第28話 マジックマスター
「にゃにぃ~!? 金がにゃい~!?」
故郷に帰ったリュウくんたちと別れた僕らは、パーティーを組むことになったラクに現在の金銭事情を打ち明ける。
「詐欺にょ! 聞いてないにょ!」
ラクが涙目で訴えるも。
「大丈夫! 稼げばいいから!」
「そうそう! まずはギルド行こっ!」
「ゆ! なにかいい依頼が出てるかもゆ!」
前向きトリオ僕&ハル&アオちゃんは勢いで誤魔化すのです。(アオちゃん、自分もモンスターなのに依頼に前向きなのは一体どうなんだろうとか一瞬思った)
「そんにゃぁ~……これはとんだパーティーに入っちまったにょ……」
と嘆きつつもリュウくんたちと交わした約束を破るわけにもいかないラクを引き連れ、僕たちは冒険者ギルドへと到着。
◇◆◇◆冒険者ギルド◇◆◇◆
「あら、カイトくん。ハルちゃんとアオちゃんも」
声をかけてきたのは職員のメラさん。今日も相変わらずのボンキュッボンな凹凸強調な服装。ハルの視線、もとい殺気を背中に感じた僕はすぐさまプイとメラさんの魅惑ボディーから視線を外す。
「こんにちわ~。どうなりました、魔薬騒動?」
少しの気まずさを隠しつつ世間話。そんな僕にメラさんは「知りたい?」と怪しげなアンニュイ顔。え、なんかこわっ。
「……え、いや、あんまり……」
「そう……フッ……そっちのほうがいいかもね……」
え、なに~!? なにがあったの~!?
知りたいけど知りたくないかんじ!
なんて思ってると奥から声が。
「おい! 腕だけ悪魔化させろって言っただろ!」
「あ~もう斬っちまうかこれ!?」
「ひぇ~ん! そうやって回復を無駄に使わせないでくださぁ~い!」
「るせぇ! 他に方法ないだろうが!」
「でりゃ~!(ザクぅ~!)」
Oh……ダンスキーたち……。
悪魔は悪魔で色々大変なんだな……。
がんばれよ……うん……。
と、思わず同情しつつメラさんに質問。
「今日はこの子が冒険者登録されてないか確認しにきたんですけど」
シャイに後ろに隠れてたラクをぐいっと前に差し出す。
「にょっ!?」
「あらぁ~、これまた可愛い子ね! 名前は!? 年齢は!? 職業は!? そして……ごくりっ、スキルはぁ~~~~!?」
「にょぇぇ……なんかこの人怖いにょ……!」
ラクが僕の背後にササッ。
「あはは、メラさんはスキルマニアで、若い子が好きで、ちょっと行き過ぎたところがあって、少し過剰にエッチな格好をしてるだけで、仕事に関しては信頼できる優秀な職員のお姉さん(?)だよ」
「あんまり信用できる要素ないにょ~!」
「カイトくん? お姉さん(?)っていう言い方がちょっと気になったからあなたは今度お姉さん(確信)とじっくり個人授業ね?」
「(ハルが僕の手のひらギリッ!)……っう~! はは、ちょっと忙しいんで僕……あはは……」
およよ……僕、なんで二人の間でこんなダンスキーたちばりに追い込まれてるの。
「で、メラさん。この子はラク・ブレロ。三年前からエンドレスに来ててダンジョンに潜ってるそうなんです。ご存知ないですか? かなりのステータスの魔法使いなんですよ。なんでも地元では『天才』とか『奇跡』って呼ばれてたとか。あ、リュウくんたちの先輩らしくて。あと、この子たぬき獣人です」
「ラク・ブレロ……? 心当たりないわねぇ。うちの子は全員覚えてるんだけど。獣人なのに完全に人化できるってことはかなりの上位種よね? ちなみにスキルはなんなの?」
背中で怯えてるラクに優しく声をかける。
「ラク。キミが使えるスキルってなに?」
「スキル? よくわからないにょ。魔法なら六系統すべてを中級まで。あとは透明魔法や浮遊魔法、蔦魔法や植物成長促進魔法、錬金魔法なんかも一通り使えるにょけど」
「……!」
メラさんの目がぴき~んと光る。
「スキルは……!?」
「スキルとかよくわかんないにょ。独学で覚えたにょ」
「冒険者登録は……!?」
「してないにょ」
「カイトくん!」
「は……はい」
「この子、借りるわね!」
「え?」
バッ!
僕の返事も待たずメラさんは凄まじいスピードでラクを抱きかかえるとスキル部屋に連れて行った。そして数分後──。
「むふふ……」
キモいとしか言いようのない笑顔を浮かべたメラさんが生まれたての小動物を保護するかのようにラクを抱っこ&なでなでしながら戻ってくる。
「天才……本物の天才はっけぇ~ん……んっふっふっふぅ……」
「え、メラさん?」
「この子のスキルはね……あ~ん、もう我慢できないから言っちゃう! このこのスキルは……『万能魔法』! なんとすべての魔法を習得することができるという正真正銘の 天 っ 才 っ よ! あぁ……カイトくんに続いてこんな天才がエンドレスに埋もれてたなんて……! 今まで気づかなかった私のばかばかばかばかばかばかぁ~!(ぽかぽかぽかぽか~!)」
急に血が出るまで自分の頭をたたき始めたメラさん。
え、やだ、なにこわっ。
「だ、だれか回復師の人~!」
ぴゅ~っとメラさんの頭から噴き出す血を見ながら万能魔法とやらの使い手らしいラクはブルブルと震えていた。
ラク、怖い思いさせてごめんね。
今日のお昼はメラさんに奢ってもらおうね?
心の中でそう話しかけながら、通りがかったロンを目ざとく見つけた僕はすかさず助け舟を求めたのです。