第10話 冒険者と~ろく!
ドレンシア大陸には七つの探索都市がある。
ミルファ。
ゼスト。
ニラナカ。
サイファー。
エリオニア。
ポータル。
そしてここ、エンドレス。
探索都市とは冒険者たちが集まり作られていった都市だ。
魔物の発生源たる七つの迷宮。
そのそれぞれの入口に冒険者たちがたむろい、行商人が訪れ、定住し、家族を築き、発展していった。
探索都市は冒険者の都市。
ゆえに各都市においては冒険者ギルドの権限が極めて大きい。
ことここエンドレスにおいては冒険者ギルドが法と言っても過言ではない。
というのも、かつてエンドレスの地下迷宮第43層まで到達したこの町史上最強の冒険者ロン・ガンダーランド。
その彼を頭に据えたギルドには多大な人材と才能が集まっていたからだ。
そして当然、それを管理する職員もその例に漏れない。
「はいはぁ~い! 質問がある人はこのメラお姉さんになんでも聞いてね~!」
毎朝行われている新人冒険者への研修。
冒険者ギルドの片隅で行われているそれに、僕はハルの付き添いで参加してた。
今日の研修参加者は十二人。
毎日これくらいの新人冒険者が生まれてるわけで。
まぁ、でもそのほとんどが十層にすらたどり着けずに辞めちゃうわけで。
それくらい過酷な職業なのが冒険者。
なるのは簡単、続けるのは大変。
さいわい僕はすぐにダンスキーたちに拾ってもらったから二十二階まで行けたんだけど。
まぁ結局ダンジョンに捨てられちゃったんだけど。
はたして僕は運がいいのか悪いのか。
なんて思ってると、いがぐりあたまの少年が緊張した面持ちで手を上げた。
「はい! あの……ほんとにスキルって授けていただけるんすか!?」
「あら、キミ可愛いわねぇ。名前は?」
「リュウって言います! リュウ・シデン! 地元のみんなと一旗揚げるべく今日エンドレスに到着したばかりっす!」
リュウの近くには三人の同世代っぽい子たちがいる。
大体みんな14歳くらい?
緊張と希望を顔によぎらせてる。
初々しい。
地元の仲間と一旗揚げるために、か。
青春だけど危なくもあるな。
全員初心者ってのはなぁ。
本当なら、最初は誰か熟練冒険者に牽引してもらうのが一番いいんだけど。
「あらあら~。いいわね、いいわね~! そういうの好き! お姉さん好きよぉ~? で、なんだっけ? ああ、スキル。スキルね。与えてあげられるわよ。このあとすぐ」
「やった!」
おもちゃをもらえることが確定した子供かのようにガッツポーズを取るリュウくん。
「でもね、約束があるの。授かったスキルの内容については絶対に他人に公言しないこと」
メラ。背の高いギルド職員が猫のような目をさらに細めて告げる。
「え、なんで……? 仲間に言わなきゃ連携取れなくないすか?」
不安そうなリュウくん。
「えっとねぇ~、スキルはあなたたちそのものなの。最後の武器なの。例えばもうダメだ、死ぬ、終わりだって思った時に最後に信じられるもの、それが『スキル』なの。スキルは千差万別。汎用スキル。特殊スキル。なにが授けられるかは人によって違うの。だからその『スキル』、あなたそのもの、最後の武器は絶対に他人に明かさないようにしてね~? メラお姉さんとの約束よぉ~?」
ハルが小声で話しかけてくる。
「カイトさん? えと、私にスキルを教えてくれたのって……その……よくなかったんじゃ……」
「ほんとうならね。でも、僕は知ってほしかったんだ。ハルに。本当の僕をね」
「カイト……」
ハルが目をうるませる。
「先生~! じゃあどうやって仲間と連携取ったらいいんですか~?」
「いい質問ね! 例えばリュウくんのスキルが剣に火を纏わせる『ファイヤーソード』だったとします。で、そのスキルを連携に組み込むとして、あなたの剣に宿った火を『ファイヤーソードである』と言わなければいいんです。リュウくんは『剣に炎を纏わせることが出来る』そう説明すればいいんですよ」
「う~ん? つまり原理は教えずに、それによって引き起こされる現象のみを教えろってことっすか?」
「そのとぉ~り! リュウくんは可愛いわねぇ~! お姉さんがよしよししてあげましょう~!」
「げぇ、いいよ! 子供じゃないんだし!」
「そう……(しょんぼり)。なら仕方ないわね……。このあと職員がスキルを授けていくので、一人ずつあちらの部屋に来てね~。それでは、なぜなにメラお姉さんのコーナーでしたぁ~……」
ガタイのいいメラさんががっくりと肩を落として帰っていく。
ちょっと気の毒。
それから新人冒険者たちは一人ずつ部屋に呼ばれていった。
スキルを預かり喜びの声を上げる者。
思っていたようなスキルをもらえなくて目に見えて凹んでいる者。
その反応は様々。
そしてとうとうハルの番がやってきた。
「じゃ……行ってくるね……」
「うん、いってらっしゃい!」
ハルの背中を見送りながら、一応上げといたほうがいいかな? 運。
と思ってスキルを発動させる。
『枠入自在』
ほいほいほいっと。
あぁ……やっぱハルのステータスの数字の触り心地は気持ちいなぁ……。
LUKの値を「109」から「901」へ。
これで授かるスキルが変わるか否かはわからない。
けど、まぁ上げといて損はないでしょ。
よし、じゃあ元に戻ってと──。
神妙な顔をして部屋から出てきたハル。
「どうだった?」
「うん……『刺突』だって」
「あっ……言っちゃっていいの……?」
「うん、知ってほしかったから。カイトに」
気恥ずかしそうにはにかむハル。
あぁ、かわいい。
今すぐ抱きしめたい。
その衝動をグッと抑え込む。
「ハルはどう思う? 自分のスキル」
「う~ん、地味? ハズレなのかも」
「そんなことないと思うよ」
「ふぇ、なんで?」
「まずハルのステータスで高いのはLUK(運)、次にCRI(会心率)、そしてAGI(素早さ)だ。つまり『刺突』で手数が増えるってことは」
「それだけ会心が出やすいってこと!?」
ニッ。
「そうだね。ハルに合ってるスキルだと思う」
「カイトの役にも立てる!?」
「ああ。でも無理は禁物だからね? ハルになにかあった時に一番イヤな思いするのは僕なんだから」
うお~ん、言ってて恥ずかしい。
でもこれ本心。
「うん、わかったカイト!」
ハルの満面の笑み。
くぅ~、かわいいぜ。
僕は絶対この笑顔を絶やさせないぞ。
「さて、それじゃあ早速スキルの試し打ちにでも……」
と外に向かおうとした時。
「んだ、てめぇ!」
「ご、ごめんなさい……」
さっきの少年リュウくんが床に転んで謝っていた。
どうやら入ってきた人にぶつかったらしい。
そして誰にぶつかったのかというと。
ダンスキー。
僕を、捨てた元パーティーメンバーだ。
「あぁん……てめぇ新人か? ケッ、こんなのがルーキーだなんてまったく冒険者も質が落ちたもんだぜ。ど~せこんな間抜けなカスじゃすぐ死ぬに決まってる。なんならここで俺が引退させてやろうか? あぁん?」
「……」
ダンスキーの迫力に圧され、黙り込んでしまうリュウくん。
気がつくと、僕は二人の間に割って入っていた。