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第9話 ぴろ~と~く

 引き込まれたベッドのシーツがさらさらで気持ちいい。


 さすがスイート。

 7000デムもしただけのことはある。

 おかげでもう残り2000デムしかお金ないよ。


 なんてふうに思考が現実逃避。

 逃げも隠れも出来ない現実は、僕の目の前で輝くつやっつやぷるるんなハルの唇なのです。


 お酒の匂い。

 漂ってくる。

 ハルの。

 あ、これこの距離で匂うってことは僕の匂いもハルに嗅がれてるわけで。

 あれ、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ?


 いやいや、でもさ?

 ダンジョンではおんぶしてきたりしたわけじゃん?

 立証。

 え、いやでもそれはやむをえなくじゃん?

 反論。

 やむをえなく? やもーえなく?

 あれ、どっちだっけ?

 混乱。


 あ、飲んだから僕も。お酒。

 強くないんだよなぁ。忘れてたけど。

 浮かれてたから酔いが早く回った?

 ……浮かれてた?

 ああ、浮かれてたっけそういえば。

 そりゃそうだよ。

 こんなハルみたいな可愛い子と一緒にご飯食べて浮かれないやつなんかいないって。


 ああ、ハルかわいいなぁ……。

 さっきベッドに引きずり込まれた時も全然いやじゃなかった。

 むしろ嬉しかった。

 こうなるといいなって思ってた。


 トットットッ。


 心音がジョギングしだす。

 頭がボヤッとする。

 お酒のせい?

 それともハルがこんなに近いから?

 もっと近くなったらどうなるんだろう。

 あ。

 ハルの顔の体温が空気を通して伝わってくる。

 熱い。

 あんまり頭が働かない。

 ハルの吐息が顔にかかる。

 ハルは寝てるようにも見えるし、薄目を開けて目が潤んでるようにも見える。

 もっと。

 もっと近くでハルを……。

 い、いいよね……?


 僕の唇が自然とハルの唇に吸い込まれていく。

 ハルも迎えるように唇を突き出す。


 ドドドドドドドッ。


 心音がダッシュしだす。

 目をつぶってそっとあごを上げる。


 むにっ──。


 ん?

 なんか感触が……。


 目を開けると僕とハルの間に転がり込んできたボール球状アオちゃんがぷるぷると震え「ぬぱぁ!」と幼女の姿になった。もちろん裸。


「おと~しゃま、おか~しゃま、なかよちっ!」


 嬉しそうに笑うアオちゃんの頬が少し赤い。

 お酒飲んだからかな。

 だめでしょ幼女にお酒なんて。なんて言ってもアオちゃんは19歳で僕たちより年上なわけで。そもそも91歳だし? っていうか魔物って年齢とか関係あるの?


 考えても仕方ないのでアオちゃんのほっぺたツンっ。ぷるんっ。「うゆ~」ふふ、かわい~。


「ねぇ、アオちゃんはあんなとこで何を守ってたの?」


『守り人』

 それがアオちゃんの91歳時代の称号だ。


「んゆ~、わかんにゃい」


「覚えてないってこと?」


「うん、覚えてにゃい」


「じゃあ待ち人ってのは?」


 これは今のアオちゃんの称号。


「ん~? おと~しゃま!」


「ぼ、僕ぅ?」


「うん、おと~しゃまだいしゅき!」


「あはは、ありがとね。おと~しゃまもアオちゃんのこと大好きだよ」


「ほんと~?」


「うん、ほんと!」


「やったぁ~! うれしゆ~!」


 僕は別にアオちゃんのおと~しゃまじゃない。

 けど呼ばれて悪い気はしない。

 アオちゃんはかわいいし。

 それ以上に……。


「ね~? おか~しゃまは寝てりゅにょ?」


 そう、これ。

 アオちゃんはハルのことをおか~しゃまと呼ぶ。

 なんか僕たちが夫婦みたい。

 心がふわふわしてくる。悪くない。

 むしろいい。めっちゃ。


「うん、おか~しゃまは寝てるよ~」


 ハルのまぶたがヒクッと揺れた気がした。

 あれ、起きてる?


「しょっかぁ~。私もおねむゆ……」


「アオちゃんも眠いの? じゃあおと~しゃまとおか~しゃまと一緒に寝ましょうね~」


 そう言ってアオちゃんの背中をぽんすると、すでにぽんしてたらしいハルの手に触れて、そのあったかさにゾクッとした。


「おやすみアオちゃん」


「うゆ……おやしゅみ……なしゃい」


 ハルの手が僕の手の上に移動してマウント取る。

 ぎゅっと握ってくる。

 僕は、素直にそのマウントに10(テン)カウント取られることにした。KOだ。



 ◇◆◇◆翌朝◇◆◇◆



 水滴の音で目を覚ます。


「あ、カイト、おはよ~!」


 体にタオルを巻いたハルが濡れた髪をまとめながら挨拶してくる。


「……えっ!?」


 なに? ここ天国?

 濡れ髪ハルかわいすぎるんだが。

 濡れたタオルハルえっちすぎるんだが。

 そんなことを思って見とれてると。


「ねねっ! ここシャワーついてる! すごくない!? さすがスイートルーム! 田舎にはこんなのなかったから感動~! カイトもシャワー浴びたら!?」


「うん……」


 一瞬「一緒に?」と思ったけどさすがにそれはなかった模様、残念。


 ってことでシャワーして部屋まで持ってきてもらったモーニングサービス(すごい! スイート!)を優雅にベッドの上で食べてなんと歯磨きまでしちゃうという身支度完全完璧状態に整えて僕はハルに聞く。


「ちゃんと聞いてなかったけど、ハルはこれからどうするつもり?」


「カイトといっしょにいたい。……ダメ?」


「ダメじゃないよ。僕もハルといたいと思ってた」


「ほんと? 嬉しい……」


 服のすそをアオちゃんが「む~」と引っ張る。


「もちろんアオちゃんともね」


「うゆ!」


 満面の笑みのアオちゃん。


「で、僕も協力したいと思ってる。ハルのご両親探し」


「でも、カイトは他にすることがあるんじゃ……。こんなすごい人なんだし……」


「僕は一人じゃなにも出来ないんだ。バッファーだからね。で、ハルとは相性がいいみたい。だから一緒にいたい。ダメかな?」


「あああ、相性……?」


「うん、相性」


 ハルのステータス欄の中の数字はぴたっとひっついてきてとても気持ちがいい。


「え、ちょっと待って。相性って、そんな、え、昨日私たちなにも……なかった……わよ……ね……?」


 ん~?

 ハル、相性をなにか勘違いしてる?


「わぁい、おか~しゃま、おと~しゃまと相性いい! うゆ~!」


「アオちゃんとも相性よかったぞ」


 それを聞いたハルが青ざめる。


「カイト……アオちゃんにも手を出したの……?」


「ちょ~っとまって! なにか重大な勘違いをしてる! 手は出してないから! ハルにも! アオちゃんにも!」


「なぁ~んだ……」


 おいおい、なんで残念そうなんだ?


 なんか変な感じなので話をもとに戻す。


「ってことで、ハルのご両親を探すためにエンドレスの地下に広がる地下迷宮を探索しようと思う。あの隠し通路みたいなのが他にもあるかもしれないしね」


「うゆ!」


 隠し通路と聞いてアオちゃんが反応する。


「アオちゃんも手伝ってくれる?」


「ゆ! 当然ゆ! おと~しゃまとおか~しゃまのお手伝いすりゅ!」


「ありがとね。でも町じゃかばんの中に入っててね。見つかったら危険だから。おと~しゃまとおか~しゃまだけの時は出てきていいからね」


「うゆ! がんばりゅ!」


 さて。

 それじゃあこの三人で地下迷宮にチャレンジだ。


 と、その前に。


「行こうか、冒険者ギルド」


 まずはハルの冒険者登録からですな。

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