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異世界のラーガ  作者: 紅粉 藍
set list.2―clear after rain
7/80

note.7 歌は心。

 嫌な瘴気(しょうき)が高速で迫って来るのがわかる。

 何度経験しても慣れることのない肌触りだ。澄んだ水瓶に、墨を流すような。


『フェンリル型だな』


 キーロイの助言が聞こえるが早いか、イデオは背中に垂らした純白の、裏地は燃える臙脂(えんじ)のマントを引き抜いた。


「来るなら、来い」


 視界はほぼ闇。

 木々が身を揺らすざわめき。


 ノーアウィーンという世界に、異変が起きてから現れるようになった怪異――それを人々は魔物と呼んだ。

 魔物は形こそあれ、この世のすべての光を飲み込んでしまうくらいの黒色をしている。眼や爪や牙、体内に至るまでが黒い。流れる血もタールのよう。


 魔物が現れるまではのどかで平和そのものだったノーアウィーンは、大小さまざまな国が個人の国間の行き来を自由としていた。商人はもちろん旅人も入国出国自由。

 貿易は盛んに行われ、得手不得手を補い合いながら、世界全体が助け合って生きていた時代の話だ。


 そんなノーアウィーン世界の異変は、魔物だけではない。大部分は天変地異である。

 無軌道に移動する水脈。各地の活火山の噴火。それに伴う海面上昇、水温の上昇、地形変化など。住む地を奪われたり、食糧難を余儀なくされた。


 後に民衆は生き延びるため、少しでも豊かな国や地域へ移動を開始する。

 しかしそこからが第二の苦難であった。


 各国有力な王侯貴族、知事や識者及び学者、憲兵将校など、インフラを(つかさど)る人物たちまでが(だな)し合い、人身売買や矛盾した取引を行うようになる。


 民衆の心は離れていき、自分たちで何とかするしかないと思うものの、困窮した者から次々に命を落とした。

 小は個人、大は国まで。その(しかばね)を横目に生きるために盗み、殺しは当たり前。平時なら到底許せぬ悪事に手を染めていった。

 疑心暗鬼の時代へ突入し、現在に至る。


「フ・イルフォ・ル・ベグ! 焼き尽くしてやる!」


 モルツワーバ山間(やまあい)の森に、(にわ)かに昼間のような明るさが訪れる。イデオのマント裏地が黄金の輝きを放っていた。見る間に突っ込んでくる魔物を、闘牛士のごとき半身で受けて立つ。


『上だな』


 だが真向にはやって来ず、魔物は俊敏に木々の間を跳ねまわって頭上へ跳んだ。

 金色の光すら返さない黒い牙が、イデオに襲い掛かる。


「見飽きてた動きだ。フ・イルフォ・タン・リベル!」


 その瞬間、マントから直径一メートル程度の火球が放たれた。それはさながら小さな太陽。おぞましく開かれた魔物の口内へ吸い込まれる。


 断末魔すら許さぬといった劫火(ごうか)は一瞬の間に魔物を炭に変えた。あっという間に(ちり)となってしまった魔物だったものは、パラパラと中空に散り、夜の風に流されていった。


「……こんなに小さくしても毎度異臭は残していくな。最期の最期まで忌々しい」


 マントを羽織り直しながら、イデオは手で顔の前を(あお)ぐ。


『当然の化学反応だ、気にするな。大して害はない。それより周囲に人はいないか?』

「ああ、たぶん。森も焼きすぎてないし、最小限だったと思う」


 イデオは火球の(まばゆ)さにやられた目を(ひそ)めながら周囲を確認した。


『さすが、わしの発明した装置! 操作性、動作性、コード入力からの反応速度、それから火力! 文句無しじゃな!』

「先を急ごう」

『こら待て! わしを褒めんか! 崇め奉らんか!』


 美しかったあの時代はもう帰っては来ない。


 ノーアウィーンの住人は新しい時代を創世するために、苦しみ、もがき、恨んだり悩んだりしながら、現状手探りの生活をしている。




    [▶▶ other track   ▶ play now]




 リッチーはやる気満々だ。つぶらな瞳がらんらんとしている。

 この目論見が必ず成功すると確信しているから尚更(なおさら)である。

 

「僕はこの線の端を持てば良いんだよね?」

「あ、ああ」


 そんなリッチーに対して、キングは少々戸惑っていた。


(俺の歌を求められてるのは、すっげえーすっげえーすっげえぇぇぇぇぇー嬉しいけど……何だろうな、この違和感は……)


 楽器や演奏のための機器を取りに、一度リッチーの家に戻った。

 と言っても、すぐ真向かいなので、ドアを開けっぱなしで手分けして親方の家に運び込んだだけだ。

 ちょろっと聞いた通り、リッチーは見た目より力持ちだった。


(ライブ前の搬入みたいだったから面白かったな。リッチーも楽しそうだし、まあいっか)


 コンセントの位置を一切気にしなくていいのは便利かもしれない。

 隣にリッチーが居れば、いつでもどこでもライブ会場になるのだから。


「キング、準備出来た?」

「ああ、さっきチューニングしたばっかだし、もういける。リッチーは平気か?」

「僕もいけるよ!」


 今回のライブ会場は親方の家の居間なのだが、これはアウェーを感じるステージだ。


 モルット族の体躯(たいく)が小さいだけに部屋も小さい作りになっている。それ故に、客席はほぼ目の前みたいなものだ。ライブハウスの最前列よりも近い。

 それに当り前だが、ライティングも無い。

 だからこそ、親方の顔色がよくわかってしまうし、こちらも(つぶさ)に観察されているのを肌で感じる。


(表情はあんまり読めねえけど、歓迎されてないライブなのは重々承知。今までもそんなこと数えきれないほどあったしな)


 キングは右肩をぐるぐる回して、ピックを構えた。


「さっきの感じでいくから、リッチーよろしく」

「うん!」


(本当に、いい笑顔してくれるな、リッチーは)


 曲は先程と同じ。


 その選曲になったのはリッチーのためだ。

 自由に放電できると言っても、なにがしかのエネルギーを消費しているはずである。あまりリッチーの負担になるようなことはさせたくなかった。

 同じ曲ならリッチーも比較的勝手がわかるだろう。


 すうっと息を吸って、イントロから歌に入っていく。


(リッチーは俺のファン、って思っていいのかな。期待に応えたい……俺の歌を、何者にもなれなかった俺の音楽を、特別だと言ってくれたんだ……!)


 ゆったりとしたバラードだ。

 誰かに聞かせたくて作った歌。

 三人の聴衆が耳を傾けている。


 傷んだ心を支えられるような力が、歌に込められる。


(そう、歌わなきゃならんのに……何か、腹に力が入らねえ……おかしいな、何でだ……?)


 歌は心。


 歌手の間では空気のように当たり前すぎた共通認識。

 同時に、もっとも重たい意味を持つ言葉。


 だが、今のキングは気持ちだけが先走っていた。

 思うように歌えない。


(これじゃ響かねえ……こんな弱い声じゃ、届かな、い……ダメなんだ……)


 視界がぼやけている。揺れている景色に焦点が合わない。

 ピックが指の間から滑り落ちるのを感じていた。


(やべ……意識、が……)


 Aサビに入る前、キングは倒れた。

どもども、紅粉 藍ですm(__)m


どうでもいい日常の話題で恐縮ですが、皆さん肩凝ったり腰痛だったりしませんか?

私はもともと猫背なんです。それもあって全身常にどこかヤバいです。人生全体で。

楽器を弾くっていう行為自体、地球上の生物では人間だけの行為だったりします。生物としてものすごく不自然な動作なんでしょうね。楽器弾いてると、骨盤歪むんですよ……マンドリンなんですけど、足を組んで左手はネックを持って、右手はピックをっ持って、アシンメトリーな格好で弾きます。当然おかしくなります。スポーツだったらケア次第では健康なのに……何故だ、音楽。


どうでもいい悩みでしたね。整体の先生には感謝しっぱなしです。

では、また次回~ノシ


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