第12話 英雄ロン・ガンダーランド
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ロン・ガンダーランド。
冒険者ギルドの長。
そして──。
エンドレスの地下に広がる地下迷宮最深到達記録保持者。
人は彼を「英雄」と呼ぶ。
三十年前にロンの到達した四十三階層の記録。
それは未だ誰にも破られていない。
正真正銘エンドレス史上最高の冒険者。
それがこの男、ロン・ガンダーランドだ。
(ふわぁ~)
初めて見る英雄ロン。
で、でかい……。
そして……。
渋かっちょい~!
白髪のショートモヒカン。
もみあげとつながった白ヒゲ。
熊みたいな眉毛。
鋭い目力。
ぶっとい二の腕にはたくさんの傷痕。
普通の服なのに鎧姿みたい。
それでいて人を安心させる不思議なオーラを纏っている。
(これがエンドレス最強の冒険者かぁ~)
僕はほぇ~っと憧れの眼差しをロンに向ける。
冒険者ギルドに来ることはあったけど、ギルド長を見るのはこれが初めて。
ステータス欄を見てみたい気持ちがうずうず。
でも抑える。
だってこんなすごい人だよ?
こっそり覗いたらバレるかも……。
「ミノタウロスの件はわかった」
ロンの落ち着き払った声。
「はい、こちらで照合した結果、同個体のものであると一致しました」
ギルド職員のメラさん。
さっき僕らに初心者講習をしてくれてたボンキュッボンなお姉さん。
なにやら紙をロンに見せる。
「うむ、昨日カイト・パンターが売却した『ミノミノ』。それと今日貴様らが狩ってきたらしいミノタウロスの素材が同一だと判明したわけだが……」
ぎろり。
「ひっ……!」
ロンの眼光に射抜かれてダンスキーは震え上がる。
「どういうことだ? 貴様らが倒したはずのミノタウロスは、カイト・パンターにミノを抜き取られた状態で歩き回ってたとでも? そもそも貴様らはパーティーメンバーだったはず。それがなぜカイトだけ先に帰ってきた? 非力なバッファー一人が先に帰ってくるなんてありうるのか? 一体何があった? まさか……」
ぎんぎろり。
「そ、それは……」
しどろもどろダンスキー。
そりゃそう。
だって。
僕を置き去りにしてきたなんて言えば悪質な裏切り行為として斬首。
少なくとも片腕を落すくらいの罰は免れない。
それくらいの重罪。
言ってみればこの状況は──。
『ダンスキーたちを生かすも殺すも、僕の証言ひとつ』
なわけで。
さ~て、どうしたもんか……。
言葉も出ないくらいに縮こまってガタガタと震えてるダンスキーたちが、すがるような目を僕に向ける。
ん~……。
隣りにいるハルと目を合わせる。
複雑な顔。
もし僕がここで真実を話してダンスキーたちが極刑になったらハルはこの先、僕にどんな目を向けるんだろうか。
想像したらちょっと……怖くなった。
なので。
「大丈夫ですよ。ギルド長の思ってるようなことは何もなかったかと」
許してみることにした。
「ほう……? それはまことか?」
驚きとちょっとの威圧を含んだ声。
「はい、このミノタウロスは十二階層で倒したものです。ただし僕ではなく──このハルが」
「いっ!?」
急に話を振られてびっくりするハル。
「ハル……? この娘が? 先ほど冒険者登録をすませたばかりだと聞いたが……」
「はい。たしかに冒険者登録を済ませたのはさっきです。でも、彼女は来てたんです。一人で。十二階層まで。それこそスキルもなにもない状態でね」
「ふむ……それが事実だとすると、とてつもない逸材だということになるが……」
「そそそそ……そんな! 私なんてぜんぜん逸材なんかじゃ、あわわ……! それよりもカイトがすごくて、あの、あっ、え~っと……! とにかくすごいんですカイトは! すごくてかっこいいんです!」
スキルのことは秘密。
その約束を守って僕のスキルを伏せたハルは、言葉に詰まってあたふたと慌てる。
「ふぅ~む……よかったら詳しく話を聞かせてもらえんか? もちろん聞かせられる範囲で構わんのだが」
ああ、困った。
なんか事態がふんわりしてきたぞ。
僕のスキルのこと、どこまで話せばいいのかな?
ミノタウロスも直接的には僕が倒したのは倒した。
けどそれもハルのLUKがあったから倒せたわけだし。
そんなことを思ってると。
まるで一命をとりとめたとばかりに威勢よくダンスキーが声を上げた。
「ほ、ほら見ろ! やっぱりカイトみたいなペテン師にミノタウロスを倒せるはずがないんだ! そこの女に助けてもらったんだ! だから一人ぼっちで置き去りにされてもこうやって帰還……」
ぎ ろ り 。
「置き去り、だと……?」
殺気。
いや、絶望。
圧倒的に確定された死の約束。
そんな風に思わせる覇気の込められたロンの言葉を正面から浴びてダンスキーは腰を抜かす。
「ひっ……!」
じわっ……。
ダンスキーの股の部分にシミが広がっていく。
あ~あ、おもらし。
それを見たアオちゃん(僕のネックレスの中の飴玉)がクスクスと微かに揺れた。
「あ、いや、ちが……違うんです! ちが……!」
哀れなくらいにうろたえるダンスキー。
そしてどうやら。
パーティーメンバーたちは、そんなダンスキーを見捨てることにしたようだった。
「ダンスキー!? あんたまさか……! 私達にはカイトは途中で帰ったって言ってたくせに!」
「そうそう。俺たちゃカイトのことなんてなんも聞いてなかったからな。どゆこと? ちゃんと説明せ~よ、リーダー」
「うわっ、こいつおしっこ漏らしてるし。終わってる。きっしょ。っていうか一人で勝手にカイトを罠にはめて置いてきぼりにしてきたってわけ? 信じられないサイテー。死ねばいいのに」
「あのっ! 私ほんとに何も知らないんです! パーティーに誘われたのも今日で! ほんとです! 信じてください!」
魔術師のゼラ、盾職のゴンダラ、回復士のバーバラ、バッファーのビンフ。
みんなが一斉にダンスキーを罵る。
そして僕に懇願の目を向けてくる。
(哀れ、だな)
僕をあれだけ馬鹿にし、切り捨てておいて。
今度は仲間のダンスキーを切り捨てようとする。
ゼラなんてダンスキーの彼女だったんだよ?
それがなんだよ、このざまは。
哀れとしか言いようがない。
もしかしたら前の僕だったら、怒りにかられて「僕はダンスキーたちに騙されて魔物のエサにされた!」って言ってたかもしれない。
でも、今は。
僕の手の上に、ハルの手が重なる。
あったかい。
ふわふわ。
気持ちが穏やかになっていく。
「さっきのダンスキーの言葉は、言い間違えだと思います」
にっこり。
僕の言葉を聞いたロンはいぶかしげな顔でヒゲを撫でる。
ヒゲにも油をつけているのか無骨な匂いが鼻を突く。
「たしかに僕はダンスキーたちと一緒にダンジョンに潜りました。そして途中で別れたのちにハルと出会って、ミノタウロスを倒し『ミノミノ』だけを持ち帰った。事実はそれだけです」
これでいい。
ただ、今後また僕みたいな被害者が出ないように、あとでちゃんとロンに釘はさしておかなきゃ。
「ふむ……意図的に間を端折ってはいるが、まぁ辻褄が合うのは合う、か」
パァン! ロンのゴツい手が鳴る。
「よし、わかった! 貴様ら行ってよし!」
貴様ら、と言われたダンスキーたちはキョトンとする。
「……へ? いいので……?」
「ダメなら詳しく話を聞いてもいいんだぞ?」
「い、いえ! 行きます! 今すぐ出ていきます!」
「カイト・パンターに感謝することだ」
その言葉に答える余裕もない様子でダンスキーたちはぺこぺこと頭を下げ部屋から出ていった。
「メラ。茶の用意を。それからそこの汚い椅子を誰かに拭かせてくれ。あと今の五人はブラックリスト行きだ。監視をつけて今後誰とも新しくパーティーを組ませるな」
「はい」
メラは短く答えるとするすると流れるような動きで部屋から出ていった。
ホッ。
どうやらもう追放被害は出なさそう。
さすがの決断力と判断力だなぁ。
厳しいだけじゃなくて柔軟さも兼ね備えてる。
これが英雄ロン・ガンダーランド、か。
(すごいな)
そして逆に。
(こんなすごい人でも43階層までしか行けないのか)
そうも思った。
ハルの両親の痕跡を探す。
そのためにはもっと深く潜らなきゃいけないかもしれないのに。
僕に、できるだろうか。
そんなことを思っていると、ロンがこちらに体をぐいっと向けて聞いてきた。
「さて、では聞かせてもらおうか、カイト・パンター。キミの──」
まえのめりっ。
「スキルについて」
うぅ、威圧感。
「ミノタウロスを倒したのも本当はキミなのだろう?」
しかもこの洞察力である。
いったいどこまで僕のスキルを話せばいいことやら……。
ハルがギュッと僕の手を握る。
う~ん、いっそ全部正直に話してみるか……?




