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第42話 売人と対面

「こっちゆ!」


 ペルにバフをかけてあげた後、僕らは二十二階で魔薬を売りつけている売人──ビンフを止めるために隠し通路を駆け抜けていた。


「カイト、こっち初めて来るね!」

「うん、前来たの十階からだったもんね!」


 隠し通路はなだらかな下り坂がぐるぐると周回する形で続いている。

 螺旋階段ならぬ螺旋坂道。

 で、内側にダンジョン内へと続く隠し扉がある──はず。

 というのも、一見しただけじゃどれがどう隠し扉なのかわからないからだ。

 普通の壁にしか見えないところにアオちゃんが近づくと、壁が回転して迷宮内に出られるって仕組み。

 アオちゃんは文字通りコロコロと転がりながら跳ねながら下っていき、僕とハルが必死に走って追いかける。

 そしてそのはるか後方、息も絶え絶えなラクが弱音を吐く。


「にょ~、ちょっと待って欲しいにょ~」


 へろへろになったラクの鼻がぽんっとたぬきに変わる。


(これは……チャンスか?)


 僕はしゃがむとラクに向かって言った。


「乗って! おぶるよ!」


「アニキ~、助かるにょ~」


 もふっ。


(やはり──)


 もふ……もふもふもふもふ!


「ちょっ、アニキ!? あんまり触ったらにょにょにょにょにょ~……!」


「カイト!?」


「違う! 不可抗力!」


 なにが違うのか自分でもわかんなかったけど、とりあえず否定。

 背中で脱力するたぬきラクを不可抗力でもふりながらアオちゃんの「ここゆ!」という合図とともに壁に飛び込んだ。



 くるんっ──。



「……は?」


「あ、真ん前」


 紫髪のえっちの権化ビンフが手練れ感のあるパーティー四人にちょうど魔薬とおぼしき瓶を手渡してるところだった。男二、女二の四人組パーティー。


「離れて!」


 ハルが叫ぶも冒険者たちは。


「え? どっから出てきた?」

「てかスライム? 人型の?」

「獣人もいるし、怪しすぎんだけど」

「敵!? とりあえず構えて!」


 と、臨戦態勢。

 僕は誤解を解くべくまくしたてる。


「僕たちは冒険者ギルド長ロン・ガンダーランドから直接依頼(クエスト)を受けてやってきました! 依頼(クエスト)の内容は、バッファーを自称する謎の女ビンフが魔薬を売りさばくのを止めろ! というわけで──」


 僕はビシッと目で魔薬(多分)の瓶を指差す。


「それ、魔薬です!(多分)」


 断言しといたほうがわかりやすい。

 間違えてたら後で謝ればいいし。


「は? 魔薬……? えぇ? これが?」


「です! 彼女に薬を盛られたダンスキーたちは悪魔に変化しました! 今、ギルドで取り締まりを受けてる最中です!」


「ダンスキー!? マジ!?」


「マジです! なんせ僕はダンスキーのパーティーの元メンバーだったんですから! 嘘は言いません!」


 ダンスキーの名前を聞いて冒険者たちの顔色が変わる。


「……そういえば、こういう感じの子がいたような気も……」

「たしか後ろからついていってた子?」

「影薄いからうろ覚えだけどいた気はする」

「いや、いたよ多分。この地味さは逆に間違いない」


 どうにか僕のことを思い出してくれたみたい。

 ちょっと地味地味言われて悲しいけど。


「ってことで離れてください! あっ、その瓶は受け取らないで!」


「ひぃ──!」


 コトリと瓶を地面に置いて後ずさる冒険者たち。


「ダ、ダンスキーが悪魔って……そうとうヤバいってことだよな……?」

「ねぇ、この人たちギルド長からの直々の依頼受けるくらいなんだから私たちいても邪魔よね……?」

「ああ、悪魔なんか出たらとてもじゃないけど対処できないぞ……」

「逃げ……いや、退路の確保は任せてくれ! お前らは思う存分魔薬の売人と話をつけてくれよ!」


 と、完全に及び腰。

 二十二階まで来られるくらいの中級者パーティーに手伝ってもらえたら助かったんだけどなぁ……。

 まぁ仕方ないか。

 誤解を解くためとはいえ、僕もビビらせるような言い方しちゃったし。


「ちょっと待って!」

「ひぃ! な、なにっ!?」


 せめてものお詫びに。



枠入自在(アクターペイン)



 冒険者たちのステータスを底上げしてあげる。


「はい、もういいよ」


「へ? なに?」

「あ、なんか体が軽くなったような……」

「力が湧き出してくる感覚……」

「今なら麻薬の売人でも倒せるんじゃね?」

「倒したら私たちの手柄に……」

「馬鹿! 今のはあの子供がしたに決まってんだろ! つまり要するにオレたちなんか足元にも及ばないスゲ~奴なんだよ! このまま俺たちがいても足手まといだって! ってことで逃げ……退路の確保は俺たちに任せろ!」


 そう言ってすたこらさっさと退散していくパーティーたち。


「あっ! 途中DGペアがいたら声かけといて~!」


 僕のその声が聞こえたのか聞こえてないのか、パーティーは一瞬で影も形も見えなくなってしまった。

 まぁ……あの勢いと切り替えの早さなら大丈夫だろう。


「さて、こっからが本番だな」


 僕たち四人は麻薬の売人──ビンフをぐるりと囲む。


「あんたたち……よくも私の商売の邪魔をしてくれ……」


 悪いがおしゃべりにつきあってる暇はない。

 麻薬の売人、警戒度SSSだ。

 ってことで問答無用で入らせてもらうよ。



枠入自在(アクターペイン)



 灰色の世界。

 白いカーソルがビンフの頭の上で点滅している。

 時間の停止したそこでも十分に魅力が伝わってくる艷やかな紫髪の女。

 彼女に向けて意識を集中すると、ステータス欄がぐわっと浮かび上がってくる。


 なんか──よくない感じ。


 そして、そのよくなさそうなステータス欄が僕を通り過ぎた。



 シュゥゥゥン──。



 パチッ。不穏な雰囲気に急いで目を開ける。


 すると、その目に映ったのは──。


「うわぁ! なんだこれっ……!?」


 燃え盛るマグマの中に浮かぶ、数字の数々だった。

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