第48話 vs 魔神
「あらあら、十七年ぶりかしらね~」
見た目は悪魔。
中身は……おばちゃん?
封印されてた魔神らしい女の人(ナイスバディー&えちえちな格好)が井戸端会議でもするかのような感じで話しかけてくる。
「え、ハル?」
ラクの浮遊魔法によって宙に浮いた僕は、同じく対角線上で浮いてるハルの様子を窺う。
「いや、ちょっとわかんないんだけど……」
当然の反応。
「あ、うん。だよね」
とりあえず相槌。
あの明るいハルが困惑した表情を見せている。
そりゃそうだ。
ずっと探してた両親がやっと見つかったのに「魔神でした~」なんて急に言われても受け入れられないと思う。
となれば。
僕が。
ハルのラブリーな僕が。
正式に付き合ってる宣言した僕が!
この事態をリードして好転させるしかないでしょ!
「ラク! アオちゃん!」
「にょ!」
「ゆ!」
迷うな! 指示!
「もしあれが本当にハルのお母さんだとしても、見た目が完全に悪魔! でもって、あきらかに封印から解かれたばっかり! 危険度SSSペタマックスなことにかわりなし! ってことでまずは無力化! しょっぱなから全力でいこう!」
「悪魔は思ったほど大したことなかったからにょ~。今度は楽しめるかにょ?」
「ゆ! おと~しゃまとおか~しゃまを守りゅ!」
ラクがゴーレム十二体を魔神へとけしかける。
「あら~。なに? ママと遊びたいの? まったくカイトちゃんたちもまだまだ子供ね~」
僕の名前を知ってる?
魔神は、まるでそのへんのおばちゃんが腰のねじり運動でもするかのようにくるっと上半身を回すとザゴッ──シュッ──! とゴーレムが横一文字に斬り裂かれ、巨大な土埃を立ててすべて崩れ落ちた。
「うっそ……!?」
GDペアのダクロスでも、半魔のビンフでも手も足も出なかったラクのゴーレムを一撃!?
これは……本当に魔神級……!
「にょ……マジかにょ……。ちょっちたまげたにょけど……これならどうにょ~!」
ズズズズズ……。
新たにラクが生成したゴーレムは地面から生えてきたのではなく、天井から落ちてきた。
しかも、無数。
ただただ落ちてくる。
圧殺。
どれだけの技やスキルを持っていようと、どれだけの強靭な肉体を持っていようと、一切を無視して無へと返す強力無比な無慈悲の一撃。
「からの~、初級火魔法&初級水魔法&旋風魔法のトリプル組み合わせにょ~!」
魔神を埋め尽くしたゴーレムの土塊の下で水と火が混ざり合い、反発しあい、激しい蒸気を巻き上げながらラクの生み出した旋風に乗って迷宮の後方へと向けて激しく爆ぜる。
──ゥゥゥゥゥゥン……。
「え、ラク? キミ、ほんとどこまで……」
やりすぎって次元を通り過ぎてない?
もはや兵器じゃん……。
っていうか、もし本当にあれがハルのママで、死んじゃってたらさ……。
なんて思ってると。
「あ~、これでもしくじったにょ~!? 嘘にょ~! ボクの自信がガラガラと音を立てて崩れ落ちておく音がするにょ~!」
瓦礫の下から傷一つない魔神が、そのでっかい胸を前に突き出し伸びをしながら出てきた。
「ん~、寝起きのいい温風ね~。おかげで寝癖がついてた髪の毛がとぅるんとぅるんになったわ~」
は? うそ?
半魔ビンフですらボロボロになって逃げ出したラクの魔法の組み合わせ。
その何倍も強烈なやつを食らって傷一つないって……。
「これ……マジ魔神かも……」
「も~、だからいってるじゃなぁ~い。私の名前はアキ・ミストウッド。あっ、ハルちゃんが生まれてから籍入れようって話だったから、名字は前のまんまなんだけど、え~っと、だから十七年? ハルちゃん一人でよくちゃんと育ったわね~。こんな可愛い彼氏まで見つけて」
ん~、これは……。
「ラク、みんなを下ろして」
「いいにょ?」
「うん、さすがに今のを無傷じゃ僕らにどうしようもないっぽい。運だけでどうにかなりそうな気もしないし」
「……わかったにょ」
ゆっくりと地面に降り立つ僕たち。
その足が地を踏みしめた、なんか空気がふわっと緩んだ瞬間。
(今だ!)
『枠入自在』
隙を見てステータス欄に侵入。
……あれ?
できない。
っていうか。
グラッ。
虚脱感。
え、なにこれ。
「カイトちゃんダメよ~。あんまり女の人の中に勝手に入ったら~」
「え、なんでわかったの……?」
「言っても七つに分断された魔神の一部と同化したお母さんだもの~。スキルや魔力の揺らぎ。そういったものはわかっちゃうの~。だからカイトくんのSPからっぽにさせてもらっちゃったわよ~」
「から……?」
体力吸収のスキルポイント版?
まいった。これはほんとに手も足も出なさそうだ。
「話ってさせてもらっても?」
「いいわよ~。っていうかずっとお母さん、お話しようとしてるじゃないの~」
「なら、聞きたいんだけど……」
「その前に~」
「はい?」
「お母さん、娘の恋人にいきなり攻撃されてちょっと嫌だったな~。ショック~」
「あ、すみま……」
「ってことで」
ドドドドドドド……!
地獄のような地響きが背後で鳴ったかと思うと。
「40階から48階の魔物のみなさんに来てもらいました~。お母さんが攻撃しちゃったらカイトくんたち死んじゃうから、代わりにこの魔物さんたちと戦ってもらいま~す」
「は? なんで?」
「なんでって最初に攻撃してきたのカイトくんたちだし~? それにほら、見たいじゃない? カイトくんたちの力量。娘にふさわしいかテスト的な?」
「え、でも僕の名前とかって前から知ってましたよね?」
「えぇ~、魔神だから~。迷宮と同化したヘリオンを通して視てたわよ~」
「ヘリオン!? 今、ヘリオン様の名前言ったゆ!?」
「あ~、スラちゃん……じゃなくて、今はアオちゃんなのね~。あなたの話もよくあのおじいさんから……って、そんなのは後回しでいいわね。それよりも、もう来てるわよ~、気を付けて~」
キィン! デュラハンの高速の一撃をハルのレイピアが逸らす。
「あら、ハルちゃんすごいわねぇ! でもそのLUKもいつまでもは続かないわよ~。愛するカイトくんに守ってもらって~」
「守るって言っても……!」
SPからっぽでステータス欄に侵入できない僕は無力そのものなんですけど!
「あ、大丈夫~。SPは戻しておいてあげたから~。でもお母さんの中に入ってこようとしたら殺しちゃうかもだから気をつけてね~」
『枠入自在』
いつもの灰色の世界!
時間が停止してる!
使える!
ただ……僕の本能が拒否してるのか、魔神の魔神的なものが影響してるのか、(おそらくは本物の魔神っぽい)ハルママにはカーソルが合わせられない。
けど、他の魔物になら……!
「ハァ……ハァ……これで全部……?」
「もう無理にょ! 疲れ切ったにょ! 仲間に被害を出さないように敵だけ倒すのがこんなにしんどいとは思わなかったにょ!」
「ゆ~、アオもちょっと休むゆ~」
周囲には魔物の死体の山。
焦げ焦げになったのから、氷漬けになったもの。
ハルの急所への一撃によってほぼ無傷で絶命したもの。
僕とアオちゃんダガーのコンビに真っ二つに両断されたもの。
それらがゴロゴロと転がっている。
どうしてこんな上位モンスターを倒し切る事ができたのか。
それは──。
「みんなの体力やSPを回復するの楽しかったわ~」
魔神が延々僕らを回復させてたから。
どういうことだよ……魔神から回復を受けながら魔物と戦う人間ってさ……。
「お母さん、久しぶりに回復師のお仕事したんですもの~。今の戦いを見て確信したわ~。やっぱりカイトくんたちに足りないのは私みたいな優秀な回復師よね~。ってことで」
「ハル、僕いやな予感」
「奇遇、私も」
精神的には息も絶え絶え。
地獄の上位モンスターとの連戦を終えてレベルとステータスだけはバッチリ上がった僕らは顔を見合わせる。
そして案の定。
なんだかズレてるハルママ──魔神の一欠片さんはとんでもないことを言い出した。
「お母さん、カイトくんたちのパーティーに入っちゃお~っと」
「ゆ?」
「にょ?」
「はぁ……」
「私がずっと探してたお母さんがこんなのって……マジ?」
「マジよぉ~」
こうして。
僕らのパーティーに、今だなんの説明もろくに果たしてない魔神さんが入ることになったのです。です……。うん……。




