第14話 英雄の中
ふわぁ、英雄の中あったかいなり~。
ジュゥゥン──と入った灰色世界。
ギルド長のロンに白カーソルを合わせると、ぐわぁ~っとステータス欄が浮かび上がってきて僕を飲み込む。
そしてその中は……。
あったか~い!
ふわぁ!? なにこれこんなの初めて!
なんかビミョ~に人肌感?
う~ん……。
おじさんの中があったかいの、なんかいやかも……。
まぁ、いい。
それよりさっそく英雄様とやらのステータスをチェックだ。
さ~て、どんな感じかな?
僕は数字の上に立ってう~んと背伸びする。
すると見えてきた。
名前 ロン・ガンダーランド
称号 かつての英雄
種族 人間
性別 男
年齢 54
LV 37
HP 62
SP 29
STR 55
DEX 17
VIT 38
AGI 26
MND 14
LUK 8
CRI 12
CHA 72
へぇ! かつての英雄だって!
かっこい~!
ふんふん、それで年が54歳?
魅力「72」! たかっ! すごっ!
で、次がHP「62」でその次がSTR(力)「55」と。
典型的なリーダータイプの戦士ってかんじ?
戦士職なのに魔力が二桁に乗ってるのもすごい。
穴があるとしたらDEX(器用さ)が「17」なくらいかな。
それでも普通の冒険者と比べたらそんなに低いってわけじゃないんだけど。
年を取るとステータスってのは落ちていく。
なのでこれはあくまで「今」のロンのステータス。
だから全盛期のロンはもっとすごかったはず。
全盛期……。
もし。
もしだよ?
アオちゃんにみたいにロンの年齢をいじったら……。
と思ったけど今「54」才。
ひっくり返しても「45」才。
もしかしてあんま変わらない?
それにね、さすがにね。
人間の年齢をいじるってのはね。
怖い。
だってさだってさ。
アオちゃんはスライムだからあれだったけどさ。
たぶん人って体の構造違うよね?
なんかバグってさ、頭から手足が生えてきちゃったりとかしたら……。
ぽわわわぁ~ん。想像。
【※自主規制※】
うぅ……ヤバい……ムリ……。
人間の年齢をいじるのはやめとこ……。
とはいえ、僕のスキルが本物であることを証明するためになにか数値を入れ替えなきゃだ。
どれにしようかな~?
背伸びきょろきょろ。
うん、これに決めた。
僕は乗っかってた数字から下りると、目当ての数字に手を当ててぐっと押……。
押……。
重いぃぃぃぃぃぃ!
え、なにこれ数字重いんだけど!
なんで? 相性悪い?
う~ん……あとでメラさんに聞いてみよう。
とりあえず気合でふんぬ!
ズ……ズズズ……。
ハァハァ……。
どうにか動かしたぞ、二箇所!
DEX(器用さ)「17」→「71」。
VIT(丈夫さ)「38」→「83」。
よし、さっそく外に戻ろう。
シュゥゥン──!
「バフ完了です!」
「へ? もう?」
「はい! ロンさんのDEXを四倍、VITを二倍くらいにしてきました!」
「いやいくらなんでもそんなすぐ……おおっ! 編める! めっちゃ編めるぞ! 何度挑戦してもさっぱりダメだったこのマフラーが!」
ものすごいスピードで毛糸を編み込んでいくロン。
そしてとんでもないことを言い出す。
「おい、メラっ! 俺をぶってくれ!」
「いいんですか?」
「ああ、思いっきり頼む!」
「では」
躊躇なくバリーンっ!
あ、ありえん……! メラさん、お盆の上に熱々のお茶が入ったコップごとロンの顔に叩きつけたんだけど!? え、いくらなんでもやりすぎじゃない!?
と、おもいきや。
「ガハハハ! 痛くない! 痛くないぞ! 久しぶりだこんなの! むはははは! 今夜はブイブイ言わせてやろうぞ!」
ロンは上機嫌で高笑い。
えぇ……?
あの、顔から血、出てますけど……。
「カイト・パンター! 貴様は詐欺師でもペテン師でもない! このエンドレス……いや、世界最高のS級バッファーだ!」
え、S級……?
「S級だって! やっぱりすごいんだカイト! やったね、ハイタッ~チ!」
ぽんっ。
ハルと軽くハイタッチして思う。
ふぅ、僕の冤罪を無事果たせてよかった。
そして、さらに思う。
なに……この状況……。