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異世界のラーガ  作者: 紅粉 藍
setlist11―GOSSIP×GOSSIP
71/80

note.71 「僕の夢はキングの音楽を世界中に届けること。」

 国王直属騎士団は、スーベランダン貧民街方面で起きた異民族同士による争いの報告を受けて、マーキュリー国王宛てに早馬を走らせた。

 王女の宿泊する王室御用達ホテルは物々しく警護が立ち、貧民街へ通じる路地入り口も、駐屯兵が(にら)みを利かせることとなった。


 それはミグとゴレアン・ヴィースの戦闘の数時間後、日付が変わる深夜のことである。


「詳しく聞かせてもらう。いいですよね?」


 宿泊所にからがら帰還するなり、食堂にキングとマックスは留められた。そこでイデオがニゼアール・ヴィースという天使族に(さら)われたことを聞く。


 ジギーヴィッドはテーブルを挟んだ向こうに、心痛の面持ちのキングを見ていた。

 ジギーヴィッド自身、与り知らぬ争いに巻き込まれたことを感じていたが、マーキュリー国内で起きた由々しき事態となっては、知った顔であっても厳しい目を向けざるを得ない。


「俺も……よくわかんねえよ」

「そうでしょうけども、……いや、それ以上にお辛い気持ちもあると思います。それでも聞かせてもらいましょう。私達の知らないことを」

「知らないこと? 俺もよく知らねえんだって、イデオさんがいねえなら尚更(なおさら)俺から説明できることなんて……」


 キングはリッチーが肩を隣で支えていなければ今すぐにでも頭を抱えて、激しく()きむしって、喉から血を出すほどに発狂しそうな不安定な瞳をしていた。声には、いつもの張りも力もない。


「ジギーヴィッドさん……悪いけど、キングはちょっとだけそっとしておいてあげてください。代わりに僕が説明するから」


 リッチーは容赦を懇願した。出会ってからこれだけキングが憔悴(しょうすい)しているのは見たことがなかったからだ。キングの話を聞きたいのはリッチーも同じなのだ。気持ちが落ち着くまではそうするのがいちばんだと思った。


「そのようですね。しかしこれは別に尋問ではありません。状況整理のために任意でご協力いただけますと有難い」

「存じてます」


 そういうリッチーだって、まさかこんな日になるとは今になるまで夢にも思わなかった。

 長い耳を澄ませても、あの音は気配もろとも消え去っていた。




    [◀◀ other track   ▶ play now]




「来ちゃだめええええええええええええええええええええええっ!!!!!!」


 明かりの無い暗い裏路地。

 天の裁きか、雷が複数のキメラを空から落としていく。順に彼らの羽根を散らして、夜の空に虹色の雨を降らせて、地上には(しかばね)がどさどさと積み重なっていった。


「ははははははははははははハハアッ!!! 母上……感謝致します……私を天使に産んでくださったことを。これでまだまだ任務を遂行できる……残党を(ほふ)り! この世界に害なす侵入者を回収する!!! (あだ)なす者よ、この夜に懺悔(ざんげ)せよ!!!」


 薄汚れたレンガの中から、再生した純白の翼を広げる。

 それはミグに限っては憎悪の色をしていた。


「よ、よくも……よくもミグの弟達を……ォッ!!!!! 絶対に許さないっ!!!!!」


 落とされたキメラ達はまだ生きていた。

 エスレは言っていた。天使は、もはや死ぬしか仕方がないようなことをするのだと。

 落とされたキメラ達は、文字通り翼をもがれ、ここからどう動くことも出来ない致命傷を負わされていた。この状態からもし歩けるほどに回復しても、二度と空は飛べまい。


 ミグはドラゴンの大きな瞳に涙を浮かべて、散った羽根をひとつひとつ拾っていた。


「これはレーイナのきれいな青い羽根。これはメギの……これはシェンコ、こっちはククシカ、マスワラ、ノッスム、ケニーラ……このガラスの羽根はエスレル・エ。はは……エスレル・エはいっとう弱かったから、羽根、粉々に割れちゃったね……」


 そのひとつひとつを、不器用な黒い爪で慈しむ。


「ミ、ミグ……僕達は自由になったよ」

「エスレル……どこへ行くの? ミグを置いてかないで……!」

「置いてかないよ……ぐふっ、……これで、いつまでも、ミグと、いっしょに……いられる……」


 ぜいぜいと苦し気に息をしているのはエスレル・エだ。毛むくじゃらの手指は、雷に焼かれてちりちりになってしまった。煙を出す手をミグがやさしく指の先でつまんだ。


「うん……ミグもすぐに行くからね」


 ミグは長い首を薄汚れた路地から飛立たんとしている天使に向けた。


「お前は許さない。絶対に!!!!」

「許すかどうかは母上がお決めになる。懺悔せよ――この懺悔の天使ゴレアン・ヴィースに!」


 マックスは遠くの空、海上から白い集団がやってくるのを眺めていた。(がん)の群れのような隊列で、一直線にスーベランダンを目指している。

 あれは天使の群れだ。こちらへ目的をもってやってくる。


「お父さん、潮時。撤退する」


 キングは唇を()んだ。


「今俺達がここを離れたらミグさんが一人になっちまう……!」


 ミグのためだけではない。友達のエスレル・エのためにも、ここを離れるわけにはいかないとキングは思えた。そして彼ら家族のためにも――目を逸らしてはいけない。


「でも、イデオも一人、今。たぶん」

「……っく、そう、だな……」


 マックスはずっと空の彼方からやってくる古の軍隊に的を絞っていた。因縁だけでは片付かないものを背負っているホムンクルス。

 だがマックスの両肩には、父親かつギターの師匠たるキングと、その相棒であるギブソンギターがある。


「わかった……イデオさんのところへ向かってくれ」

「承知」


 あまりにも噛み締めると、自分の力で唇を()み切るのだ。

 キングは己の八重歯が冷たい赤で染まるのを感じながら、マックスに抱えられて遠のくミグを見つめ続けた。その黒い悲しき怪獣が米粒になっても視線を動かせずにいた。




    [▶▶other track   ▶ play now]




(俺がもっと早く逃げる選択をしていれば、マックスを加勢によこせたのに)


出穂(いでお)さん……痛かったかな、ゴレアン・ヴィースみたいにぐちゃっとはなってないと思うけど。でも、ドラム(たた)けなくなってたらやだな……演奏が聴けないのもヤダけど、出穂さんが(つら)いだろうな、叩けなかったら)


(出穂さんはいつも自分のこと、転生してからのこと、いろいろあったろうに……大変だったろうに、何も話してくれねえ。気遣いなのかもしれねえけど、もっとちゃんと聞きだしておけばよかった)


(なにより、あの時簡単に決断を下した俺があるからこんなことになってることに腹が立つ。天使族のやり方も気に入らねえけど、俺がこの世界に残るなんて言わなければ……)


 周りの人は己よりも器用に世間を渡っているように見える。

 ずうっとキングはそう思って生きてきた。


 ピアノから逃げ出したい義務教育期間も、ギターを始め歌いだした時も、東京へ実家から逃げ出すように特急に乗ったときも、そのあとも……――なぜ自分だけ? そんな思いが常に足首にこびりついていた。足取りが軽い日などない。


 そんな自問自答は、どれだけ叫んだって答えを返してくれる者は誰もなく、自らのつま弾くギターの音と一緒に洗い流して、新しい音と明日を歌うことでようやく迎え入れていた。そうでもしなければ、自分に明日などやってこないと思い込んで――――




「――――僕の夢はキングの音楽を世界中に届けること。僕達の誰か一人でも欠けたらそれはかなわない。キングがこの世界にいなければなんて思わないし、音楽なんてなくなればいいとは絶対に思わない」


 気付いたら、リッチーのまんまる瞳がキングの顔を(のぞ)き込んでいた。


「僕はイデオを取り返したい。方法はわからないけど、これはその夢のためのただの通過点に過ぎない」


 丸くてどこまでも澄んでいるリッチーの目。モルツワーバの森と同じ色をしている。


「なんで……」


 何故それほどまでに萩原旭鳴にベットできる?

 勝算は?

 どうして己なのだ?


 そんな疑問がぼんやりとした頭を持久走のようにゆっくりと何周も回った。


「だよね、キング? 僕達はまだまだいけるよね?」


 リッチーの手のひらが、キングの冷たい指に触れる。

 あのざらざらしたひんやりしたような、ぬくもったような不思議な感触。あれがキングにとっての異世界の始まりだった。


「僕達は誰一人欠けちゃいけない! 今なら間違いなくそう思う! 僕達のバンドにイデオは必要だ。だよね?」

「……ったりめえだ。あの人が始めたんだからな」

「言い出しっぺが逃げたままでいいと思う?」

「絶対に思わん!」


 キングの脳裏に、ここ数日のことが走馬灯のように駆け巡った。

 そうなのだ、せいぜい数日。

 地球は日本の都会の片隅で暴れるように生きてきた日々とは違う人生を、この世界は与えてくれた。そこでミュージシャンを名乗るならば、まだやるべきことはある。


(戦闘になったらいつも役立たずで、誰かが傷つくのを怖がって心が痛むばかりだった。けど、ゴレアン・ヴィースの件で分かったことがある。この世界で、音楽にできることがあるってことを、やっと(つか)んだ!)


 ふっと、キングの意識が宿泊所の食堂に戻ってきた。まるで今までどこか知らない場所を跳んでいたような気がしていた。己の体の重さを思い知って、ピック握りたくなる。


 周囲を見渡すと、そばにいてくれたリッチーのほかに、テーブルを挟んでジギーヴィッド、知らない顔の隊士がその隣に。ほかにも食堂を囲むようにして、キングを見守る男達が武装した姿で人の瞳を向けていた。


 その光景をゆっくりとそばを飲み下す様に、キングは首を動かして目の奥に収めた。


「俺、やることがある。俺は俺の歌を、直接天使の親玉に聞かせてやりたい」


 まだ己の心を乗せた実感がないタイミングで、周囲がざわついた。それだけでまた少し、顔を引っ込みたがるキングの心を、リッチーが捕まえる。


「届かせよう、カラス・ヴィーナスに! 絶対!」


「え? カラス・ヴィーナスにって誰?」

どももーももです紅粉です(*´▽`*)


また新たに曲名出てきましたね。

あの、章タイトルが作中の歌詞の曲名になってるのはご存じかと思いますが(あれ、話したことあったよね??)、章変わるごとにまた緊張しますね。新曲くるよー みたいな告知だと思ってるので。前回も話してましたが、作中の歌詞についてはキングくんものだと思ってるので、やっぱり緊張します。。てことで、今回の曲名、ゴシップが二回掛けてあるものです。その意味お話を追っていくごとに明らかになるはずなので、今後ともどうぞよろしくです(∩´∀`)∩


今回はここにて。また次回~ノシ


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