召喚された五人の聖女と王宮円卓会議
王宮会議は荒れていた。
「聖女が召喚できたのはよかった。本当によかった」
そう言いながら司教はうなだれている。
「しかし、どうして聖女が五人も召喚されたのか……」
国王は頭を抱えた。
魔王復活から数年――。
召喚された聖女は王国に祝福をもたらし、戦士へ魔王を封印する力を与える。
伝承に従い、司教達は異世界への門が開く日に召喚の儀式を行った。
聖女には戸籍がない。王子の嫁になることで王国の戸籍を得た前例が形骸化し、聖女は王子と婚姻をするしきたりとなった。
が、この国の王子は一人しかいない。
一人息子の王子は渋い顔をしている。王妃似の整った顔立ちだ。
「王子よ。誰か気になる聖女様はいるかな」
国王は息子に判断をぶん投げた。
息子は深いため息を返した。
「いえ。お顔を拝見しただけなので、なんとも……この場合、個人的な好みや、適当な判断で決めていいとは思えないのですが」
「王子と聖女なのだから神懸かったフィーリングとかないのか? あるだろう?」
「お父様は私に期待しすぎです」
王子の眉間に深い皺が刻まれた。大概の人間が一睨みすると迫力に気圧されるが、王妃の一睨みにはとうてい及ばないので国王はケロリとしている。
「そもそも五人もいると一人くらいは聖女ではない可能性もあります」
王子の言葉に、司教が憤然と立ち上がった。
「ありえません! 儀式は成功した! 五人とも聖女です! ええ! そうですとも! 私の儀式が失敗するはずないのです! 全員聖女!」
司教は力強く責任問題を回避した。
「いっそ全員嫁にしてしまえばいいのでは……」
国王は天恵を得たばかりに目を見開いた。
今度は王子が席を立った。
「母上を呼んできましょう。意見を聞きます」
「待って待って! やめてやめて! それだけは勘弁して! パパが間違ってたから!」
「まったく……」
国王にしがみつかれて渋々席に着く王子。
「そもそも、彼女達の意見を聞くべきです。一方的に召喚したのはこちら。そして祝福がなければ困るのもこちら。強制的に連れてきて慣習だから戸籍と引き換えに結婚をしろというのは人権問題に関わります」
「王子、人権とか個人の意思とか、考え方新しいよね~。息子の成長が嬉しいなあ」
王子に甘い国王だった。司教は「でもでも」とゴニョついたが、国王と違って王妃に怒られ慣れていない故、王子の一睨みで黙ってしまった。
そして――
一人の聖女は、勇者として魔王を倒した。
一人の聖女は、辺境で経済革命を起こした。
一人の聖女は、癒やしの力で孤児院を経営し、新興宗教の教祖となった。
一人の聖女は、魔獣を飼い慣らし、人間に友好的な魔族の軍団を築いた。
一人の聖女は、辺境で魔法を習得しながら、特になにもせず友人達とのんびり暮らした。
その内の誰一人も王子と結婚しなかった。
王宮会議は気まずい空気だった。
「魔王は倒したけど……王子、行き遅れちゃったね……」
国王が王子の背中をポンポンと叩く。
王子は意を決したように国王を真っ直ぐ見つめた。
「父上。実は私、ゲイでして。騎士団長とお付き合いしているのです」
「へえ、そうなんだ。それはいいけど、子供は作ってもらわないとちょっとまずいぞ。王家の血筋が途絶える」
「心に決めた相手がいるのです」
「うーん、それはぜんぜんいいんだけどね。いいんだけど、どうしたもんか」
司教が沈黙を破り、手を挙げた。
「癒やしの聖女が特別な力を使えるのです。なにやらオメガバースという能力で……」
結婚式は盛大だった。聖女五人も久しぶりに全員集まって王子と騎士団長を祝福した。
めでたしめでたし。