ゲームオーバー
「現実そっくりの世界で第二の人生を歩もう!」
そんな宣伝文句で、現実世界そっくりの仮想世界を楽しめるフルダイブ型のゲームが発売された。発売当初こそ「現実と同じような仮想世界に入ってなにが楽しいんだ?」と言われていたが、すぐにその声は消えていった。
現実ではない仮想世界なのだから、どのような犯罪を起こそうが現実で罪に問われることはないのだ。
万引きをしても、物を盗んでも、物を壊しても、不倫をしても、人を殺しても。
ゲームの電源さえ切ってしまえば、それは全て無かったことになるのだ。
それ故にこのゲームは、ストレス解消のために爆発的な人気商品となった。
ある会社で働いていた青年は、日々の会社のストレスをこのゲームで晴らしていた。
青年の場合、ストレス解消の方法は手近なもので人を殴ったり蹴ったりして殺してしまうことだった。
そんな日々を繰り返していたある日、青年は会社でミスをしてしまう。そのことをグチグチと上司に厭味ったらしく説教をされた青年は、強いストレスを感じていた。
そして青年は、上司の説教が途切れたその瞬間、上司の机に置いてあった灰皿を引っ掴むと勢いよくそれを上司の頭に叩きつけた。
赤い血が飛び散り、悲鳴とも苦悶の声ともつかないものを上司があげる。
それがあまりにも普段行っているゲームで人を殴ったときと同じ反応であったためか、青年はつい思わず普段ゲームでやっているのと同じことを上司に対して行ってしまった。
気が付けば上司はもはや苦悶の声をあげることすらせずに床に倒れ伏していた。その様子を呆然と眺めてきた青年は、やって来た警官に逮捕されてしまった。
残忍な方法での身勝手な殺人であり、青年は死刑という判決を受けてしまう。
そして気が付けば時が流れ、刑が執行された。
そうして命を落としたはずの青年の目の前、中空にウィンドウが現れ、「GAME OVER」という文字が浮かんでいた。
そこで青年は目を覚まし、自分がいまのいままでゲームをプレイしていたことを悟った。
「ああ、本当に現実そっくりだったなあ」
伸びをしながら青年はそんなことを呟く。
そして青年はいままでと何一つ変わることなく、ストレスがかかればゲーム内で犯罪を犯してそのストレスを解消するということを続けていた。
だが青年の心にはある一つの疑問が浮かんでいた。
もしかして、自分が現実だと思ってるこの世界もまたゲームの中のもので、本物の自分はいまゲームを楽しんでいるのではないか、という疑問である。
もしもこの疑問が正しかったとすれば死んでみればGAME OVERの文字が出てくるはずであるので非常に分かりやすい。
だがもしもこの世界がゲームではなく現実だったのなら、と考えると、さすがにその疑問を解消しようとは思わなかった。
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