表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のラーガ  作者: 紅粉 藍
setlist12―ロスト・ユニバース
78/80

note.78 シンプルに、しかしこれ以上にない面子で異世界の裏側の会話が始まった。

出穂(いでお)さんは?」


 開口一番だった。

 キングはカラス・ヴィーナスを不躾(ぶしつけ)に観察しながら、辺りにも気を配る。入ってすぐのこの居間にイデオは見当たらない。


「そうくると思っていました……私達にとって、葛生出穂(かつき いでお)は家族を(おとし)めた非常に憎い、憎んでも憎んでも、憎み足りない相手です。萩原旭鳴(はぎわら あさひな)、あなたにとって葛生出穂とはなんですか? この里に来るまでに、考え直すことはありませんでしたか?」

「考え直す? なにを?」

「あなた方の成り立ちです」


 そういわれても、キングにはピンとこなかった。

 結局、イデオの無事についても、どこでなにをしているかについても未だ知ることは出来ていない。


「おい、話を誤魔化(ごまか)すなよ。出穂さんは無事なんだよな?」


 キングはずかずかと上がりを一跨ぎに乗り込んだ。後ろではニゼアール・ヴィースが何か言っているが、耳に入っても頭が捨てた。


「キーロイって奴と何か(たくら)んでるんだろうけど、俺はアンタらの口車にはノらねえからな。こっちはこっちで勝手にノーアウィーンで生きる。音楽をやる。バンドやる。ライブやる。CDも作るしアルバムも出す! 配信もやるしフェスもやるし物販もや」

「ちょっと待てなんの話だそれは!?」


 胸倉を(つか)まん勢いで迫るキングを、ニゼアール・ヴィースがカラス・ヴィーナスと引き離した。


「カラス・ヴィーナス様、大丈夫ですかっ?」

「ええ、何ともありませんよ。それより……」


「こっちはなんともあるんだよ!!!! マジで、出穂さん返しやがれッ!!!! うちのドラムだぞ!? 替えが利かねえプレーヤーなんだよッ!!!!」


「この者は、先ほどから何の話をしているのです?」

「それは、さっぱりです……」


 これだけキレ散らかしているキングだが、伝わっていないのは火を見るよりも明らかである。


 キングは視線を走らせる。きっとこの里のどこかにイデオはいるはずなのだ。族長がいるこの建物こそが怪しい。そう思えば思うほど、すべてが疑わしいものに見えてくる。

 見渡す家屋の中にはテーブルや椅子はない。それこそ日本の古民家のようでいて簡素な暮らしをしていることが調度品からもうかがえた。

 そこでキングは気付いた。


(そうだ、感情任せに(まく)し立てても(らち)が明かねえ……とりあえず靴を脱ごう。これじゃあ野蛮人で話もできない相手だと思われても仕方ねえ。(しゃく)だけど)


 異世界に来てからは、中世ヨーロッパを彷彿とさせるような建造物や習慣に出会うことが多かったので、他人の家に上がって靴を脱ぐことがうっかりすっぽ抜けていた。おそらく、ニゼアール・ヴィースがキングの背後から言っていたセリフは「靴を脱げ」だ。


 社会科の日本史で聞いたことがある。黒船以降、外国からやってくる外交官なんかは、将軍に話を聞いてもらうために当時の日本の習慣を尊重したという。

 キングは上がりの(かまち)に腰掛けなおし、エンジニアブーツをほどいた。


(ただでさえあっちは、この世界のことを知り尽くしてるヤベエ奴ら、俺は侵入者、だ。せめてわかってるフリでもして立場を保たねえと、平等まではいかないとしても)


 突然おとなしくなった地球人を、天使二人は静観している。

 靴を(そろ)えて、妙な静けさを越えて振り返った顔からはすうっと無駄な熱が消えていた。


「えと、俺は……俺達は、出穂さん――うちのメンバーを返してもらいたいだけなんす」

「メンバー?」

「ああ、出穂さんはうちのドラム担当で……つっても、まだまだバンドの(てい)は成してないし、曲も全然なんだけど……」


 キングが背中に回していたギブソンのギターを前に持ってきて示す。ニゼアール・ヴィースがわかりやすく迎撃の構えをとるが、カラス・ヴィーナスが制した。

 そして、カラス・ヴィーナスはキングに敷物を差し出す。


「萩原旭鳴、あなたとはもともと少しお話したいと思っていました。ニゼアール・ヴィース、席を外してください」

「仰せのままに」


「おい、お前もここにいろよ」


 きょとん、とした顔でニゼアール・ヴィースは固まってしまっていた。それから己の主であるカラス・ヴィーナスに何も言わずに視線を移す。だがカラス・ヴィーナスさえも、ぽかん、と口を開けていた。


「これから出穂さんの話をする。俺の知ってる範囲でだけど。だからお前も聞いて行けよ、ニゼアール・ヴィース。なんちゅう人か知りたいんだろ?」

「し、しかし……」

「いいでしょう、ここに残りなさい。ニゼアール・ヴィース」

「……ならば、同席します」


 ようやく三者は車座になる。

 シンプルに、しかしこれ以上にない面子で異世界の裏側の会話が始まった。


「とにかく、俺達は出穂さんを返してもらえればそれでいいんだよ。バンドやってくにはずぇえええええっっっっっったいに譲れないんだ。そこをわかってくれ」


 未だにちらちらと目配せしながら口火を切る様子がない二人に、キングは言いたいことだけを端的に伝えた。というより、既に言い切った後なので、これ以上に伝えるべきことはない。


「それは、わかりました。けれど私達に(かな)えられるかどうかは、ここでは返答できません。それからですね……その長物を一度離れた場所へ置いてくださいませんか?」


 おずおずとカラス・ヴィーナスが指差したのは、どっかと胡坐(あぐら)するキングの膝に乗ったギターである。


「ゴレアン・ヴィースから報告をもらっています。あなたには私の指令音を帳消しにする武器があると。それはこれのことですよね?」

「帳消しに? ああ、あの時はギターは持ってなかった……と、これはギターっつって音楽をやるための道具だ。スーベランダンでは俺がただ歌っただけだな」

「その武器を使わずに……!?」


 動揺しているのがわかる。

 カラス・ヴィーナスの顔面から余裕が、仮面が剥がれ落ちるように消えた。


(怖がらせてるな……どうする。このまま脅迫のようにカード切っていくか、それとも……いや、俺がしたいことは決まってる)


 キングは、ギターを手放さなかった。

 ポケットからピックを取り出し、コードをかき鳴らした。それは馴染(なじ)み深く、何百年も前から人々を幸福にし、音楽を愛する者を慈しんできたカノンコードだ。


「って、感じで使うもので、楽器の一種だ」

「こ、これは……っ」

「え、どれ?」


 わなわなと震えだすカラス・ヴィーナス。見るからに脅えている。


「わ、私がキーロイ様から授かった指令音より、はるかに高度で複雑な……!」

「あんなあ……アンタ方が考えてるような物騒なものではねえんだけども。これは人を楽しませるもんなの。少なくとも誰かの思想や行動をどうこうするもんではない――」


 ふとキングの脳裏に過った。歴史上、あるにはあるのだ。

 第二次世界大戦中のナチス政権時代、政見放送のオープニングやイベントなどにリヒャルト・ワーグナー作曲の雄々しくも華麗な音楽が使われていた。民衆を鼓舞するように。


(けど、それはワーグナーの曲が素晴らしいってだけだ。思想はおまけ……その時代の空気や調子でくらついてただけだ……と、俺は信じてるけど)


「やはり、そのオンガクとやらに何かあるのですね……それならば私達は、あなたをキーロイ様に引き渡さなければなりません」


 気付くと天使族特有のベッコウ(あめ)色の瞳が二対、キングを(にら)んでいた。それは威嚇する獣のように光っている。


「ちょ、ちょい待って。マジで音楽自体にそんな効果はねえんだよ! それは受け取る側の問題って言うか……なんて言えば伝わるんだ……? そ、そうだ! カラス・ヴィーナスさん、マーキュリー王国のフレディアって王女、知ってるか!?」

「……なんの話です?」

「俺はその王女さんに音楽を聞かせたんだ。このギターでな。その時の彼女は、なんてーか……寂しくて悲しくて、すげえ苦しそうだった。それをなんとかしてやりたくて、俺はいろいろ明るい気分になれるような歌をギター弾きながら披露した。でも届かなかった」

「届かない……? ガッキという武器を使いながらオンガクを行使しても、フレディア王女には効かなかった、と?」

「そうなんだよこれがさあー……俺もすっげえ悔しかったんだけど。結局、フレディアの心を慰めてやれたのは、俺の曲じゃなかった。俺の故郷の――地球でまあまあ昔に生まれたシューベルトっつーすごい音楽家の曲だった」

「地球にはあなた以外にもオンガクを操る人がいたということですか!? なんということでしょう……!」


 カラス・ヴィーナスは今度こそ崩れ落ちそうになるくらいに真っ青になってしまった。ニゼアール・ヴィースが脇で支えてやりながら、敷物になんとか座する姿勢を保っている。

 キングはなんだか気の毒な気持ちになってきてしまったが、ここまで話してしまえば、己に持てうる表現でできる限りのすべてを話すしかない。次の言葉を選びながら口を開く。


「でもな、そんなすごい奴がいても、アンタが思ってるような音楽があったとしても、まだまだ地球はピンピン元気だぜ? ノーアウィーンは、えー、さっき聞いたばっかであんましよくわかってねえけど、一回滅んでるんだよな? 作り直したって聞いたけど」


 すると、カラス・ヴィーナスは世界の母である威厳を取り戻した。ニゼアール・ヴィースの手を戻させ、自力で座りなおし背筋を正したのだ。けれどもその姿は、かえってキングに痛々しい程の健気(けなげ)さを覚えさせた。


「その通りです、萩原旭鳴。私の力不足でした……私は、家族とともにもがきながら決定を下したのです――ノーアウィーンのリブートを!」


 キングの右手の中で、ピックが汗に湿った。

 カラス・ヴィーナス――ノーアウィーン創世の神が、この世界の歴史を語ろうとしている。

ドミトリー紅粉! どうもです紅粉!(∩´∀`)∩(※ドミトリー紅粉は実在しません)


ようやくキングとノーアウィーンの創造主カラス・ヴィーナスとの対話が始まりました……! ここでノーアウィーンの裏話が聞けるはず。そこで語られる真実とは――?

というお話でした(*´ω`*)

自分の成り立ちが知らないところで複雑だったとしたら、みなさんどうします??

なかなかイデオくんのように割り切ってそれは置いておいて自分の望みを、とはなりにくいかもしれませんね。彼も音楽のことしか考えてないという点では、キングくんと完全にどうるいですね……音楽くるんちゅ……_(:3 」∠)_


では今回はここいらにて。また次回~ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ