王様、いつの間にか現人神と話していた。
「 話してください、王様。
私は……貴方の口から、ちゃんと聞きたい。 」
「 ………話さないと進まないね。 」
両手で顔で隠して天井を見上げる王様。
余程話したくないのだろうか。
話したくないという気持ちが部屋中に蔓延して口が開きにくくなる。
けど、こればっかりは喋ってもらわなければいけない。
いつもいつもこの人は考え事を隠す癖がある。
それが国のためだとか、私たち配下のためだとか言っているけれど、絶対にその内容を共有することは無い。
するとしたら…精々魔女さまくらいだろうか。
そして隠し通したものを急に公開したと思いきや
「 やっていいよね?いいよね! 」
の一点張り。
結局それらは全部良い方向に向いたから今まで強くは言ってこなかったが……
「 今回ばかりは喋ってもらいますよ……国の未来がかかってるんですから。 」
私たちは甘やかしすぎたのかもしれないと思うと同時に、やはり喋れない理由があったのではないかと思う。
だって 「 魔王軍に寝返ろうと思うんだけど、どうかな? 」
なんて言われたら、迷うことなく速攻却下に決まってる。
それを避けるために……いや、隠し事をする人は皆そういう理由で隠すか。
だが今回ばかりは却下して欲しくなかったとか?
それほどまでに魔王軍に寝返る理由があるのかもしれない…。
「 ( だめだめ、話を聞く前からあれこれ考えるのは良くないですね。 ) 」
この癖、早く治さないと後々迷惑をかけそうだ。
王様の両手の力が抜け、 " ぽすっ " と音を立ててソファーに両手を落とす。
ソファーから背中を離して身体を前に倒し、
ティーカップに入っている夕日色をした紅茶を見つめては
疲れきった顔で口にする。
「 ……現人神からお告げがあったんだ。 」
「 現人神からの…お告げ…!? 」
口にした言葉は現人神という言葉。
この世界には善を司る神と悪を司る神がいるという話はしたかと思うが、
残念ながらその2柱はこの地に足を踏み入れることが出来ないどころか、天界から離れることすら出来ない。
だが現人神は違う。
現人神はこの地に人として創造され、神となった存在。
天界から創り出された神ではなく、世界が創り出した神なのだ。
「 私も最初は驚いたさ。
今まで現人神が生き物にお告げをしたことなんて1度もない。
というか、あの神は生き物に興味なんてないんだ。
だからお告げをすることなんてないと思われていた。
それなのに何故お告げをしたのか……。
答えは結構単純なんだが、結構私たちには興味の " き " の字もない答えだったよ。 」
…
……
………16年前。勇者が産まれてすぐの頃。
「 神が勇者に新たな使命を追加した。 」
私の部屋で仕事をしていると、なんの前触れもなくいきなり声が私の耳に入った。
けれど部屋には私しかいないから声が聞こえるはずが無い。
外から聞こえた声と言うよりかは、私の耳元で声をかけられた感覚。
私はすぐに念話をかけられたと理解したが、魔女にしては声が違いすぎる。
幼子の声のように聞こえるが、大人のように落ち着いている声で透明感がある。
初めて聞いた声だ…なんだか魅了されてしまうな。
「 誰だかわからないが、私と対話したいのならば申請書を出して貰えないか?
君だけ特別扱いするわけにはいかないんだ。
それと、ごっこ遊びがしたいのなら他を渡ってくれ。」
" 神が勇者に新たな使命を追加した "
バカバカしい。
本当に追加されたとしても、そんなの人間が分かるわけないだろう。
一々神が人間如きに伝えに来るわけないだろうし。
分かるのは誰が勇者で誰が勇者じゃないか。
と言っても、国を治める王にしか分からないが。
「 ( 確か先日産まれた子がここへ訪れるのは今日だったね。
この頃子供を見すぎな気がするなぁ。
勇者と魔王が死んでもう100年…。勇者が我が子になるかもしれないからって皆気合い入りすぎ!! ) 」
これは国共通のルールなのだが、子供が産まれた家は1週間後、王に子供を見せなければいけないのだ。
理由はその子が勇者かどうかを確認しなければいけないから。
我々王族には神々のオトシモノというスキルがあるのだが、
それを使用すると勇者なのか否かを判別することが出来る。
神の創造物というものは、人間が産んだ子供とは少し違っている。
肉眼や魔力察知で分かるものでは無いので、王に言われるまでは皆気付かないんだ。
ただ、子供というものは空から降ってくるわけでもなければ鳥が運んでくるわけでもない。
それは勇者も同じ。
そうと分かれば、皆獣となって勇者を産もうとする。
世界の為に?いいや。自慢するためにさ。
自分の子は勇者だぞって。
神から使命を授かった素晴らしい子なのよって。
要するに承認欲求を満たすための道具としか見てないわけだ。
叔父がまだ王だった頃が丁度、勇者と魔王が復活した時期なのだが…その時は本当に忙しかったようだ。
ある人は浮気してでも勇者を産もうとするし、ある夫婦は家から出なくなったし、そういう関係じゃなくてもその時だけはそういう関係になって勇者を産もうとした。
この光景はこの国だけではなく他の国でも同じようなことになるようだ。
正直口を出そうにも出せないでいるのが現状だ。
勇者を産んでくれなければこちらは打つ手がないからな…。
「 人は醜い。勇者じゃなかった子はさぞかし可哀想だ。 」
やっと静かになったかと思いきや、私の心の声を勝手に読み取って喋り始めた謎の声。
まだ居たのか…なんて呆れながら溜息をつくと同時に、" なんで人の心の声を聞けるんだ? " と疑問が浮かんでくる。
一応そういうスキルはあるが、念話では出来ない。
しかしそのスキルは聞くだけであって話しかけることは出来ない。
となると、相手はクラフト持ちか?
「 今日、貴殿が目にする赤子は勇者だ。
赤子は男で名はフェア。フェア・アスモ。
…貴殿の用事が終わり次第、また話をしよう。 」
「 ……ごっこ遊びは他を渡れと言っただろう。
君と話すことなんてもうないよ。 」
こんな丸わかりな嘘もここまで来ると本当だと思いたくなってしまうな。
その落ち着いた良い声は嘘をつく為に使うべきでは無いと思うのだが。
…
……
………数時間後。
予定通りに子供を連れて来た夫婦は、私に可愛らしい顔をした子供を抱っこさせてくれた。
これは誰に自慢するのだろうか。
自分の子供に?それとも子供がいない夫婦に?
なんて、良くもないことを思ってしまう。
「 それでは、この子が神がお創りになった子かどうかを見させていただきます。 」
「 はい!お願い致します、国王陛下。 」
その後、 「 勇者であってくれ、勇者であってくれ 」 と小さな声でブツブツと言い始める夫婦たち。
聞こえないと思ったら大間違いだぞ。
……アイツが言うように、勇者じゃなかった子は可哀想だな。
ちゃんと育ててくれる人が多数だが、中には捨ててしまう人もいる。
「 ( こんなので今後の運命が決まるだなんて、やってられないな。 ) 」
そう思いながら、私はスキルを発動させる。
夫婦と同じように、私はこの子が勇者であれと願いながら。
だってこの子が勇者だったら、それ以降の子は平和に過ごせるだろうから。
1部は " なんでもっと早く産まれてくれなかったの! "
とか言い始めるかもしれないけれど。
私の魔力が子供を包み込もうと動き始める。
簡単な話、魔力が融合すれば勇者ではなく
魔力が弾かれれば勇者。
ただ稀に、勇者じゃないのに魔力が弾かれる時がある。
それじゃあ勇者じゃない子を勇者だとでっち上げてしまうのか?
と思われるだろうが、これはあくまでも第1関門。
1番重要なのはその後…神の印が額に現れるかどうかで決まる。
____その時。
【 バチバチ!! 】
「 …!! 」
魔力が子供に触れた途端、感電したかのような音が鳴り、魔力は自然と消えていった。
その光景を見た夫婦はキラキラとした目をしながら顔を合わせて手を握り合う。
たださっきも言った通り、稀に魔力を弾く子供もいる。
だからこの子もまだ勇者だという訳では____。
「 ___額が…! 」
______神の印…いや、第三の目と呼ぶべきだろうか。
子供の光が急に光出し、ゆっくりと光が収まると、そこには先程までなかった第三の目が現れていた。
これは間違いなく…
「 勇者だ!!フェアは勇者だ〜〜!!!! 」
…
……
………
その後、夫婦はフェア君を連れて城を出ていった。
勇者と分かったらその時点で勇者は城で預かり、6歳になったら武芸や魔法学を学ばせるのだが、
私の国は次の日に預かるようになっている。
何せ城へ来たら親と会うことなんて二度とないからね。
一時でもいいから、親の温もりを感じて欲しい。
「 言った通りでしょう?
フェア・アスモは勇者だって。 」
フェア君が離れてすぐにあの声が聞こえてきた。
なんなんだ、こいつは。
「( なんでフェア君が勇者だって分かったんだ。 )」
当てずっぽうか?
いや、だとしても何故今日フェア君がここへ来る事が分かったのかが分からない。
知り合いか?
だとするなら名前がわかるというのも納得だが…。
「 世界が教えてくれた。 」
そういうと、謎の声は " ふふ " と小さく笑う。
私は言った意味が理解出来ずに頭の中がハテナで埋め尽くされる。
世界が教えてくれた?預言者か…?
いや、預言はどちらかというと世界ではなく神から教えられる。
では未来予知か?それなら世界が教えてくれたというのも分からなくは無いが…。
困り果てた私は両目を瞑り、額に片手を当てる。
遊びも程々にして欲しい。
遊びじゃないなら早く要件を言って欲しい。
コイツに構っているほど暇じゃないのに…!
「 せっかちだね。
でも確かに、吾も人間と長く話していたくは無い。 」
そっちから話しかけてきたくせに、なんなんだコイツ。
こっちは長く話したくないんじゃなくて、君ともう話したくないんだけどな…。
「 はぁ……分かったよ。 」
聞くだけタダだ。
実際フェア君と知り合いという枠には収まらなそうだし、
聞くだけ聞いてやろう。
「 早く要件を… 」
机に肘を置き、手のひらを頬に当てる。
息混じりな声で言葉を言いながら目を開けると、口は急に声を出すことを拒否した。
なぜなら、そこには到底視界に入れることは無いであろう者が私の視界に入ったから。
白くて踝まで伸びている長いローブを身に包んでいる女性(?)。
逆に言うとそれ以外何も着ていない。
髪もまたローブと同じくらい真っ白で、
尾てい骨まで伸びていてとても綺麗に手入れされているように見える。
瞳は薄い黄色のような色をしており、タレ目な少女にはとても良く似合う。
身長は凡そ170前後。
声からは想像ができないほど高い。
……間違いない。この容姿は
「 現人神…!! 」
「 やっと分かった。
" 世界が教えてくれた " という言葉で分かると思うんだけど。
……雑談はここまでにしよう。
単刀直入に言う。
____悪魔が世界を滅ぼそうとしている。 」
お久しぶりです。
実はこの時(16年前)の王様の年齢は25歳なんです。
……つまり、現在の王様の年齢は。
ちなみに現在王様に妻はいません。
理由は後々話せたら話したいですね。