第32話 一触即発
僕はゴーディーのステータス欄の中で知った。
『ゴーディーの正体はかまいたち獣人』
しかもゴーディーは自分の正体を隠したうえで獣人を迫害してるっぽい。
なぜ?
でもゴーディーは僕の言葉に動揺してる。
僕はさらに畳み掛ける。
「かまいたち(ボソッ)」
「──っ! テメエ! 俺はかまいたち獣人なんかじゃ……!」
ゴーディーはさらに動揺を深める。
「あれぇ~? 誰もあんたを『かまいたち獣人』だなんて言ってないけどなぁ~? なんで自分がかまいたち獣人って言われたと思ったの? そもそもかまいたちってなに? 普通そんな動物知らないよね? だからもし言われてもかまいたちイコール獣人とは結びつかないんじゃないかなぁ?」
プルプルと震えるゴーディーにデコ出しポニーテールのボンテージ女、ダクロスが声をかける。
「ちょ、あんた獣人って嘘よね……? たしかにたま~に獣臭いな~って思うときはあったけど、え? ほんとに獣人?」
「ち、ちが……」
にゅっ。
動揺するゴーディーのバンダナの隙間から可愛らしい丸みを帯びた耳が生えてくる。
「きゃぁ!」
「あばば……ちが、違うんだ、ダク! これは……」
にゅ~ん。
さらにテカテカした鼻が伸び、口元も小動物のそれに変化していく。
「あぁ、くそっ! 違うんだって……!」
「なにが違うのよ! 今まで散々獣人を馬鹿にしてたくせに、あんたがその獣人だったなんて引くんですけど!」
「あぁ! もうごちゃごちゃうっせぇ! いっそここにいる連中全員ぶっ殺して……」
ゴーディーの両腕が巨大な二本の「鎌」へと変わっていく。
(鎌のイタチでかまいたちってことか)
臨戦態勢。
「……っと?」
ゴーディーが前につんのめる。
どうやら僕にデバフされた素早さに戸惑ってる模様。
よし、今のうちにみんなのステータスを……と思った時。
「やめ~~~~~~~~~い!」
ビリビリビリ! 鼓膜が破れるかと思った!
ゴーディーもダクロスも耳を押さえ、声の主。ロンの方を見る。
「やめんかぁ、お前らぁ! ここでの揉め事は禁止! どうしてもやるってんなら──」
ガチャ。「準備できてます」唐突に入って来たメラさんが告げる。
「決闘じゃああああああああっ!」
ロンの声が冒険者ギルド中に響き渡る。
「決闘!?」
「久しぶりじゃねぇか!」
「誰と誰だ!?」
「なんでも皮剥ぎゴーディーと悪魔殺しの小僧らしいぞ!」
「マジかよ! 達人級 vs 異名持ちルーキー!」
「楽しみがすぎる!」
「うっひょ~、ビッグイベント!」
「おいおい、祭りだ! 肉と酒買ってこい!」
「さ~、張った張った! 現在コーディーオッズ1.1に小僧オッズ8.7だよ!」
「マジかよ小僧にあり金全部だ!」
「こっちはコーディーで手堅く増やすぜ!」
「なんでもいいから誰か酒おごってくれぇ~」
ギルド内の冒険者たちが沸き立つ。
えと……なに? 決闘?
僕、それ知らないんだけど……。
「じゃあどちらのパーティーもついてきてください」
あまりにも手際がよすぎるメラさんに先導されつつ「え~? 私も行かなきゃダメ~?」と不満たらたらなダクロス、目をギラギラ血走らせてるゴーディー、そして僕たちは決闘とやらの会場へと向かうことになった。