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第44話 vs半魔!

 現実に戻った僕は即座に情報を伝える。


「この女は半魔! ステータスが人間離れしてる! けど力と魔力は低いよ! 手数でゴリ押しされたらキツいから連携の取れる距離を保って戦おう!」


「わかった!」

「にょ!」

「ゆ!」


 熟練の──とまではいかないものの、それなりの迅速さで隊列を組む僕ら。

 前衛が僕で、中衛がハルとアオちゃん、後衛がラク。

 相手のVIT(頑丈さ)が高いってことでアオちゃんダガーを装備したいところだけど、現実世界(こっち)ではハルやラクという優秀なアタッカーがいる。

 アオちゃんには、その高いステータスと変身能力を活かして臨機応変に戦ってもらったほうがいいだろう。

 ってことで。


「人類を魔薬で汚染する売人ビンフ! お前の正体はもうバレてるんだ! すぐにギルドから救援も来る! 今ここで降参するなら痛い目を見なくて済むぞ!」


 と、啖呵を切ってみんなの士気を上げることに。

 

「あんた……なんで私が()()だってわかった?」


 ビンフの声色が変わる。

 今までの媚びたような鼻にかかった嬌声ではない。

 低く、それでいて血の通っていない、獲物を狙う爬虫類のような冷たい声。


「僕はバッファーだからね」


「バッファー……。ああ、思い出したよ。あんた、追放されてたガキだろ? あのダン……なんちゃらとかいう筋肉男のパーティーから」


「ダンスキーだ。彼らはお前に渡されたクスリのせいでみんな……」


「死んだか? それとも人を殺して逃げたか? どっちにせよ、あの程度のやつらじゃ大した()()にはなるまいが……」


「捕まえたよ。一人を除いてね」


「……はぁ? 捕まえた……? 人ごときが覚醒者を()()()()だと……?」 


「人ごとき? いいや、人だから出来たんだ。それに──僕の仲間たちはマジですごいからね」


「ほぅ……? ならばその思い上がりゆえに貴様らはここで死ぬことになるわけだ。さっさと逃げ出しておけば、まだ命があったかもしれぬものを」


「死なないさ。そしてエンドレスや冒険者のみんなも魔薬汚染から守る」


「出来るものか」


「出来るさ。僕たち『さいきょ~パーティー』ならね」


「そうか、ならば死ね! 雑魚パーティーからすらも追放されてた自称『最強』とやら!」


 ビンフの目が赤く染まり、服は破れ肉体が膨張し、紫色の髪は逆立ち体を覆う甲殻へと変化し、完全な人ならざるものへと姿を変えた。


「来るぞ! ハルは防御より手数でクリティカル出すことを考えて! アオちゃんはハルを守りながら臨機応変に! ラクは絶対攻撃食らわないようにして魔法を!」


「わかった! アオちゃん、よろしくね!」

「ゆ! アオ、おか~しゃま守りゅ!」

「にょにょ~。魔物はいっぱい見てきたけど悪魔は初めて見るにょ~。色々試してみるにょ~」


 ドゥ──! という音を残してビンフだったものが突進してくる。流石に速い。けど、こっちだってその速さは織り込み済みで準備できてる。


 そして──。



枠入自在(アクターペイン)

枠入自在(アクターペイン)

枠入自在(アクターペイン)



 スキルを連打して時を止め、半魔ビンフの向かってくる方向を確認。

 時の止まった灰色の世界の中では僕も動けないけど、相手の状態を確認できる。

 今、奴が向かってきてるのは僕。

 スキルを使うたびにSPがゴリゴリ減っていくけど、ここが無理のしどころだ。



枠入自在(アクターペイン)

枠入自在(アクターペイン)

枠入自在(アクターペイン)

枠入自在(アクターペイン)



 右手の爪。

 巨大生物にすら一撃で致命傷を与えられそうなそれで僕を切り裂こうと振りかぶっている。

 攻撃方法さえわかれば避けるのは容易い。


 ザンッ──。


「なっ……!?」


「ハル! ラク!」

「うん!」

「にょ~」


 躱されるとは思っていなかったのだろう。

 絶大なる自信をもって放った一撃が空振りに終わったことに信じられないといった表情を浮かべ固まる半魔。

 そこにハルのレイピアの連打が襲う。


「くっ……こんなの虫に刺されたほどにも……ぐぁっ!」


 僕のバフによって素早さと幸運値の高くなったハルの連打は、一撃一撃の威力は低くとも半魔の鎧のような甲殻のつなぎ目にヒットし、苦悶の表情を浮かべさせる。


「よし、決めたにょ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 足元から一体のゴーレムが高速で生成される。


「ハッ! 今のレイピアはたまたまいいところに当たったが、しょせんは人間。たかがゴーレム一匹ごときでこの私が止められるとでも……」


 ゴーレムの脇を素早く抜けたビンフ。

 だが、そのすぐ目の前に次のゴーレムが生成される。


「な……二体同時……!? しかし!」


 急ブレーキをかけ、次のゴーレムも躱そうとしたビンフの足が止まる。


「なっ…………!」


「六属性ゴーレムを二体ずつ、計十二体にょ~」


 床から、壁から天井から一斉に湧いてきたゴーレムがビンフを取り囲む。

 

「からの~、初歩火魔法(ファイヤ)旋風魔法(ホワルウインド)にゃ」


 がっちりと隙間なくビンフを囲んだゴーレムたちの中心にポッと火がともると、旋風によってダンジョンの奥へと火災旋風が巻き起こる。


 ゴォォォォォォォォォォ……!


 この世の終わりのような業火がダンジョンの奥に吸い込まれていったんだけど……。


「え、ラク? やりすぎじゃない……?」


 いくら相手が人類にあだなす半魔とはいえ同情を禁じえない。

 そんな気持ちでラクに物申す僕。

 だけど。


 ガラッ……。


「さ、さすがに今のは死ぬと思ったぞ……!」


 崩壊したゴーレムの瓦礫の中からビンフが出てくる。

 なぜだか「よかった生きてた」みたいな気持ちになる僕。

 すかさずスキルでステータスを確認するとHP「9」にまで削れてた。

 たしか「126」だったはずだから9割以上をハルとラクで削ってる!


「貴様ら……一体なんだなんだ……! 私を半魔だと見抜いたり! 甲殻の隙間を的確に突いたり! 挙句の果てには馬鹿げた数のゴーレム召喚と複数属性を組み合わせた応用魔法だ……!? くそっ、世界最強戦力でも送り込んできたってのか!?」


「いや、世界最強どころか今朝四人でパーティーを組んだばっかだなんだけど……」


「はぁ?」


 なにを言ってるんだというビンフの顔。


「ゆ! おと~しゃまは最強ゆ!」

「そうよ! カイトがすごいからみんなもノビノビやれてるんだから! すごいのはカイト!」

「にょ~、依頼(クエスト)大成功させて美味しいものいっぱい食べるにょ~」


「……っ! なにを言ってるかは全くわからんが、まともにやり合ったのでは割に合わなさそうだ」


「みんな! なにか奥の手が来るかも! 気をつけて!」


 身構える僕らをよそにビンフは──。


「……へ?」


 ケツをまくって一目散に逃げ出していった。

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