表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のラーガ  作者: 紅粉 藍
setlist10―レックレス・ビギナーズ
70/80

note.70 俺の音楽を、くらえ!!!!!

    [◀◀ other track   ▶ play now]



 己の歌を腹にためろ。


 手で語れ。


 肩から音楽を放出しろ。


 お前の背中が音楽たれ。


「センセイ難しい事ばっかいう。なんやちゃ?」


 萩原旭鳴(はぎわら 旭鳴)は小学生時分、引退した客船の停泊する公園を度々(たびたび)訪れていた。

 毎日のように行くのにはもちろん理由がある。センセイに会うためだ。


「そのセンセイってのやめなって。別にお前に音楽を教えるためにこんなとこにいるわけじゃない。私が勝手に歌って騒ぐためだよ」


 まだ喫煙者への視線もマイルドだった頃のことだ。目の前に旭鳴という少年がいながら、公的な公園でセンセイは星柄の紙煙草(たばこ)をふかした。

 だがそれすらも、当時の旭鳴には大人っぽく見えて、大きくなったらセンセイに煙草をもらうとまで言わせていた。しかしそれは止められたのだが。


「将来? キツエンシャ!」

「バカ、ミュージシャンやるならやめておきな。喉いわすぞ。大事にしとけ」


 センセイは海が似合った。

 当たり前だ。船乗りだから。

 女性ながら船員として海外を回っていたが、とある時期になると旭鳴の実家近くのこの公園へふらりとカモメのように舞い戻ってくる。そして、勝手なリズムでカホンを(たた)きながら、咥え煙草で鼻歌を潮風に流すのだ。海は似合うが、日本海には似合わないかもしれない。


「将来かー……よくわからん。学校では作文書かせられるけど」

「なんて書いたんだ?」

「母さんにはピアニストになれって言われた。授業参観で読まされっちゃ、もうピアニストって書くしかねえ」

「ほう、お前がかい? ピアノいいじゃないか」

「あんまし好きくない」

「何で?」

「クラスの奴らに笑われるし……親父がもっと練習しろって怒鳴る。それに……」

 

 ピアノを弾いてる時間は孤独だ。


「どうせ楽器やるなら音楽しな」

「音楽、する? ってなにやちゃ? 音楽は動詞じゃないよな」

「ハッ、私のカホンを見てなにか思わないのか?」

「うーん、楽しそう?」

「お前はピアノ楽しくないんだろ? 楽器変えたらどうだ?」

「楽器を変える……ピアノを辞めろってこと?」

「ピアノだろうがどんな楽器だろうが、私に言わせれば、結局は道具に過ぎない。ピアノが上手く弾ければそりゃエライかもしれないけどな、譜面をなぞるだけなんて、それは猿でもできる」

「それは言い過ぎだろ。フッツーに難しいぞ? ショパンとか」


 センセイは旭鳴のジョリジョリ坊主頭に手を置いた。ハンドボールを(つか)むみたいに首ごとぐりんぐりん()でまわされた。


「どの楽器でも突き詰めようとすれば難しいだろうよ。野球選手がスイングを一日に何百何千とやるのもおなじだ。でもな、絶対にお前にこたえてくれる道具がある。お前の音楽に呼応する楽器が、表現方法が。楽器や譜面が音楽なんじゃない。お前の視線の先に、手の中に、この空間に、音楽はあるのさ」


 己の歌を腹にためろ。


 手で語れ。


 肩から音楽を放出しろ。


 お前の背中が音楽たれ。




    [▶▶ other track   ▶ play now]




(このチューニング天使は、アイツのおふくろ? の音で元気にされてる。……俺は、俺の音がいっちばんアガるけどな!)


 俺の音楽を、くらえ!!!!!




トロイメライ 安請け合いして

走り出した ドン・キホーテ

アイを忘れるなよ 前に進むなら


壮観な剽悍(ひょうかん) 銀の風に乗って

粗削りな ゴールデンサン

この世に一つの 未来へのカギ


アバウトなフォームで いけるところまで


博打(ばくち)を打つ

宵越しも夢を見ていたい リスキーな目

何が起ころうと ラライラライラ

ラライララライ ラライラライラ


今まで自分をしばっていたものは何だ

歯を食い縛って 耐えてきたものは何だ

今まで自分が見てきたものは何だ

足を踏んじばって 堪えてきたきたリビドーを

走れ 走れ 走れ Dont stop me ! Do it now !




 しかし、(あお)い髪の天使にはどうだ。


「こ、の……っ!!! 母上のお声が聞こえないだろうがアッ!!! この雑音を止めろオッ!!!」


 ゴレアン・ヴィースは、髪を振り乱し血走った眼で叫んだ。苦しみ(もだ)え、辛うじて空にはいるが、羽搏(はばた)きから力強さは消えている。

 そこにハエタタキの要領で、ミグが分厚い尻尾をお見舞いした。天使の翼はひしゃげ、羽毛布団を破いたみたいにふわりふわりときれいに散らされた。火山から打ち上げられた岩石のようにレンガ道へすっ飛ぶ。


 それを見届け、キングからすうっと熱が去って行った。


(これでゴレアン・ヴィースが諦めてくれなかったら……ミグさんはアイツを殺すのか? それしかないんだとしたら……俺の歌は――音楽は……――――)


 人を楽しませるために歌ってきたつもりだった。

 誰かを元気づけるために音楽を続けてきたつもりだった。


(この世界でも、音楽は不変だと……誰にでも――平等で、聞く人にとってはいいもんだと、思ってた……けど、今俺は……ゴレアン・ヴィースって奴を苦しめたんだ! 俺の音楽で!)


 歌うのを止めるか?


 しかし今キングが歌を止めれば、またしてもゴレアン・ヴィースは母のお声とやらで復活するだろう。そうすれば、ミグの敗色はより濃くなる。

 そしてそれは、結果的にキングがゴレアン・ヴィース、天使側に回収されることにつながる。


(俺がいるからか? 俺がノーアウィーン世界から消えれば……いやでも、そしたら出穂さんはどうなる? リッチーは? マックスはそれでもやるだろうな……。戦うしかないのか?)


 瞬時に様々な考えが錯綜(さくそう)した。


 己が音楽をするのを止めた時――考えられない。

 いや、考えられないのではない。考えたくなかったのだ。


 これまでも、音楽で食べていけないかもしれない、などと弱気になることはあった。

 だが、これは比ではない。現物の命が己の目の前で天秤にかけられている。キングの信念と、シーソーしているのだ。


(やるっきゃねえ……やるっきゃねえけど、覚悟が定まらない……!)


 キングが口を閉じようかとし、マックスがそれを見止めて撤退のために姿勢を低くした、その時だった。


「んなっ!? ええーーーーーーーーーっ!!?」


 キングが思わず叫んで歌うのを中断した出来事が起きた。

 定食屋の屋根を突き破って、あのエスレル・エがガラスのような翼を広げて飛び出したのだ。


「ミグ! もういいんだよ……!」


 しかも、屋根を破ってとび出したのはエスレル・エだけではない。二階に隠されていたキメラ達が本来の己の姿で夜空に羽搏いていった。


「ミグ!」

「もう行こう!」

「ここを出よう」

「遠いどこかへ!」


 口々にミグの名を呼び、未だゴレアン・ヴィースの様子を(にら)んでいる黒いドラゴンに近寄っていく。その黒い羽をなで、(たくま)しい腕を取り、大きな胸に飛び込んだ。それはさながら、疲れ果てた旅人を天にいざなう小さな天使達のようであった。


「ミグ、旅に出よう。僕達が暮らせるところがどこかにあるよ! だって、空はこんなにも広かったんだから!」


 ところが、無情にもあのA音が広く、深く、暗い夜空に響き渡った。


「来ちゃだめええええええええええええええええええええええっ!!!!!!」


 とりどりの羽根が夜空に舞う。

 ようやく空を得た翼達は、碧い髪の天使の放った雷によって、残酷にも撃ち落とされたのだった。

どもももももももです紅粉 藍です(*´▽`*)


今回は歌詞回です! 歌詞回はいつも緊張しますね……(;´Д`)「異世界のラーガ」は紅粉の小説作品という感覚、というかそのまま当たり前田のクラッカー的なこと言ってるのは重々承知なんですけど、歌詞に関してはキングくんの作品なのでとても気を遣って書いてますね。

今回もキングくんの歌を楽しんでいただければと思います(∩´∀`)∩お話がそれどころではない展開になってましたね、そうでした……(´・ω・`)


まあ、このへんで。また次回~ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ