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第45話 49階

 逃げられると追いたくなるのは本能的なものなのかもしれない。

 気がついたら僕らは逃げゆくビンフを自然と追ってた。


「あれ!? 追っちゃっていいの!?」

「え、わかんない! でもみんな追ってるから!」

「かけっこ楽しいゆ!」

「むふふ……捕まえて特別報酬ゲットで美味しいごはんいっぱいにょ~!」


 あ~、みんな雰囲気で走っちゃってるよぉ~。

 さいわい重装備のメンバーはいないから軽々走れてるんだけど……。

 ここは二十二階。

 ダンスキーたち中級者ですら限界だった階層。

 いきなり横から不意打ちみたいなのを食らったら全滅すらありうるエリアだ。


「あの、みんなもうちょっと慎重に……」


「でも魔物襲ってこないわよ?」


「たしかに……」


 ビンフの素早さは「135」

 かなり速い。

 僕らはその背中を見失わないようにギリギリ追いかけてるんだけど、たしかに魔物が襲いかかってくる気配はない。

 それどころか。


「避けてる……?」


 一撃を食らうだけで命の危機がある強力な魔物たち。

 グール、キマイラ、オーク、スキュラ。

 みな、ビンフを避けるように脇に潜んで佇んでいる。


「ゆ? アオたち、あの売人の仲間だと思われてるゆ?」


「スライムのアオちゃんがいるからそうかも!」


「え~!? 私たちまっとうな人間なんですけど~!?」


「まっとうな人間は半魔を追って迷宮の中層を爆走しないかも!」


「にょにょにょ~! VIP待遇にょ~! どくにょどくにょ~! アニキのお通りにょ~!」


「こら~! 調子乗らな~い!」


 そうは言いながらも足は止まらない。止められない。

 ビンフは迷宮内の道を完全に把握してるようで迷うことなくすいすい進んでいく。

 その後を楽しくなっちゃってる子どものアオちゃんと、長年のダンジョン迷子によって食べ物への執着の一段と増してるラクが目の色変えて追っかけていく。


「くっ……! なんなんだお前らはほんとに……!」


 いくら素早さが高くても迷宮の中は曲がりくねっていてところどころ減速しないと進めない。

 大柄で悪魔姿のビンフよりも、小回りのきくサイズのアオちゃんとラクの方がスムーズに進んでいくのでその差は開ききらない。

 身を軽くするために魔薬の入った瓶を投げ捨てるビンフ。


「にょ!? お宝ゲットにょ!?」


「これはペルが呼んでくれた救援部隊に任せて大丈夫だと思う!」


「にょ! でも捨てさせたのはアニキの手柄だってちゃんとアピールするにょ!」


「うん、わかったよ……」


 悪魔でも体力は無限じゃないらしい。

 階層をいくつか潜ったビンフの足取りは、歩くのとほぼ変わらない速度になってきている。


「はぁ……はぁ……どんれだけ諦めが悪いんだお前らは……」


 僕たちもへとへと。


「わかんないけどここまで来ちゃったからには……ね」


 いくつ潜っただろう。

 いまさらこっから見逃してすごすご帰るわけにはいかない。

 そんな深さまで着いてきてしまった。

 というか、魔物が一切襲ってこないからついつい進みすぎちゃって今さら帰ろうにもおいそれと帰れないよ……。


「カイト、私そろそろ疲れてきたんだけど……」


「僕も。今何階だっけ?」


「たしか40階のセーフティーエリアは過ぎたわよね? そこから……えっ~と」


「八個下りたゆ!」


「ああ、そうそうそれくらいね」


 軽く言うけど事態は重い。

 だって、脇に避けて僕らを見送る魔物たちの顔ぶれはデュラハン、死神、メデューサ、リッチ、レッドラムといったこれまで存在すら確認されてなかったような伝説級の魔物たち。

 もしこの魔物が一斉に襲いかかってきたら……。


(うぅ……ぞっとしないなぁ)


 そんなことを思ってるとラクが平然とした口調で言った。


「にょ、思い出したにょ。この先に下りの階段があるにょ」


 透明化して49階まで来てたらしいラク。

 さすがに疲れたのか普通に歩いてる。


「ゆ~。49階はなにがあるゆ~?」


 コロコロと飴玉状になって転がりながら進んでるアオちゃんが聞く。


「にょ。扉にょ」


「ああ、なんか言ってたね」


「扉ってどんなの? 開かないんだっけ?」


「にょ。見ればわかるにょ。そしてたぶんあの半魔もそこで足止めにょ」


「ってことは、そこで決戦ってことだね。気を引き締めて下りよう。アオちゃん、ダガーになってくれる?」


「ゆ!」


 僕の右手に全身で絡まったアオちゃんがダガーの姿へと変わる。


「よし、じゃあ行こう!」


 僕が先頭となって、迷宮の石造りの階段を注意深く一歩一歩下りていく。


 すると。


 目に入ってきた。


 邪悪。禍々しい。忌まわしい。


 そんな印象しか受けない見上げるほどの巨大な扉。


 その前で半魔姿になったビンフは恨めしげな目を僕らに向けてどこか困ったような表情で佇んでいた。

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