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第49話 地下迷宮の正体

 エンドレス。

 僕らは、ハルママの出した隠し通路を通って悠々とエンドレスの町へと帰ってきてた。

 そして訪れた冒険者ギルドでギルド長ロン・ガンダーランドが訝しげに尋ねる。


「ボーイ、誰だこのおばさんは?」

「魔神」

「は?」


「魔神らしいです。なんか封印されてた七つのうちのひとつとか」

「ボーイ? いくら冗談でも、もっと信憑性のある冗談を……」


「……」

「……って、え? マジ?」

「マジです」


「マジのマジ?」

「マジのマジです」


「大マジ?」

「大マジです」


「ども~、ハルのママで魔神の一欠片をやってま~す」


 妙にはしゃぐおばちゃんを見るとき、いたたまれない気持ちになるのは一体なぜだろう。

 自分の母親が「あっ、空気読めてないな」と感じるときってキョロキョロしちゃうのはなぜだろう。

 しかも、その相手が自分の尊敬する人だったりしたらどんなあれだろう。

 とにかく僕、今そんな気持ち。


「はぁ……」


 ロンの気の抜けた返事。

 ハルママは魔神パワー的なもので角とか尻尾とかを隠して、肌も緑じゃなく普通っぽい色にして、服も普通のちょっとダサいおばちゃんみたいな格好をしてる。


「あっ、アキ・ミストウッドで一応ギルドに登録してま~す。え~っと、十七年前? くらいに」


「……ボーイたちさぁ、俺のこと騙そうとしてる?」


「えと……ロンさん、この人ほんとに私のお母さんっぽいです」


「本物のハルのお母さんで~す。いぇ~い」


「そ、そうですか……」


 ()されてる。

 あの歴戦の戦士ロンが。


「とりあえずこちらへ」


 仕事できウーマンのギルド職員メラさんがスムーズに僕らを誘導 in 応接間。


「お母さん、久々に甘いものが食べたいな~」なんていう無茶ぶりにも華麗に応えつつ、ここに来るまでの道中でも要領を得なかったハルママ──アキ・ミストウッドが魔神になった成り行き、そしてダンジョンと同化してるヘリオンについての説明が、仕事の大変さばけるメラさんによってすぐ横道にそれかけながらもあの手この手で戻されつつ語られた。



「つまり、あんたら夫婦を盗み見してたエロ賢者ヘリオンと三人で五十階層まで初探索でたどり着いた、と」


「だからそう言ってるじゃない、ロンちゃ~ん」


「ロ、ロンちゃん……」

「コホンっ」

「あ、ああ、すまん」


 鼻の下を伸ばしかけてたロンをメラさんが咳払い一つで現実に引き戻す。


「で、だ。そこで遭ったのが」


「魔神ちゃんで~す」


「ちゃん付けかよ……」


「その魔神──七つに分断されて封印されていた魔神の欠片、だよな? それが蘇りかけてたので、アキさんとその夫ナツ、そして大賢者ヘリオンの三人で倒した、と」


「ん~、倒したっていうか~、倒しきれなかったから私が魔神ちゃんとスキルで『同化(アシマレーション)』して~。で、ナツさんの『封印(シール)』で再度封印してもらって~。そしたら迷宮が崩れ始めたから、私のスキルでヘリオン爺に迷宮と一体化してもらって収めてもらって~」


「で、それから?」


「ん~、そのまんま」


「十七年?」


「うん、そうなるわね~」


 え、あんなすごい隠し部屋を作った大賢者とパーティーを組んで魔神を封印したってさぁ……。


「それってもしかして、ハルのご両親さんって実はものすごい人だったりします……?」


「あ、別に私たちすごくないわよ~。ただ私が魔物と同化してウワァ~! ってやって、ナツさんが封印していってただけだから。別にすごいとかじゃないのよね~。相性がよかったのかしら~、あらやだ、うふふ」


 いや、うふふじゃなくて。


「で、ハルのお父さん──ナツさんはどうされてるんですか?」


「死んだわよ~」


「え?」


「魔神を封印するのすっごく大変だったみたいで、ポックリ逝っちゃった。あの人らしい太く短い人生だったわね~」


「……ハル、大丈夫?」


「うん、大丈夫っていうかちょっとまだ理解が追いつかないかな」


「にょ。お父さんが亡くなったことより、お母さんが魔神になってた方がショックにょ」


「こら、ラク。そんなこと言わない」


「にょ~? でも事実にょ。ボクは親いないけど、もし親が魔神だったら微妙にショックかもしれんにょ」


「あらあら~、ごめんねハルちゃん、ショックな母親で~。でもこれでも一応人類のために頑張ったのよ~?」


 微妙に悲しげな身内のおばさんを見てるとこっちも悲しくなってくるの法則にしたがい、僕もちょっとなんか悲しくなってきた。

 そうだよな、魔神を封印。

 しかも魔神と同化までして封印。

 なかなか出来ることじゃない。

 命を賭して人類の危機を救った英雄じゃん。

 すごい、普通に考えて。

 ただ……本人があの調子だからなんか純粋に褒めにくいのがちょっとあれだけど……。


「大丈夫? 無理して今ぜんぶ受け入れる必要はないと思うよ」


「うん、ありがとカイト」


 そっとハルの手を握る。

 僕の人生を変えた、とっても大切な女の子。

 これからもずっと大切にしていきたいと思える女性(ひと)

 彼女が抱えてる悩みなら、僕も一緒に抱えていきたい。


「ゆ~。ヘリオン様は魔神様みたいに元に戻らないゆ?」


「ん~、そうねぇ~。私も封印が解けただけで別に元に戻ったってわけじゃないのよねぇ。この姿も魔神の魔力で変えてるだけだし……ほら」


 ハルママが、そのへんにいそうなおばちゃんから絶対にそのへんにっていうかどこにもいなさそうな捻れた二本角、不吉な尻尾、えちえちハイレグ姿の緑色へと変わる。


「うおっ!?」

 あまりの威圧感に思わず構えを取るロン。


「じゃあヘリオン様はもう……」


「完全に混じっちゃってるものねぇ。同化してすぐとかだったらまだ解除できたんだけど」


「ゆ……」


「でも逆に考えたらさ、ヘリオンってずっとアオちゃんを見守っててくれてたってことじゃない?」


「ゆ?」


「そうねぇ。あのお爺さん、元々色んな人のあんなのやこんなのを覗くのが好きだったみたいだから、今の迷宮内ぜんぶ知り放題な姿も結構気に入ってるみたいよ~」


 再びおばちゃん姿に戻るハルママ。


「だって。よかったね、アオちゃん」


「ゆ……ヘリオン様、ずっとアオのこと見守ってくれてたゆ……?」


「うん、だからアオちゃんは今まで無事に過ごしてこられたんじゃないかな?」


「ゆっ、言われてみれば諸々心当たりありゅ!」


「にょ、っていうかボクらもしかしてずっとヘリオンって爺さんの体内にいて監視されてたってことにょ?」


「ん~、まぁそういうことかしら~?」


 とぼけた表情で人差し指を顎に当て、結構重大なことを肯定するハルママ。


「げぇ、ぞっとしないにょ……」


「でもさ、ラクが三年間も迷宮の中で無事に過ごせたのってヘリオンの影響もあるかもよ?」


「気は遣ってたみたいよ~。その代わり、その様子を見て楽しそうに実況してくれてたけど~」


「にょにょ!? 三年間ずっと見られてたにょ!? ボクのあんな姿やこんな姿も!? にょにょにょにょ……」


「大丈夫よ~。あんまりエグいことやアレなことはヘリオン爺は話してこなかったから~」


「そういう問題じゃないにょ! 見られてたこと自体が問題にょ! うぅ……これは花も恥じらう乙女にとっての由々しき問題にょ……」


「え~っと、いいか?」


 ロン。


「この迷宮は元々七つに分断された魔神を封印するために作られた。でいいんだよな?」


「そうよ~。神が作ったのよね~」


 相変わらず「裏庭に柿がなってた」みたいな感じでさらっと超重要事項を伝えるハルママ。


「で、俺たち人間はその迷宮の入口に引き寄せられたわけだ。スキルや宝、魔物を倒しての素材なんかをぶら下げられて」


「つまり迷宮の管理者ということですね。今回のように封印に問題ないかを監視する役目。そのために冒険者ギルドは作られていた、と」


 メラさんがさすがのフォロー、わかりやすい。

 にしてもほんと有能だな、この人。

 ちょっと過剰にお姉さんぶるところとスキルの話になると目の色変わるのが玉にキズだけど……。


「そういうことね~。で、たまたま封印の解けかけてた魔神さんのところに私達が居合わせたわけね~」


「封印が解けかけていた理由は?」


「さ~あ? 封印が古くなってたんじゃな~い?」


「えぇ……? じゃあ、今回ビンフが心臓を捧げて49階の扉が開いたのは?」


「それはナツさんが再封印した時に課した制約ね~。悪魔の心臓を五十個叩きつけたら解錠。ほら~、そんなこと普通しないじゃな~い? そもそも悪魔五十体なんていないし~」


「だからビンフは魔薬を使って人を悪魔に変え、魔神を封印から解放すべく心臓を集めてたってことなのか」


「みたいね~。ビンフちゃん、がんばりやさんね~」


 いやいや、がんばりやさんって……。

 その頑張りのせいで僕らもダンスキーたちもえらい目に遭ったんだけど……。


 ロンがいまだ信じられないといった口調で尋ねる。


「俺たちゃ……このエンドレスの冒険者はこれからどうすりゃいいんだ? もう役目を失った地下迷宮は閉鎖か? 魔神と同化したあんたが今後悪さを起こすようには見えないんだが」


「ん~、そのまんまでいいんじゃない? ほら、別に冒険者のみなさんには魔神がどうとか関係ないじゃない? だから五十階にお宝とか置いとけばいいじゃない」


「隠し通路を通ればそれも可能ですね」


「そうね~、ヘリオン爺も色んな人が入ってきてくれた方が嬉しいだろうし、頼めば隠し通路使わせてくれるんじゃないかしら~」


「なるほど」


「それに、もう冒険者と地下迷宮なしじゃこの町の経済は成り立たないでしょ~? それをいきなり閉鎖する意味もないと思うの~」


「そのとおりですね。急に迷宮閉鎖なんてなったらエンドレスの町は過疎化の一途をたどること間違いなしです。魔神と賢者ヘリオン、隠し通路のことは伏せておいて今まで通り地下迷宮を運用するのがよいかと」


「うむ……それがよさそうだな」


 サクッと話をまとめるメラさん。

 このエンドレスの町を仕切ってるのは実質メラさんだなって思う。

 ただし──。


「そして! 魔神のお姉様! アキ・ミストウッドさん! あなたのスキルは今一体どのようになっているのですか!? 話では回復(ヒール)の他にSP吸収なども使えたとか! ぜひ、この矮小たる私にご教示のほどを~!」


 このスキルのことになると人が変わる点だけがほんと玉にキズ。


「スキルはね~、『同化(アシマレーション)』が元の私のスキルでしょ~? それからSP吸収とか回復はスキルとかじゃなくて魔神の特性みたいな? 息をするようにできちゃう的な?」


「特性! 魔神ってすごいんですね! で、アキさん! ス、スキルは!? 魔神のスキルは一体どうなってるんですか!? ハァハァ!」


「あら~、アキさんじゃなくてアキちゃんって呼んで欲しいな~。私も年の近いお友達ほしかったし~」


「はい、アキちゃん! アキちゃんさん! で! 魔神のスキルのほどは!?」


「そうね~。魔神さんって要するに『魔』を司ってるわけじゃない?」


「はい!」


「だから色々やろうと思えば出来ちゃうんだけど、私が同化した時に魔神が一番求めてたのは──」


「求めてたのは!?」


「そうね~、やってみたほうが早いかしら?」


「おお、アキちゃんのスキルを見せていただけると!?」


「ちょ、待てメラ! いくらなんでもスキルの詳細を聞いてから……」


 ロンが慌てる。

 けど、マイペースなハルママは一切気にする様子もなく。


「じゃあ行くわよ~」




転移(テレポ~ト)




 ほんわか~と詠唱を終えると。


「……へ?」


 どこ、ここ?


 僕、ハル、アオちゃん、ラク、そしてハルママ。

 五人は天まで続きそうな高~い塔のふもと。

 砂漠の町。

 バザールの行われている砂と熱気の飛び交う異国の地に降り立っていた。


「初めて使ったけど成功してよかったわ~」


「えと、ハルのお母さん? ここって……」


「魔神さんが完全体を取り戻すために、すぐに次の迷宮に行けるように自分のスキルをセットしてたのね~」


「え? 次の迷宮? つまりここって……」


「ミルファ。雲をも貫く塔のふもとに広がった砂漠の天空迷宮都市ミルファよ~」


「え、そこってエンドレスからすごく離れてるんじゃ……」


「そうよ~? じゃないと転移(テレポート)する意味ないじゃな~い?」


「え、お母さん? 私達もなんで巻き込まれてるわけ?」


「なんでってパーティーでしょ~? みんなで今からこの塔を登って次の魔神さんの欠片を回収するのよ~」


「ゆ? アオ、ヘリオン様とご挨拶したかったゆ」


「大丈夫~、ヘリオン爺は他の迷宮とも(うす~)くリンクしてるから~。アオちゃんの活躍もきっと伝わって喜んでくれてるはずよ~」


「にょ、ハルのお母さんも正式にパーティーに加入するにょ?」


「そうよ~、もちろん娘の彼氏──このパーティーのリーダー、カイトくんが認めてくれたらだけどね~」


 ここで僕に話振ってくるの!?

 っていうか正式にリーダーって言われたの初めてなんだけど!

 っていうかハルのお母さん──だけど魔神なんかをパーティーに入れて大丈夫なの!?


 色々思うことはあった。

 けど、僕には信じられるものが二つだけあった。


 その一つはハル。僕の愛する女の子。


 そしてもう一つは。


「わかりました。ただし一つだけ加入の条件があります」


「あら~、なにかしら~?」


 スキル。僕の『枠入自在(アクターペイン)』だ。


「お母さんの中に、入らせてください」


 ハルのお母さん。

 七つに分断された魔神の一欠片。

 勝手に僕らをミルファへと連れてきて、パーティーへ加入させろと言う彼女。


 信用していいのか、よくないのか。


 僕の──スキルで判断する!


「そう~、そうなのね~。お母さん、信用がなくてちょっと悲しいけど仕方がないわね~。わかったわ~。いいわよ、私の中に入ってちょうだい、カイトくん~」


 こうして。


 僕は付き合ってる彼女ハルの母親──魔神の一欠片のステータス欄の中へと入ることになった。

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