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魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした  作者: mera


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第六章

オズワルドは、私たちの報告を真剣な表情で聞いた。


「黒いローブの男……王宮内を自由に動き回れる人物か」

「はい。魔術師か、もしくは高位の貴族かもしれません」


エドワードが付け加えた。


「調査を進める。だが、相手も警戒しているだろう。迂闊に動けば、逃げられるかもしれない」


オズワルドは地図を広げた。


「アーデルハイト、君は当分、宮廷魔術師団の宿舎に滞在しろ。護衛もつけやすい」

「わかりました」


私は頷いた。

公爵家の屋敷に戻るよりも、確かに安全だろう。


「エドワード、護衛を頼む」

「承知しました」


宮廷魔術師団の宿舎は、王宮の西棟にあった。

個室が与えられ、マリアも一緒に滞在することになった。


部屋は質素だが、必要なものは揃っている。

窓からは中庭が見え、警備兵が巡回している様子が確認できた。


「リーナ様、お荷物を整理しますね」


マリアが手際よく荷物を片付けていく。

私は窓辺に立ち、外を眺めていた。


黒いローブの男。

あの男は、何者なのか?

なぜ、私の魔力を狙うのか?


考えても答えは出ない。

コンコン、とドアがノックされた。


「リーナ、入ってもいいか?」


エドワードの声だ。


「どうぞ」


エドワードが入ってきた。手には本を数冊抱えている。


「調べ物の続きをしようと思ってね。君の部屋の方が、護衛しやすい」

「ありがとうございます」


エドワードは椅子に座り、本を開いた。


「アーデルハイト家の系譜を調べている。純粋魔力の秘密が、そこにあるかもしれない」

「何かわかりましたか?」

「ああ」


エドワードが一冊の古文書を示した。


「アーデルハイト家は、三百年前に現国王家から分家した名門だ。だが、それ以前の記録が曖昧でね」

「曖昧?」

「意図的に消されている可能性がある。まるで、何かを隠すように」


エドワードの指が、古文書の一節を指した。


「ただ、断片的な記録がある。『白銀の魔女』という伝説だ」

「白銀の魔女……」

「三百年以上前、この国を救ったとされる女性魔術師だ。彼女は全ての属性を操り、純粋魔力を持っていたという」


私は息を呑んだ。

純粋魔力を持つ魔術師。


「その魔女の末裔が、アーデルハイト家だと推測される」

「では、私は……」

「その血を引いているのだろう。だから、君は純粋魔力を持つ」


エドワードが真剣な目で私を見た。


「だが、それは同時に危険でもある」

「どういうことですか?」

「純粋魔力は、全ての魔法の根源。理論上、それを取り込めば、どんな魔術師でも最強になれる」


私は背筋が寒くなった。

つまり、黒いローブの男は、私の魔力を奪おうとしている。


「そんなこと、可能なのですか?」

「通常は不可能だ。だが……」


エドワードは別の本を開いた。


「古代魔術には、『魂の転写』という禁忌の魔法がある。他者の魂と魔力を、自分に移植する魔法だ」

「禁忌……」


「ああ。成功率は低く、失敗すれば術者も対象者も死ぬ。だが、成功すれば……」


エドワードの表情が険しくなった。


「対象者の魔力を、完全に奪い取ることができる」


部屋が静寂に包まれた。

私の魔力を奪うために、黒いローブの男は動いている。


「守ってみせる」


エドワードが静かに言った。


「君を、必ず守る」


エドワードの言葉に心が、ぽうっと明かりが灯った気分がした。

その言葉に、私は安堵した。


「ありがとうございます、エドワード様」

「エドワードでいいと言っただろう」


彼は微笑んだ。

その笑顔に、心が温かくなった。





夜が更けても、私は眠れずにいた。ベッドに横たわっているが、頭が冴えている。

黒いローブの男のことが、頭から離れない。


魂の転写。

もし、あの男が本当にその魔法を使おうとしているなら……


私は立ち上がった。水を飲もうと、部屋を出る。


廊下は静まり返っている。警備兵の足音が、遠くで聞こえる。

給水所で水を汲んでいると、背後に気配を感じた。


振り返る。

黒いローブの男が、そこに立っていた。


「……っ!」


声を出そうとしたが、男が手を振るった瞬間、周囲の空気が固まった。

音が消え、動けなくなる。


拘束魔法。

なんて手の早い!


男がゆっくりと近づいてくる。フードの下から、冷たい目が覗いていた。


「ようやく、捕まえた」


男の声は低く、禍々しい。


「お前の力を、私によこせ」


私は必死に魔力を練った。拘束を解こうとする。

だが、男の魔法は強力だ。簡単には解けない。


「無駄だ。この拘束は、特別に準備したものだ。純粋魔力でも、すぐには解けん」


男が黒い水晶を取り出した。


「この『魂喰いの宝珠』があれば、お前の魔力を全て吸い取れる」


宝珠が、不気味に光った。

私の体から、魔力が吸い出されていく感覚。

痛みはないが、力が抜けていく。


まずい。

このままでは、本当に魔力を奪われる。

私は最後の力を振り絞って、声を絞り出した。


「エドワード……!」


小さな声。だが、その声は魔力に乗せて、エドワードの部屋に届いた。

男が舌打ちした。


「小賢しい……!」


男が宝珠の吸引を強める。

だが、その時、廊下の向こうから魔法が飛来した。

雷撃が男を直撃する。

男はよろめき、拘束魔法が解けた。


「リーナ!」


エドワードが駆けつけてきた。彼は寝間着のままだが、手には魔力が宿っている。


「下がっていろ」


エドワードが男の前に立ちはだかった。

男はフードを下ろした。

中年の男。顔には憎悪が滲んでいる。


「エドワード・ヴァルハイト……邪魔を」

「お前は……まさか」


エドワードが驚愕の表情を浮かべた。


「レオンハルト・グラウ! お前、追放されたはずでは!?」


――その名に、私は記憶を辿った。


確か、数年前に宮廷魔術師団から追放された男だ。

禁忌の魔法研究に手を染めたという。


「追放された……そうだ、私は追放された」


レオンハルトが笑った。


「全ては、お前たちのせいだ。私の研究を理解せず、ただ禁忌だと決めつけた」

「お前の研究は、人の魂を弄ぶものだった。許されるはずがない」

「黙れ!」


レオンハルトが魔法を放った。闇の槍が、エドワードに迫る。

エドワードは防御魔法で受け止めた。


「リーナ、ここから離れろ! 警備兵を呼んでこい!」


私は走り出した。廊下を駆け、警備兵のいる詰所に向かう。


「助けて! 宮舎に侵入者が!」


警備兵たちが慌てて武器を取る。

私は彼らを引き連れて、現場に戻った。

だが、そこにはエドワードだけがいた。

彼は壁に寄りかかり、肩で息をしている。


「エドワード!」


駆け寄ると、彼の腕に傷があった。


「大丈夫だ……浅い傷だ」

「レオンハルトは?」

「逃げた……くそ、あと一歩だったんだが…」


エドワードは悔しそうに拳を握った。

警備兵たちが周囲を捜索するが、レオンハルトの姿はどこにもなかった。

影も形もない。


「これは……転移魔法の痕跡ですね」


一人の警備兵が床を指差した。

床には、薄く魔法陣の跡が残っている。この夜だ。明かりが少ないせいで気づくのに遅れた。


「やつめ。ソレで逃げたのか……」

「なんてこと」


そこへオズワルドが駆けつけてきた。


「何があった!?」


私たちは状況を説明した。


「レオンハルト・グラウ……あの男が戻ってきていたのか」


オズワルドは深刻な表情を浮かべた。


「王宮内に潜伏していたとは。警備を厳重にしろ!」


警備兵たちに指示を出し、オズワルドは私たちを見た。


「二人とも、無事で良かった。だが、これは想像以上に深刻だ」

「レオンハルトの目的は、私の魔力ですね」

「ああ。おそらく、魂の転写を使うつもりだ」


オズワルドは腕を組んだ。


「あの男は執念深い。必ず、また襲ってくる」

「では、どうすれば……」

「こちらから仕掛けよう」


エドワードが言った。


「レオンハルトを見つけ出し、捕らえる。待っているだけでは、リーナが危険だ」

「だが、相手の居場所がわからない」

「いや、わかる」


エドワードが床の転移魔法陣を指差した。


「転移魔法には、行き先の痕跡が残る。解析すれば、レオンハルトの隠れ家がわかるはずだ」


オズワルドが頷いた。


「やってみろ。私も協力する」





翌日、魔法陣の解析が始まった。

エドワードとオズワルド、そして数名の魔術師が協力して、転移先を特定していく。


私も手伝おうとしたが、止められた。


「君は標的だ。ここで休んでいろ」


エドワードの言葉に、私は部屋で待機することになった。

マリアが付き添ってくれている。


「リーナ様、怖かったでしょう」

「ええ……そうね」


私は窓の外を見つめた。

魔力を奪われそうになった恐怖。あの感覚は、忘れられない。


「でも、エドワード様が助けてくださった」


マリアが優しく言った。


「エドワード様は、リーナ様のことを本当に大切に思っていらっしゃるのね」

「マリアったら……」

「リーナ様も、エドワード様のことを……」

「何を言っているの!」


私は頬が熱くなるのを感じた。

確かに、エドワードには特別な感情を抱き始めている。

彼の優しさ、知性、そして強さ。

全てが、私を惹きつける。


でも、今はそんなことを考えている場合ではない。

コンコン、とドアがノックされた。


「リーナ、いいか?」


エドワードの声だ。


「どうぞ」


エドワードが入ってきた。表情は明るい。


「転移先を特定した」

「本当ですか!?」

「ああ。王都の外れ、廃墟になった古い魔術研究所だ」


エドワードが地図を広げた。


「ここだ。明日の早朝、オズワルド団長と共に突入する」

「私も行きます」

「危険だ」

「でも、標的は私です。囮として役に立てるかもしれません」


エドワードは迷った表情を見せた。


「……わかった。だが、絶対に無茶はするな」

「はい」


私は決意を込めて頷いた。







翌朝、王都の外れ。

廃墟となった魔術研究所の前に、私たちは集まっていた。

オズワルド、エドワード、そして選抜された五名の魔術師。


「全員、準備はいいな」


オズワルドが確認する。


「作戦はシンプルだ。正面から突入し、レオンハルトを捕らえる。抵抗すれば、実力行使も辞さない」


魔術師たちが頷いた。

私は緊張で手が震えていた。

エドワードが横に来て、そっと手を握った。


「大丈夫。君を守る」


その温もりに、私は落ち着きを取り戻した。


「行くぞ」


オズワルドの合図で、私たちは研究所の扉を破った。


内部は薄暗く、カビ臭い匂いが漂っている。

廊下を進むと、地下への階段があった。


「下だな」


階段を降りていく。

地下には、広い部屋があった。

部屋の中央には、巨大な魔法陣が描かれている。

そして、その中央にレオンハルトが立っていた。


「よく来たな」


レオンハルトが笑った。


「待っていたぞ、アーデルハイトの娘」


彼の手には、黒い宝珠が握られている。


「今度こそ、お前の魔力を奪い取る」


レオンハルトが魔法陣を起動させた。

部屋全体が、禍々しい光に包まれた。

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