奴は本気だった
「ちょっと待ってください!!!話が一向に見えません!!!!!!」
小さな会議室に私の大声が響き渡る
(私ってこんな大きい声出たんだ..。)
そんな間の抜けたことを考えていたら瀬川さんが沈黙を破る
「そうですね。私たちはこれまで特に接点が無かったのにこのアプローチの仕方じゃあまりにも急な話しで不誠実ですよね。無礼な上、怖がらせて申し訳ございません。」
ガバッと90度にお辞儀をしてくる瀬川さん
(言っていることの理解はまだ追いついていないけど、こういう丁寧な所かっこいいな)
混乱とトキメキを同時に起こして心臓の音がいつもより早く動いているのがわかる
「あの..。えっと、驚きはしたのですがその、瀬川さんは私を好いてくれているという認識でよろしいでしょうか?」
「はい。そうです。嫉妬の感情が先に出てしまい、混乱させてしまい申し訳ございません。私は増田さんのことが好きです。なので他の男性と喋られると妬いています。」
突然の告白に時が止まる
(え?うそ!いま好きって!??告白されてる!?あの瀬川さんに?私が?)
「なんで私なんか?」
特に美人な訳でも今まで男性からモテた訳でもない。
特別な才能や能力がある訳でもないのになぜ私は彼の目に留まったのだろう
困惑と嬉しさでさっきとは違うポジティブなドキドキが心に響く
「それは..」
どんな回答がくるのかワクワクドキドキしながら待っているとさっきまで真面目な顔をしていた彼が表情を歪める
「すみません。それはまだ言えません。ただ好きと言う気持ちに嘘偽りはないです。」
「まだ..。とは?」
「嫌われたくないんです。自分の気持ちを全て曝け出して引かれないか不安なんです。なのでまだ気持ちをオープンにできません」
いやいや、十分気持ちをオープンにしてるでしょ!
いきなり会議室に呼ばれたかと思いきや「俺以外と喋らないで」とか「次の勤務地は私の家」とか恐らく今後の人生でもう聞くことがない単語をこの短時間で何個も聞いている
もう既におかしなことを言っているのに目の前の彼は気持ちをオープンにするのが不安だと言っている。
申し訳ないという気持ちが全面に伝わるこの表情からするに彼の言葉は全部本心みたいだ
「ふふっ」
矛盾する彼の言動と真面目さについ笑い声を出してしまう
「ふふふ、あはは!」
笑ってしまった私の顔を見て彼は目を見開く
(まずい!真剣に告白してくれているのに笑うなんて失礼なことをしちゃった!これじゃ私が嫌われちゃうよー!)
急な展開に混乱はしつつも元々は私も瀬川さんに気持ちはあった為自分の無礼な行動に血の気引く
「いや!笑うなんて失礼ですよねごめんなさい!」
謝る私を見て彼は優しく微笑む
「いえ、初めて私に向けて笑顔を見せてくれたなと思うと嬉しいです。いつもは、他の人に向けた笑顔を横目で見ることしか出来なかったので」
「いつもと言うことは前から私を気にかけてくれていたんですか?」
「はい、真面目に仕事をこなして会社の人間とも生徒さんとも丁寧にコミュケーションをとるあなたに心惹かれていました。」
瀬川さんの言葉に自分の顔が熱を持つのを感じる
(そんな風に思ってくれていたんだ、嬉しい)
嬉しさで少し視界がぼやける
(好きな人と両思いになるってこんなに嬉しいことなんだ、私もちゃんと瀬川さんの気持ちに応えなきゃ)
「瀬川さん!あの!私も瀬川さんのことがずっ」
パラッ
私の返事の途中で会議室の机の上に置いてあった書類が一枚床に落ちた
それは彼がここに来る時に持っていた書類の内の一枚でエアコンの風によって動いたようだ
床に落ちた書類に視線をやるとそれは退職用の書類だった
「え、これ、」
「もし両思いでしたら今日中に職場の移動をしてもらうと思って..」
彼は本気だ。
私の職場を移動して彼の家に居させようとする発言は冗談などではなかった。
彼は本気なんだ!!!
好きの気持ちは消えないが私の脳内に警報が鳴った
奴は危ないぞ
脳が本能が私に危険信号を送っている。安易な返事は避けていったん保留にしよう。
(間一髪!まだ私は好きと言い切っていないし大丈夫)
「両思いで安心しました。これからはカップルとしてよろしくお願いしますね」
(間に合わなかった!!!)




