは僕の単なる感想さ」

「今話してて思ったんですけど」

「うん?」

「私が会ったあの神様が私を罰するっていうのは、こちらの世界の住みやすさがどうこうっていう問題じゃないんやと思います」

「……君にとっては帰れないということ、そのものが何よりの重罰なんだね?」

「そう! そうです……」

「前の話に戻るけど、どうすれば罪の償いが出来るのか、何をすれば赦しが頂けるのか、本当に神々は何も言ってないのかい?」

「うん。無期滞在刑やって言うてただけです」

「ちょっと待ってくれ、まただ! 今の言葉、よく分からなかった、そのムキタイザイケーっていう、単語か熟語か分からないが、ちょっと別の言葉に置き換えてくれないか?」

「何やろ。無期懲役? 終身刑?」

「ムキチョーエキ……シューシンケー……まだ分からない。失礼ながら僕には意味不明な言葉だ。君の世界にしかない、独自の概念を神々が使ったのかな?」

「いや分からへんけど、そんなことないんちゃうかな。何て言ったらえぇんや? 期間を決めてない罰?」

「おぉ伝わった! そういうことか、理解出来た!(喜)」


「罰の期間を決めてない、そう神々は言ったんだね?」

「うん」

「ということはだよ。君は朝、二度と帰れないんだってずっと泣いていたが、実は帰れる可能性はあるんじゃないか?」

「え?」

「ここで過ごす時間の期限を設けないということと、二度と帰さないからここで一生を過ごせということでは、意味合いが異なるだろう」

「何か違うん? それって」

「違うさ。いいかい? 前者は神々が期間を決定していない、それはいつ帰ることを赦す決定をするかも分からない、という意味が含まれるだろう。つまり赦される可能性がある」

「うんうん?」

「対して後者。一生ここで過ごせと命じられたなら、今後も赦すつもりは微塵も無いという宣告だ。生きて帰れないことが既に決定されている。即ち原則として赦される可能性がないということだね、基本的にはね」

「うぅ~ん??」

「僕の言いたいこと、うまく言葉が伝わってるかな?」

「ちゃんと伝わってるで」

「良かった」

「確かに! ……って言いたいとこやけど。正直あの神様、そこまで深く考えてないだけなんとちゃうかなぁ。うちは実際直接会って話してるから。ただの勢いだけで決めてた気もするんや、あの感じ」

「まぁ待って。実は後者の意味だったとしても絶望するのは早計だよ。神々の意思というのは実に気紛れなものだからね。僕達の世界でも、神々の下した神託による最終決定だと思われていた神命やら神勅(しんちょく)やらが、後にその神々の気が変わって変更されるという事例は稀にだがある。いやむしろ結構よくある」

「そうだとえぇんやけどな……(落)」

「神々は未来君にだけ語りかけるという話だったね?」

「うん。でも向こうのタイミングやって話やし、いつなのか分からんけど」

「その時に神々から具体的な償いの実践方法を伝えられればそれでいいし、話がないようであれば君から伺ってみてはどうだい? 何をどう行動すれば赦しを得られるのかということを」

「そっか……。そうだよね! 聞いてみるわ!」

「少しは元気が出たかな?」

「うん! おかげさまで」

「他にも色々気になることは山のようにあるんだけど、まぁ昨日の今日でまだ混乱しているだろうし、一気に質問しても仕方ない。この部屋を使っていいから休んで体調を整えてくれ」

「ありがとう……」

「気が向いたら近くの浜辺を散歩してみるのもいい。但し迷わないように、慣れるまでは僕が案内した方がいいだろうな」

「あの、カッサンドロップスさん!」

「僕の名前、言いにくそうだね。長いのかな?」

「え? はい、まぁあの、正直言うと少しだけ。私の国の言葉では普通の名前じゃないから、どうしても」

「じゃあ、カッサンドロスでいいよ。略して呼ぶとそうなるんだ」

「カッサンドロスさん……あんまり短くなってる感ないな……せや!」


「カッさんって呼ぶ! 自然にさん付けしとるしえぇわ! カッさん、どう?」

「ん?(笑)」

「あれ……ちょっと距離つめ過ぎたかな? 調子に乗って、私……(汗)」

「よく分からないけど異国流の呼び方かな? いいよ、それで僕は」

「やった♪ カッさん、よろしくね!」

「うん! よろしく未来君」

「それでさ、浜辺見るのって今からお願いすることは出来る? 無理じゃなければやけど、確認したいことがあって」

「構わないよ。今、日が明るくて一番良い時間帯だ」

「私が倒れてたってとこに行ける?」

「あぁすぐそこだよ。だけど起きた時に言った通り、僕は君が難破船から漂着したものだと思ったんだ。君をここに運ぶ前に一通り付近を見回してみたけど、持ち物らしきものは見当たらなかった」

「うんでも一応探してみたい」

「分かった。でもひとつ注意しておきたいんだが、この辺は人家がここしかなくて人と会う可能性は低いけど、その両腕のブレスレットのことはもうこの世界では誰にも言ってはいけないし、他人に持たせたりしてもいけないよ。危険過ぎる」

「オッケー♪」




 ■ カッサンドロップスの家の近くの浜辺 ■


「わぁ~!! すごい!! 信じられんこれ、白い砂浜! 綺麗過ぎる!!」

「喜んでもらえて何よりなんだが、この辺りだとそこまで特段に珍しい光景というわけではないよ」

「それがえぇんや! だって誰もおらんもん、もしうちの故郷に突然これがあったら、海岸に観光客大殺到して揉みくちゃんなるで!」

「そうなのかい?」

「まぁ有り得へんけどな、海が仕切りもないのに突然綺麗んなるとか。繋がってんねんから」


「一回来てみたかったんや、こういうとこ! 海外ドラマか映画みたいな世界や!!」

「……ん? 後のほう、何だって?」

「えぇんや、大事なことやない。それより水着があればなぁ。うち海って本来ちょい苦手やねん」

「泳げないかい?」

「身体能力的な意味では泳げるで。プールとかだと泳げるんやけどな。海はよっぽど綺麗で波が穏やかで、あと人が少なくないとキツい。でもこの海は、そのよっぽどなんや!!」

「んー……多分、水泳用の水風呂のことかな……?」

「あれ、プール通じたん? 確かにでっかい水風呂やなプールは。まぁ温水のもあるけどな」

「なるほど。この辺には普通の公衆浴場しかないが、西方の都市には泳げる水風呂もあるという話を聞いたことがある」

「へぇ~、こっちの世界にもあるんやな。でもどっちにしても水着ないと無理や、さすがに裸じゃ泳げん。ちょうどいい暑さなのになぁ、水遊びがえぇとこやな」

「! 未来君!」

「何や? 水遊びしよか?(照)」

「未来君、あれ、あの岩場! あれって君の荷物じゃないのか?」

「えっ!?(驚)」


「ほんまや! うちの鞄や! ありがとうカッさん!!(嬉)」

「どういたしまして……だがどういうことだ? 昨日は無かったと思うんだが」

「暗くて見えなかったんとちゃうん」

「まぁ夕方で日が落ちかけてはいたが、そこまでじゃなかったんだがな」

「あれ……?」

「海水か砂が入ってたかい?」

「いや、それは大丈夫。やけど……」

「だけど?」

「ないんや……肝心の……うそ……うそうそ、うそやそんな!(青)」

「貴重品か?」

「せやで……一番の貴重品や……財布よりも大事な……」


「ない……ない……ないないないないない(焦)」


「スマホだけない!!!!!」




 ● 別宇宙無期滞在刑2日目の夜 ●

 ■ カッサンドロップスの家の居間■


「…………」

「食料品や飲み物を買い置きしておいて良かったよ!」


「さぁさ、未来君。どうぞ。とはいえ料理人も使用人もいない僕の家では、そのまま食べられる食料以外では、下手な僕の手料理でこんなものしか出せないけど♪」

「ありがとう……(落)」

「朝、昼と水とスープしか飲んでいないだろう。異なる世界から来た君の口に合うかどうか、自信はないんだが。少しは何か食べないと、衰弱してしまう……」

「いや、大丈夫です。私の世界の西洋料理とほぼ同じ感じです。美味しい」

「そうか。食べられそうだね。安心したよ」


「そう落ち込まないで」

「落ち込むなってのはさすがに無理な注文や……(落)」


「もし盗まれたんやとしたら」

「いいや。こっちの世界で誰かが鞄を開けて盗難、ということだったら、その線はほとんど無いと思うな」

「ほんまに?」

「あぁ。ほぼ断言してもいいくらいだ」

「何でそんな断言出来るん?」

「君の荷物の中身、君の世界においてはありふれた物という話だが、僕達にとっては驚く程見たことも聞いたこともない珍品ばかりだ。あの異質な紙の束も謎の半透明のペンも、他の用途不明の道具類も何もかもがね。そもそもあの鞄自体、素材も作りも見た目も普通じゃない。中身を一通り確認したら、あの鞄ごと全部持って行くだけさ。君の言う、何だいそのえーと、スマホ? だっけ?」

「うん」

「まさかそれだけが異様に重いってことは? 他の荷物を持って行くことを諦めなきゃいけない程に」

「いや別にそんなことはないです。普通の重さっていうか」

「だよね、君が持ち歩いてるものなんだから」

「でもさ、スマホは他の荷物の中でもパッと見、特別感あったと思うんですよね。機械やし」

「ん……キカイ……?」

「何って言ったらえぇやろ。えーと、からくり? からくり仕掛け? 機械仕掛け? って同じか(汗)」

「……うーんどうやら、余程こちらで該当するものが見当たらない物らしい」

「せやろ? めっちゃ珍しいわコレ持ってったろ! って思うはずや」

「しかしだよ? それがどれだけ価値のある代物か、僕はこの目で見てないから分からないけどさ。この世界の住人ならば恐らくそれを一見したところで、高価そうではあるがすぐには価値は判断不可、という反応になることは僕にも想像に難くない。他の珍品と同様にね、分かるかい? 君の荷物は全部宝の山に見えるんだよ。とりあえず全部持ってその場を去り、後でじっくり吟味して売り捌きたいはずさ。なのに盗っ人があえてそれだけを取り出して持って行き、他の珍品の数々を全部無視するというのは、かなり変な行動じゃないか?」

「言われてみれば。確かになぁ」

「もっとも、君と同じ世界から来た人物が他にもいて、価値を知っているからそれだけ持ち去ったとかなら話は別だけどね」

「うーんそれは考えにくいなぁ。この神罰は例外中の例外や言うてたし。そもそも現代人ならロックかかっとるって分かる気もするしな。ま、それでも盗む人は盗むからあんまそこは関係ないか」

「他にはそうだな、最初からスマホとやらがあの鞄に入ってなかった場合、また話が違ってくるかな? つまり盗っ人は岩場近くの鞄は見つけられなくて、少し遠くの方に落ちてるそれだけが目に入って持ち去ったとかね。現に僕も鞄を見逃してたかもだし」

「それは……ない気がするなぁ。ここにワープされる時、手に持ってなかったはずやもん。それにうちは前のやつ1回壊してから、服のポケットとかにスマホ入れたりすることは一切しないように気をつけてるねん。屋外で使ってない時は、必ず鞄なりバッグなりに仕舞うんや。飛ばされる瞬間、既に鞄に入れとった……と思う。まぁ言うてそこまで自信ないねんけどな。とにかく異常事態やったから」

「ふむふむ」

「だから元の世界の神社に落としてきたとかも基本ないはずなんや。どう思い返してもこの鞄に入れとった」

「……その神社というのは、ここに来る直前まで居たという、君の世界の神殿のことだね?」

「し、神殿て……まぁ、似たようなもんか。そんな大げさなもんちゃうけどな」

「ふむふむ。だとするともう残るのはひとつだね。つまり、君をここに送った神々が、意図的にそのスマホとやらだけを取り上げた」

「マジか……」

「君はこの世界にあの服を着たまま来れているよね? 靴も履いて」

「ん? うん」

「つまり物を持ち込めるということだよね。別に服も靴も身に着けているだけなら何も不自然なことはないし、問題があるとすればここではやたら目立つし珍しいっていうだけのことだ。もしかすると神々は、一旦鞄の中身を調べた上で、送っていい物だと判断したものに限り、こちらの世界に後から届けたんじゃないか? 君が探しに来ることを見越してね。そしてそのスマホとやらは、この世界に持ち込むことに支障有りと判断された。どうかな?」

「……それやわ」


「マジか……女子の鞄を持ち主に無断で開けて調べた上に、勝手に私物を没収したんか……だとしたら到底許せへんわ……(怒)」


「神が許してもうちは許せへん……許さへん!!(怒)」

『誰が誰を許さないだと?』

「うおおおおおぉっ!!!!(驚)」

「ぅわっ!?(驚)」


「ど、どうしたんだい急に、未来君??(汗) 外に誰か怖い人でもいた?」

「聞こえへんかってん今の声?」

「?? 君の大声以外はね」

「そうか……脳内に話しかけてきたんや、神様が!」

『その通り』

「何と!」




 ◎ 第4話 カッス編 ◎




 ● 別宇宙無期滞在刑2日目の夜 ●

 ■ カッサンドロップスの家の居間■

 △ 大昨夏未来 △


「……もしかして僕は、席を外した方がいいのかな?」

『いてもいなくても構わん』

「どっちでもえぇんやて」

「分かった。じゃあ暫くここで黙っているよ」

『言うまでもないことと思っておったが、どうにも分かっておらん様子だから汝に警告しておくぞ。我等は人に対して全知全能の神。全て、見ておるし聞いておるからな。今後は十分、言動に気をつけることだ』

「……(怒)」

『返事が聞こえんな?』

「…………。はい(不満気)」

『よし。さて今回、汝に語りかけたのは他でもない。そこの男が昼間に言っておったことだ。罪を償い、赦される方法があるのかということだな』

「はい」

『次の課題を神命として与える。成し遂げたならば赦そう。地球に戻してやる』

「! ほんとですか!」

『うむ。そこでだ。せっかくだからな、我の星の人類にとって有益なことを何かしてくれれば尚良いと思ってな』

「有益?」

『まず前提として我の星と地球とでは、物質の基本的な成分や構成といったものがほぼ同じなのだ』

「そうなん……ですか?」

『そうだ。おかしいか?』

「いや、ちょっと不思議かなぁ? って感じただけです。宇宙ごと違うって話なのに、普通そういうもんなんですか?」

『結果から遡って考えてみれば汝にも理解出来ることだろう。無数にある宇宙の中で、ほとんど共通の宇宙環境であることを前提とした神と神によって、横の連帯で結びついた同盟下にある星同士だった、というだけの話だ。宇宙の中身も銀河の全配置も太陽系の惑星の配置もそれらが互いに与え合う影響も。何もかもがほぼ一致しておるわけだな』

「はぁ、ちょっと何を仰ってるのか分からないですけどそうなんですね?」

『しかしいくら似通っているとはいっても、完全に同じではない。全く同じではそもそも異なって存在する意味がないからな。ここはパラレルでもなければ過去でもない。ただただ酷似しているが、そこの時間は地球と時代感が大分ずれている。他には我等文明を管轄する主神の方針が同じではないことも『ずれ』現象として影響しておる、そうだな水素神よ』

『うむ』

『そこでだ。水素神と我とで話し合ったのだが、いわゆるオーパーツみたいなものを作ってほしいと思ってな』

「オーパーツ???」

『我の星の人類文明では停滞しておるかまたは希薄であり、地球人の文明では発展しておるかまたは旺盛である、学問または文化をごく一部、取り入れたいのだ。そのうち汝には、物質の学問を課題として与える』

「物質の学問? 物理学ですか? 私ほとんど習ってませんよ」

『日本語で言うところの化学(かがく)のことじゃよ。科学(かがく)ではなく、ばけがくの方じゃな』

『地球では元素の周期表というものがあるだろう? あれを作成して我の世界に残すのだ。その多くが我の星の人類ではまだまだ存在を証明し得る段階にはないし、そもそも諸々の実験をするための道具を作る技術レベルにも達していないのだ』

「元素の周期表って、理科の授業で教科書とか参考書とかに書いてある、あの元素の表ですか?」

『それ以外になかろう、いいか? まだ我の宇宙の背景解説途中なのだ。口を挟まず黙って聞いておれ小娘』

「…………」

『我の星の人類ではあらゆる物事に対する欲望、欲求というものが地球と比べると限りなく低いのだ。特に他者に対する欲や感情、即ち闘争心、支配欲、競争意識、生存本能や種の存続に対する危機意識、性的欲求。これらを最低限度に留めるカッ素という元素を我が定期的に注入しておる。これが汝の地球にはない元素であり要素だな。よって我の星は概ね平和が保たれてはいるのだ!! ……しかしながら同時に社会の発展に対する活力や気概もまた著しく低く、向上心もあるにはあるが抑制されておるのだ。それでもたまに神の名を勝手に掲げて戦争を起こそうとする不届き者が出てくるでな、そういう時は我がカッ素の濃度を引き上げて特盛りに大気に注入してやりながら、気候変動も伴って人間どもを一斉に減らしてくれるのだ。存続しながら争いを続けることが困難な程にな!!! ……だが今回ばかりは少々加減を誤ったわい……。残念ながら我は怒りに任せて失敗してしまった、認めざるを得ん。極度に人を減らし過ぎたせいで、人類の進歩までが止まってしまったのだ!!! ブワァアーッハハハハハハアァ!!!!!(激笑)』

「…………」

『……カッ素神よ、お主のご高説からの失敗談は、残念ながら一般JKの心には響かんじゃろうて。そろそろ本題を進めてくれんかのぉ』

『おぉすまんすまん。宇宙間の人類や文明の差異について力説すると、昔からつい熱くなってしまう性分でなぁ。いかんいかん!!』


『とにかくだ。こんな我にも管轄下の人類どもにな、学問やら研究やら産業やら工学技術やらを発達させてやりたい、暮らしを豊かにしてやりたいという気持ちが、僅かばかりはあるのだ。勿論、戦争という起爆剤を抜きにしてな。そこで地球から持ち込まれた謎の元素の表が唐突に出現すれば、それを目安として学者どもも思索や研究が捗るとは思わんか? 汝の示した表がこちらの人類の進歩の促進に大いに貢献するわけだな!!』

「はぁい……そう、ですね……?(困惑)」

『ん? 気が乗らんか? 何やら我の計画にケチをつけたそうな声色だな?』

「いえ、そんなことは決して。ただ何かその……方向性は賛成なんやけど、回りくどないですかそれ? って少しだけ思って」

『回りくどい? どの辺がだ?』

「手っ取り早く賢者の石か何かを簡単に生成出来るようにして、全人類に摂取させた方が効率的なんとちゃいますか?」

『そんな石ころをバラ撒くだけで人類の進歩が促されるなら誰も苦労などせんわ』「……私が周期表を作ればいいんですね?」

『うむ。ちょうど鞄の中に紙とペンを持っておるな?』

「はい。紙は結構書き込んでる世界史のノートと、何も書いてない数学のノートです。数学の方に書けばいいんですね?」

『理解が早いな。それでは中央のページ付近を破いて』

「あ、要らないですその工程」

『ん?』

「数学のノートなんて私には必要ないんで。課題書き終わったらこっちの世界に置いてきます」

『いいのか?』

「どうせうちは使わないんで。こんなの持ってても無駄やし、こっちの人達にとってこの紙が珍しくて貴重ならプレゼントします」

『ほお! 気前がいいことだな。なかなかに気に入ったぞその心意気!』

『いや……わしとしては、そこにはあまり感心せんがの……』

「やってやろうじゃんか!」

『ずいぶん自信有り気ではないか?』

「自信なんかないです!!! でもやんなきゃ帰してくんないんでしょ!!」

『その通りだ。その意気込みは買おうぞ』

「やるしかないやんってだけです!! こんなこと別に心からやりたいわけじゃない!!(憤)」

『いやはや、頼もしいことだな。実に結果が楽しみだ。ガァッハッハッハァ!』


『さてと、一度しか言わんからメモを取るなりして課題の内容を覚えよ』

「はい」


『周期表の頂点に君臨するものとして最上段に、我の宇宙独自の元素、カッ素を置け。便宜的に原子番号は0にせよ。それ以外は地球とほぼ同じだ。我の星では既に数の0の概念は発見されているが故、そこの理解はここの人類にも支障ない。元素の名前を汝が普段使っている日本語で表記して配列していき、対としてそこの男に翻訳を書かせよ。訳語は我の世界に対応する言葉が既にあり、かつ相応しければそのまま直訳でよい。意味が通りそうでも変えたほうがよさそうであれば意訳して独自の言葉を作るもよし、軽く説明文を加えてもよい。音しか分からなければ、そのままこの世界の表音文字で綴らせればそれでよい。元素記号は不要だ、地球の頭文字や省略形はこっちでは意味を成さんからな。質量表記も我の世界の人類がいずれ発見してゆくもの故、不要。見事作って見せよ。8日後の夕刻、つまり汝がこの宇宙に来た瞬間からちょうど10日後の同時刻に、また汝に語りかける。その時点でも提示出来なければ、二度目のチャンスはない。一生涯この星の人間として、静かに暮らすがよい。神命は以上。神託を終わる』

「ちょっと待って下さいカッ素神様、ひとつ聞きたいことがあります!!」

『何だ? 一度しか言わんと言ったはずだぞ』

「別のことで質問があります」

『我は汝に質問を許可すると言った覚えはないが?』

「私の鞄、後からこっちに送ったんですよね?」

『そうだ、今回の課題の実施のためにな。それが何だ』

「中にケースに入ったスマートフォンと充電器が入ってたはずですが見当たりません。今どこにあるんですか?」

『あぁアレか。安心せい。あの神社の境内に放置されてはおらぬわ。我の隣におる水素神が預かっておる故、何の問題もない』

『うむ』

『もし汝、神命を成し遂げること叶った(あかつき)には、水素神は汝に返すであろうことよ。課題が出来たなら、の話だがな』

「今、返して下さい」

『んん???』


『その通信機械を今返して何の意味がある? いくら地球の技術では最新鋭の機器であろうとも、我の星では誰とも通信出来ぬのだぞ? 他に使い手がおらんのだからな。そもそもの宇宙が違うのに、一体誰に連絡するつもりだ? 助けを呼べるとでも思っているのか?』

「そんなこと関係ないです! ただでさえスマホが手元にないと落ち着かないんです! それが他人のところにあるだなんて、その状況を考えるだけでもう、どんどん集中力が低下するんです! 電話もネットも出来ひんくていいんで即刻返して下さい」

『ならぬ』

「何でですか!」

『小娘よ、よもや我がスマホとやらについて何も知らんとでも思っておらんだろうな? 高度な言語の検索調査機能が備わっていて、辞書のようにして利用可能なことをな。おおよそどんな用語がありそうかだけでもカンニングして、ざっと目星だけでもつけられような? 不正防止のために返さぬ』

「ネット繋がらないんだから問題ないんです。返して下さい」

『どんな文字がありそうか、言葉を変換するだけで有益な予測が可能であろうな。よって返さぬ』

「いいですか! 神様に常時見られてるのが分かってるなら、私だって不正なんてしません! 水素神様、聞こえてますか! 私にそこにあるスマホをこちらに送って下さい! お願いします!!」

『うーむ……じゃがどうも電池残量が少ないようじゃの。そっちにコンセントタイプの充電器を送ったところで、充電手段がなかろうて?』

「電池が切れててもいいです! スマホが手元にあるってだけで安心感と集中力が違うんです!」

『例え電池は残り僅かでも少しの時間で不正利用される可能性は依然として否定出来ない。だから送ることを許可しない。結論は以上』

「だーかーらー! そもそも全部監視してはるんやないんですか、全知全能の神であるあなたが! 私のことを! だったら不正する隙なんてないでしょーがっ! 最初っから!!」

『不正する隙がなくともその可能性や誘惑があるだけで有害だ。よって却下する。話は終わりだ』

「話はまだ終わってない! スマホは有害なんかじゃない!! とにかく私が常に携帯しているべき私の所有物なんやから、そんなん関係なく無条件で即時返して下さいって言ってるんです!!!(怒)」

『または不正するつもりはなくとも、別の機能を使って他の何かを眺めているうちに、何やら偶然たまたま元素の周期表やらキーワードの羅列やらが何故か画面に出てきて、うっかり目に入ったりな。故意ではない知らず知らずのうちの、無意識下で起きた不可抗力の過失というやつでなあ(笑)』

「ッ!!!!!(特大台パン)」

「ぅっ(ビクゥッ!!)」

『それで知識を得てしまった後にだぞ? 決して悪意はないし過失責任を問われる程の出来事ではないじゃないか、そんな偶然も許さないで責められるなんて信じられない、不当判決だ断固控訴するなどとギャーギャーギャーギャー喚き散らしながら抗弁でもされようものなら、我としてもたまったものではない(笑)』

「!(台パン) !(台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (台パン)! (大台パン)!!!」


「じじい!!!!! 今の皮肉よこしたつもりか!? そんなん全然何も上手くないでその返し、言っとくけどな!! 何も痛くないねん、効いてへんねんその皮肉うちには一切微塵も響かへん!! うちに起きたほんまもんの偶然とは次元の違う話やもん。第一、そっちとは落ち度のレベルが全然違うんや、桁違いなんや!!」『落ち度だぁ? 情状酌量で帳消しにしてやっただろう。今更持ち出すでないわ』「自分がいらん皮肉で口論かましてきたからこっちも応戦してるだけの話やで? えぇかよく聞きぃや?? うちの落ち度やら過失なんてのはなぁ!!! 吹けば飛ぶそこらの砂粒みたいなもんや!!! 女に踏まれて壊れる程度の雑っっっっっ魚い通神発石(笑)とかいう脆い石っころを境内のそこら辺の石に紛れさせてたとかゆー、いくらでも事前に防ぎようがあった明らかにそっち側の、クッッッソしょ~もない落ち度に比べたらな!!!!!」

『よいか!! 身の程知らずの小娘!!! たかが人間ごときが我等神々の落ち度を指摘したり、許可しておらぬにも関わらず質問し、挙句の果てには口論を仕掛けるなどもってのほか!!!!!(激怒)』

「自分やろがいっ!! 自分や! 仕掛けてきて論破されたの自分自身や!!!」『そうだその通り、論破されたのは汝自身だ。よいか聞け! 汝の成すべきことは我等の言葉に一切の疑問を差し挟むことなく信じ仰ぎ見服従し! ただただ神命を忠実に実行することのみ!!(激怒)』

「きっしょ!! はぁ~きしょきしょきしょきしょきしょきしょきしょきしょ! 夏なのに全身とんでもないサブイボ立ったで今、悪寒がするどころの騒ぎやない」『さぁさぁ服従の誓いはどうした? 小娘、絶対服従の誓いを早く立てろほら早くせんかほらほらどうしたのだほらほらほら刻一刻と我の機嫌を少しでも取り戻す機会を失っているのだぞ!! 早く宣言しろ、全知全能なる宇宙の神よ貴方様を信じ仰ぎ見服従しますホラ早くせんか』

「犯罪者のじじい!! 未成年女子誘拐犯のエロじじい!! 何が信じ仰ぎ見服従しだボォケェ! 耄碌(もうろく)じじい肥大化した自尊心がキモいんじゃ老害神(ろうがいしん)少しは神らしい寛大さ見せてから偉そうなご宣託のたまえやクソボケカスゴミィ!!!!!(超激怒)」

『黙れ若害娘(じゃくがいむすめ)が!! 口の悪さ極限の性悪小娘!! 本来ならば神罰は我ら宇宙の主神がただただ一方的に与えるのみ!! 罪の償いに条件も選択もない!! 対話すらも本来不要なのだ!!」

「うちだってじじいと長々対話なんぞしたないわ話も説教も解説も何もかもがいちいちくどいんじゃ、もうウンザリしてるんやこちとらな、女子に散々ウザがられてることに気付けへん鈍感セクハラ色ボケ老害神!!!!!」

『汝のようなどうしようもない勘違い若害娘の分際でありながらこうして赦される機会を与えられ、具体的方法も示されるなどという寛大さが分からぬか! 身に余る光栄を与えられたと思え、分かったな!! 分かったら金、輪、際!!!!! 二度と口答えするでないぞ!!!!! よいな!!!!!(超激怒)』

「性格わっる!! どんだけ性格悪けりゃ気が済むんやこの神様!! 性根がねじ曲がっとるで最悪中の最悪中の最悪の神様や!! はぁ~あ~マジ終わっとるで自分、自覚しぃや? 言ってることもやってることも何もかも全部が終わってるんやこのカッス神!!!!!」

『汝、神と人との正常な関係を知れ! 本来あるべき姿を知れ! 今一度自分を見つめ直して今後は分を弁えよ! よいな不敬中の不敬中の不敬の小娘!!!!! 以上、命令伝達終わり!!!!!(ブツッ)』

「スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!(台パン) スマホ返せ!!!(大台パン)」「…………(怖)(震)」

「ヴェアーッ……ヘエ゛ーッ……ゼェーッ……ハァーッ……フゥーッ……ハァーッ……アーッ……ヘァー……ヘー……ハー……ハー……ハァッ(息切れ) ……ゴクッゴクッゴクッゴクッ(水を飲む) プハァーッ……フアーッ……フィー……」




 ◎ 第5話 カッさん編2 ◎




 ● 別宇宙無期滞在刑3日目の朝 ●

 ■ カッサンドロップスの家の居間 ■

 ▲ カッサンドロップス ▲


「みーらーいー君! おはよう♪」

「おはよう……カッさん」

「あれ? どうしたんだい? 眠れなかったかい?」

「いやそんなことない。よく眠れた。ありがとう」

「体調はどうだい?」

「まあまあ……」

「でもそうか。ずっと緊張してたのが、昨日の今日で疲れがドッと出てもおかしくはないよね」

「うん……それはあるんやけど」

「君の故郷とここは気候が似ているという話だが、僕が想像するにそれでも生物として環境の違いは大きいんじゃないか。自分では大丈夫だと思っても何かしらの影響があるとは考えられるだろう」

「多分だいじょぶや……つーかうちんとこはもっと湿気っぽいし、排気ガスだらけやし……ここはカラッとしてて空気も水も綺麗過ぎて、食べ物も美味しくて健康になり過ぎるぐらいやから……」

「うーん……。じゃあもしかして単に朝が弱いタイプかな?(笑)」

「いや……うん。朝は弱いで。けどそれが理由ちゃう。メンタル面が落ち込んでるんや」

「えーと……」

「精神面、つまり気持ちの問題や。心が暗くて沈んどるんや」

「スマホとやらが没収されたままだからかい?」

「それもある。でも別のことがもっと大きい」

「別のこと?」

「帰れる条件として与えられた課題のことや」

「どうしてだい? 昨夜はあんなに勢い込んで、神々も恐れぬ気迫とやる気に満ち溢れてたじゃないか」

「それなんやけど寝て起きたら冷静んなったわ」


「私には無理や」

「無理?」

「神様から言われた内容の詳細も、カッさんにも伝えたやん?」

「あぁ。もちろん僕も協力を惜しまないよ!」

「ありがとう……でも協力してもらっても無理なもんは無理なんや」

「なぜ?」

「なぜかって? 理由は簡単。うちは元素の種類なんてほとんど何も知らんからや!!」


「あんな教科書に載ってる周期表なんて作れるわけないやんか!! こちとら理科の先生とちゃうねんで!? いくらこの星が地球とほぼ同じ成分だとか言われたってな! 端っからろくに覚えてないねんから元素を書き出してくなんて、そんなん無理に決まってるわ!! 知識あること前提の課題で知識がないんやで!?」


「そうや……最初から分かってたことなんやけどな。興奮して我を忘れとったんやな。帰れるかもって思って飛びついたのもあるけど。元素だなんて……そんな無理難題出された時点で、何か他の課題に変えてほしいってお願いすべきやった。まぁどうせ却下やろけどな。神様の命令は一方的に与えられるのみやねんから(諦)」「昨日から横で聞いていると、その元素というのものは、どうやら君の世界において森羅万象の根源的な要素やその性質のことを指すようだね」

「んー、多分そうなんやろね」

「僕の世界にも似たような概念や学術論争もあるにはあるよ」

「あ、そうなんや?」

「いやはや懐かしいなぁ。今は亡き大王の師であり我が師でもある、故アリストテレルッスが熱心に講義してるのを耳にしたことを思い出すよ。もっとも僕はかなり不出来な生徒だったからね。ほぼほぼ聞き流してただけだけど」

「何や、てことはこの世界でもう既に知られてるんやん」

「うん。五大元素とかいうものだ。要素で分類すると火、土、カッ、水、風。性質の面で言えば熱、冷、疎、湿、乾」

「あっ知らんけどそれ多分ちゃうで。100個以上あんねんな実はな」

「100!?(驚)」

「確か100個以上はあったはず。200個はなかったかな?」

「待ってくれ。僕はただの学の浅い吟遊詩人に過ぎないが、その僕ですら信じられない」


「根源的な要素が、果たしてそんなに細かく分類出来るものなのか??? それらの諸元素は果たしてそれより細かくは分けられない性質のものなのかい?」

「んー、何か更にもっと分解が出来たような気がしないでもないけど、つまるとこどうでもえぇねんそんなことは。肝心要の元素のことをうちが少しか知らないし、覚えてないのが大問題なんや!!」

「そうか……でも一部の元素は出てくるのかい?」

「まぁ気持ち、ほんの少しだけなら」

「とりあえず朝食を食べてから、思い浮かぶものだけでも書き出してみたらどうだい?」

「せやな……全くやらないよりは一応やってみるわ」


「一番上中央にカッ素、番号が0言うてたな」

「おぉ! 君の世界の不思議な文字と数字だね!! 本当に見たこともない、すごいよ!!(興奮)」

「せやで。カッがカタカナで音のまんま。この素っていう漢字が元素の素や」

「……君の世界で使われている特殊で複雑な文字だということは伝わるんだが」

「漢字は意味のある文字ってとこやな。でも元々の意味とかうちも知らんし、音の通りに訳しといてや。カッ素の役割とかもうちの知ったこっちゃないしな」

「いや、カッ素はこちらで専用の書き方があるよ。役割については、もしそのままで正しいとするならばあえてここには書くまでもない。なぜならば僕達の世界では嫌と言うほど最もよく知られた恐怖の元素だからね」

「オッケー。じゃあそっちの言葉で任せるわ」

「了解。……カッ素のこと、僕が知ってる限りのことであればどういう作用をしていると考えられるのか、君に簡単に説明してあげられるけど?」

「いらん。一切、全く、必要ないし、聞きたくない(拒)」

「分かった。分かったよ(汗)」

「次に水素やな。左上のカドやった気ぃする。番号は1」

「これはどういう意味の文字だい?」

「みずや、みず」

「みず?」

「そ。普通に水のみず」

「なるほど! 僕達の世界でいう五大元素の水と完全に同じものもあるわけだ。水は生きとし生けるもの全ての命の源なのだから、当然といえば当然だね」

「待って待って。ごめん。水と完全に同じではない、はず」

「違うのかい? 水の素だからてっきり水のことかと思ったのだが。あるいは冷、湿などの性質のことかと」

「この私のうっす~らとした記憶によれば、この水素っちゅうんはそのままだと、人間にとって非常に危険な物質、だったはずや」

「危険? 水が? 水の素と書いて、それが危険な物質???」

「うん。でも何かしら他の元素と組み合わさると、それが飲める水になった? と思う。確かね、いや。不確かやけどね」

「その他の元素とは?」

「知らん。覚えてない」


「次、酸素。でももうこの時点で場所が分からん(困)」

「とりあえず下の方に書いておいたらどうだい?」

「あ、でも癖でボールペンで書いてもうた。消せないんやこれ」

「他に書けるところあるんだろう?」

「せやったわ。いくらでもページあるで」

「これは試し書きとして、ある程度整ってから本番でもいいんじゃないか?」

「そっか、下書きだと思えばえぇんや! そんじゃ下の方の適当なとこに酸素書くで!」

「うん」


「……どうしたんだい?」

「酸素の『酸』の漢字も微妙に分からん。何か……西? 西か酒っぽい漢字書いてから……えーっと(汗)」

「…………」

「いや、変な勘違いせんとってな? うちだって見れば一発で分かるんやで? 酸素って書いてあったら酸素の酸はこうやってすぐ分かるんや。ただ漢字は見て読むんと手で書くんは全然違うんや、難易度がな」

「なるほどね?」

「だからはい、サン素や。番号は不明。音のまま訳語書いて」

「了解」

「次はあれやな、窒素いくで。窒素」

「おぉ順調に出てくるね」

「でもこれも漢字が出てこん。むずかった記憶ある。はい、チッ素ね。番号不明」「う……ん。これはその、どういう元素かっていうのは聞いても……?」

「うちの微かーなカスカス記憶によれば、空気中に一番いっぱいある成分やった気がするで。ここは地球とほぼ同じなんやから、今吸ってる空気にも大量に含まれてるし、そこらじゅうにあるってことや! 目に見えないだけでな」

「ふむふむ、風を更に分類したもの、ということか。注釈しておくよ」

「次!」

「うん!」

「次いくで」

「どうぞ」

「……二酸化炭素や!!」

「ん? ずいぶん音が長いねそれ」

「ちゃうんや、ごめんなカッさん。待って、マジで……もう詰まった、もう出てこんくなった(汗)」

「あらら」

「マジか……。私マジか。信じられへん己のことが。んーと、……一酸化炭素……じゃなくって……! せや! 炭素! 炭素や!!」

「ほう?」

「これは何か漢字もいけそうな気ぃするで!」

「おぉ!」

「まぁ相変わらず位置は分からないんやけどな」




 ● 別宇宙無期滞在刑3日目の昼 ●

 ■ カッサンドロップスの家の近くの浜辺■


「綺麗……」


「心が洗われるようやわぁ」

「どうだい? さざ波を見ていると、ふと何かが浮かんでくるかい?」

「ハァ(溜息)。その気配が一向にない」

「そうか……。まぁあまり無理やり思い出そうとしても、なかなか出てこないだろうからね。続きは明日にしないか?」

「せやな……でも急がないと……」

「もちろん焦る気持ちも理解出来るけど」

「いや、でも急いでも急がなくても無駄なんやけどな……だってどうせうちの知識で作れるわけないんやから周期表なんて(諦)」


「あれって……船……?」

「あぁ珍しいねここから見えるなんて。港はもう少し南の方にある」

「へぇ~」

「両岸の陸地を避けて水平線の向こうの方に行くともっと広い海に出るんだよ」

「ほえ~」


(水平線……?)


「思い出したああああああああああ!!!!!(閃)」

「うおぉっ!? ななな何だい突然(汗)」

「今思い出したんやハッキリと! 歌うで!!」


「すいへーりーべーぼくのふね~♪ ななまがりしっぷすくらーくか~♪ や!」「……それはもしかして、君の故郷の吟遊詩人が?」

「ちゃうちゃう! 理科の試験で元素の名前を思い出すためのやつや!!」

「ほお!?」

「ずっとモヤモヤしとったんや! これがいわゆるアハ体験ってやつやな!!」

「アハ、体験……?」

「まぁあれや、思い出せて気持ちいいってことくらいの意味やで」

「そうか、それは素晴らしいね! ところでその詩を僕も是非とも覚えたい。続きを聴かせてくれ!」

「えっ?」

「えっ」

「つづ、き……?」

「うん。今のは詩い出しの一節だろう? まさか今のが全部じゃないよね、だってそれではあまりにも短い。100個以上の元素名を思い出すための続きの詩があるんじゃないのかい?」

「……多分、ある……(汗)」

「多分?」

「あるぅ、んだと思う。多分、恐らく、きっと」

「…………」




 ■ カッサンドロップスの家の居間 ■


「すいは水素やけど、これはもう書いてるな」

「うむ」

「次はすいへーのへーやな!」

「へー」

「へー……素。へー素」

「平素から君には大変世話を焼かせられるよ」

「違う! いや助けられてすごいお世話にはなってるけど、そーじゃない、その使い方おかしい! へー……へー素じゃないな多分これ」

「へーそーなのかい」

「……(睨)」

「ごめんごめん。ほんの冗談だって未来君。思考を柔らかくするために、少しでも緊張をほぐそうと思ってさ(汗)」

「何や? ギャグ言うようになってきたやんカッさん」

「音を合わせる共同作業をしているせいなのか? 僕もかなり両言語の共通部分の理解が深まってきたようだ。勝手が掴めてきた感触があるんだよ!」

「えぇのよカッさんは。そんなとこの掴みはOKにせんでもろて」


「すいへーりー。リー。リー素? リー素……」

「何かそれらしいぞ? いかにもありそうじゃないか?」

「いや、ピンとこーへんな……。へー、りー! ヘリウムやぁあああああ!!」


「言ってるあいだにもうピンと来たで、ヘリウムガスとかのヘリウムやここ!! 間違いないでコレェ!!」

「ほーお! へーとりーで、組み合わせてっていうパターンがあるんだね? 詩の一音節で一つの元素とは限らないと」

「そうってことやな。厄介なことにな」


「何かついでに色々思い出してきたで。ヘリウムは右上の端やった気ぃするわ。多分水素の反対側でここのあいだには何もないねん」

「そうなのかい?」

「せやで多分な。理由は知らん」

「しかし何だかあれだね、一気に統一感が失われたね」

「統一感?」

「ほら、君の故郷の文字でこの、なになに素というやつ。これで全部まとめるべきじゃないかと思ったんだよ。この表の中でノイズだとは感じないか? やや美しさを損なう気がしないか、このヘリウムは」

「いやそんなことをうちに言われても困るがな(笑)」

「で、一体どんな物質なんだいこのヘリウムというのは」

「ガスやで」

「ガス?」

「空気、つまり気体や」

「ということはこれも風の一種か」

「ヘリウムガスは吸い込むと声が変わるって聞いたことある」

「な……ちょっと待って聞き捨てならないぞ、声が変わるだって???」

「せやで」

「もしや! 美しくなるのかい? 神が与えたもうた人それぞれの声が、空気の力で美しくなる? 何という冒涜!」

「いやいやそれは大げさや。別にヘリウムは美しくなるんじゃなくて、声が一時的に高くて変になるだけ」

「変になる?」

「そ」

「道化師なら使えそうかな?」

「どーけし? ちょっと分かんないけど、結局体に悪いから吸っちゃいけないって親に言われたんだけは覚えとる」

「声が変になった挙句、体にも悪いのかい?」

「そうだよ。急に吸ったり吸い過ぎたりすると悪影響を通り越して、命の危険もあるとかなんとか」

「……何だか聞いてる限りで判断すると、あまり有用な元素ではなさそうだね」

「うーん、重要度かなり低いかもね」


「次はベーやな」

「うん。べー素かい?」

「ちゃうな。ベリリウムや!」

「おぉ。すぐ出てきたじゃないか?」

「この元素が出てきて、うちは覚えるのを止めた記憶あんねん」

「なぜ?」

「めんどいからや」

「……なるほど」




 ● 別宇宙無期滞在刑3日目の夕方 ●

 ■ カッサンドロップスの家の居間 ■


「ボ、出てこない。ク、クエン酸。ノ、出てこない。フ、フッ素。ネ、ネオン。 ナ、ナトリウム。ナ、なまり。マ、マンガン。ガ、ガリウム。ここからが4列目。リ、リチウム。シップ、湿布(投げやり)。ス、スズ。ク、クロム。ラ、ラジウム。ア、アンモニア。ク、出てこない。カ、カルシウム」

「…………」


「これで詩える部分から導き出せる元素は一通り出揃ったかい?」

「出揃ったと思うん?」

「思わないが、まずは大きな前進じゃないか」

「大きいかなぁコレ……」

「この3列目、ベリリウムからガリウムまで合計10個で次の列に行ってるけど、これは正しいのかい?」

「分からへん。とりあえずキリいいから10個にしただけやで」


「今、下の方も思い出そうとして頑張ってるんやけど、固体の鉱物系とか宝石とかあの辺をな」

「ほぉ」

「金、銀、銅、鉄、水銀……水銀って液体かなぁ? 亜鉛、プラチナ、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、オパール、トパーズ、トルコ石、猫目石、アルミニウム、スチール、ステンレス、マグネシウム、アスファルト、コンクリート、プルトニウム」

「ふーむ。僕にもすぐ分かる物とそうでない物が混在しているね」

「あ! 思い出した、ウラン! 商売拒否してそうな名前っぽい物質やって思っててん。中身は知らんけどなんか危なかった気はする」

「ふむふむ?」

「後はタングステンやな。響きが印象に残ってるんよね。これだけ覚えとる。レアメタルやったかな? そんな気がするけど他のレアメタルは出てこない。宝石並かそれ以上の価値あるやつも有るとか無いとか。貴重品の金属なんや!」

「……それを言うなら『希少』な金属、じゃないのかい?」

「なんっ……なんやカッさん!? ついにこのうちに向かって日本語の指摘かいな!?(睨)」

「いやいや! こっちでは通訳されてるわけだから、別にそんな(汗)」

「よろしいか!? この宇宙で一番の日本語の権威にな、物申すんじゃないで!! 分かったぁ?(笑)」

「は……はい。分かりました(汗)(笑)」

「分かればよろしい! しかしアレやな。日本語の権威やけど理科の権威じゃないねんな結局な……もう詰まってでてこぉへんねや。こっから先」

「今日はこの辺にしておこうか、あまり根を詰めてもね」

「せやな」


「頭の中が疲れた~」

「……ところで未来君」

「はーい?」

「明日、気分転換に街にでも行くかい?」

「街?」

「そう。昼に船が来ていただろう?」

「うん」

「市場に物資が運び込まれたんだよ。だから賑わいがあると思う、少しはね」

「へー。なんて名前の街なん?」

知一位(ちいちい)の都市だよ」

「何てぇ? チーチーの都市?」

「そう」

「何やその小鳥の鳴き声みたいな都市は」

「知、一位。知恵が一位、知識で一番程度の意味だよ。他にも武一位(ぶいちい)、つまり武芸や武力で一位を称する都市や、神聖で一位の神一位(しんいちい)、最近の西方の新興勢力では人間の団結の意味を含めて人口で一位の人一位じんいちいなんかもあるよ。二位三位以下はもっとたくさんある。ほとんど郊外の街や村の自称だけどね」

「なんや、都市のあだ名みたいなもんか、紛らわしっ! つか分かりづらっ。そんなん言うたら、うちは笑い一位の都市出身やで(自慢気)」

「フフフ、そうなのかい? 知一位の都市はここから程近いところにあるんだよ。かつては都市国家間同盟の代表的な盟主として、武一位の都市や、最も強大だった頃のペッルシアと三つ巴で覇を競った、三大勢力のひとつだった場所だ」

「言いにくっ。ペッ……なんて?」

「ペッルシアは東方にある当時の超大国だよ。そこの最後の王がダンレヲオスで、大王アレキサクダーに敗れて領土を全て併合された。それから知一位のようにたまに反抗しては服従するところもあれば、神一位のように徹底抗戦を試みて蹂躙されたところもあれば、武一位のように先王の頃から降伏していて、その後も反抗的な態度だけど存在を無視された、みたいなところもあるが何れも全盛期は過ぎた。そんなこんなで大王が征服事業を繰り広げていたら神の怒りが天から降ってきて、もうどこもかしこも人類自体が絶滅寸前。もはや戦争どころではなくなったんだ」

「めちゃくちゃな事態やな」

「だから都市といっても村よりは大きい街みたいなもんで、見る影もないけどね。でも細々とは続いてるよ。知一位の都市も、学問の灯火が完全に消えたというわけではないし」

「あぁ……そういうことか。今やっと脳内変換されたで、知一位ってことか。何でその、ペッルシアだっけ? 言いにくいけど、ちゃんと名前付いてる国もあんのに都市の名前はちゃんとしてないわけ?」

「ちゃんとしてない? あぁ固有の地名が付いてないってことかい? 都市や国家や地域といった場所に名前を付けるのは野蛮人や未開人の習慣だっていう考えがこの世界では支配的、という程でもないけど根強いんだ」

「何やて? 場所に名前ついてるのが野蛮???」

「うん」

「逆なんちゃうんそれって」

「僕達の会話でも、君の言葉が僕には通じにくいことが多いのに、僕の言葉はあんまり君に対してつっかえないだろう?」

「え、言われてみれば! そうやな」

「それというのも恐らく固有名詞が僕の世界では少ないからだろう。通訳が難しいような言葉が少ないんだ」

「通訳には助かるかもしらんけど日常会話じゃ不便ちゃうん? 困んないの」

「不便でも困っても神々が定めた習慣。従わねばならない。でも一般的、普遍的な物事には必ず名前をつけるんだよ。そうでないと言葉や会話が全く成り立たないからね、議論も出来ないし。固有のもの、特殊なものには名前をつけると真理から遠ざかるという考えが主流の学説なんだ。もっとも僕の師の学派は傍流で独自の系譜だから考え方が違うけどね」

「いやいやいやいや。おかしいってそれ。だって人の名前って固有名詞やんか。頭の悪いうちでも分かる矛盾やで」

「ん……何だろう、むじゅん……。えーと、個人名のことなんだけどね、例えば僕の名前であるカッサンドロップスっていうのは、神々が与えたもうた仮の名であって例外なのさ」

「てゆーかカッさんの苗字って?」

「……ミョージ?」

「ファミリー・ネームや」

「ちょっと分からないけど、未来君が最初に名乗ったみたいなのはないよ。家族や一族といった血縁集団に共通の名をつけることは神々に禁じられているからね、少なくとも文明人では」

「わけ分からんな……なんかやっぱ過去と違うんやなここ。日本人よりものっすごいクソ長い苗字がズラズラ続く印象あったけど」

「人名は神々が人に与えた仮の名であり便宜的な識別記号のようなもので、真の名は天に召されてからでないと分からないんだよ」

「そのさっきから神が人に与えたって何? 名付けって産みの親の役目とちゃうのここって」

「神官に名付けを頼む事例もあるけどね。そうでなくとも神々から授かった子に親がつけた名が、即ちそのように名付けられるよう神々が定めた子だったのだから、ひいては神々が間接的に名付けた仮の名であるということと同義なんだ」

「はーんなるほど。つまり詭弁っちゅーやつやな。結局言い回しで人名がない不便回避して、固有名詞なのを誤魔化しとるだけやんか自分。そんなん言うたら土地にも神が与えて人が決めた神の定める仮の名つけときゃそれで済む話やろがい」

「この世界の習慣のことでそんなに僕を責められても困るよ(汗)」

「そうでした。ごめんなさい」

「そういえば僕の父もカッチドニア王国摂政として、地域名から国の名による領域支配を他所に持ち込んだけど、知一位や他の都市市民から大変嫌われたものだったね。結局支配はすれども国名は冠さないというところに落ち着いたけどね」

「え? 王国名あるやんか」

「僕自身はここの生まれだけど、父の故郷はここより北の地域にある」

「へーえ?」

「カッチドニアというのは強大になる前は小さい王国に過ぎず、固有名詞を付けたがる半分野蛮な習慣を持つ人々だと、ここら辺の都市同盟からは蔑まれていた。一昔前まではね」

「固有の地名もついてない都市で知恵が一位とか言われても全然説得力ないがな」「うーん、その考えは斬新だが共感出来る気もするね。僕は幼少期は本国ではなくこっちの育ちだから色んな考えの違いは比較してよく分かる方だけど」

「その知一位ちゅーところが一番近い街なんや?」

「そう。但し近いとはいっても街で泊まる必要はあるよ。馬車で往復するとしてもね」

「そうなんか」

「今回、神々から期限が明確にされたって話だから、早めに尋ねておかないと機会を失ってしまうかと思ってね」

「なるほど」

「それに馬車の中でも考えられるわけだし、そのノートという紙とペンを持っていけば旅先でも書けるだろう?」

「まぁね」

「そうえいばさ。君はここに来てから、まだ僕以外の人間とは一度も会ってないんだったね」

「うん」

「どうする?」

「いやや」

「行きたくないかい?」

「うん。ここを離れたない。出来ればやけど、他の人にも会いたくない」

「怖いかい?」

「うん」

「じゃ、やめとこう」

「ごめんな……気ぃ遣ってくれはってるのに」

「いや、異国人が街を恐れるのは無理もないことだ。幸い食糧と飲み物は問題ないし、何か必要な物があれば人に頼んで取り寄せればいい。このままでいいさ」

「うん!」

「そうだ、暇が出来たり行き詰ったらさ、双六(すごろく)でもしようよ。ここにいながら出来るし、気分転換になるよ」

「ありがとやけど、2人で双六かぁ(汗)」

「え? 基本2人用だよ双六は」

「そうなん? 何かうちがイメージしてるのとちゃうやつなんかな」

「ほら、これが双六盤と(さい)だよ」

「おー何か本格的やな」

「ただ駒が普通は丸くて平らな石を色違いで使うんだけど、これは僕の国の硬貨の裏表で代用してる」

「ふー……んっ!? なにこのコイン、この絵の顔って……もしかして……?」

「フフフすぐに気付いてくれるとは、嬉しいな。そう、僕だよ。けど何だかさすがに少し照れるね♪」

(……思ってたよりずっとナルシストやわこの人……第一印象ん時から感じてたけど……)

「ま、これはまた後日、未来君の気が向いたらにしよう」

「あのさ、気分転換っていうならさ、後でいいんだけど、私からも提案が……」

「なんだい?」

「仮の話なんだけどさ」

「仮?」

「もし仮に課題が出来上がる目処が立ったらでもいいんだけど……いや、もちろん絶望的だから考えても仕方ないかもだけど、あくまでちょっと時間あったらっていう仮の話でさ……」

「うん。言ってみてよ」

「別のノートと鉛筆一式あるんやけど……カッさんにデッサンモデルなってほしいなって!! お願いしてもいいですかっ(願)」

「? 何だって???」




 ● 別宇宙無期滞在刑3日目の夜 ●

 ■ カッサンドロップスの家の居間 ■


「僕思ったんだけどさ、君の話から聞いた限りで君の世界のこと」

「うん?」

「君の持ち物はもちろん、元素の話からも明らかだけど、文明や技術の発達度合いや進み具合いが全然違うよね」

「そん……そう、やな。さすがにそれは、そうと言うしかないで」

「実は未来君って別の世界から来たんじゃなくて、単純にこの世界の未来人ってことはないかい?」

「へ?」

「つまりここは君から見て過去の世界で、君の故郷は遥か東方の地だから、つまり場所も違うから別の世界に来た様に感じる、とかね。だから君の故郷にあたるそのオーサカって場所はこの世界にもあるんじゃないか」

「うーん。神様によればそれは違うらしいで。でも最後の部分だけ微妙に当たらずといえども遠からずっちゅー気ぃしてる」

「ほう?」

「カッさんに見せて貰った部分的な世界地図で確信したわ。ここはうちからしたら、やたら似てる過去っぽい別世界なんや。そんで多分予想やけど、うちの故郷にあたる場所に似てる場所が、こっちにもあるんやと思う。ここからずっと東の方の島にな。ややこいんやけどな」

「ややこしいね」

「でもあったところで、ここの大阪に当たる場所はまだまだ草だらけやろ。あとは海やな、埋立地んとことかはな。もう人は住んでて村とかはあるかもやけど、街なんてもんはまだないはずや」

「似ていても違う場所なのだとしたら、そこまで決めつけて言えるのかい?」

「もし地球と歴史がめっちゃ似てるなら言えるはずやで。カッさんの言う大王って人はうちの世界史のノートに絵ぇ描いてるんやけど、紀元前の人やもん」

「……キゲンゼン……?」

「はぁーそれにしてもなぁ、飛行機の上から見れれば地理も完全に同じか違うか分かるんやろけどな」

「ヒコーキ……」

「気にせんでえぇで。うちから言えることは、技術が進歩すると人間の移動時間が大幅に短縮されるんや」

「……君の世界のことを聞くことって、神々に禁止されてないんだったね」

「そうみたいやな。それどころか地球の知識を積極的に導入しようとしてる空気すら感じるし」

「だとすると未来君の向こうでの生活や出来事とか、ご家庭のことって伺ってもいいのかな?」

「んー」

「もちろん君が話してもよければだけど」

「全然えぇんやけど、うち大した人生送っとらんから中身ないで。ただの陰キャの女子高生やねん」

「……えーと」

「学校って伝わるかな? カッさんにも先生いたんでしょ? 先生に教えてもらう建物に通うんだよ」

「師との思索、研鑽の場ってとこか」

「まぁ多分? そんなとこやで」

「我が師アリストテレルッスはリユー・ケイエン学園を、そのまた師プーラタンもアカ・ダメ・イヤ学園を開いて教えていたらしい」

「何や。あるんやん学校、しかも名前つけるの野蛮とか言うて学校に名前つけとるやんか」

「僕は通ったことはないけどね。大王が子供の頃にその父である先王が教育役として師を宮廷に招いたんだ」

「宮廷? 何か豪華そう場所で教えてたんだね先生は」

「その際に僕みたいな近い世代の臣下の子供達や、ハイ・ロー・タイという大王の側近になるべく幼少期から仕えてる子供達も、一緒に教わる機会があったりしただけだよ。とはいえ決まった場所で授業するとも限らなくて、よく晴れた日なんかだと外に出かけて対話したり討論したりとかね」

「へー! そうなんや」

「本来は思索や対話には、時も場所も問わないんだ。プーラタンの更に師にあたるソックリテスが代表的だけどね。段々一定の場所で効率的に授業する形式が増えていってたんだけど、最近はどこもかしこも人が減り過ぎて学園なんか開いても誰も集まらないと聞いている。時代がすっかり逆戻りした感があるね」

「ほえ~。何か大変そうやな」

「そうなんだよ。しかし懐かしいね、青空の下で皆でわいわいと……」


「って違う! 僕の話はいいんだよ。未来君の話」

「うーん。せやなぁ。話すことほとんどないんやけどな。将来の夢も今んとこ分かんないしなぁ」

「夢?」

「夢ってのは寝る方じゃなくて将来なりたい職業とかの方の夢ね」

「職業? 君の世界では女性も主体的に職業につけるのかい?」

「まーねー。そーゆーことになっとるで一応、現代日本ではな」

「へ~!」

「こっちはやっぱあれなん? 女性は就職不可の社会って感じ?」

「いや、地域にもよるけど不可という程ではないね。結婚したら夫の職業と共同で労働に従事したり、親の仕事を一緒に手伝ってるうちに、結婚したら夫と共に仕事を受け継ぐこともある。他に珍しい事例としては神殿で神託を受ける巫女なんかだと、むしろ選ばれた女性しかなれなかったりもする。男は巫女にはなれない」

「は~ん。分かったで。つまり女性は就職出来ないこともないけど、個人の意思は尊重されないし選択の自由もないっちゅーアレやな」

「まぁそう言われてみれば」

「カッさんの世界は人口激減しとるんやろ? 人類の発展や進歩が停滞しとるんやろ? そーゆー社会意識から根本的に変えていかなならんのとちゃうん???」

「言われてみるとそうなのかもね……」


「って、だーかーらーさっ!! 違うってばもう、僕の世界の話なんかいいの!! 未来君の話の続きを聞かせてよ、君の話、将来とか!!」

「だって……将来やりたいこと具体的になんも決まってないんだもん。でも一応これでも小っちゃい頃はあってんけどな。それこそ親の仕事の影響で」

「ほお? それは何だい?」

「うちのオトンとオカンはな、刑事と鑑識やったねん」

「! すまない。また後半部分、ちょっと分からないんだが」

「私のお父さんが現役の警察官で、お母さんが元警察官なんや」

「……治安維持要員か。ご両親の異世界での職業だね?」

「せやで。こっちにも似たようなのはあるやろ? ポリスメンやでポリスメン」

「ご両親は都市市民階級なんだね?」

「ちゃうがな! いやそりゃ市民やけど別にそこ重要じゃないから。コップやコップ! うちのお父さんは街の秩序を守るコップなんや」

「……? あぁ、陶芸家職人か」

「なんでそうなるんや! このクソダサポンコツ腕輪どうなっとる、調子悪いんか? あんだけたらたら自慢げに能書き垂れとって性能コレなん? 自動学習とかそんな大層なもんしとる気配あらへんがな」

『…………』

「とにかくや! うちも小学生ぐらいの子供の頃は、鑑識とかに憧れたんや。頭の出来が悪過ぎて早めに諦めたんやけどな」

「それは鑑定人だね?」

「鑑定……? う~ん。もうそれでえぇわ」

「いやいや素晴らしい。審美眼が求められることだし、陶芸家とも通ずるものがあるじゃないか。僕は良いと思うよ!」

「何かもう色々間違ってるけどありがとうなカッさん。でもそれも子供の頃の話やから。もう諦めてるからそれ」




 ◎ 第6話 勝手編 ◎




 ◆ 宇宙の神々の亜空間 ◆

 ▲ カッ素宇宙の主神 ▲


「おぉ! 久しいな【オリュンポ素神(オリュンポそしん)】よ!!」

「お久しぶりですね、カッ素神、水素神」

「久方ぶりじゃのぉ! フォッフォッフォ。元気にしてたかい?」

「お陰様で。では早速ですが(くだん)の通神発石を見せて下さい」

「おいおい気が早いな。我等が宇宙同盟中にあって、この三者が揃ったのだぞ? 滅多にないことだ。まずは祝杯を挙げようではないか」

「めでたいことじゃ!」

「祝杯ですか? 通神発石が破損したのに?」

「ぐぬぬぬ(汗)。相変わらず酒飲みに手厳しい若造だわい」

「また泥酔して蹴り飛ばしたのではないですか水素神」

「寝相が悪いからのぉ、そんなこともあったわい、ほんの100回程度の数える程じゃがな。ファーッファッファッファ」

「水素神よ。貴方は今回、輪番で同盟の総会議長を務められる。申請中の【ティターン素(ティターンそ)第十二宇宙】の主神に加盟の可否を伝える際、決議の結果がどうであれ、貴方には威厳があってほしい。どうかしっかりしてほしいものです」

「まぁまぁそればかり言うな。とにかくここは酒宴の場だ、いつまでも立ってないで席につかんか。総会の話は素面の時にしろ」

「ささ、こっちじゃぞ若き盟主殿。わしらの間に座りなされ」

「はぁ……しかし……(困)」

「ほらほら宴の主催である水素宇宙の主神がこう言ってるのだ。まずは一杯」

「分かりました。では遠慮なく」

「では同盟の更なる発展を祝して、乾杯じゃ!!」

「プハァーッ! この瞬間はまさに永遠だな」

「えぇこと言うのぉ。また酔いが回ってきたわ~い。ウフォーッフォフォフォ愉快愉快実に愉快、もうかなわんの~~~……」

「相変わらず弱いのぉ水素神よ! これで我に飲み比べを挑むとは、無謀も無謀ぞ!!」

「酔いが回るより先に例の通神発石を見せて下さい」

「グクァーッ……カァーッ……(眠)」

「どうやら少しばかり遅かったようだな。ブワーッハッハッハッハッハッハァ!! やはり同盟一愉快な爺さんよのぉ!!」

「…………(唖然)」

「この酒は物凄い度数だからな、例え宇宙の主神といえども、このように弱ければ暫く起きてこんぞ」

「急に呼ばれて緊急事態だというから急いで来てみたら、何という勝手な神達だ。私は仕事を抜けて来たんですよ。一度帰りますので起きたらまた連絡下さい、失礼します(呆)」




 ◎ 短編につき4日目~9日目展開カァーッッッt!! ◎




 ◎ 第7話 雑っつ編 ◎




 ● 別宇宙無期滞在刑10日目の夕方 ●

 ■ カッサンドロップスの家の近くの浜辺 ■

 △ 大昨夏未来 △


「君が倒れていたのはこの辺だけど、ここで待ってればいいのかな?」

「分からへん」

「日の傾き具合からして、僕が君を見つけた時間帯はあと1時間程だが、君は意識を失っていたからね。キッカリ10日間だとして、君がここに来た正確な時刻は分からない」

「そうなんよね。微妙に困るわこの時間」

「かなり暗くなってきたし君のノート、神様も文字が見えづらいんじゃないか?」「全知全能の神様が暗くて見えんとかそんなんないんちゃうん、知らんけど。でもよく考えたら、場所は別に指定されてなかったわ、カッさんちで待ってても良かったんかなぁ?」

「今日は最近にしてはやや冷えるね、君のその服も着ているのを久々に見たが、この潮風では寒いだろう」

「ちょっとね」

「もし君が赦されるとすればお別れになるわけだし、もう少しだけ僕の家で一緒に過ごせないかな? 審判の時まで」

「うーん……そうしたいんやけど」

『その必要はない』

「うっ! 来た! 来たで、神様が!!」

「おぉ!」

『汝、神命を遂行したか』

「はい!」

『奉納品を天に向かって掲げよ』

「これや!!」

『!!』

「これがうちとカッさんによる渾身の合作!! 名付けて!!」


「ザッツ・パッション乗り切り型元素の周期表!!! カッ素宇宙人類進歩促進用オリジナル・バージョン・タイプゼロやで!!!!!」

『…………』

「…………」

『可、だな(諦)』

「え? 蚊?」

『秀、優、良、可、不可ならば可だ。及第点(きゅうだいてん)とする』

「何ですか周遊リョーカフカ? キューダイテンって?」

『もうそれで合格とするということだ。元の世界に戻ることを赦す(諦)』

「やったああああああああああ!! ほんまでっかカッ素神様!! 帰れるって、カッさん私、日本に戻れるって!!!!!(泣)(嬉)」

「そうか……! 赦されたんだね!」

「そうや! そうやで!」

『ではそのノートは我がしかるべき時に人類に発見されるようにし、学者どもの手に渡らせる』

「あっ!」

「消えた……!!(驚)」

『さて、小娘よ。時間だ』

「!」

『汝とその男は今世の別れだけではない。例え生まれ変わっても来世で会うこともない。未来永劫の別れを告げるがいい』

「……はい」

「…………」

「……ありがとうな、カッさん。ここでカッさんに助けられなかったら今頃私生きてない……いや、それだけやない! 最初に会ったのがカッさんやったからこそ、帰れることが出来るんや。でもこんなすっごいお世話んなっといて、うち何もお礼出来ひんかった……」

「いいんだよ。故郷に戻れるんだね。良かった……。在るべき世界で在るべき人生を楽しく送るんだよ。でもたまにでいいから僕のこと、思い出してくれると嬉しいかな」

「ありがとう、カッさんも……!!」

『――――』

「!!!!!(驚)(ゲートを見て目を見開く)」

「ほんまにありがとうやでカッさん! さようならや!!」

「さようなら。元気でね未来君――」




 ◎ 第8話 カッ素編2 ◎




 ◆ 宇宙の神々の亜空間 ◇

 △ 大昨夏未来 △


「……あれ? 私、意識失ってない……? それに何か、普通に立てる?」

「当然だ。我がこの空間をそのようにしているのだからな」

「!!」

「第一、人間ごときがこの亜空間において生身で生存しているのも呼吸が出来るのも、人の形を保っていられるのも、我が特別に配慮し生存環境を整えてやって始めて成立している。さもなくば汝は一瞬で分解されて別の存在となり、生命の連続性としては終わりだ」

「……(怖)」

「最初の時は汝の意識が連続していては恐怖で錯乱するだろうからワンクッション置くようにしてやったまで」

「……あ……り、がとうございます……。カッ素神様……(伏目)」

「…………」

「……ああぁ……あのあのあのあの!(挙動不審)」

「ん?」

「水素神様は……?(伏目)」

「この通りだ」

「!」

「ズゥーッ……ズィーッ……(眠)」

「我の度数高めのとっておき特製酒を開けたら、よせばいいものを無謀にも飲み比べを挑んで来たのだ。それからまだ起きん。宇宙の主神だから酔い潰れるで済んでいるものの、これが人間だったらとっくに急性の危険飲酒で※んでおるだろうな。決して真似するでないぞ」

「誰も真似しようと思わないです……それ以前に、まだお酒飲めません私……」

「しっかし下戸ではないが、それでも弱いのぉ、下手の横好きならぬ酒の横好きと言ったところだな。これから自分の宇宙の人間が宇宙間で送還されるというのに、行きも帰りも肝心要で結局これだ。全くもってだらしのない爺さんだ(呆)」


「まぁ我にとっては酒宴が続くだけで大歓迎だがな。我の方のこうるさい下級神どもも完全シャットアウトしておるし(わずら)わされんのがいい。本題である通神発石交換の儀が済んでおらんからという、正当な言い分も立つしな。グワッハハハハ愉快愉快ぃ!!」

「……あのぉ、声をかけてみたりってしてみても?」

「ん???」


「小娘よ、分かっておるのか? 宇宙の神の眠りを他者が妨げたら一体どういう事態が訪れるかを。もっとも何の災いが吹き荒れようとも汝の宇宙のことだ。試してみるか?」

「いえ、いいです!! 試しません!!!(激焦)」

「ほ~おそーかそーか。ということは、いいんだな? あの通信機が返却されぬまま、汝は元の世界に戻ることになるが、それでもいいということだな?」

「…………。最悪や。最悪やけど、もうそれでいいです(悔)。生きて帰ることの方が、さすがに優先やから」

「よし。だが慰めになるかは分からんが、水素神が起きたら没収していた物を汝に返すように、我から言ってやる」

「お願いします……」

「もっとも宇宙の主神の眠りだ。果たして次にいつ起きることになるやら、定かではないがな」

「えっ! あの、そんなに時間経ってから返されても。かえって困りますけど」

「眠りが浅いとしたら、そ~だな~? 早くて1000万年後ってところかのぉ? 1億年ならまっ普通だな。10億年はいくら何でも寝過ぎだわな。な~んてな? ブワァーッハッハッハッハッハァ!!」

「……(イラッ)」

「では我の方は両腕のブレスレットを返してもらうぞ」

「! ちょっと待って下さい!!」

「あ?」

「私のスマホと充電器が手元に戻るまで、これは私が預かりますから!! スマホが左腕の分で、充電器が右腕の……あっ!」

「これでよし、と」

「……カッ素神様は早速取り返すんですね自分だけ。私はまだスマホ返ってきてないのに(不満)」

「小娘よ、汝の通信機を預かっているのは水素神。これは我が汝に貸与していただけの神器、謂わば人間でいうところの我の私物。つまり我と汝の貸借関係の解消とあの通信機は無関係。それを勝手に差し押さえようとされても困るんだがのぉ?」

「でもうちの私物であるスマホの没収を主体的に判断したのはカッ素神様ですよね? 水素神様が積極的に行動されたわけやない。カッ素神様が水素神様に依頼してスマホを預からせることを決定した、んですよね???」

「さ~て、と(無視)。一応、神命に関することだ、神と人とのあるべき儀礼は経ることとしようかの」


「汝、神命を見事成し遂げたり。我はその忠誠、実直なる働きぶりに甚く感心した(棒)」

「……(横向き)」

「よって汝、大昨夏未来の過失による通神発石破損の罪と……」

「……(不満気)」

「不敬と不敬と不敬の数々と、暴言と暴言と暴言の数々、そしてこの……」

「……?」

「汝の台パン連打の巻き添えで衝撃を加えられ続けた通訳ブレスレット一部損壊と故障気味の罪を赦すこととしよう」

「っ!! ……(滝汗)。ありがとうございます……申し訳ございませんでした、カッ素神様」

「ふむ。まぁよいわ。もはやキリがないからな(諦)。ところで汝は10日間を我の星で過ごした、よって地球においては10時間経過しておる。あの神社では日が落ちて夜になっておるが、どうする?」

「あっ! えぇ~っ……とぉ。どうしたらいいんでしょうか?」

「同地点に戻すのが基本原則だが」

「いやー微妙に困るかもです。ぶらぶら歩きの旅してたんですけど、ホテル遠いしタクシーもなさそうやしめっちゃ田舎やし夜だとちょっと……、しかもタクシーも呼べないし。だって結局スマホ返却されてないから(不満気)」

「……分かった。ホテルに送ってやる」

「あっ! でも普通のホテルなんで勝手に部屋に入ってるとあのー、いつチェックインしたんだって話が(焦)」

「ロビーに送ってやる。今度は眠らせるから、そこで自然に起きるか起こされるがいい」

「えーと、いいのかなぁ」

「構わんぞ」

「あっでも大丈夫ですか? フロントの人か他の観光客達に出入り口を見られるかも、というか監視カメラとかがあるかもですが」

「そんなものはどうとでも処理出来るわい、人間の認識なんかいくらでもな。汝がいちいち気にするような問題は起きぬ」

「分かりました。あとあのーホテルの場所なんですけど、その前の日に泊まったとこやなくてですね、予約してるんですけど」

「あーもー分かっとる分かっとる! あーだこーだと一から十まで言わんでも問題なく帰してやるからみなまで言うな。我は神ぞ?? どこまでもいちいち全部確認せんと気が済まんのか? 全く細っっっかい小娘よのぉ」

「……(ピキ)」

「ふんっ(笑)!」


「それより問題なのは、本来であればそっちの宇宙に関すること故、別宇宙の主神である我がゲートを開くのは、原則として主権者である水素神の許可を得る必要があるんだが、これだからな」

「フンガァー……ホンガァー……(眠)」

「管轄外だが、転送神罰の流れは合意しとるし送還せんわけにもいかん。例外状態の事後承諾でもこの際止むを得んだろう」

「はい……水素神様にもご挨拶したかったんですけど」

「我が伝えよう」

「スマホの件もくれぐれもよろしくお願いしますと、出来る限り早くして頂ければ助かります」

「そう念を押さずとも伝える。というか、そもそも水素神は汝のところの主神ぞ。起きれば一瞬で全て理解されるから心配は無用だ」

「分かりました」

「じゃ、そろそろ送るぞ。さらばだ小娘」

「はい。失礼致します。さようならカッ素神様――」




 ○ 夏のとある日の夜 ○

 □ 大阪のどこかのホテルのロビー □


「――ゃく様? お客様! お起きになって!」

「ん……?」

「ここで寝ては風邪をひかれますよ」

「あ……」

「お加減が優れませんか?」

「いえ……」

「まだチェックインされてませんね? 時間外となってますが、ご予約の方ですか?」

「はい……あの……大昨夏未来です……すみません遅くに……」

「いえ構いませんよ、承っております。フロントで受け付けますので、どうぞこちらに。立てますか? 荷物を持ちましょうか?」

「何とか……大丈夫です荷物は。……すみません、あの……」

「はい」

「ちょっと多分スマホに問題があって……今ピッて出来ないんですよ、ピッて」

「あぁ。問題ありません、ご予約の方なら簡単にサインするだけですので。それよりも、お客様は高校生ですね?」

「そうです……」

「宿泊には親権者同意書のご提出が必要であることを事前にお伝えしていると思いますが、お持ちですか?」

「あるはずです、没収されてなければやけど」

「没収?」

「いえ! すんまへん、寝ぼけてて……ありました。はい」

「確認致しますね。お客様のご様子だと、今日はもうすぐにお休みになった方が良いかと思います。通常はスタッフに部屋のご案内をしていますが、無い方が良さそうですね……?」

「あ、無しだとすごい助かりますぅ」

「分かりました。部屋の鍵です。部屋までの行き方だけ館内をご案内しますので、一緒に行きましょう」

「ありがとうございますぅううぅぅうぅ色々ご親切にぃいいぃぃぃいい身に()みるうぅううぅぅうぅぅう……(泣)」

「いえいえ、いいんですよ~(汗)」




 ○ 夏のとある祝日の早朝 ○

 □ 大阪のどこかのホテルの部屋 □


「夢じゃないわ……!!」


「カッさんちで乾かしてた、この服と靴の汚れ……」


「ここは内陸……山ん中や……でもこの潮風の匂い……残り香……」


「鞄の中身……世界史はあんのに数学のノートだけない……そして何より……」


「スマホがない!!!!!」




 ◎ 第9話 過っ疎編2 ◎




 ○ 夏のとある祝日の朝食後、チェックアウト前 ○

 □ 大阪のどこかのホテルの部屋 □

 △ 大昨夏未来 △


「はぁ~(溜息)。スマホ決済出来ないやんかもう。今残りの手持ち現金の価値が人生でかつてない程跳ね上がっとるで」


「公衆電話で家に電話して、普通のテレビでテレビ見る気になるやなんて。どっちも中2ぐらいん時以来な気ぃするな……」


(どないしたらえぇんや、とりあえず充電器調子悪くて電池切れたって誤魔化したけど……帰ったらもうスマホのことオトンとオカンに言わないわけにはいかん……とにかく警察とメーカーに無意味な紛失届け出して、あれやこれや停止してもろて……でももしその直後のタイミングで神様から返されたらめんどいなぁ……荷物がごちゃごちゃしててうっかりで……その場合、位置情報がおかしなるか? でも電池切れててって言って……。でももしすぐ返してくれるんなら届け出さずに、面倒と言い訳を回避出来るんや……どうせ他人に悪用って心配はないんやし……でも神様がすぐ返してくれなかったら……? 返されたとして、壊されとったら? 前の過失ん時も保証対象外やった。あんなめちゃくちゃ怒られて、次やったら自力でバイトでもして稼ぐまでは禁止するからなって言ってた。オトンあれ本気やったもんあの感じ……)


「あぁもお! 何もかもが最悪や!!! うちが落としたんとちゃうのに!!」


「大体あれ今までの中で一番気に入ってるのに!! データ色々入ったままだし! しかもまだ使って半年も経ってないんやで!! んもおおおおっ!!(嘆)」

『――次のニュースです。昨日正午過ぎ頃、大阪府○×△□◇で車が電柱に衝突していると近くの住民から警察に通報がありました。……ぶつかっていたのは普通乗用車で出火しておらず、中に人はいませんでした。ナンバーから地元の高校に通う高校2年生、※※※※さん17歳の父親所有の車と判明しました。父親によれば※※さんは免許を持っていないにも関わらずよく車を運転しており、昨日も夏休み中の同級生の友人と4人で外出していたとのことです。……全員帰宅しておらず、車の中には4人が当時着ていたと思われる衣服、靴、鞄、携帯電話、財布等の所持品が残されていました。……保護者らから帰宅の呼びかけがなされており、今朝捜索願が出されました。警察では車中に服や靴が残っているなど不審な点が多いことから、事件事故両面の可能性を視野に入れて捜査するとしています――』

「…………」




 ○ 夏のとある祝日の昼前 ○

 □ 水配捲神社の境内 □


「まさかまたここに来ることになるとは……まぁえぇわ。うちにしか出来ひんことやしな」


「何も変わってない……あまりにも過っ疎過ぎて、気付かれてないんか?」


「荒らされて、うちが気持ち水流した時のまんまやん……やっぱ通報してないんかあの巫女さん」


(でも待てよ。おかしいで。あいつらのスマホが発見されて既に捜索してるなら、警察はここに来てるはずやないか)


(動画をまだ解析してない段階なだけか? それにしてはもう10時やで? 初動が遅ないか?)


(いや! 無免許運転以外の事件性って別に確定してへんもんな。それ以外は現段階だと電柱の物損事故や……。 でも未成年の高校生4人が車と財布とスマホと、着てた服まで残して行方不明やで??? 普通やない)


「…………」


「(4円チャリチャリーン♪)(二礼)(パン! パン!) カッ素神様、水素神様。あの不良4人組ですが、いくらクッソしょーもない迷惑系の犯罪者とはいえ、残された親や家族の人達があまりにも可哀想です。クズ行為は許し難いですが、それでも一生別の星で虫にするというのは、さすがに罰として重過ぎると思います。十分に懲らしめましたら、こちらの世界に人間として戻して頂けるようお祈り致します。またその際、向こうでの体験の感覚を脳内に深く刻み込んで、今後悪事や蛮行を働こうという考えが微塵も浮かばないようにトラウマを徹底的に植えつけてやれば、全人類にとっても幸いかと存じます。大昨夏未来より(一礼)」


「ふぅ。これで良しっと!」


(!!)


(ここの石……)

「お嬢はん?」

「きゃあっ!(驚)」

「おやおや! えらい驚かせてしまった。すまんかったね」

「いいいいえいえ、大丈夫です(焦)」

「見かけん顔やね、お嬢はん」

「旅行中やから」

「あぁ旅の途中やったか」

「途中言うか、今は参拝のために来てます」

「ほお!(驚) お若いのに珍しい。殊勝な心掛けですの~」

「どーもどーも。あのー、ここの神主さんですか?」

「えぇ幾つかの神社で宮司を務めておるんですわ、ここを含めてね」

「宮司さんですか」

「今日は祝日やからね。国旗掲げに来たんですわ」

「あの、境内が誰かに荒らされた形跡があるみたいですけど……?」

「はぁ(溜息)。困ったもんですわ、警察に相談しとるんやけど。ニュースんなっとるけど札付き半グレどもの失踪者が出とって、忙しいてすぐには手が回らん言われてな」

「フダツキ……?」

「地元で有名な、どうしようない半分ヤクザで半分チンピラの半グレ高校生どもでんがな」

「それはもう全グレやないですか」

「ま、全グレやな(笑)。少年院送りと退学を免れ続けてきたんが不思議な不良どもやで。それも反抗期の若気の至りで笑ってやれるようなもんじゃない。お嬢はんにはとてもとても言えないような、えげつないことをしよってるって噂が出回っとるんや」

「噂?」

「真偽不明の噂やがな。とはいってもあいつらならやりかねん内容や。そのうち前科もんになるやろ思てたが、無免許で車が電柱にぶつかっただけで親が怖くて逃げ隠れしたとかなんとか。そんな神経じゃなかろうにかえって驚いとるんですわ」

「その不良達がここを荒らした可能性が高いと」

「可能性ちゅーか確実にそうなんやけどな。私はここには常駐しとらんで断言まではでけへんけど。札付きどもが人様に直接迷惑を掛けて暴れ回った箇所が多過ぎるせいで、ここなんかは大概無人でいつものことやんけ、警察に後回しにされとるんや」

「なるほど……それは大変ですね」

「ほんまやで。しかもここは今日、アルバイトの巫女はんに任せとるはずやったんけど。昨日から連絡がつかんのよ(困)」

「えっ!? ……! !! !!!」

「ほとほと参っとるんですわー、何せ神社やからね。だっはっはっはっは(笑)」「あは、あはははははー……(棒)」

「あれれ、スベってもうたか! これ神社の鉄板なんやけどな(汗)」

「いやごめんなさい! ちょっと上の空やっただけです。あのーその巫女さんなんですけど、もしかして私と同世代くらいの人ですか?」

「? そうね、同じくらいに見えるで。何や顔見知りやったんお嬢はん?」

「いや、知ってる人の方かなって。別の人やったらアレやから」

「1人しかいないのよ巫女はん。あ、もしかして今日会いに来たの」

「まぁ一応そうなんです、あははは……。スマホ持ち込みが職場に禁止なのに、そこの建物の固定電話が壊れてて困るって言ってましたよ」

「あぁそれねー。断線させられたんや、社務所の電話線が『何者か』にな。自然に切れたんとちゃうで。その件は誰の犯行かの証拠は出てないんやが、まぁ話の流れで誰がやったか、お嬢はんにも大体察しがつくやろ?」

「つきます。ところであの、その巫女さんってですね、その不良達と同じタイミングで連絡がつかなくなってる、ということになりますか?」

「ん? あぁそう言われればなぁ? でも心配せんでもえぇよ。それは全然関係あらへん思うで」

「そうなん、ですか?」

千早(ちはや)ちゃんはね、氏子総代(うじこそうだい)を何期も務めてくれたことのある有力な企業経営者の一人娘なんや。札付きとは最初から住む世界が違とるがな」

「何ですか、スジコ? スジコ食い放題??」

「はっはっはっはっは、ちゃうちゃうスジコとちゃうで!(笑) 神社を支えてくれとる地元の有志の人達のことやがな、総代は代表者ってことやね」

「すみません(恥)」

「あの流行り病が収まってから社長はん、会社の方がご多忙んなっとって、今は総代は交代しとるんやがね。社殿の修繕もそうなんやけど、ちょっとあれ見てみぃ、そこの鳥居ってかなり新しいやろ?」

「そうですね」

「前にそこにあった古い鳥居を新しくする際も、社長はんが中心になって話を取りまとめてくれたんや」

「ほえ~! 巫女さんのお父さんが鳥居立ててくれはったんですか」

「まぁそうやで順序逆やけどな。小っちゃい頃から千早ちゃんは対人関係をえらい苦ぅにしとってな、どうしても上手くいかんかってん。ついに高校一年限りで進級せずに、退学してしもうたんや……。あれから半年くらいになるかな」

「!! …………」

「しかも親元で働く気はさらさらないし一緒にもおれんっちゅーて、東京に飛び出しかねんのを我慢させる妥協として、この近くで一人暮らしを認めたんやと」

「ふんふん」

「ほんで社長はん夫妻に頼まれて、巫女のアルバイトさせてもらえないかってな。こっちも子供の頃からよう知っとるし、根はえぇ娘やってん引き受けたんや」

「なるほど」

「ここは何せ小さい神社で参拝者も多くはないからね。少しずつ落ち着いて社会復帰するんにえぇんじゃないかと」

「それは確かに。ちょうど良さそうですね」

「ただほんまのこと言うたらな、ここは巫女が常駐するような神社とちゃうんや。神宮や大社や一宮なんかとは全然規模が違うさかいな」

「なるほどそれで巫女さんが……私も会った時ビックリしましたけど、そんな事情がおありやったんか」

「だけどいくら気分屋でも連絡つかへんくなる癖はほんま困ったもんやで。おっとついつい楽しくて長話してもうたわ!! 私は別の神社に戻らなあかんのよ、予定の神事があるでな。お嬢はんはほんま話聞き上手やね! そんではこれでね」

「は~い、私も楽しかったです。失礼しま~す♪」


(人のプライバシー喋り過ぎやねんで神主さん。まぁおかげでこっちは情報得られたけどな)


(あと神社を荒らして回る不良グループと美人の巫女さんが同時に消えとるのに、関係無いって断定するのはどうかと思うで。心ん中で駄目出ししとくわ)


(『ちはやちゃん』って言うとったな。漢字分からんけど一応メモっとこ)


「…………」


「カッ素神様、水素神様、いらっしゃいますか! 私です、未来です。大事な用件があって来ました。お伺いしたいことがあります。いらっしゃいましたら私をもう一度あの亜空間に入れてください、お願いします(超小声)」


「……カッ素神様、どうしてもお話したいことがあるんです。私の声聞こえてるんでしょう? 一旦、亜空間に連れてって下さい、神主さんも行ったので、今ならゲート開けても誰にも見られてないと思いますので……(小声)」


「カッ素神様、聞こえてるんでしょ? 分かってますよまだ宴会してるの。水素神様が起きて交換の儀式が終わるまでいるっておっしゃいましたよね? いないフリしてないで早く入れて下さい!(普通の声量)」


「カッ素神様!! もし水素神様がまだ寝ててもゲートを開いて下さい!! 転送神罰に関することで聞きたいことがあります!! この件なら水素神様の許可が得られなくても例外として話をすることは認められるはずです、誰か人が来る前に早く入れて下さい!! 最重要案件なんですカッ素神様!! 早くして下さいそろそろ警察官がここも捜査に来る可能性が高いんです、そうなるとやりづらくなるので早く入れて下さい!!!(大声)」


「…………(ピキピキッ)」


「ゴラァ大阪や!! 大阪『不敬』やぞ、立ち入り検査や!! 早よ入り口開けんかいボケエ、居てるの分かってんねんぞカッ素神!!! 神様だからってもったいつけてんとちゃうぞワレコラァ!! 捜査令状なんてなくてもなぁ、こちとらご『令嬢』やで!! これ以上うちの口を悪くさすなやっちゅーてんねん!!!!! こんな過っっっ疎い神社裏の亜空間でどんだけ居留守かませば気が済むん自分? なぁおい! 大事な用事あるっつってんだろ、聞いとんのかテメこらあっ! 土もっとえぐったるどうらうらうらうらオラァ!!(ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!) 大概にせえよボケコラカスゴミィ!!!!!(超大声)」

『――――』

「!」

『大概にするのは汝だ。不敬な小娘よ』




 ◎ 第10話 カッ素編3 ◎




 ◇ 宇宙の神々の亜空間 ◆

 △ 大昨夏未来 △


「この一部始終の映像を見て、理解したな? この女が最初に通神発石を右足で踏んで大きい亀裂が走ったが、この段階で既に半分程の故障が発生していたと水素神は言っている。その直後汝が二番目に左足で踏んで亀裂が深まり真っ二つとなり、機能が完全停止、最終的に壊れたのだ」

「…………」

「しかし……全く持って解せんなぁ」

「ブフゴォーッ……フゴッフゴッ……(眠)」

「解せないのは私もですよ」

「ん? 何がだ?」

「神様方は何でずっと私に黙ってはったんですか? あの巫女さんも転送神罰を受けていること」

「黙っていた? ……何を勘違いしておるのか知らんが、汝に隠していた意図など毛頭ないわ。言う必要がない、ただそれだけのことだ」

「言う必要がないですって??」

「そうだとも。というより汝らが通神発石を踏んだのは目の前で起こっていたことだろう。何故我がわざわざ説明までしてやる必要があるのだ」

「見てませんわ、あんないきなり急かされて訳も分からず走ってる時に足元の石なんていちいち見てません!」

「汝らの事情など我の知ったことではない」

「カッ素神様、私はねえ!!」


「そんな大切な石やなんて事前知識がなかったら考えられるわけがない、道のそこらの仕切りの石を踏んで壊したといって神様方にめっちゃくちゃに責め立てられて!! 弁護士も裁判員もいない、別の宇宙の酒に酔った神様が唯一の裁判官の秘密裁判を突然受けさせられて!! あのつらい刑罰をこの身に受けたんですよ!? それも管理体制に疑問がある物に対する過失損壊で!! その原因になった石を、私より直前に踏んで物理的に影響を与えていた人がいるなんてこと、知ってたら他に自己弁護の仕方もあったやないですか!! 私に知らせないことによって、不利益が発生していたやないですか!!」

「考え違いも甚だしいぞ小娘。我等が知らせようが知らせまいが汝に不利益など発生しておらぬわ。水素神のやり方は知らんが、我は神罰はそれぞれ個人個人に下すのが信条でな。連帯責任は我の流儀ではない。よって汝の罪は汝の罪、あの女の罪はあの女の罪だ。ただそれだけの話よ。これで納得したか?」

「カッ素を撒き散らして、戦争をした向こうの人類を激減させたんですよね? それって人類全体に対する連帯責任ですよね? 個人やなくて集団に対する神罰やないですか? カッ素神様の怒りの巻き添えになった戦争指導者以外の大勢の無実の人達の命ってどうなってるんですか?」

「……何だあ??? わざわざ勇んでここに乗り込んできたのは別宇宙の神である我を非難するのが目的か小娘?????」

「!! いいえ……。そのようなことは決して……。興奮して思ってもいない言葉が口をついて出ました。大変失礼致しました。たかが人間の分際でありながら申し訳ございません。どうか愚かな小娘の戯れ言として、御赦し頂けないでしょうか。カッ素神様」

「!?? …………(キョトン)」

「…………」

「ふんっ!!!!(酒グビグビ)」


「プハーッ。……気に食わんがまぁよいわ(不機嫌)」


「で? 汝は結局何が言いたいんだ? もう本題に入ってよいぞ」

「本題はもちろん、巫女さんのことです。彼女を日本に、こちらの世界に帰してあげてほしいんです」

「却下する。以上だ。他には? 何か話すことはあるか?」

「何で却下するのか理由を教えて下さい」

「個別具体的『事件』の神罰内容について、汝に教える『義務』が我にない」

「私は今回の不可抗力過失『事故』の関係者です。知る『権利』があります」

「だからな。それが解せんと言っておるのだ。何故そこまでの関心を抱けるのか? あの女が戻ってくると、汝に何か金銭面で得することでもあるのか?」

「別にないです」

「水素宇宙の事象を我は全て把握しておらぬが、この女は汝の家族か何かか?」

「違います。でも巫女さんにも私と同じように帰るべき家があってご両親や家族がいるんですよ」

「そうだろうな」


「つまり汝とこの女は地球時間だけでいえば昨日、神社で初めて会った赤の他人であり友人ですらない。そうだな?」

「そうですけど」

「この女がどんな人生を送ろうが、どこでどう生きてどんな最期を迎えようが、汝の人生とは無関係。どうでもよかろう」

「…………」

「お前が神社の拝殿で帰還の願いを捧げた、あの害虫未満の下郎4人と同じよの」「! 同じやない!!」

「んん?」

「そこは同じなんかじゃありません! 断じて違います!! そいつらが来た時、この巫女さんは私を連れて逃げたんです! 助けてくれたんです!!」

「……この映像通り、一部始終をリアルタイムで我も見ておったがな。たまたま下郎接近の事実を教えた汝と2人きりの状況だったから職務上仕方なく、あるいは自分の身の安全のために他の人間がいた方が危機回避の為に有利だから、その女はそう行動したというだけのことに過ぎんように見えるな。そう思わんか?」

「えぇそうでしょうね、そうやけど! 咄嗟に私を助けてくれた人がまだ帰ってきてないなんて、そんなん気になるじゃないですか!! この巫女さんは今、どんな状況にあるんですか? 教えて下さい!!」

「……汝はつい先程まで知らなかったのだったな? このことを」

「そうです」

「ではあの女のことも神社で帰還の願いを捧げるがいいぞ。ゲートを神社に出してやるからさっさと祈って家に帰れ。さらばだ」

「帰りません」

「あ?」

「大体、私のスマホ返してもらってない件も残ってます!」

「……ハァ(溜息)。水素神が起きたら返されると言っているだろうが。別件とごちゃ混ぜにして物事を動かそうとする地球人が」

「カッ素神様に言われたくはありません」

「あああ???」

「カッ素神様、この巫女さんを家に帰してあげて下さい」

「ならん。以上。……何だ、この女と通信機以外の話題はないのか?」

「この話がまだ終わってません」

「一体どこまで食い下がれば気が済むんだ???」

「彼女が元の世界に戻れるまでです!」

「いやはや。大概にしろとはまさしく汝の為にある台詞だな……」

「カッ素神、さ、まっ!」

「何だっ!?」

「巫女さんをっ!! 家にっ!! 帰してく、だ、さ、いっ!!!!」

「ならんと言ったらならんわ!!!!」

「なぜです、かっ!!! なぜなんです、かっ!!!!」

「なぜならば!!! この女はこの通り……我が与えた神命を未だに成し遂げてはおらんからだ!」

「!?」

「この映像を見て分かるだろう」


「汝を飛ばすすぐ前に、この女は我の星の人一位という都市に飛ばしておった。間もなく現地の人間どもに捕らえられた。汝と鉢合わせんように地理的に離れたところに転送してはいるが、時間軸は完全に同じだ」

「…………」

「つまり我の宇宙では転送後3週間ほど経過しているが、そのほとんどをこの牢獄で過ごしておる。紙もなければペンも持ってない。もはや神命に取り組める状況にはない。よって我の赦しを得られる見込みは今後もほぼない」

「ひどい……」

「このままいけば我の宇宙の人間として短い生涯を終えることとなるだろう」

「ひど過ぎる!!」

「そうであろうな。で、どうする?」

「……私が一緒に神命課題をこなします!」

「はぁ???」

「私をもう一度カッ素宇宙の、えーと……すみません、あの星の名前は何て言うんですか?」

「人に付けられた星の名ということであれば、名は無い」

「分かりました。じゃあこれから私はカッ素星って呼びますね」

「何を勝手に」

「私をカッ素星に連れて行って下さい! 私が神命を手伝って、巫女さんを連れて帰ります。許可して下さい!!」

「…………」


「どうしてもというなら我としても許可せんこともないが……一体全体何を要求しているのか、自分自身で分かって言っておるのか??」

「分かってます。ただ私も課題に途中参加するに際してひとつお願いがあります」「何だ?」

「私をこの人一位の都市にいきなりゲートから出すんやなくて、前の神命を遂行したあの地点に出してください」

「汝に言われずともそうするわ」

「当然ですが巫女さんと同じ時間軸にですよ? 何百年前とか何百年後とかに放り出して『相手は誰もいないがそこで神命やってみせろ』は無しですからね?」

「あのな、我を何だと思うとる小娘?」

「失礼致しました。あっ! そうだそうだカッ素神様! ゲートから出す時に意識飛ばさないで下さいね。もう色々分かってることやし、正直海辺で気を失って暫く放置はされたくはないんです。何か事故があると嫌やし、いくらあそこの波が穏やかっていっても危険はあるんやし、前回も浜辺で砂まみれになってたし、いくら向こうも夏でも風邪引きそうだし。あとあの~、ワープ前に幾つか詳細確認しておきたいんですけど、まず最初にうちが持ってける荷物のことなんですが」

「分かった分かった分かった!! もう分かった!! 1回口を閉じろっ!!」


「……送るとすれば意識は飛ばさんし安全面は心配せずともよい。前回にしても汝が波にさらわれるような事態は起きぬようにしておる。我はそこの宇宙の主神ぞ。それと小娘あのな、頼むから少し静かにしとれ。汝のその細部をやたら詰めようとする傾向には大いに辟易……いや違った。大いに評価する部分もあるところだが、今まだ話全体の大枠を伝えきっておらぬし確定もしておらぬ。細かい話は後からにせい、我にまず全体の話をさせろ」

「ごめんなさい」

「よろしい。それではまず最初に重要なことがある、ハッキリと警告しておくぞ。甘い覚悟なら一生後悔することになる。汝があの女の神命を共同するのを百歩譲って許すとして、成し遂げることが出来ねば汝は女共々、二度と地球に戻ること叶わぬぞ。いつでも途中で切り上げて帰れるピクニックとは違うのだからな?」

「は……はい……」

「それともう1つ。汝が遂行した神命課題と、あの巫女に与えている神命課題は、中身が違うからな?」

「あっ。そうなんですか」

「そして向こうに行ってからでなければ、どのような内容か知ることも許さぬ」

「な……んで? それは何でですか? 何でそんなことまで意地悪するんですか? そこは教えてくれはったっていいやないですか? こっちだって心の準備も出来るのに」

「そもそも心の準備が出来ないところが出発点の神命だからな。今以上の心の準備が出来ては困るからだ。自分にもじゅうぶん出来そうだという認識と見通しの上に立った覚悟なんぞあっては、転送神罰の主旨から外れるではないか?」

「…………」

「そして我の宇宙に着いた後から、到底2人がかりでも遂行不可能な難題だったと知ったところで、全てが手遅れ。泣いても叫んでも喚き散らしても絶望しても一切が無駄だ。もはや神命を共有しているのだから未達では生きて帰してはやらぬ」

「……意地悪」

「更にまだ乗り越えねばならん難関があるぞ」

「何ですか!」

「課題の中身は共同で執筆するわけだが、とはいえキッカリ半分に分けられる性質でもなし、実質的に取り組みに偏りがあってもそれは別に構わん。しかし完成品は必ず2人一緒に同じ場所で我に提出すること。向こうに行った途端、汝のノートに1人であっという間に仕上げて『はい完了、これは名義上2人で成し遂げたことにします、ではそれぞれ帰還させて下さい』と言い出しても、それは通らんからな。つまり汝はこの女を物理的に牢獄から解放し、助けて連れ出さねばならないという前提条件がある訳だ。どうだ? 到底汝に出来ることではあるまい? 小娘よ」

「…………」

「警告はしたぞ。よいな?」

「…………っ。はい。いいです。……行きます(緊張)」

「……汝は自らの名に相応しい行動をとるよう重ねて警告する。少しでも『未来』のことを考える頭があれば、そんな突飛過ぎる結論には至らぬはずだ。そう、汝、自身の名の意味を知れ、というところだな」

「そんな皮肉は結構や! カッ素神様!」

(やま)しいのだな? 小娘よ。この女に後ろ髪を引かれるか?」

「!」

「汝は水素宇宙の人間、我にその心全ては把握出来ん。しかしだ。我も宇宙が異なるとはいえ、人類文明を総括する神であるぞ? ほぼ同型の類似宇宙だ。人間の感情の仕組みにそこまで疎いと思うてか?」

「…………」

「汝が、この女の置かれている境遇に同情したり、この女も元の世界に帰ることが出来てほしいと願うその心情は、全くの嘘偽りという訳ではなかろう。何せ我の怒りを買う危険を冒してここに来るという、決して勇気ではない浅慮無謀(せんりょむぼう)、いや! あえて褒めるとすれば短絡思考の末の突発行動に裏打ちされた度胸があるくらいだからなあ?」

「…………」

「だがその感情的行動の裏側には、自分が後ろめたい思いをして日々を過ごしたくない、自分の心を守りたいという自己本位の動機が密かに働いておるのだ。つまり人間という中途半端な社会的生物が持つ、精神衛生上の自己防衛機能の作用よな。しかしだ? 精神の防衛機能と身体の防衛本能の結論は一致するとは限らない。汝の体は既に危険信号を発しているはずだ。なぜなら危険且つ無益な冒険だからな」「私の心の動きをそんなに細かく分析して頂かなくて結構です! しかも別に当てはまってもいません。言わしてもらいますけど的外れやし、もう何か話もくどいんでそういうのやめてほしいですカッ素神様」

「『怖い、恐ろしい、やめるべきだ、もういいここで引き返してもいいはずだ、振り上げた拳をもう降ろそう、ダサくてもいい早速発言を撤回しよう、自分はせっかく赦されたのだから、もう彼女のことは記憶の彼方に追いやって忘れよう、自分の安全圏を確保して元通りの人生を謳歌しよう、もう戻れない可能性に晒されるのはまっぴらだ、基本的な人権の概念すらも違う時代と場所で、あの巫女のように向こうの牢獄で一生を過ごしたくはない、それどころか命の保障すらない世界だ』」

「…………」

「『気が大きくなって行ってしまった、かっこつけてこんなところに来たのが大間違いだった、後から後悔した、失敗だった愚かだった遅かった何もかもが、もう二度と私は生きて故郷に帰れないんだ……』ガアーッハッハッハッハッハッハア!!!!! ブワァーッハッハッハッハッハア!!!!!(酒グビグビグビグビ)」

「…………」

「プッハァーッ!! 今日も酒が旨いわ堪らんのお!! さてと! どうだあ~??? 生存本能が特大級の警報を鳴らしながら脳を通して、心の防衛機能に対し必死に説得してくるだろう。つまらん意地を張るな、とな。それを我が言語化して代弁してやったんだ親切にもな。少しは耳を傾てみたらどうなんだ、えぇ~おい? 考えなしの小娘がっ!!」

「…………」

「とまぁ心理だの葛藤だのと理屈をこねるまでもないことだがな。早い話が己のための行動だ。心のエゴイズムと体のエゴイズムの対立だ。結論がどちらに転んでも他人の為ではない、自分の為の行動だ。結局どうせ自分のためならば、自身に降りかかる危険を回避して安全を確保した方がまだマシな選択というもの。徐々にその思いの方が割合が強まってきただろう、どうだ違うか? 無鉄砲の小娘ぇ?」

「…………」

「最終最後の決定打を放ってやろうか。宇宙は違えども人類文明を含む全ての知的生命体を総括する神である、我の眼力が見抜いた『正確』無比なる『性格』分析を聞かせてやろう。仮にこの女と汝の立場が反対、つまり入れ替わっていたとしたらな。この女は、汝を助ける為に再び我の宇宙に来ようとしたりはせぬ。それはもう断言出来るぞ」

「…………」

「せいぜいが安全圏から帰還の祈りを捧げるぐらいが関の山ぞ。ま、職業柄もあるだろう、祈るくらいのことはしても不思議ではない。が、どうせそこまでなのだ。この女は決して自らを危険に晒したりはせぬ。そしてその後の人生の展開も大体予見出来ようぞ? 出来るだけ汝のことを含め、悪い思い出として忘れ去ろう、記憶の彼方に追いやろうと努めることであろうな。自分のその後の人生を安全に且つ、快適に生きるためにな。そうなることはもう目に見えておるのだ」

「…………」

「しかし別段そうであっても決して責められることではない。我が言いたいのは、今の例えで出したこの女の心理の方が余程正常で、汝の方が異常なのだということだ。所詮は他人の人生。それだというのに、如何に汝のその異常行動の浮いていることよ。こうして比較すればこそよく分かるだろう。なぁどうだ小娘? こんな女を自ら危険を冒して救いに行くなどと、ほとほと馬鹿らしいとは思わんか?」

「…………」

「……さてと。ここまでくどくどと言ってやればさすがに頭が冷えてきただろう。我の気が変わらんうちに引き返すが賢明ぞ。赤の他人を救いに向かいかけたが怖くなって諦めたといって、誰も汝を責めはせぬ。我も汝を責めぬ。自身の無力さと危険の度合い、その両方を計り損ねていたのだからな」

「…………」

「汝はこの女をここまで気にかけた。もうじゅうぶん義務……いや、義理は果たした。そして汝は最初から無い義理を、有ると思い込んでいただけなのだ。通さんでもいい義理は通る通らぬ以前に通そうとせんでよい」

「…………」

「では最終最後の意思確認をするぞ。どうするのだ?」

「……あの……お願いがあります、カッ素神様」

「ん? おう何だ? 帰るか」

「私……今……震えています」

「そうだろうそうだろう。無理もないことよ」

「気持ちがすっごいブレッブレなので……モチベ維持の為に激高(げきだか)の成功報酬を下さい!!」

「んあ????? 何だって?????」

「巫女さんに与えられた神命課題を成し遂げた時には、一緒に帰還する上に、私のスマホを水素神様から取り返して下さいぜったいに!!!!! それなら私、頑張れます!!」

「…………(唖然)」

「ズビゴォーッ……ブフィー……フンガゴガッ……(眠)」

「……よかろう。ほれ! ブレスレットをするがいい。……全くもってどこまでも度し難い小娘だ」




 ◎ 第1部終わり 第2部に続く ◎

 作者情報:キャラデータ損失し自力復元出来ず意気消沈の枯木田万流です。短編が1つに収まらず4部構成に。長編変更の気力も失われ分割強行。ご感想ご助言ご指摘等頂きましたら有難いですが、筆者多忙で全編掲載後に読ませて頂きます。返事や反応も難しいと思いますがご容赦を。他にも至らぬ点が多々有ると存じますが素人の為、読者の皆様には何卒苦笑しながら大目に見て頂けると幸いです。どうかよろしくお願いします。 注意事項:地名は地方公共団体までは実在地名が出てきます。詳細地名や建物等は一部実在の場所を参考としている場合が有りますが、あくまで架空です。登場人物は一部歴史上の人物をモデルにしている場合が有りますが、全員架空の人物です。

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